転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
テルネリカの後日談です。時系列は第五部後ですね。
後日談:テルネリカ①
──それは、邪神討滅を祝うパーティーから、しばしの時間が過ぎたある日のこと。
ちょっとした手続きのために学舎を訪れていたコノエは、後ろから声をかけられた。
「──おや、コノエ。また会いましたね」
「……指導官」
振り向くと、そこには知っている男性の顔がある。訓練生時代から何度も手合わせしてきた空間魔法使い。己がハーレムの主として君臨する街を作り出した、通称ハーレム王だった。
彼は、柔和な顔に微笑みを浮かべながらコノエに近づいて来て、ポン、と肩を叩く。
「ふふ、聞きましたよ。コノエ」
「……え?」
「ついにあなたも、一歩足を踏み出したようですね。──ハーレムの道へ」
「……えっ」
突然の言葉に驚くコノエに、指導官はニコニコと笑い──三人を恋人にしたと聞きました、と。
それに、コノエの脳裏にテルネリカ、メルミナ、フォニアの顔が浮かぶ。確かに、コノエは天蓋竜との戦いの後、三人と恋人になっていた。
男一人に、女性が三人。ハーレムなのかと問われれば、確かにハーレムだった。……まだ色々困惑している部分はあるけれど。本当にいいのだろうかとよく悩むけれど。
「しかも全員が固有魔法使い。覚悟も十分に決まっているようですね?」
「……いや、その」
「……教え子が、気付けばここまで成長しているとは、一時とはいえ師であった身として、感慨深く思います」
指導官は何度も頷きながら、コノエの肩を叩く。本当に、成長しましたね、と。
そして……。
「それに、その三人以外にも
「…………? は、はぁ」
「……これは、ハーレム王の名をあなたに譲る日も近いのかもしれませんね」
「そ、それは要りません」
全力で拒否するコノエに、しかし指導官は微笑みを絶やさない。
そうして、ふと指を一本立て──。
「──ですが、コノエ。以前も言いましたが、ハーレムを作るのであれば、準備が必要です。そちらは進んでいますか?」
「……え?」
「ハーレムを作るということは、そこに暮らす妻と子が幸せに暮らせる環境を作る義務があるということだと言ったでしょう?」
コノエは言われて思い出す。数十日前、天蓋竜と戦う前に聞かされた異種族と生活環境のことを。
人と異種族では、そもそもの生態が違うために暮らしやすい環境や子育てに向いた環境が違うと教わった。エルフの子育ては力ある樹が傍にあったがいいし、ドワーフには山の神の祭壇があった方がいいと。
しかしそれがどうしたのかと……。
「コノエ、よく考えてください。いいですか? エルフには力ある樹が必要と言いましたが──当然ですが、樹は一朝一夕で手に入るものではありません。育つのに時間がかかりますから」
「…………あ」
「他所から運んでくるにしても、土地に馴染むまでに時間がかかります。必要な時に準備が出来ていないようだと話になりませんよ」
コノエは指導官の言葉に、それはそうだ、と思う。言われてみれば当然のことだった。なぜ気付かなかったのか。
考えが全く足りていなかったとコノエは目を泳がせ……そんなコノエに、指導官は苦笑する。
そして、仕方ないですね、と樹の準備について指導官の経験談を聞かせてくれて……。
◆
「…………」
……話の後。コノエは学舎での用事を終え、門を潜る。
夕日で赤く染まった長い階段を下っていく最中、脳裏では指導官からの言葉がぐるぐると回っていた。
エルフの子育てと、力ある樹。その準備にかかる年数。ざっと聞いたところによると、一から育てれば百年単位、他所から運んでくるにしても数年はかかるらしい。
……確かに、出来るだけ早く準備した方が良いのは間違いない。
(……今、教えてもらえてよかった)
コノエは指導官に感謝しつつ、帰ったらテルネリカに相談しなければと思い、俯いていた顔を上げ──。
(────)
──そこで、不意に。沈みかけの太陽の光が、目に刺さった。
真っ赤な黄昏色の光。
それが少し眩しくて、コノエは目を細め……。
(…………うん? ………………ええと)
目の奥の刺激に、コノエは思考が途切れ、少し冷静になる。
急ぎ足になっていた歩みを止めて、顎に手を当てて考えた。
なぜって……。
(…………なんというか、その、恋人になったばかりの相手に将来の子供の話をするのは、流石にアレなのでは……?)
指導官の言葉はもっともだと思うが、冷静に考えるといくらなんでも話が進みすぎている気がする。
少なくとも、コノエの中にある日本的な価値観が、それはまずいと言っていた。付き合いたての恋人に将来の子供計画とマイホーム計画を相談したらどうなるか。とんでもなく引かれそうだ。
……やっぱり、もっとこう……具体性が出来てからではないだろうか? 結婚の話が先では? とコノエは思う。
というか、コノエ自身まだ三人と恋人になれたことをまだ咀嚼しきれていないので、子供と言われても実感がなかったりして。
(……どうすれば)
コノエは悩む。子供の相談は早い。けれど、その一方で、準備はとても時間がかかる。あれやこれやと考えて──。
(……とりあえず、先に一人で調べておこうかな)
そんな結論を出す。先送りにしてるだけの気もするが、正しい知識を持つ必要性は言うまでもなかった。
なので、家へ向けていた爪先を横に向ける。
……その先にあるのは神都の大図書館だった。
◆
図書館に着いたコノエは、本を探し……見つからなかったので、司書さんに手伝ってもらう。なんとか二冊の本を借りて──タイトルは「エルフと樹と子供」と「エルフと樹と加護」だった。両方とも有名なエルフの学者の本らしい──家に持ち帰った。
そして普通に玄関から入ろうとして……いや、本を見られない方が良いよな、と思い、気配を察知しつつ誰にも会わず部屋に入る。
その日の晩には寝る前に借りた本を読んで、樹の種類などについて勉強して。
……読み終わった後に本を閉じ、横に置いて、そのまま眠った。
◆
──翌日。朝がやってくる。
まだ日が昇って間もない頃、コノエは目を覚ました。
いつものように、まず最初に周囲の気配を探知し──すぐに、近くの部屋で動き回っている少女の気配を察知する。テルネリカの気配だ。
それにコノエは──。
(──今日は、訓練ないんだな)
そう思った。何のことかと言えば、テルネリカが数十日ほど前から始めているアデプトの訓練のことだ。
予てからの希望通り、テルネリカはメルミナの姉のノエルと共に学舎に入ることになって、今は日々、あの地獄のような訓練に挑み続ける生活を送っていた。
なので、とても大変なため、訓練がある日はコノエの朝の世話はしないことになっている。……なお、訓練が無い日もゆっくり休んで欲しいので世話はしなくていいと言ったら、癒しの時間を取らないでくださいと言われた。
泣きそうだったので、やっぱり訓練辛いんだなと思った。そうだよな、辛いよな、とコノエも思い出して、ちょっと泣きそうになった。
「………………」
まあ、そういう訳で、今日のテルネリカはそんな地獄の訓練から解放された十日に一度の休日だった。
同じ苦労を知る身として、出来る限り疲れを癒せるようにしてやらないと、とコノエは思い……。
……そこで、コノエの部屋にノックをする音が響く。
「おはようございます、コノエ様」
「……ああ」
テルネリカが部屋に入ってきて、色々と朝の準備をしてくれる。
水差しを交換したり、着替えをベッドサイドに置いたりして……。
「コノエ様、今日の予定……は…………?」
「…………?」
「………………………」
……なぜか、そこでテルネリカの動きが止まる。
ベッドサイドを凝視していて、コノエはどうしたんだろうと、その視線を追いかけ……。
「…………あ」
……気付く。
ベッドサイドに、昨晩読んだ「エルフと樹と子供」が置きっぱなしになっていた。
最初にも書きましたが、「このライトノベルがすごい!2026」で拙作が新作文庫2位になりました!皆さんの応援のおかげです!ありがとうございます!
その記念ということで、マイコ編の前にテルネリカ編3話を更新です。
今日含めて11/25、11/28、12/1に更新予定なので、ぜひ読みに来ていただければと。
そしてご報告になりますが……転生程度、五巻まで出ます!
電撃のXにも上がってるのでよほどのことがない限り必ず完結まで出ます!やったぜ!
一色さんからお祝いイラストも貰っていますので是非見ていただければと。すごいのを描いていただけました!
【挿絵表示】
あとは……なんと、コミカライズが決定しました!
やりましたね!夢が一つ叶いました!
担当してくださるのは、尾玉了一先生です!
【挿絵表示】
今後とも頑張っていきますので、「転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)」をよろしくお願いします!
あと、つぎラノの投票も始まってますのでよかったらお願いします!どんどん人気が出てほしい……!
コミカライズ担当の尾玉了一先生から、つぎラノの宣伝イラストいただきました!テルネリカがかわいい!
【挿絵表示】