転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第4話 ぜったい

【………………】

「………………」

 

 神様がいて、じっとこちらを見つめている。真っ赤な瞳と視線が重なって、数秒間そのまま見つめ合った。神様は動きを止めたまま何も言わなくて、視界の端では翼がぐんにゃりとしている。

 

「…………?」

 

 コノエは、どうして神様はそんな顔で自分を見ているのだろう、と思う。

 不思議で……でも放っておくことなんて出来るはずもなかった。なので、コノエは出口に向いていた爪先を神様に向けた。

 

 少し歩くと、神様の目の前に辿り着く。そこは玄関ホールの柱の陰。少し奥まった場所だった。

 

「…………神様?」

【………………ん】

 

 呼びかけると、神様はコノエを見上げ──一拍置いて、目を伏せる。

 口元が何か言いたげに動いて、そして。

 

【…………その】

「……?」

【…………行っちゃうの?】

「……え?」

 

 小さく、そんな感情がコノエに伝わってきた。

 コノエはそれに、少し考えて……聖国へ向かうことだろうか、と思う。

 

 聖国に行くのかと問われれば、確かにその通りだ。明日から行く予定。

 だからコノエは、はい、と正直に答えた。

 

【…………そう】

「…………?」

 

 すると、神様は伏せていた目を、さらに顔ごと伏せた。そうして、小さく【マイコのため?】と。コノエはそんな神様に瞬きした後、もう一度、はい、と答える。

 ……すると神様は。

 

【……そう、だよね】

「…………??」

【…………………………】

 

 神様は一度呟いた後、俯いたまま何も言わなかった。

 コノエにはやっぱりよく分からなくて……。

 

 ……でもそこで、あれ、と思う。

 

(……あれ、もしかして、僕、何かマズいことをしただろうか)

 

 知らない間に何かやらかしていたのではないかと。そう思った。だから神様がよく分からない感じになっているのではないかと。

 なので、コノエは……。

 

「……えっと、駄目でしたか?」

【……え?】

「……その、聖国に行っては駄目だったのかと」

 

 問いかける。……すると神様は、きょとんとした。

 その数秒後、大きく目を見開いて……。

 

【……あ、ち、違うの! 駄目じゃない! 駄目、なんじゃなくて】

「…………?」

【そうじゃないの。むしろ、良いことなんだよ。……マイコを連れて行ってあげようって思ったのは、あなたの優しさなんだから】

 

 神様は、少し慌てたように顔を上げる。手を横に振って、違うの、と言った。

 そうして、あなたの優しさを本当に嬉しく思うよ、とも。

 

【マイコのことを思えば、きっと良いことだもん。あの子は、今の段階で色んなところに連れて行ってあげるべきだと思うし。正直、聖女(あのこ)は流石だなって思う】

「…………流石?」

【あの子は昔から視野が広いし、人の痛みに敏感で、優しい子だから。……本当は、あの子より先に、私が手を打つべきだったんだけどね】

 

 神様はそう、自嘲するように言った。情けないな、と。

 コノエはそんな神様に、ただ首を傾げて。

 

【だからね、止める気は全くないの。良いことなんだから】

「……なる、ほど?」

【…………でも】

「……?」

 

 と、そこで神様が、言葉に迷うように唇を噛む。

 そして……。

 

【……でも、ね。行くことは、止めないけどね?】

「……はい」

【…………その】

 

 神様は、コノエを上目遣いで見る。真っ赤な瞳は、小さく揺れていた。

 背中の翼はずっとぐんにゃりと垂れたままになっていて──。

 

【……あのね、ぜったい、かえってきてね】

「────」

 

 ──それは、消えてしまいそうなほど小さな(いし)だった。

 

 でも、小さいけれど、空っぽという訳じゃない。

 感情は確かに籠っていて、伝わってきた想いで胸の奥が擽られるような、そんな声だ。

 

 コノエは、その声に……。

 

「…………」

 

 胸の奥から、自分でも分からない感情が湧き上がってきて、驚く。

 これはなんだろうと戸惑って、返事の言葉が出てこなくて。

 

 だから、言葉を探すように過去を思った。そして、思い出す。

 そういえば、以前にもこんなことがあった。

 

 あれは、もう一年近く前。フォニアに依頼されて、アーキノルカに向かったとき。移籍交渉とか色々あって、同じように帰って来てと言われた。

 

 あのときはどうしたのだったかと思い──。

 

「………………あ」

【……このえ?】

「……その、えっと、お土産を」

【……ぇ】

 

 そうして、お土産と呟きながら、もう一つ思い出す。

 それは、百年以上前。コノエが、研究員だったころのこと。

 

「……覚えてますか、神様。ずっと昔、資料を作るために僕が聖国に行ったとき、お土産を買ってきましたよね?」

【────!!】

 

 そうだ。かつて、買って来たお土産を神様と一緒に食べたことがあった。聖国の名物だと言われて買った、カステラのようなお菓子だ。

 中庭で並んで、一緒に食べて、美味しいって、笑い合った。

 

 ……あれは、本当に嬉しくて、美味しかったから。だから。

 

「……あれから百年経ちますので、今も売っているかはわかりませんが、でも、その」

【……うん】

「その、まだあるようなら買ってきますから。そうしたら」

【──うん! 一緒に中庭で食べよう!】

「……はい」

 

 神様のぐんにゃりとしていた翼に力が戻る。

 翼が大きく広がって、頬は赤みが差していて、嬉しそうに笑ってくれた。

 

 ……コノエは、百年前を思い出して。

 きっと僕も同じように笑っているんだろうな、と思った。

 

【──コノエ、行ってらっしゃい! マイコをよろしくね! あと、あなたも楽しんで来て!】

「……はい、行ってきます」

 

 その後、神様に送り出されて、コノエはまた歩き出す。

 沢山お土産を買って来ようと思いながら、そのまま家に帰って……。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…………」

 

 そして、そんなコノエと神様を遠目に見ていた議長は。会話は聞こえてこずとも、伝わってきた雰囲気に。

 占いの結果を思い出しながら、なるほどね、と思った。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──翌日。コノエが約束の時間に転移門に向かうと、背中に大きなバッグを背負ったマイコが待っていた。空間魔法の気配がするバッグで、随分と量が入りそうな感じのヤツだ。

 

「ぬ、布とか糸とか、沢山買って帰るの」

「……なるほど」

 

 嬉しそうにバッグを見せてくれるマイコと、最終確認をして、転移門が開くのを待って。

 そうして、二人一緒に転移門を潜り──。

 

 ◆

 

 ──光を通り抜けて、二人は門の向こうへ移動する。

 石の床に足をつくと、まず最初に石造りの部屋と、飾られた鮮やかな花が目に入ってきた。食料だけでなく、生花の栽培も盛んに行われている聖国らしい部屋。

 

 鼻を擽る甘い匂いを感じながら、コノエとマイコは門番に挨拶をして……。

 

「あら、到着したようですね」

「ぬ?」

「……あ」

 

 ……そこで、知っている声が聞こえてくる。

 見ると、入り口に一人の女性が立っていた。鮮やかな桃色の髪と、腰には二本の剣。身に纏うのは、肌をほとんど見せないデザインの衣装。優しい微笑みと、心地よい透き通った声があって。

 

「二人共、聖国へようこそ」

 

 聖女様が、コノエとマイコの前にいた。




おけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
2026年も色々頑張りたいですね……
また、コミカライズ担当の尾玉了一先生がテルネリカさんの正月イラストをXに投稿して下さったので、ぜひ見に行ってもらえたらと!
作者Xでリツイートしてます。着物姿のテルネリカさんが可愛いです! あとミニサイズのコノエも!

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