転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第10話 義体

『……マイコの、話?』

 

 コノエは、テレパシーの中で聖女様の言葉を繰り返す。

 すると聖女様は、変わらぬ笑顔で、ええ、と言う。

 

『より正確に言うと、なぜ私がマイコちゃんを聖国に呼んだのか、ということですね』

 

 理由。コノエは、文通友達だからとマイコから聞いていた。

 

 ……もしかして違ったんだろうか。

 コノエはそんな感じのことを呟く。

 

『いいえ、文通友達だから、というのは事実です。しかし、それだけという訳でもありません』

 

 ……それは?

 コノエが、聖女様をじっと見ると。

 

『……とは言っても、そう大層な理由ではないんですけどね。ただ知りたかっただけです。マイコちゃんの在り方を』

『……在り方』

『ええ、挨拶をして、話をして、触れる。手紙で知った為人(ひととなり)を、確かめる。その上で、彼女の味方になるかを()()()()決断したかったんです。……結論としては、私はマイコちゃんの味方になると決めました』

 

 ──在り方を、為人(ひととなり)を確かめる。結論として、味方になると決めた。

 

 コノエはそんな、自分が知らない間に進んでいたあれこれに驚き……ともあれ、マイコが認められたのならよかったと思う。

 ……なんとなく、もし認められなかったらどうなっていたんだろうかと思って、ちょっと怖いので考えないことにした。

 

『マイコちゃん、良い子ですね。……ええ、()()()()()()()()()()()()。分かります。見たら、触れたら、分かりました。──確かに、良い子です』

『…………え?』

『また、それは私だけが出した結論ではなく、神様が出した結論でもあります』

 

 …………え? ……うん? 神様の? コノエは瞬きする。

 そして聖女様は、まあ私と神様では見ている所が違うでしょうが、と言いつつ。

 

『ほら、さっきいつでも聖国に来ていいと言っていたでしょう? 気軽に言っていましたが、あれは本当に気に入った相手にしか言わないのですよ』

『……ええと』

『あの方は人と最も近い神であるが故に、最も人を見る目があります。あの方が認めたのなら、元魔物だからと警戒していた者たちも少しは胸を撫で下ろすのではないでしょうか』

 

 僥倖(ぎょうこう)でした、と聖女様は笑う。これであの子の立場も、より良くなるでしょう、と。

 ……次から次へと飛んでくる情報に、コノエとしては、なんだか良い方向に向かっているようで良かった、としか感想が出てこない。

 

『…………』

 

 コノエはマイコをちらりと見る。彼女は楽しそうに店主と会話している。

 ちょうどマイコは布を選び終えたところのようだった。

 

 お金を払って、白と黒と桃色の布を受け取り、背負っていた鞄を下ろして中に入れる。大切そうに、嬉しそうに、マイコは布を詰めていって……。

 

 ……

 ……

 ……

 

『……それにしても、マイコちゃんは』

 

 ふと、聖女様の意思がコノエに届く。

 それは、思わず零れた独り言のようだった。

 

『文通していた頃から感じていましたが──あの子は、私と少し似ていますね』

 

 ◆

 

 ──それから。マイコが戻って来て、では次の場所へ向かおう、ということになる。

 聖女様が地図を取り出して「聖都の城門を入ったあたりに他国からの商隊が集まっている」とか「そろそろ聖国の城門前のステージで聖都の歌姫が歌う」などと教えてくれて、どこに行こうかと話し合った。

 

 そうして話し合った結果、聖都の歌姫を見に行くことになった。

 三人は市を出て、聖国の城へと足を向ける。

 

 しばらく歩いて、到着して。

 ステージからそれなりに離れた場所にあるベンチに腰を下ろす。

 

 そこは普通にステージを見るには遠い場所であって、しかし一定以上の強化魔法が使えるのなら問題なく見えるし聞ける、という位置だった。

 

 近くの出店で飲み物を買って、開演を待つ。

 その間、マイコが紐を取り出してコノエの腕の長さや太さを測ったりしていた。

 

 いくらなんでも気が急きすぎてるんじゃないかとコノエは苦笑して……。

 

【………………!】

(……? 神様?)

 

 と、そのとき。神様の気配がすぐ傍に現れる。

 神国の神様の気配。どうしたのだろうと思っていると。

 

「あら、あの方も準備が出来たようですね」

 

 聖女様がそう言って顔をステージとは別の方向に向けた。

 そして、それと同時にコノエは気付く。

 

 この場所に接近してくる気配があった。それもただの気配じゃない。アデプトだ。アデプトの女性と、もう一人の気配が近づいて来る。

 

 それは……。

 

「……うん?」

「……ぬ?」

 

 コノエとマイコは、同時に呟く。驚いていた。

 なににかと言えば、アデプトに、()()()()

 

 アデプトなら驚かない。聖女様に何か用事だろうかと思うだけだ。

 驚いたのは、アデプトの隣にいる人影が──。

 

(……人、じゃない?)

 

 強力な認識阻害が施されたローブを深く被った、小柄な姿。そのフードの奥に感じる気配が、人とは違っていた。

 かといって、当然魔物でもない。コノエの知るうちで近い気配を言うのなら、それは──。

 

(──神様?)

 

 ……しかし、神様にしては少しズレている気がするし、そもそも神様は防衛上の問題から学舎を出られないはずでは、と思い。

 

「コノエさん、マイコちゃん、あれは義体なんですよ」

 

 そこで、聖女様が説明してくれる。

 義体? と思っているうちに、ローブ姿の人影はすぐそこまで近づいてきていて。

 

【──ふふふ、来たのですよ!】

 

 フードの下で、聖国の神様がにっこりと笑っていた。

 

 ◆

 

 聖女様は、これは聖国に所属するアデプトの固有魔法なんです、と言った。今回神様と一緒に現れたアデプトの権能だと。

 

 ──意思を乗せることが出来る、義体を作り出す能力。

 この魔法で作った義体は本体の性能を完全に再現出来て、視覚や聴覚などの五感も共有できるようだ。しかも、義体を破壊されても本体には一切反動が無いのだとか。

 

 つまり、殺されてもいい自分をもう一人作れるようなものだ。欠点は義体を四時間程度しか維持できないことらしいが……コノエは、威力偵察や危険地帯の調査に便利そうだな、と思った。

 

【ね、二人共、聖国の祭りはどうでしたか? 楽しかったでしょう!?】

 

 ──そして、今。聖国の神様は、その義体を使って街に下りてきている。

 コノエとマイコが神様の言葉に、はい、と頷いて返すと、神様は自慢げに胸を張った後、マイコの横に移動してベンチの隣に座った。

 

【これから始まるのは、我が国が誇る歌姫のステージなのです! 絶対に感動するのですよ! だって、私これを必ず見るために義体をついさっき作ったのですから!】

「ぬ、楽しみです」

【ふふふー、マイコはいい子なのです! 一緒に見ましょうね!】

 

 マイコと神様が仲良く話し始めて、コノエは横でそれを聞く。

 コノエはそんな二人に……先ほど聖女様が言っていた、聖国の神様がマイコを気に入っているというのは本当なんだな、と思った。

 

(……移籍してきてもいい、か)

 

 コノエは、改めて当時の言葉を思い出し──。

 

【────!】

「…………?」

 

 ──そこで、また神様の意思がコノエに届く。

 聖国の神様じゃない。神国の神様からだ。

 

 体の深い所から、何か声のようなものが届いて来る。

 コノエは今日何度目かのそれに、どうしたんだろう、と首を傾げて。

 

「……ふふ、もう、コノエさん。仕方ないですね」

 

 と、聖女様が横で呟く。

 見ると、聖女様は苦笑していて……後で神様方のトラブルになっても困りますし、少し手助けしましょうか、と呟いた。

 

 ……神様方の、トラブル?

 コノエが突然飛び出した物騒な言葉に眉を顰めると、聖女様は。

 

「コノエさん、一つ伺いますが──あなたはこの国に移籍して、聖国の神様と共に歩むつもりはありますか?」

「……え?」

【────!?】

 

 聖女様の言葉と、神国の神様からの意思。

 それにコノエは、驚きつつ……しかしすぐに口を開く。

 

 聖国の神様と共にって、そんなの……。

 

「……いいえ、ありません」

「なぜですか?」

「……僕の神様は、神国の神様だからです」

【────!!!!】

 

 そうだ。それ以外にはない。

 あの日、中庭で声をかけてくれたのは、諦めかけたコノエをお茶会に誘ってくれたのは、他でもない神国の神様なのだから。

 

 なので、そんな、コノエにとっては当然のことを話すと。

 

【…………………………ありがとう、ごめんね】

 

 神国の神様から、そう意思が伝わってきた。

 それと同時に気配が消えていく。

 

 ……なんでいきなり謝ったんだろうか?

 

「…………?」

「……まったく、もう少し勉強しないと駄目ですよ?」

 

 コノエはよく分からなくて、聖女様はずっと苦笑いしていた。

 そうしている間に、ステージの方が騒がしくなってきて、音楽と共に女性が登場する。

 

 そのままステージが始まって──。

 

 ◆

 

 その後は歌を聞いたり、感動したり、売店で買い物したりと穏やかに過ぎていった。

 ステージの後は、神様と護衛も含めた五人で歩いて、祭りを楽しんで。

 

 そして段々と周囲が薄暗くなってきた頃、聖女様が取ってくれていたホテルに向かい──。 

 

 ◆

 

 ──そして、夜がやってきた。




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