転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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後日談長編 3章
第12話 風の竜


 ──世界が歪む。空が侵食されていく。

 空間の歪みが周囲一帯にまき散らされ、コノエを包み込むように広がっていく。

 

「GLUUUAAAAAAAAAA!!」

「──」

 

 それに、コノエは魔道具でナイフを生み出し、投げる。確認する。

 放たれたナイフは近くの歪みにあたり、弾かれて落ちていった。その動きは……。

 

(……かつてと同じ、か。力の質は近いと見てもいい)

 

 ──空間を操る権能。

 つまり目の前にいる竜は、外見だけでなく力も当時と同じである可能性が高いということだ。

 

 ……どうなっている?

 コノエは、考える。思考を回す。状況を把握しようとする。 

 

 聖都から空への突然の移動と、襲い掛かってくる死んだはずの風竜。

 死んだ者が生き返るはずがない。……いや、マイコのような例外はいるけれど、あんな天才がそう沢山居てはたまらない。

 

 故に、状況は極めて不可解だった。詳細を知りたい。……けれど。

 

(……今は、()()()()()()()()()()()()

 

 コノエは、僅かに歯噛みする。

 運命の乱れ。邪神討滅の影響。金の権能の出力は大幅に落ちている。

 

 現状、金の花弁さえまともに見えない。マイコに伸びた花弁を最後に、掠れたように消えてしまった。看破を使うのは無理だろう。

 

「GYAAAAAAGAAAAAAAAA!!!!」

「…………」

 

 そうして、考えている間も事態は進んでいく。

 竜が叫ぶ。すると竜の周囲の空気が収束していく。

 

 ──無数の風の弾が、竜の周囲に浮かんだ。

 

(──来る)

 

 風弾が打ち出される。歪みを纏い、光を乱反射する弾丸の嵐。

 コノエはさらにナイフを投げる。抉り取られる。性質を改めて確認。敵対者を空間ごと捩じ切る弾丸。

 

 数多の風の弾が、追尾しながらコノエを撃ち抜かんと襲い掛かって来る。

 すさまじい速度。物量。そして、()()()()()()()()()()。判断する。一度引いての仕切り直しは難しい。

 

「…………」

 

 コノエは、改めて現状を思う。状況は全く把握できない。

 分からないことが多すぎた。ただただ困惑していて……。

 

「────」

 

 ……しかし、困惑しつつも。

 今、コノエの目の前に敵がいた。撃鉄は既に落ちている。

 

 強大な邪悪。災厄。人類の大敵。気を抜けば容易くこちらの命は奪われるだろう。それが災厄との戦いだ。故に。

 

 ──雷が収束する。収束し、侵食する。

 コノエの存在が根底から塗り替わっていく。

 

(──まず、殺してから考える)

 

 ────雷化。

 

 雷轟が空間を揺らす。

 加速する。加速する。加速する。

 

 刹那の間に最高速度に至ったコノエが風弾を潜り抜け、竜の死角に潜り込み、槍を振りかぶる。

 教えられてきたアデプトの在り方のままに、コノエは武器を振るう。

 

 雷を纏った十字槍が放たれる。

 雷の槍が世界を焼きながら、竜の元へと飛翔して──。

 

「GA!!」

 

 しかし、竜に届く直前。叫びと共に──()()()()()

 何もなかったかのように、忽然と。跡形もなく消え去っていた。

 

 それにコノエは──。

 

(──背後)

 

 ──しかし、驚かない。冷静に敵の気配を再把握し、撃ち込まれた風弾を避ける。

 だって、当然だった。空間系の固有魔法の持ち主が、()()を使えないわけがない。

 

 かつての戦いで竜は使わなかったが、それは油断していたからだ。

 そして、当時のコノエも理解した上で油断させるような戦い方をした。

 

 だが、今。コノエは見る。

 こちらを睨みつける竜の目には一度目とは違い、油断の色は全くない。だからこそ、コノエも今回は正面からの戦いを選んだ。……前回の記憶を持っている可能性もあるか。

 

 竜は煮え滾る憎悪を両目に湛え、ただ固有魔法を練り続けている。

 

「────」

「GYAAGAAAAA!!」

 

 コノエは雷化で駆ける。風弾を躱しながら槍を振るい、竜との距離を詰めようとする。

 竜は転移と風弾で相対する。高速で転移を繰り返しながら風弾を撃ち続け、領域を己の弾丸で満たそうとした。

 

 接近と転移、槍と弾丸、雷と風。

 一帯に渦のような軌跡を描きながら、コノエと竜は空を切り裂くように移動していく。

 

 拮抗があった。どちらが優勢とも取れぬ瞬間。

 互いに機を探り合うような時間でもあって──。

 

「──起動」

 

 その均衡は、コノエの一言で終わりを告げる。

 コノエは、魂を起動する。溢れ出した力が魔道具の回路を巡り始める。コノエの周囲に、光と共に影が現れ──。

 

 ──射出。無数のナイフが撃ち出される。

 全方位を薙ぎ払う刃の群れ。上下左右、四方八方。空間を丸ごと撃ち抜くかのような飽和攻撃が竜へ襲い掛かる。

 

「GAAAAAAA!」

 

 それに竜は歪みを纏う。慌てず転移しようとしているのだろう。

 当然だ。いくら飽和攻撃といえども、転移ならば避ける方法はいくらでもある。超遠距離に移動してもいいし、刃が接触する直前に敵の方へ転移することでやり過ごしてもいい。

 

 だから竜は、歪みの力を強めていって──。

 

「GA?」

 

 ──しかし、竜は転移できなかった。

 

「GA!? GAAAAA!!??」

「────」

 

 ()()ナイフが驚愕する竜の体に突き刺さっていく。

 そして、そんな竜を見据えるコノエの体は()()()()を纏っている。

 

『固有魔法──界律接続、因果正転』

 

 抗固有魔法(アンチオリジン)。コノエは、天蓋竜との戦いの後、己の固有魔法についての検証を行ってきた。

 その結果分かったのは、この力が正面からの押し合いには向いていない、という事実だった。

 

 世界と、界律と接続し、固有魔法の発動を妨げる力。

 それはあらゆる固有魔法に効果をもたらす反面、その万能性故に単純な出力は高くない。かつて天蓋竜の消滅を封じることが出来たのは、世界の化身の助力があったが故だ。

 

 ──だから、不意を打つ必要がある。

 敵の急所を狙って、叶うならば一撃で終わらせなければならない。

 

 今回もそうだ。転移を駆使して戦う相手。

 空間を跳躍し、無数の風弾を扱う相手に、単純な力押しは通用し辛い。距離を取られ、長期戦に持ち込まれれば厄介なことになるだろう。

 

 ならばどうするか。最も致命的なタイミングで使うしかない。

 それが、今回の転移妨害だ。

 

 コノエは知っている。転移は強力な反面、干渉には弱い。天蓋竜が神様の転移を阻害したように。空間や力が揺らぐと、効果を失ってしまう。

 だからコノエは、ナイフに権能の力を籠め、放った。空間を満たす竜の固有魔法を切り裂き、干渉するために。

 

 ──その結果が、今、刃に貫かれていく竜だった。

 

「GYAAAAGAAAAA!!」

「──」

 

 竜の体を幾つものナイフが襲い、撃ち落とす。

 翼を破られた竜はバランスを失い──。

 

 ──追撃にコノエが放った十字槍が、竜の心臓を貫いた。

 

 ◆

 

「…………」

 

 ──そして、空は収縮を始める。

 かつてと同じように、竜の死をトリガーに固有魔法が本性を現す。

 

『固有魔法──我が愛は既に亡く、故に空よ共に堕ちたまえ』

 

 コノエを中心に、空間の歪みが球状に形作られ、凄まじい勢いで収縮を始める。

 怨敵を捕らえ、押しつぶす憎悪の権能。

 

 その力に、コノエは──。

 

「──」

 

 ただ、槍を構える。白い力を纏いながら。

 今まで幾度となく繰り返してきたように。初めて教えられたあの日から、幾百、幾千と繰り返してきたように。

 

 迫り来る壁に、槍の穂先を向けた。

 

(──一の槍)

 

 十字槍と、竜の憎悪が激突し──。

 

 ◆

 

 ──戦いは、終わった。

 槍は壁を打ち破り、空には静寂が戻る。

 

「……ふう」

 

 コノエは警戒を切らさぬままに小さく息を吐く。

 とりあえず、敵は倒した。竜を討伐し、コノエは生きている。

 

「……」

 

 ……ならば次は。

 考える番だった。

 

 コノエは周囲を見渡す。

 聖都にいたはずが、何故かここに居た。マイコはおらず、金の権能も上手く使えない。

 

 これからどうするべきかと、コノエが思考を巡らせた──。

 

「────!!??」

 

 ──その瞬間だった。世界が突如、形を失った。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 驚き、全力で気配を探るコノエの知覚に、周囲の空間が凄まじい勢いで消えていくのが伝わってきた。

 コノエの周りを除いて、何もかもが消えていき……

 

「……これは」

 

 ──残ったのは、十メートル四方ほどの真っ黒な部屋。

 そして、壁に一つだけ取り付けられた、一枚の扉だった。




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