転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第13話 扉の先

 ──風竜の討伐後、突如溶けた空。

 そして、目の前に現れた黒い小部屋と扉。

 

「…………これは」

 

 コノエは、状況の変化に困惑しつつも頭を回す。警戒を切らさず、ぐるりと周囲を見た。

 目を細め、コノエは観察する。そうして屈みこんで、床に手を触れた。

 

(……やはり、そうか)

 

 コノエは心の中で呟く。なんのことかと言えば、この空間の正体についてだ。

 床の奥の奥。気配探知を深く通した先に、気配があった。

 

 固有魔法の気配(・・・・・・・)だ。

 今コノエがいるこの空間が、何者かの固有魔法によって作られた領域であるということ。

 

 こんな訳の分からない状況、固有魔法以外には考えられなかったが、やはりそうだったらしい。状況的に、聖国の地下から現れた推定魔王級の権能によるものだろうか。

 ……加えて、気配を探るうちに、もう一つコノエは理解する。この世界を作りだしている固有魔法の壁は。

 

(……固いな。抗固有魔法では破れそうにない)

 

 抗固有魔法の出力は低い。やはり、正面からの破壊は不可能のようだった。

 力を最大限練り上げた上で、微かな穴を開けることが出来るかどうか。

 

 つまり、現在のコノエは魔王と思しき敵の術中にはまり、抜け出せない状況にあるということで……。

 

(……まあ、それならそれで仕方がない。出来ることをするだけだ)

 

 しかし、突然の死地にコノエは悲観することなく、即座に思考を切り替える。当然だった。それこそがアデプト。生命神の使徒。教官の手で鍛え上げられた、人類の守護者の在り方である。

 故にコノエは、叶わない脱出は一旦横に置いて、思考を巡らせた。

 

(……まず、敵の力はなんだ?)

 

 突如現れた風竜。放り出された空。

 ……素直に考えれば、固有魔法で作った空間に閉じ込め、かつて戦った敵──災厄を周囲の空間ごと再現する力だろう。風竜の様子から、敵には最初に戦ったときの記憶がある可能性が高い。

 

 厄介な力だった。以前の記憶がある以上、こちらの手の内はバレているし、敵もそれを踏まえたうえで戦うだろう。

 しかも、敵が災厄で済むのならばいいが、もし魔王が出てきたら……。

 

(……まあ、流石に魔王の再現は出来ないと思いたいが)

 

 どうなのだろうか。コノエは考える。 

 普通に考えれば難しいと思う。……だが、ここに来る直前に見た力は、魔王に匹敵していた。それなら、同格の魔王を再現できる可能性もあるのかもしれない。

 

 コノエは超広範囲に広がる権能と、地面から噴き出した虹色の力を思い出し……。

 

(……しかし、あの権能は少し不可解だ)

 

 コノエは、そこで思う。そうだ。おかしかった。

 なにせ、あの極光は魔王級の力を持ち、範囲こそ極大であったが、密度自体はそれほど高くはなかった。アデプトであれば十分に弾けるくらいの出力だった。……それにそもそも、ここに来る直前の状況的には、コノエは虹色の力には触れていなかったし。

 

 にもかかわらず、今コノエは敵の術中にいる。周囲の壁は堅牢で、現れた敵も強大だ。これは単にコノエが敵の力を見誤ったのか。……それとも。

 

(……マイコが、何かしたのか?)

 

 ここに来る直前、マイコは何らかの力を使っていた。

 発動した金の権能と、マイコの手に伸びた花弁。コノエはマイコの手を握って、その直後に紫色の光が広がった。

 

 ……今のコノエの状況は、マイコの力によって引き起こされたものなのかもしれない。ならば、マイコも同じようにこの領域にいる可能性があるか。探し出して協力するべきだろう。

 

(…………)

 

 また、現状を考察する思考とは少し離れた意識で。コノエは何となく気付く。

 今回の一件。あれほどの規模の権能を使う敵が現れたのに、神界での予言はこのことを教えてくれなかった。

 

 これはもしかしたら、本来の虹の権能にはコノエや聖女様を殺すだけの力が無い、ということなのかもしれない。だから、死の予言がなかった。

 

(……とにかく、今は情報を集めるべきか)

 

 コノエは、軽く頭を振りつつ歩き出す。

 部屋にただ一つある扉に向かった。

 

 色々考えたが、現状ではすべて推測でしかない。状況を把握するためにも、この部屋でじっとしている訳にはいかなかった。

 コノエは扉の前に立つと、罠がないかと確認する。すると。

 

(……うん? ……四?)

 

 扉に小さく数字で四と書いてあることに気付く。

 何のことか分からないが、覚えておこうとコノエは思った。

 

 ……その後、見える限りでは罠はなく、文字もそれ以外には何も書かれていないことを確認する。そうして、部屋の外を想定しながらドアノブに手を伸ばした。

 

「……」

 

 ──果たして、扉の向こうには何が待ち受けているのか。

 

 仮に、以前戦った災厄が出てくるとすれば。次に出てくるのはマイコ──茸か、それとも三頭のスケルトンか。魔王も出てくるのなら不死の魔王や天蓋竜の可能性もある。周囲の環境もかつて戦った場所──汚染地の森、熾天結界の中、ダンジョンの底、海の上──になるかもしれない。

 

 ……いや、そんな安易な想定を軽く飛び越えてくる可能性もあるか。敵の領域内で決めつけて行動するのは危険だろう。

 だから、コノエが今するべきなのは、安易な想像ではなく、覚悟だ。

 

 ──たとえどんな敵が出てこようとも、必ず討ち果たし、日常に帰還する覚悟。

 

「…………」

 

 コノエは神国にいる大切な人たちの顔を思い浮かべた後、扉を押す。

 扉が開くと同時に、コノエは部屋から飛び出し──。

 

 ◆

 

 ──そして、コノエは見る。

 扉の向こうにあったのは。

 

「────これは」

 

 ──コノエの目の前には、()()()()()()()が広がっていた。

 

 昼の街だ。空には太陽が昇り、レンガで覆われた通りや家々を照らしている。道のいたるところには花が飾られ、甘い匂いが鼻をくすぐった。

 ……そんな家や道にはコノエも見覚えがある。

 

 ──()()だった。

 

「…………」

 

 ……襲ってくる災厄や魔王は居ない、か。

 

 コノエはまず敵の確認をした後、動き出す。

 状況を冷静に受け止め、行動を始める。

 

 まず周囲の確認から。

 聖都。ほんの数時間前まで、コノエも祭りで歩いていた都市。竜に襲われるまでコノエが居た場所でもある。

 一見、敵の領域から抜けて元居た場所に戻ったかのように見えて、しかし足元からは固有魔法の気配が伝わってきていた。しかも、時間帯が違う。ここに来る前は夜だった。

 

 その上、人の気配が全くない。空っぽの街だ。

 代わりに、人とは違う生物の気配が少し離れた場所にあって、数も多い。百は超えていた。 

 

「……?」

 

 この気配はなんだろう。コノエはそう思う。

 知らない気配だった。人ではなく、かといって魔物でもない気がした。

 

 確認が必要だと思い、コノエは生物の気配に足を向ける。

 気配があるのは、聖国の大通りの方だった。そして、コノエが今いるのは、大通りから脇道に入り、しばらく歩いた先にある住宅街だ。

 

 状況が分からないので、コノエは己の気配を消しつつ、目立たないように移動する。

 音を立てないようにしながら、建物と建物の隙間を縫うように走った。

 

 すると、近づくにつれて遠くから音楽と人の話し声のようなものが聞こえてきて、生物がおそらく知性を持つ存在であると理解する。

 

 少し()()()()()()()気がする声に首を傾げつつ、コノエは瞬く間に数百メートルを走り切る。

 そうして、そっと通りを覗き込み──。

 

(…………?)

 

 ──コノエは、見た。

 

(…………は?)

 

 見て、ぽかんと口を開けた。

 敵地だというのに、一瞬愕然としていた。

 

 そして、驚きから帰ってきた後、改めて理解する。

 この領域では、本当に()()()()()()()()()()()

 

 なぜって、そんなの……。

 

「ぬ?」

 

 声が聞こえる。知っている声。

 知っている声が、知っている感じで話している。

 

「ぬ?」

「ぬ?」

「「ぬ?」」

 

 その声の主は、頭が紫色の茸になっている。神様に似た顔の少女。

 マイコだ。コノエが今回聖国に来た理由。

 

 そうだ、声も姿も知っている。

 なのに、大きく違っている点が一つある。

 

「「ぬ?」」

「「「ぬ」」」

「「「「「ぬぬ」」」」」

 

 重なり合った声が、聞こえてくる。

 それは、別に反響しているわけではない。何らかのトリックがあるわけでも、音の魔法を使っているわけでもない。

 

 ただ──。

 

「「「「「「「ぬぬぬぬぬ」」」」」」

 

 ──()()()()

 

 同じ姿の少女が、沢山いた。見渡す限り、マイコだらけだった。マイコがなぜか増えている。

 また、その大通りは道の両脇に様々な出店が並び、マイコたちは、出店で店員をしていたり、買い物をしていたり、美味しそうに食べていたりする。

 

 ──つまり、百人以上のマイコが、聖都の大通りで祭りをしていた。

 

(………………なんだこれ)




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