転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
本日17時~19時にかけて2時間ほど193話が最新話の内容に置き換わっていたようです。
大変申し訳ありませんでした。
「…………??」
――聖国の大通り。増殖し、祭りに興じるマイコ。
楽しそうに笑う少女たちを見ながら、コノエは顔を歪める。
あまりに訳が分からな過ぎた。支離滅裂だった。
あるはずのルールが分からない。
いや、竜の次のマイコ――茸と思えば、かつて戦った災厄が現れる、という予想はある意味合っているのか?
「……っ」
コノエは困惑する。どういうことなのか。
コノエは元々、こういう……直接戦闘以外での謎解きを考えるのが得意ではない。その自覚がある。今までは敵が単純に襲ってくるタイプだったり、金の権能が教えてくれたので問題なかっただけだ。
コノエは、自分が今まで金の権能にどれほど助けてもらっていたのかを改めて自覚する。
テルネリカに頼りきりだった。……少し外れた意識で、帰ったら今までの分も含めてお礼をしないとな、と思い。
「…………ふー」
大きく、息を吐く。とにかく、分からなくても考えないことには始まらない。
なのでコノエは物陰に隠れながら、祭りをしているマイコたちを見る。
何か分かることはないかと……。
(……うん? よく考えると)
そこで、コノエは気付く。マイコたちの
そういえば、この街に来た時から感じていた。彼女たちの気配は
人でもなく魔物でもない。不思議な気配。
コノエが知るマイコの気配とはズレている。これは。
(……知らない……いや、
知らないはずだった。なのに、覚えがある気がした。
似た気配を、つい最近感じたような……。
(……あ、
コノエは思い出す。ほんの数時間程前、神様が祭りに参加するために入っていたモノ。
聖国のアデプトの固有魔法であって、もう一人の自分を作り出すような、そんな魔法だった。
目の前のマイコたちからは、義体に似た気配がする。
つまり、マイコがあの固有を真似して沢山義体を作り、中に入って祭りをしているということか?
(……いや、それも違う)
コノエはさらに気付く。先ほどから見ていておかしな点があった。
何がかと言えば……あのマイコたちは、
「…………」
コノエは少し考えた後、彼女たちに足を向ける。確認したいことがあった。
警戒しつつ、祭りに興じているマイコたちに近づく。
「ぬ! いらっしゃいませ! ご注文は何にしますか?」
すると、屋台で芋の揚げ物を作っていたマイコが声をかけてくれる。ニコニコと笑いながら、メニューを指さして、何のソースをかけますか、と。
コノエではなく、普通の客を相手にするかのように。
……それは、店の店員としては正しくても、マイコとしては異常だった。
(……これは、人形か?)
周囲を見ても、コノエに対する反応は一切ない。
先ほどまでと同じように、一定の行動を繰り返している。店で買い物をし、食べ、マイコ同士で楽しそうに話す姿。
「…………」
コノエは顎に手を当て、少し考えた後、跳躍し空を踏む。そして近くの建物の屋上に移動し、通りを上から見渡した。
大通りの全体を見る。沢山のマイコがいて、みな同じような動きをしていた。彼女たちはただ、楽しそうに祭りを繰り返している。
人形と、人形の笑い声だけが満ちた祭り。……見た目は楽しそうで、けれど、それだけだった。
(……分からない。これは、何のためのものだ?)
コノエは、考察する。人形の祭り。最も簡単に考えれば、条件型の固有魔法のためのものだ。条件を満たすことで、通常より強い権能を発動する力。
なので、この祭りも条件を満たすのが目的の可能性があって……。
(……でも、
しかし、そこで一つ、疑問点が生じて来る。
それがコノエの権能、抗固有魔法だ。
これは検証で分かったことだが、実はコノエの権能は条件型の固有を察知できる。
条件という形で干渉してくる敵の固有魔法に、抗固有魔法が反応するからだ。
抗固有魔法は、そういう点でも優秀な権能だった。……まあ、少し金の権能と役割が被っている所でもあるし、すべての条件型を感知できるわけでもない――風竜のような自己完結型の条件は不可能――ので、注意は必要だが。
「…………」
……やはり、分からない。分からないままにコノエは建物の上を歩きだす。
移動していっても、見えるのは祭りと人形のマイコだけだった。
空っぽな祭り。そのまましばらく歩いて、大通りを端から端まで見て一往復して、元の場所に戻って来ても。通りには虚ろな笑い声だけが響いていて……。
「――?」
……と、そのときだった。コノエは気付く。視界の端だ。
一体の義体が、建物の扉を開けるのを見た。そうして、そのまま中に入っていく。
――他の義体はずっと一定の場所をぐるぐると回っているのに。
その義体だけが通りから抜け出して、建物の中に入っていった。
「……!」
コノエは、その義体が入った建物へと向かう。
すると……。
(――この気配は)
探ると、建物の中に、幾つかの気配があった。複数の義体の気配と――
そのナニカは、気配が極めて薄かった。アデプトであるコノエでも深く探ろうとしなければ気付けないような、そんな気配。明らかに隠蔽している。
「……」
コノエは早速、開いていた窓から建物の中に入る。
そして、気配の方へと向かった。
中に入って分かったが、その建物は劇場だった。地下にホールがあるタイプの劇場で、気配が居るのはホールの中央だ。
コノエは、気配を消したまま走る。階段を降り、ホールの入口に立つ。
僅かに入り口を開け、中を覗き込むと……。
(…………)
――隙間から、音楽が漏れ出してくる。ホールでは劇が上演されているようだった。
舞台の上に立つのは、マイコの人形。騎士の姿をしたマイコと、姫の姿をしたマイコがくるくると踊りながら歌っている。ミュージカルのようだ。
……そうして、先ほどの薄い気配の主は。
『ぬ、こちらご注文の揚げ芋とマヨネーズです』
『……そう、ありがとう』
コノエは見る。客席の真ん中。そこに二つの影があった。
一つは出店の店員の服を着たマイコで、もう一つは――。
(……うん? こっちもマイコ?)
――マイコだった。同じ外見だ。コノエは少し予想外で、目を見開いて。
けれど、すぐに意識を切り替える。
……分かる。
『……マヨネーズってこんな味なのね』
『ぬ!』
そのマイコの姿をしたナニカは、人の言葉を話しながら揚げ芋を口に運び、舞台を見ている。
歌い、舞うマイコ人形をただ見ていた。どこか、つまらなそうに。
「…………」
コノエは、そんな彼女を見ながら。少し考えていた。
より正確に言えば、彼女が敵か味方か。
……思う。気配を見る限りでは、彼女は
マイコ型の義体に入っているので気配が分かり辛いが、魔の気配はしない。
おそらくは人だ。コノエと同じく巻き込まれた人間なのかもしれない。
……なので、本来なら普通に姿を現して、話しかけてもいいのだろう。
けれど……。
(……なんだろう。なにか、違和感がある)
コノエは、眉を顰める。自分でもよく分からない違和感があった。
何かが違うような、ズレているような、そんな感覚が。コノエは彼女を一目見たときからそんな違和感を覚えていて、だから、入り口に隠れて敵かどうかと悩んでいる。
また、彼女の行動も変だ。こんな固有魔法の中で、のんびりと観劇している。怪しくないと言えば、嘘になるだろう。何らかの方法で気配をごまかしている魔物なのではないかと思えてくる。
……しかし、人の可能性がある相手を問答無用で敵とみなし、槍を打ち込むべきかというと、それは。
また、彼女が義体を纏っている以上、仮に攻撃してもあまり意味がないというのも問題だった。……いや、正確に言えば義体かどうかは分からない。似ている別の権能かもしれない。だが聖女様の説明によれば、義体を破壊しても本体には影響がないらしい。そうなれば先制攻撃の意味が薄れる。
……コノエは、そんな風に色々と考えて。
「…………」
素直に彼女の前に姿を現すことにした。現状では、それが一番だろう。
違和感を押し殺し、扉を押す。警戒は、最大限にしながら。
ぎい、という音を立てて扉が開く。その音に彼女は、頬杖をついていた顔を何気ない感じでコノエの方に向けて……。
「……え? …………え?」
……彼女は、目を大きく見開いて、呟く。
酷く驚いた顔。ぽかんと口を開けている。ぱちぱちと何度も瞬きしていた。
彼女はマイコの顔で、愕然としていて……。
「…………あなた、は……あっ!」
「……?」
ふと、彼女は何かに気付いたように叫ぶ。
驚きから帰ってきたかと思ったら、おろおろと右を見て、左を見て。立ち上がって、何か探すように目を泳がせた。そのうちに隣に立つマイコ人形を見て、動きを止める。
……そんな彼女の反応に、コノエは警戒を切らさずに何だろうかと見ていた。
「……えっと、その、えっと」
「……」
「……そう、よね」
彼女はなんだかぶつぶつと呟いていたかと思うと、ぐっと手を握る。
そして、ぎこちない動きでコノエの方を向いた。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙があって、その後、彼女は両手をゆっくりと上げる。
……目を細め、臨戦態勢のコノエの前で、胸の前に手を構えた。
彼女は、手を構えて、少し手首を曲げる。
コノエの認識としては、まるで猫みたいなポーズをして――。
「ぬ…………ぬっぬっ!」
――彼女は、そんなことを言った。
……? ……なんだ?
「…………ぬ!」
「…………?」
「…………ぬっぬっ!」
「…………??」
なんだろう。よく分からなくてコノエは首を傾げる。
……何かの攻撃じゃないよな? 力は感じないし。
何がしたいのかとコノエがじっと彼女を見ていると……そこで気付く。彼女の顔が、段々と赤くなっていっている。
彼女の目が泳いでいる。猫のポーズをしたまま、顔がどんどん赤くなっていく。彼女が入っている義体――マイコの体は肌が白いので、赤くなっていく様子がよく見て取れた。
そのうちに、ゆでだこのように彼女の顔が赤くなって……。
「………………お願い。忘れて」
「…………」
――彼女はそう言って、顔を抑えて座り込んだ。
そうして小さく「真似なんてするんじゃなかった」と掠れた声で呟く。
……なるほど?
……マイコの真似をしているつもりだったのか?