転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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前話に義体を使う聖国のアデプトについての文章を数行追加しました。すみません。
義体を使う→フランは聖国のアデプトでは?→いいや、聖国のアデプトとしては違和感という流れです。
当然の疑問が抜けてましたね……


第16話 情報と

 突如聖国を襲った異常事態。地下から溢れだした虹の光。

 それを聖女と呼ばれている彼女の視点で見ると、どうなるか。

 

 数時間前、彼女は自宅のベッドで寝ているときに地下で生まれた力に気付き、即座に飛び起きて神様の元へ走った。

 そうして、数秒で神様の元に辿り着き、神様が思い出部屋に入ってるのを──護衛のアデプトがベッドから引きずり出して問答無用で叩き込んでいた──確認した。その直後、虹の光が襲来し、すぐに人員を集め調査迎撃のために動きだした。

 

 警戒態勢を敷き、部下を各地に走らせて情報を集めた。

 そして、その結果が。

 

「……どの地方からの報告書にも、被害なし。精々が光に驚いて転倒した子供や老人くらい」

 

 ──被害なし、というありえない報告だった。

 ただただ困惑するしかないような状況。

 

 いいや、正確に言えば、彼女は困惑しているだけではなかった。偽装を疑ってもいた。

 後から症状が出る潜伏型の権能や対象者を操る操作系の権能を、今も疑っている。部下にも徹底的に調べるように指示を出した。

 

 ……しかし現状、いくら調べても、体に権能の痕跡が残る民間人は一人も出ていない。

 

 それに、調査で分かったことが一つある。

 あの虹色の光は、能力的には以前現れた魔王、夢喰の魔王に似ているということだ。

 

 夢喰。かつて、対象を夢の中に引きずり込み、魂を破壊した魔王。

 今回の権能もそれに似て、対象者を夢の中に引きずり込む力である可能性が極めて高いと調査結果が出ていた。対象者を眠らせ、夢の中で攻撃する力だ。

 

 ……また、五百年前に夢喰の魔王を殺した彼女自身も、虹の力は夢喰に近いと感じていた。それなのに、夢に囚われている者は、現状()()しか見つかっていない。

 

 その二人こそが……。

 

「……あなたたちは今、夢の中で何をしているのでしょう」

 

 医務室のベッドで眠る、コノエとマイコの二人だった。

 この二人だけが、虹色の権能の影響を受けている。

 

 彼女は思う。まず間違いなく、この二人が何かをしたのだ。

 だって、彼女は見ていた。地面が割れ虹の光が噴き出すと同時に、紫の光が聖都に広がったのを。

 

「…………」

 

 だから、調べなければならないと思った。何が起きたのか、二人が何をしているのか。

 そのために聖女は、部下に指示を出した後、二人に手を伸ばす。

 

 彼女は、己の固有魔法を励起し、眠る二人の掌に触れて──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──そして、コノエとフランは。共に祭りを歩いていた。

 

「ね、あなた。あれが聖国で新しく開発された魔法なんでしょう?」

「……ああ、そう聞いている」

 

 コノエとフランの視線の先には、半日ほど前に見た新魔法──絵が立体的になって動き出す魔法──を使うマイコ人形がいる。

 人が居らず、沢山のマイコ人形が祭りを繰り返している街。並ぶ出店や大道芸は聖都の建国祭で見たものに似ていた。

 

「いいわね。私、好きよ。こういう魔法。だって、なんだか綺麗じゃない?」

「……綺麗?」

「ええ、作った人も、披露している人も、見ている人も、きっと皆楽しんでいると思うわ? それってとっても綺麗だと思わない?」

「……そう、かもしれない」

 

 コノエはフランと、話しながら歩いていく。ごく普通に。

 彼女の出した条件──。

 

『一つお願いを聞いてくれるのなら──この、私たちを包み込む固有魔法についてなら、教えてあげてもいいわ』

『私と一緒に、祭りを歩いてほしいの』

 

 彼女の願いを叶え、固有魔法の情報を得るために。

 なお、もちろんコノエは警戒もしていたが、抗固有魔法には反応がなく、一応試した金の権能でも何も見えなかった。

 

 彼女はただ、祭りを楽しんでいるように見えた。

 彼女が望んだのは、祭りを見て共に遊ぶことだけだった。

 

 ……それは例えば弓を使った的当ての店の前で。

 

「ふふ、ふふふ」

「…………」

「あ、あそこの的当て、気になってたの。勝負をね、してみたくて」

「……あ、ああ」

 

 玩具のような弓を使った屋台で、彼女はコノエと勝負して、一喜一憂していた。

 ……他にも、似顔絵を描いているマイコ人形を見つけたとき。

 

「ねえ、これ、描いてもらいましょうよ」

「……え?」

「似顔絵。二人一緒に。……ああでも、今義体なんだったわね。……ま、いっか」

「……ええと」

「お願い。……ダメ?」

 

 ──そうだ。二人で祭りを歩いた。手に持つ物を増やしながら。

 フランは腕に的当ての景品のぬいぐるみを持ち、胸には二人が描かれた似顔絵を大事そうに抱いていた。

 

 色んなところに行った。

 歌姫マイコのステージに、丁寧に整えられた美しい花壇、塔の上の展望台。ただ当たり前のように歩いた。

 

 最初はこんなのでいいのかとも思ったし、祭りを歩くという言葉に裏があるのではないかとも思ったが、彼女はこれでいいと言った。これがいいと目を細めた。ありがとうと微笑んだ。

 

「……ふふ、でも不思議ね」

「……?」

「本当に、不思議。あなたが来る前、一人で歩いた時よりずっと楽しい。……本当に、なんでこんなに楽しいんでしょう?」

「…………」

 

 道中、楽しい、と彼女は言った。幸せそうに微笑んだ。

 彼女はずっとずっと楽しそうで──。

 

 ◆

 

 ──長いような短いような時間が過ぎた。

 コノエたちは、祭りを一周し、元の劇場へ戻って来た。

 

「~~~~♪」

「……」

 

 フランは、歌姫マイコの歌を鼻歌で歌っていた。綺麗な旋律を再現しながら軽い足取りで廊下を歩き、階段を下りて、地下のホールの扉を開ける。

 

 無人のホール。人形のマイコたちもいない。

 その中をフランは踊るように進んでいき、そして、軽くジャンプして舞台の上に立った。

 

 明かりのついていない、薄暗い舞台の上。

 フランはそこでくるりと振り返り、後ろを歩いていたコノエを向いた。

 

「ねえ、あなた」

「……ああ」

「あなたは、ここで演じていた劇の内容を覚えてる?」

 

 それにコノエは、少し考えて、思い出す。

 確か、騎士姿のマイコと姫姿のマイコがいた、ような。詳しい話は覚えていないが、最後は抱き合って終わっていた。

 

 なのでそんな感じのことを言うと、フランは嬉しそうに頷く。

 よくあるラブストーリーよ、と。

 

 そうして、フランは少しはにかむように笑い……。

 

「……えっと、それで、ね、あなた。もし。もしもの話だけれど」

「……ああ」

「もし私が、あの、劇のように……その、ね…………その……」

「……?」

 

 と、そこで何故か、フランが言いよどむ。

 何か言いたげにしていて、でも何も言わなくて。

 

 コノエは首を傾げ……そのまましばしの時間が過ぎた。

 

「……………………」

「……………………」

「……ごめんなさい。なんでもないの」

「……フラン? なにが」

 

 何故かフランは何も言わぬまま、言葉を打ち切って、くるりとコノエに背を向ける。

 コノエが呼びかけても、返事はなかった。そして。

 

「……うん、ここまででいいわ」

「……?」

「祭りよ。一緒に歩いてくれて、ありがとう。……楽しかった」

 

 ──返事の代わりにそんな言葉が飛んできた。

 

 だから、ちゃんと固有魔法について教えてあげないとね、と。フランは背中を向けたまま呟く。

 約束は絶対破りたくないから、と。

 

「この聖都の領域からの脱出方法について話すって言ったわね。……実は出口は最初からあるの。場所がちょっと分かり辛いだけで」

「……そう、なのか?」

「地図はもう作ってあるから、私が座ってた椅子の上にあるわ」

「……え?」

 

 言われて見ると、確かにフランが最初に座っていた椅子の上に一枚の紙が置かれている。

 手に取ると、確かに地図が書かれていて、大通りに面した店の一つに印がついていた。

 

「店に入ったら扉が見えるから。それを潜れば簡単に脱出できるわ。敵と戦う必要もない」

「……なる。ほど?」

「……あと、本当に楽しかったから、もう幾つか教えてあげる。聖都を出た後のことだけど──不死の魔王が出て来るわ」

「……なに?」

 

 ──不死の魔王。アーキノルカで戦った敵。

 復活の権能を持った、世界崩壊の怪物。

 

 ……魔王が出るかもしれないとは思っていたが、まさか本当に出て来るのか。

 コノエは驚いた後、歯噛みする。かつては呪詛があればこそ、勝利できた敵。今回は果たして、どうやったら倒せるだろうかと。

 

「でも、それほど心配はいらないわ。かなり弱体化してるから」

「……え」

「流石に魔王の完全再現には、力が足りなかったみたいね。固有魔法がほとんど動いてないみたい。復活できても一度か二度じゃないかしら。……だから、あなたなら大丈夫でしょう。不死の魔王は固有魔法が強いだけで、本体はそれほど強くないみたいだし」

「……それは」

 

 ……それは、本当に?

 コノエは思わず、フランの背中を疑いの目で見る。

 

「ふふ、信じてくれると嬉しいわ。ちなみに、あなたの前に立ちはだかるのは、あと三つ。不死の魔王、三頭六腕のスケルトン、天蓋竜。あなたが戦ってきた敵ね。その全てを倒せば、あなたは解放される。……ああ、もちろん天蓋竜も弱体化してるから」

「…………」

「あと、聖都の領域を抜けたら謎解きとか難しいことはないから安心して。……勘違いしてるかもしれないけど、ここが特殊なだけで、この私たちを閉じ込める固有魔法は本来、敵と戦うだけなのよ」

 

 ──だから大丈夫。あなたはきっと無事に帰れるわ、と。彼女はそう言った。

 

「…………」

 

 ……ええと。コノエはその言葉に幾つか思うところがありつつ。

 

 しかしまず、ここが特殊とは? と疑問に思う。

 なぜそうなったのだろうかと……。

 

「……さて、じゃあ私はそろそろ行くことにするわ」

「……え?」

 

 そして、コノエが考えているうちに。フランが話を打ち切るようにそう言った。

 くるりと振り返って、コノエの方を向く。

 

 ──フランはにっこりと笑っていた。

 

「……フラン?」

「約束も果たしたことだし、時間も近づいてきたから」

 

 綺麗な笑顔だった。でも、なぜかコノエが違和感を覚えるような表情でもあった。

 そうして──。

 

「ありがとう。楽しかった。嬉しかった」

「……フラン」

「……うん、満足できたわ。だから、ここまでよ」

 

 フランは、ただただ笑っている。笑って、ありがとう、と繰り返して。

 その直後──突然、彼女の体が()()()()()

 

「──!」

 

 コノエは驚き……気配から何が起こったのかを理解する。

 消えていく固有魔法の気配。彼女が義体を解除したのだ。

 

 フランの体を形作っていた力が、空気に溶けるように消えていって──。

 

『さようなら、優しいあなた。……きっと、無事に帰ってね』

 

 ──最後に。そんな声が、遠くから聞こえた気がした。

 

 ◆

 

 それから。コノエは数十秒ほどフランがいた場所をじっと見つめた後、動き出す。

 劇場を出て街に立つと、フランは消えたがマイコ人形は相変わらず祭りを続けていた。

 

(……しかし、本物のマイコは何処にいるのか)

 

 思う。人形のマイコは沢山いるが、本物のマイコは何処にもいない。

 直前の状況的に、この固有魔法の中に居てもおかしくないはずだが。

 

「……」

 

 分からないな、とコノエは軽く息を吐く。

 その後、地図に描かれた場所へと向かった。

 

 示された店の入り口を開けて中に入ると……。

 

(……これは、風竜の後と同じ、か?)

 

 すぐに一枚の扉が目に入る。見覚えのあるデザインの扉。近づくと、小さく三と数字で書いてあるのがわかる。

 最初が四だったから、減っていた。

 

 加えて、思い出す。フランが言っていた残りの敵の数も、三だ。不死の魔王、スケルトン、天蓋竜。これはつまり、そういうことなのだろうか。

 

 ……次は不死の魔王か。

 フランの弱体化しているから大丈夫、という言葉をコノエは思い出して。

 

「……いや」

 

 しかし油断することなく、最大限戦闘態勢を整えると決める。

 それは、フランのことを疑っていると言うよりも、一つ思うところがあったからだ。

 

 ……そうだ。たとえ、一度や二度しか不死の権能が使えないとしても。

 

「…………」

 

 だから、コノエは、起こりうる可能性をシミュレートする。

 かつての戦いを思い出す。

 

 その後、神威武装と雷化を発動して。

 ドアノブに手を掛け──開けた。

 

 ◆

 

 ──そうして、三つ目の領域に侵入した瞬間。

 ──コノエは、己が足りなかったと気付いた。

 

 まずい。()()()()()()()()()()()()()()

 油断しないだけでは足りなかった。コノエはその瞬間、死地に立っていた。 

 

「────!!!!」

 

 コノエの脳に雷が走る。加速していく。思考を瞬時に最高速にまで加速する。

 それは、気付いたからだ。知ってる物の中に紛れた異物を見た。

 

 扉の向こうには、知っている風景が広がっていた。直方体に切り抜かれた空間と石造りの建物は、記憶に残る熾天結界の内部と同じだった。

 

『skivm;whiehaeruioauvule;ihm』

 

 また、聞こえてくる音も知っていた。人の声帯では出せない音。

 ぐちゃぐちゃと不快な音が響く。空間には、黒いスライムが這いずり回っていた。また、その気配は──確かに、知っているものより遥かに弱い。生命を冒涜する邪悪な気配が、あまり感じられなかった。固有魔法は確かに弱体化しているようだ。これは聞いていた通りだった。

 

 ──けれど、一つ、全く予想していなかったものがあった。

 

 そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(────あれは)

 

 コノエの背筋を冷たいものが走り抜ける。

 熾天結界を模した壁に、前はなかったものがある。

 

 ──壁に、()()()()()()()()()()

 

(────っ!)

 

 ぽっかりと開いた穴。その向こうには……()()()()()()。そして、穴の周囲を、スライムが這いまわり、溶かして広げている。

 危機を察知した頭脳が、すさまじい勢いで警鐘を鳴らしている。急いで対処しなければ──。

 

(──!)

 

 ──しかし、既にそのときには遅かった。

 

 壁の穴から、一つの影が飛び出してくる。

 その影は人より少し大きな体躯をした、()()()()()()()()()()()()である。

 

 不死の魔王は、その浸食の力を使って、隣の領域との間に穴を開けていた。

 

「「「──SUUUUUUUAAAAAAAAAAAALYYYYYYYYYYY」」」

「──っ!」

 

 そして、さらに事態は動く。いいや動くではない。すでに動いていた。コノエがこの領域に入る前に。当然だ。不死の魔王は準備していたのだから。

 

『kaosyfgwenas;lidfuhnv』

 

 不死の魔王が、一か所に集まり、力を行使していた。

 微かに残る不死の気配が収束し、一つの形を作り上げていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

(────ああ)

 

 己の頬が引きつっているのを自覚しながら、コノエは体から金雷を奔らせる。最大出力まで力を高める。そうしなければ、()()()()()()()()()()()

 

 ──そうだ。これこそが魔王だ。

 フランが言っていたことは、正しかった。魔王は弱体化している。けれど、弱体化しているだけでもあった。

 

 コノエは知っている。世界を滅ぼしうる怪物。それこそが魔王なのだから。

 

『hw;e,tv:iweoa.irc:w!』

「「「SUUUUAAALYYYYYYYYYYYYYYYY」」」

 

 ──教官の影と、三頭六腕のスケルトンが叫ぶ。

 ──こうして魔王と災厄、二体の邪悪との戦いが始まった。




この度、「次にくるライトノベル大賞2025」で文庫部門三位に入賞することが出来ました!皆さんの応援のおかげです!ありがとうございます!
PVも作ってもらえたので、是非見てもらえたらと!作者Xでリポストしてます!
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