転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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※※※注意※※※
※※※本日は二話同時更新で、こちらが一話目です。この話から読んでください※※※


第21話 穴

「……マイコ?」

 

 コノエは、手の中のシャツを見ながら呆然と呟く。繕われた服。綺麗な刺繍。素人には出来ない見事な技巧。

 

 ……それに、そうだ。少し思い出す。

 教官の一件で潜った迷宮の中でも、こんな感じの刺繍の服があった、ような。

 

 ……どういうことだ?

 

 フランは、マイコだった? なら何故言わなかった?

 それとも偶々裁縫が上手いだけで、別人なのか? そんなことがあるのか?

 

「……フラン? ……マイコ?」

 

 わからなくて、思わず名前を呼ぶ。けれど当然返事はない。

 だって、フランは先ほど義体を解除した。

 

 ──さようなら、とそう言って消えたのだから。

 

「………………」

 

 わからない。でもマズい気がした。確認したかった。

 探そうとして、けれど、どうすればいいのか分からない。

 

 彼女は義体を解除して消えたので、痕跡を追いかけることもできない。

 何か手掛かりはないかと……。

 

「……あ」

 

 そこで思い出す。そうだ。彼女は別れ際に言っていた。

 

 ──抗固有魔法で夢の固有魔法に穴を開けろ、と。

 それが今のコノエが持っている唯一の手掛かりだった。

 

「…………」

 

 ……やるべきだろう。そう思った。

 

 だから、コノエは、己の中の力に向き合う。

 魂の力を練り上げて、固有魔法の回路を回す。

 

 相手は魔王級の力が作り出した、強大な夢の魔法。真正面から対抗しても太刀打ちできない。

 けれど出力を上げて一点に集中すれば、小さな穴くらいは。

 

 コノエは屈みこみ、地面に手を突いて力を発動し──。

 

固有魔法(オリジン)──界律接続、因果正転(あすのえがおをみるために)

 

 ──その、次の瞬間だった。

 

「──っ!?」

 

 コノエの手の先で、力が渦巻いた。

 僅かに空いた穴の先、そこに一瞬で強大な力が集中する。

 

 ──そして。

 

「──やっと、入れました!」

 

 声が聞こえた。ふわりと舞う桃色の髪。

 広がるドレスと、微かに音を立てる二本の剣。

 

 ──偽物の聖都の街に、花が咲くように一人の女性が現れた

 

「コノエさん! 無事でしたか!」

「……聖女、様」

 

 聖女様だった。

 

 ◆

 

 ──曰く、聖女様はずっと中に侵入できないかと試していたらしい。

 

「私なら夢の権能に干渉できると、夢喰の魔王との戦いで分かっていましたから」

 

 夢に取り込まれたコノエとマイコの手を握り、干渉し続けていた、と。

 しかし壁が強固で、内部に触れる糸口すら見つけられず困っていたようだ。

 

 けれど、そこに──。

 

「──僕が抗固有魔法で穴を開けたから」

「はい、助かりました。これで、私も参戦できます」

 

 ……つまり、フランが言っていたのはこのことか。

 コノエは思い出す。『あなたが天蓋竜と戦う、何よりも大きな助けになる』と、そう言っていた。

 

 なるほど、確かに聖女様が協力してくれるのなら、とコノエは一つ頷き……。

 

「……さて、では私の話はここまでにしまして。情報を共有しましょう。現状を教えてもらえますか?」

「……はい」

 

 ──二人は早速、現状の確認を始めた。アデプトとして、戦うために。

 

 ◆

 

「なるほど、夢の中の領域、現れた風竜、不死の魔王、スケルトンの災厄、現れるだろう天蓋竜。最も恐れている存在が現れる固有魔法。フランという少女。姿が見えないマイコちゃん。縫われた服、ですか」

 

 それから、コノエは聖女様に己が知る限りのことを話した。

 また、逆にコノエは聖女様から現実世界のことについて話を聞く。

 

 聖女様の共有の権能も用いて、高速情報共有──互いに伝えたいことが映像や音声として頭の中に出力される感じ──を行った。驚くほど便利だった。

 

「……え? この固有魔法に取り込まれたのは、僕とマイコだけなんですか?」

「はい。他には見つかっていません。……あなたが何もしていないのなら、間違いなくマイコちゃんがそうなるように手を打ったのでしょうね。マイコちゃんは、あなたと自分だけが夢に取り込まれるように、()()をした」

「……」

「現実での被害は、ほぼ無いのです。なので、あとは状況把握のためにも夢に侵入し、内部のコノエさんやマイコちゃんと協力して異常への対処が出来ればと思っていたのですが……」

 

 ……しかし、どうやら、マイコちゃんがよく分からないことになっているようですね、と。聖女様は呟く。

 フランという少女。謎が多いです、と。

 

 フラン。マイコの義体に入って現れ、祭りを歩き、コノエを助け、そして消えていった。

 後に残されたのは聖女様と合流するための方法と、丁寧に繕われたシャツだけ。

 

 どういうことなのか。フランはマイコだったのか。それとも別人なのか。コノエには分からない。……そうして、聖女様はそんなコノエにゆっくりと口を開く。

 

「……ふむ、そうですね。一から確認しましょう。フランという少女──フランさんでいいですかね。彼女がマイコちゃんに関係している可能性は高いでしょう」

「……はい」

「しかし、マイコちゃん本人だというのには、違和感があります」

 

 聖女様は指を折りながら、一つ一つ違和感を挙げていく。

 

「例えば、あなたと祭りを歩いたとき、初めて祭りを見るようだったこと。マイコちゃんの口癖、『ぬっぬっ』と言うのを恥ずかしがっていたこと。義体の説明の時、別の体に入っているから能力が落ちている、とも言っていたようですね」

「……はい」

「夢の固有魔法の正体を知っていたのに、最後の最後まであなたに伝えなかったのも気になります。何らかの理由があって正体を隠すつもりでも、固有魔法については最初に伝えてもいいでしょうに。……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ……だとすれば、と聖女様は言う。

 それらの前提の元に、彼女の正体を考えると、と。

 

「…………」

「…………」

 

 聖女様は、顎に手を当てながらぐるりと周囲を見渡す。

 聖都の領域。遠くから人形のマイコの声が聞こえてくる。

 

「コノエさん、一つ確認したいのですが……この聖都以外は敵を討伐した後、部屋が溶けたのですよね?」

「……え、はい。そうですね」

「……一つだけの例外。敵が現れた順番。本来二番目の領域に現れたであろう存在。そして──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()固有魔法。本当に恐れているのなら、現実に居なくても可能。……ならば」

 

 聖女様は、一つ頷き、コノエを見た。

 コノエの両目をじっと見つめて……。

 

「問題は、フランさんは果たしてどちらなのか、ということですね」

 

 そう言った。……どちらなのか、とは?

 

「可能性の問題です。現状の私が思いつく、フランさんの正体は二通りなので」

「……え? もう二つも浮かんだんですか?」

「はい。……私は、()()()()()()()()()()()()から」

 

 ──似ている? 疑問に思うコノエに、聖女様は「ほら、今日の昼、祭りの時に言ったでしょう」と言う。

 ……そういえば。確かに、言っていた気がした。昼に、マイコと聖女様が文通していた理由を聞いたときだ。色々あったので、かなり昔のことに感じるけれど。

 

「私の思う可能性が両方間違っていることも十分ありえますが、今は、このどちらかだと仮定して考えてみましょう」

 

 聖女様の言葉に、はいとコノエは頷く。

 

「まず一つ目ですが……まあ、これは単純ですね。一番捻りが無くて、だからこそ十分にあり得る。──マイコちゃんが敵によって記憶を奪われ、フランさんになった場合です」

「……記憶を?」

「コノエさんの前に魔王や災厄が現れたように、マイコちゃんの前に記憶を奪う災厄が現れたとすれば、という可能性ですね。一部のフランさんの発言に、この予想と合わないものもありますが……まあ記憶が混乱していれば、ありえない話ではないでしょう」

 

 ……確かに。説明もつくし、とても分かりやすい。コノエはそう思う。

 

 しかし違和感があるのも事実ではあった。矛盾点を全て混乱で片付けている。

 また、目の前の聖女様も、ありえると言いつつも納得している顔ではない。

 

「はい、単純ですが、乱暴ですよね。なので、私は二つめの可能性の方が高いと思います」

「……それは?」

「それは、ですね」

 

 そこで、聖女様がコノエを見つめる。

 瞳を覗き込むようにじっと見て。

 

「それは──フランさんが、()()()()()()()()()()()()()()です」

「………………え?」

 

 …………敵?

 コノエは目を見開き、聖女様を見て……そこで聖女様がふと立ち上がる。立ち上がって、腰のポーチを外した。

 

「……? 聖女様?」

「いえ、二番目の可能性を思うと、先に少し準備しておいた方が良い気がしまして。ここから先は戦闘準備を整えながら話させてもらいます。……次は天蓋竜ですからね。専用の装備が欲しいので」

 

 聖女様はポーチから幾つも魔道具を取り出す。

 そして、まず袖の下に着けていたベルト型の魔道具を外し、代わりに取り出したバングルを着けた。その調子で全身の魔道具を外し、代わりの魔道具を装備し始める。

 

 ……コノエは、突然の行動に驚くことしか出来ない。

 

「……まあ恐らく、最終的な結果は()()()()()()()()()()()()というのが全てなのでしょうが」

「………………ええと?」

「いえ、では説明しますね」

 

 訳が分からないコノエに、少し目を伏せながら聖女様は言う。──つまり、フランとは、現状まだ現れていないように見える存在ではないでしょうか、と。

 

「今この夢の中に居るのは誰かを考えてみてください。閉ざされた世界。外部からの干渉は難しい。それならば、中に居る者は限られているはずです」

 

 聖女様が一つ一つ要素を挙げていく。閉ざされた、夢の固有魔法の中。取り込まれたのはコノエとマイコだけ。現れる敵は、夢の固有魔法によって作り出される『最も恐れている敵』。それぞれを見ていくと。

 

「コノエさんはここに居ますし、コノエさんの敵は既に現れています。──つまり、現れていないのは行方不明のマイコちゃんと、マイコちゃんの敵だけです」

 

 つまり、現状考えられるフランの可能性は二つしかないのだと聖女様は言う。

 そして、一つ目の可能性で言ったように、フランの正体が記憶を失ったマイコであるのならいい。しかし、仮に違うのだとすれば。

 

「残っているのは、一つだけですよね」

「…………」

「フランさんの二つ目の可能性。それは──彼女が、マイコちゃんが夢の固有魔法によって連れてこられた『最も恐れている敵』である可能性です」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──そうして、その同時刻。

 コノエと聖女様がいる場所からいくつか壁を隔てた先に。

 

「むー、むー!」

「…………」

 

 二つの人影があった。

 一つは立って、一つは縛られ転がされている。

 

 拘束されているのは──紫の茸頭の少女だった。

 マイコだ。義体ではなく本物の。両手足を黒い紐で縛られ、口には猿轡をされている。紐をほどこうと必死にもがいているものの、解ける気配はない。

 

「…………」

 

 ──もう一つの人影は、そんなマイコを、ただ見下ろしていた。

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