転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
大変申し訳ありませんでした。
一方その頃。広大な海の領域では。
聖女と天蓋竜の戦闘が続いていた。
『■■■■■■■■■■■■!!!!』
「…………」
斬撃と咆哮。切断されズレる世界と、打ち砕かれ極光を見せる空。
圧倒的な消滅の力で前へ進もうとする天蓋竜と、それを阻止せんと千年の技で逸らし、釘付けにする聖女。
その戦いは、共に決定打を持たぬが故に拮抗し、長期化していた。
『■■■■■■■!!』
天蓋竜が消滅の盾を構え、黒槍を作り出し、無数の黒線を放つ。
天蓋竜はここまでの戦いで技術に圧倒的な差があると理解したのだろう。捉えられぬと悟り、飽和攻撃で聖女を追い詰めようとしていた。しかもそれだけでなく、戦い方も工夫し始めている。
例えば、今この瞬間に近付いてきた黒線に――。
「……ふふ」
――襲い来る黒線の中に潜んでいた槍が、直前で軌道を変え、彼女めがけて襲い掛かって来る。それを彼女は冷静に剣で打ち落とし、反対に目の周辺に無数の斬撃を叩きこんだ。
『■■■■■■■■■■■■!!!!』
苛立たし気に叫ぶ天蓋竜に、彼女はただ微笑みを向け……。
(……しかし、改めて。力が弱いだけで本当に天蓋竜ですね)
彼女は思う。相対する邪悪を静かに見つめながら。
工夫し、この瞬間も成長する魔王。その姿に、彼女は百五年前の戦いを思い出す。当時、彼女も最前線で天蓋竜の足止めを行っていた。
――だから、両方を知るからこそ思った。
本物が生き返ったかのようだ、と。
(やはり、夢は未知数な部分が多いですね。まさか本当に死者を生き返らせることが出来るとは)
フランが夢には無限の可能性があると言っていたようだが、現実では決してありえないことが、当然のように起きている。これが夢の性質か。まさか死の界律を超克したのでもないだろうし。
「……」
……実を言えば、夢に関して、人類は調査が進んでいなかった。
調査する気がなかったのではない。逆だ。夢喰の魔王が現れてから五百年、人類は夢を理解するために多くの研究を行ってきた。
だが、現状その成果が実っているとは言えなかった。ないよりマシくらいだ。そもそも夢の固有魔法の持ち主がほとんどおらず、調査があまり出来ないのが問題だった。
長年の調査で分かったのは、人と夢は相性が良くないと言う事実。以前の調査で、マイコでさえ最低限の干渉がやっとだと述べている。
現在聖国の中で夢に干渉できるのは聖女だけだ。それも、コノエの抗固有魔法がなければ中に入ることすら出来なかったレベルでしかない。
故に今回、マイコが真っ先に手を打たなければ、聖国の国民が死んでいくのを見ていることしか出来なかっただろう。
――聖女は、その重みを誰よりも理解している。
『■■■■!』
(やはり、邪神亡き今、最も恐ろしいのは夢ですか。邪神が何を仕込んでいるのか分からない。……せめて一人、アデプト級の夢の固有魔法使いが居れば研究の進みも違うのですが)
彼女は天蓋竜の攻撃を捌きつつ、以前から国際会議で問題提起されていたことを思い出し、コノエたちが向かった方へ意識を向ける。
聖女は聖国の武力のトップとして、様々なことを考えながら行動していて――。
『■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』
「――――あら?」
その瞬間だった。聖女は目を少し見開く。
何故かと言えばそれは。
――バキリ、と。
天蓋竜が首を伸ばし、牙で夢の壁に突き立て――食い破った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして、状況は進んでいく。
聖女と天蓋竜の戦いと同様に、フランの記憶も。
暗い霧に閉ざされた道を一歩一歩進むごとに。
コノエたちの前に、マネキンのような頬を少し赤くしたフランが現れた。
◆
『……どうしよう。ちょっと緊張してきた』
まだフランと名乗っていない少女は、小さく呟く。
足の指を動かしながら、いずれこの場を訪れるであろう
だって、分からなかった。彼女はもうずっと、ずっと、人と話をしていなかった。
いいや、そもそも話した経験すらほとんどなかった。
それなのに、これから突然会話することになるかもしれない。
そんな人に、どう接すればいいのか分からなかった
何を話せばいいんだろう、どうすればいいんだろう、なんて考えてしまって……。
『……って、いやいや、まって。私何を考えてるの?』
と、そこで、すごくそわそわしていた彼女は、ふと冷静になる。
いやいや違うだろうと。それは前提が間違っている。
そうだ。そもそも、なぜ彼女が男に会おうとしたのかと言えば。
『あの男を殺して、
殺すために、会うのだ。だから、会話の必要なんてない。
伝えるなら一言、『お前を殺す』だけでいい。
それ以上は必要ない。……ないったらないのだ。
『伝えて、すぐにやっちゃえばいいのよ』
少女は、シュシュ、と中空に向けて拳を打つ。……いや、違う。シュシュ、ではなく空気の壁が破壊される轟音が鳴り響いた。
彼女の体は内部をめぐる莫大な力によって強化されている。
それは本来、夢の固有魔法に使われるはずだった魂の力だ。全体の九割。夢の魔王が魂を燃やし尽くし生み出したエネルギーは、彼女が手を出さなければ、魔王を完全再現できたであろう量だった。
その力を完全に制御下に置いた今、彼女はあらゆることが出来るようになっている。魂を操る力と彼女の永い永い偽物の生涯で得た経験が相まった結果だ。例えば。
『一度なら銀の権能も真似できるかも? 〇.二秒くらい時間停止できそう』
――つまり、戦闘においてほぼ無敵であるということだった。
後はあの男に会ったらボコボコにしてやるだけ。
酷い目に遭わせてやればいい。
なので、彼女はそう結論付けて、また足元をじっと見たりして……。
――
――
――
……でも、あの男に何かされたわけじゃないんだよね。
しばらく経った頃、彼女は何となくそう思う。
もちろん思うところはある。とてもある。
……けれど。
……これでいいんだろうか?
『………………』
彼女は悩む。とても悩む。
どうすればいいか悩んで……。
『……話を、してみよう』
そういうことになった。話をしてから、ボコボコにするか決めよう、と。
◆
『……よし、じゃあ準備をしよう!』
なんだか元気になった彼女は、早速、話をするための準備をすることにした。
まず最初にしたのは、外見の偽装だった。
だって、彼女は人間でも魔物でもない体をしている。
これでは人とは会話できないのだ。知っている。だってたくさん攻撃されたし。
どうしようかと悩んで、何かいい魔法はないかと……。
『……あ』
そこで、
義体の魔法だ。もう一つの体を作り出す魔法。
それを魂を操る力で真似をして、作り出す。
元が必要なので、仕方なく
『……自分の体じゃないから難しいな』
最初は上手くいかなくて、もう一度挑戦する。
失敗して、少し改良して、また失敗して。
それを繰り返して、試行錯誤の末に義体を完成させた。
うんうん、と満足げに少女は笑う。
無理やり中に入ったので義体の能力が落ちてしまったが、まあいいだろう。
なんだかその背後には失敗した義体が沢山あるけれど、それもいいことにする。
あとは、やってきた男に声をかけるだけでいい。そう、話しかけるだけで……。
『…………』
話しかけるだけで……。
『……………………』
えっと……。
『…………………………………………』
……ちょっと、間に何か挟んだ方がいいかな。
彼女はそう思う。もう少し段階を踏みたい。
なぜってそれは…………そう、敵はアデプトだし。絶対強いはず。というか数百年前の遠い記憶の中で戦ったことあるけど強かったし。あれからどう成長しているかもわからない以上、様子見するべきだ。
勝てるとか思った気もするけど、それはやっぱり希望的観測だった。
何かあの男との間に挟めるものはないかなと思い、周囲を見る。
『……祭り』
すると、祭りの飾りつけになっている聖都がそこにあった。この領域は最初からそうなっていた。そして、周囲には先ほど作った失敗作の人形が沢山。
そんな聖都と義体を彼女は見比べる。
『そういえば、昔似たような人形で劇とかやったなぁ』
思い出す。ずっとずっと一人ぼっちで寂しかったので、暇つぶしでやっていたことだ。人を模した人形を廃墟の街とかで動かして、人の中で生活する真似をするのだ。知っている。人形でも声があると少し気が紛れるのだ。
……そうだ。彼女は思いつく。
人形達の中から男を見ればいいのだ。人形に何か――祭りをさせて、その中に紛れて、人形のふりをしながら男を観察する。
『…………うん』
さっそくやってみようと思って、行動する。
一つ一つ、義体に命令を入力していく。
命令し、再現する。再現元は
知らない祭りを模倣し、動きを指示していった。
そのうちに、聖都の街は段々と動きと声に満ちていく。
出来上がったのは、人形たちが楽しそうに祭りをする街。
完璧な祭りだ。彼女は満足げに大きく息を吐いて……。
…………
…………
…………
『……なにをしてるんだろう、私』
はは、と、自らを嘲るように少女は笑う。
本当に何をしているんだろう。
男を殺そうとして、最終的には義体に入って祭りを作っていました? 意味が分からない。
頭がおかしいのかと自分で自分に罵声を浴びせたくなるような。
『……でも、知らないんだよ』
私、何も知らないんだ、と。彼女は呟く。
他者とのかかわり方なんて、あの男になんて話しかければいいのかなんて知らない。
そうだ。何も知らない。ずっと一人だった。
ずっとずっと、何十年も、何百年も。
人でも魔物でもない化け物として、ずっと彷徨っていた。
魔物には攻撃され、人は彼女を否定した。
彼女の記憶の中では、人はいつも余裕がなくて、化け物が入り込む余地なんてどこにもなかった。
なぜなら――その世界では、
教官がコノエに救われることなく、子供の姿のまま死んだ世界。邪神の陰謀が成就してしまった、この世界とは違うもしもの可能性。
魔物と人の戦いは激化し、どこもかしこも血に塗れていた。
血で血を洗うような終末戦争の中で、人と関わることなんて出来なくて……。
『……』
……いいや、それも少しズレている。
彼女には――持っていないものがあった。
だから、彼女は……。
『……私は』
膝を抱えて、少女は呟く。
許せなかった。許せなくて、許せなくて、許せなくて……。
……悲しくて。
『…………どうして』
彼女はただ、そう呟くことしか出来なかった。
◆
『…………』
それから。彼女はなんだか辛くなって、男が来るまで劇場の中に籠ることにした。
明るい空が、妙に煩わしく感じたからだ。
『……どうしよう』
呟く。どうしようかと。男に会ったらなんて言ってやろうかと。
お前を殺す。……いやいや、それはやめたんだった。
……じゃあなんて言おう?
色々考えて、でも答えは出なかった。
頭の中が混乱していて、訳が分からなくて。
現実逃避気味に、人形に食べ物を持って来させたりした。
男が来たらどう話しかけるのか、考えがまとまらなくて――。
『――――え?』
ぎい、と。音を立てて劇場の扉が開いたのは、そんな時だった。
見ると、扉の向こうに記憶の中にある姿があった。
――あの男だった。
彼が、じっとこちらを見つめている。
考え事に没頭しすぎて気配探知がおろそかになっていたことに、その時気付いた。
『…………あなた、は……あっ!』
どうしよう。人形に紛れるはずだったのに、彼はもう目の前に居る。
それどころか、まだ全然考えがまとまっていないのに。
頭の中がぐるぐるした。どうしよう。どうすればいい?
分からなくて、必死に頭の中を探った。
すると、近くに立つ人形が目に入って。……そうだ、この瞬間だけ、
だって、彼女はずっと、ずっと――。
『……えっと、その、えっと』
――本当は、ずっと誰かと、話がしたくて。
だから彼女は、咄嗟に記憶の中から、アレの普段の言動を参照する。
そして言った。
『ぬ…………ぬっぬっ!』
『…………?』
…………
…………
…………
『…………ぬ!』
『…………?』
『…………ぬっぬっ!』
『…………??』
……彼女は思う。
……本当、何してるんだろう、私。
転生程度4巻発売中です!4巻はフォニアのてこ入れしてます!
よろしくお願いします!応援してもらえると嬉しい!
〇特典情報
①メロンブックスさんの特典情報が公開されています!
SSブックカバーです!
メロンブックス
②BOOK☆WALKERで電子書籍を購入いただくと、短編が付いてきます!良かったら是非!
BOOK☆WALKER
③『転生程度で胸の穴は埋まらない4』発売記念フェアが開催されます!
下のリンク先の書店で4巻を購入すると、SSリーフレットが付きます!
また、1~4巻を購入すると「特製ヒロイン裏話しおり」が付いてきます!
(SSは4巻購入時だけ)(1~3巻の購入の場合は「しおりのみ」)
裏話はXで毎回更新してる感じのちょっとしたヤツですね……
対象店舗&詳細は↓のリンク先です!
発売記念フェア
他にも色んなサイトで予約が始まっているので、応援してくれると嬉しい!
下の公式サイトへのリンクから色んな購入サイトに飛べます!
四巻公式サイト
アマゾンさんも置いておきますね……
amazon