転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第28話 成長

 それは、コノエと黒鎧の天蓋竜との戦闘が始まる少し前のこと。

 聖女は、夢の壁を己の牙で破壊する天蓋竜を見ていた。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

「……これは」

 

 天蓋竜は、この世界を構成する壁に牙を突き立て、食い千切る。食い千切って、そして()()()。消滅の力で分解した力を、飲み込んでいく。つまり。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、聖女には分かった。

 天蓋竜が牙を突き立てる度に、天蓋竜から感じる力が増加している。

 

『■■■■!!』

「……なるほど」

 

 ……聖女は小さく頷く。

 劣化再現され、弱体化した力を、こうやって補うつもりなのか、と。魂を燃やし、強化するだけでなく、必ず何か奥の手を持っているとは思っていたが。

 

 夢の壁と、夢によって再現された竜。力の大本が同じであるが故に、取り込むこともできるのだろう。滅茶苦茶ではあるし、負担は極めて大きいだろうが。だってそれは、被造物たる天蓋竜による、創造主たる結界への反逆だ。

 ……ああ、そういえば、本物の天蓋竜も邪神に反逆したんだったか。

 

『■■■■■■■■!!!!』

「……ふむ」

 

 聖女は、斬撃を放つ。というより、ずっと放っていた。妨害のためだ。双剣で。魔道具で作り出した巨剣で。

 けれど、天蓋竜はそれに構わず、喰らい続ける。無数の剣閃により傷だらけになりつつ、足掻き、致命的な一撃を転げまわりながら回避し、力を取り込み続けている。

 

 そして、取り込んだ力を喉の辺りに集中して──何かを生み出そうとしている。

 

「……そこまでの執着ですか」

 

 その生み出そうとしているものが何なのかを理解し、聖女は少し乾いた笑みを浮かべる。最初から最後までありえないほどの無茶。それこそ一瞬後には自壊してもおかしくない。

 天蓋竜は本当に己の身を惜しんでいないのだ。一瞬後に死ぬのなら、その一瞬に全てを燃やし尽くそうとしている。ただ一つの目的のために。

 

 それほどまでに、天蓋竜は目的──コノエに執着している。

 

(……これは、抑えるのは難しいですね。言葉の通り、()()()()押し通るつもりでしょう)

 

 聖女は、斬撃を放ち時間を稼ぎつつ、見る。

 天蓋竜の喉に集まっている力の形。それは、人と同じ大きさの、鎧の形をしていて──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『──コノエ!!!!』

「──!」

 

 そして、今。コノエは、黒鎧の天蓋竜と対峙していた。天蓋竜の喉より撃ち出され、突然飛来した鎧。巨大な竜と鎧に分裂し、襲い掛かってきた。

 

 彼方では聖女様相手に竜が暴れ回り、鎧がコノエに拳を打ち込んでくる。コノエは、襲い来る拳を捌きつつ、その尋常ならざる登場に目を見開く。

 抗固有魔法の力を練り上げ、マイコ、フランのために距離を取りながら、敵を見る。構えを取り、相対する。

 

 ……色々と驚くことが多いものの、今は戦闘中だ。冷静に、適切に。戦闘状態のコノエは、目の前の鎧を見据える。勝利し、生き残るために。

 

(──っ、消滅の力は、それほど強くない、か?)

 

 コノエは続けざまに飛んできた天蓋竜の蹴りを捌きつつ、伝わって来る力を感じ取る。

 そうだ。先ほど捌いた一撃もそうだったが、消滅の力はそれほど強くない。本物と戦ったときと比べるとかなり弱体化している。力を集中すれば、なんとか抗固有魔法で弾ける程度だった。

 

 ……だが、その一方で。

 

(──速いな。速くて、重い)

 

 技を以て捌いたはずなのに、たった数撃で手がびりびりと痺れるほどの衝撃。瞬きの間に数キロの距離を詰める加速。相変わらず凄まじい力だ。一合で、目の前の天蓋竜の身体能力が、本物とほぼ同じだと悟る。

 

 ──つまり。

 

(……まともに戦えば、轢き潰される!)

『──コノエェェ!!』

 

 天蓋竜が叫びと共に腕を薙ぎ、足を振り回す。突進し、全身でコノエを消し飛ばさんとする。人というよりも獣に近い動き。ただただ荒れ狂う嵐のような。

 圧倒的な身体能力で駆け、コノエの対応能力を上回らんとする。

 

「……っ」

 

 天蓋竜の突きでコノエの腕が貫かれる。蹴りで足が抉られる。

 薙ぎ払った力で神の鎧がいとも容易く切り裂かれていく。

 

 かつての戦いでも防戦一方を強いられた凄まじい速度。単純な速度では雷化したコノエを遥かに上回る。

 しかも、それに加えて、今回は……。

 

(──()()()()()()!)

 

 その瞬間、天蓋竜の拳から刃が現れる。消滅の力が作り出した刃。それだけでなく、足の周りで黒い力が渦を巻いている。

 ただ体に纏うだけではなく、刃状の消滅を生やしたり、竜巻状の消滅で攻撃範囲を広げている。

 

 ──力の使い方が、明らかに成長している。

 効果範囲を広げ、確実にこちらを削ろうとしていた。

 

 消滅の力は減っているが、前回より明らかに戦士として強く、戦い辛くなっていた。

 

『コノエ! どうだ! みろ!!』

「…………」

 

 叫びと共に、コントロールされた消滅の力が世界を切り裂き、液体のはずの海は平面を保てず形を歪める。

 天蓋竜は現状の己の力を理解し、その上でコノエを殺すために練り上げてきている。

 

 止まらない。高い身体能力を活かし、勢いのままにこちらを潰そうとする。

 態勢を整える時間を与えない、己の強みを押し付ける戦い方。

 

 その力は、もしかしたら()()()()()()()()()()数秒と持たず磨り潰されてしまったかもしれないほどには高まっていた。

 

「…………」

『コノ……っ!?』

 

 ──そうだ、かつてのコノエならば。

 

 コノエは、天蓋竜の意識の隙間を縫うように一歩足を踏み出す。天蓋竜が腕を大きく振りかぶり、周囲を薙ぎ払おうとしたときだった。

 一歩踏み出し──抗固有魔法を発動する。

 

 すると突如、()()()()()()()()()()()()

 足元が突然なくなったかのようにがくりと揺れて──

 

「……っ」

『──ぐ、ぅ!?』

 

 ──そこに、コノエの拳が突き刺さる。天蓋竜はぎりぎりで防御しつつも、大きく吹き飛ばされた。天蓋竜の目は驚愕に見開かれていた。

 直後、コノエが追撃に向かい、それを天蓋竜は全力で背後に跳んで回避する。海を滑るように離れていく。

 

『なん、だ?』

 

 天蓋竜は不思議そうに呟きつつ、しかし、止まりはしない。

 すぐに立て直し、また飛び掛かろうとして。

 

 ──今度は、腕を引かれるようにバランスを崩す。

 

「────」

『──ぐっ!』

 

 そこをコノエの蹴りが打ち抜き、天蓋竜はまた後ろに吹き飛ばされる。

 

 なにが起きたか。簡単だった。単純に、コノエが以前から練っていた天蓋竜対策を使っただけ。

 次に戦うことになったらどうするかと、繰り返していた鍛錬の成果を出しただけ。

 

 ──以前戦った強敵と、また戦うことになったらどうするか。

 そんな戦術研究の基本中の基本を、コノエは正しく行っていた。

 

 天蓋竜がバランスを崩したのは、コノエが抗固有魔法を使って天蓋竜の消滅の力を部分的に解除し、全身の力の均衡を崩した結果だった。

 

『──コノエ、おまえ』

「…………」

 

 抗固有魔法の応用。局所的な力の展開。

 かつて天蓋竜と戦ったときは使えず、しかし今は使える方法。

 

 抗固有魔法に目覚めたばかりの当時と鍛錬を積んだ今では、同じ魔法でも練度が全く違う。

 コノエは、天蓋竜討伐後も鍛錬を休まなかった。毎日槍を振るい、抗固有魔法を練り上げた。

 

『コノエ!』 

 

 天蓋竜が接近してくる。それに対し、またバランスを崩し、一撃を入れる。固有魔法を纏うタイプの敵には大体通用する力。

 不死の魔王戦で使えなかったのは、単純に教官の影が強すぎただけだ。技で完全に上回られていたから。

 

 ──コノエは、確かに今も成長し続けている。

 天蓋竜が成長しているのに、アデプトであるコノエが成長しないなど、ある訳がない。

 

『──ク、ハハ!』

「……!」

 

 天蓋竜との拳の応酬が続く。天蓋竜はなぜか楽しそうに笑いながら襲い掛かって来る。

 もちろん天蓋竜もやられるばかりではなく、バランスを崩されても身体能力で無理矢理直し、押し通そうとする。

 

 ──天蓋竜が嗤う。コノエは冷静に受けて立つ。

 海の上を高速で移動しつつ、戦いは続いていく。海を抉り、空間が割れる。雷鳴が轟き、黒い嵐が吹き荒れる。天蓋竜の攻撃の余波がコノエを削り、コノエの技による一撃が天蓋竜の力を削いでいく。

 

 決定打がないまま、戦いが続く。

 天蓋竜の力と、コノエの技。

 

 互いに相手よりも圧倒的に上回る強みがあるが故に、簡単には決着がつかない。 

 ただ、少しだけコノエが押しているように見えて──。

 

『コノエ! おまえはつよいな!』

(……これは、まずいな)

 

 だが、一方で。コノエは内心危惧していた。

 顔には出さないが、心の中で歯噛みする。

 

 対策をかなり練ってきたにもかかわらず、均衡状態に持ち込まれている事実。やはり天蓋竜の身体能力は圧倒的だ。時間がかかる。すぐに決着をつけることは出来ない。

 ……難しいところだった。本来、天蓋竜の力は不安定に揺れ、崩れ続けているために長期戦化はコノエに有利に働くが──。

 

『──ハハハ、ハハ! ハハハハハハ!』

 

 しかし、天蓋竜が嗤っている。同時に、力が高まっていく。

 崩れながらも、強くなっていく。己を燃やして、一秒ごとに。

 

 このまま強化されていったらどうなるかと思った──。

 

『──コノエ!!』

「……!」

 

 ──その瞬間だった。

 

 天蓋竜の腕で消滅の力が渦を巻く。同時に空間が軋むのが分かった。知らない技。この死闘の中で、天蓋竜は成長している。

 コノエは即座に対応する。本能的に、最も信じる技の形をとる。

 

『──おお!!』

 

 天蓋竜の拳の周囲の空間が崩れていく。空間が軋み──圧縮されていく。

 コノエは槍を作り、構える。抗固有魔法を一点に集中して。

 

『──おおおおぉぉぉおおお!!!!』

「────」

 

 そのとき、天蓋竜の拳がコマ送りのように跳ぶ。理解する。()()()()()()のだと。消滅の応用。空間を超越し、刹那の間にコノエに迫る。

 それにコノエは、何千、何万と繰り返した構えで応じる。何よりも信じる最速の技。

 

(──一の槍)

 

 ──轟音が響いた。拳と槍の中心から衝撃が広がり、空間が捲れ上がる。

 ──双方の攻撃の余波によって、コノエと天蓋竜は共に吹き飛ばされた。

 

 ◆

 

「…………」

 

 そして、コノエは激突した地点から数キロは離れた場所に着地する。どうやら激突は双方痛み分けに終わったようだ。

 すぐに追撃に来るだろう、天蓋竜の気配を探って……。

 

「…………?」

 

 そこで気付く。天蓋竜が、なぜか遠い場所で力を振るい始める。

 追撃どころか、むしろ遠ざかっていく気配があった。

 

 どういうことかと……。

 

「──ぬ、コノエ」

「……マイコ」

 

 首を傾げた瞬間、知っている声が聞こえてくる。

 マイコがコノエの傍に近づいてきていた。

 

 もしかしたらこれは、マイコが何かしたのかと思い。

 

「ぬ、そう。私が攪乱してる」

 

 マイコは、今の天蓋竜は目と耳が開いてるから、と言う。

 原始魔法でコノエの偽物を作って攪乱しているの、と。

 

 ……たしかに前回も、黒鎧になった後は光と音が通用していたな、とコノエは思い。

 

「ぬ、それでね、コノエ。……実は一つ、提案があるの」

「……うん?」

「少し考えたんだけど、天蓋竜を簡単に倒せる方法があるかもしれない」

「……なに?」

 

 コノエが驚くと、マイコはニッコリと笑う。

 とてもいい考えがある、と言わんばかりに。

 

「ぬ、あのね、私が今まで作った固有魔法の中に、今の天蓋竜に特に有効なものがあるの。天蓋竜は光と音に慣れてないから」

「……え?」

「……あんまり思い出してほしくないけど、ほら、私がコノエと戦ったときの」

 

 ……マイコと戦ったとき?

 ……それは、たしか……?

 

 コノエは思い出す。当時マイコが使っていた固有魔法は。

 

固有魔法(オリジン)──()()()()()()()()()()()()()()()()()()星』

 

 ──幻覚と幻聴を作り出す固有魔法だった、ような。

 ……確かに、あれなら効果があるのかもしれない。

 

 なるほど、とコノエはマイコの顔を見て……。

 

「…………?」

 

 そこで、コノエはマイコの表情に、直感的に何か違和感を覚える。

 ……なにかが間違っているような、そんな気がした。

 

 マイコはとても嬉しそうにニコニコと笑っているのに、なぜか。

 そして思い出す。

 

 つい先ほど、戦いの前に、マイコは。

 

『──私の恐怖。何よりも恐ろしいもの。それは……』

 

 ……そうだ、コノエが聞いたそれは。

 

「……マイコ?」

「──ぬ、コノエ、お願い。私に任せて?」




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