転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
後日談:メルミナ①
それは、コノエが聖国から帰って来た日のこと。
コノエは、転移門を潜った後、早速約束を果たすために神様の元を訪れていた。
──出発前に神様と決めたこと。
必ず帰って来て、中庭でお土産を一緒に食べると約束したように。
【お帰りなさい、コノエ。今回も大変だったね】
「……はい、ただいま戻りました。大変でした」
神様に迎えてもらって、挨拶をして。
二人して部屋を出て、階段を下りた。
そうして、春の風が吹く中庭を歩き、かつてと同じベンチに座る。
【まさか、デーモンが魔王を爆発させるなんてね。邪神の遺産の可能性は以前から言われていたけれど……今回のは予想してなかったよ】
「……はい。まだまだ油断は出来ないということかと」
最初は堅い話──神様とアデプトの話から始まり、お褒めの言葉を頂いたり、謙遜を返したりした。また、聖国の雰囲気を話したり、逆に神国の話を聞かせて貰ったりも。
各国の神様方の様子や意見、マイコやフランの立場などについて話をして。
しばしの真剣な話があった。そして、その後……。
【そういえば、聖国のお祭りはどうだった? 】
【その、あなたが聖国に誘われたとき、少し大人げない姿を見せちゃったかな。ごめんね。……あなたが居なくなると思ったら、悲しくなっちゃって】
必要なことを話した後は、少し雰囲気も緩んで、雑談になる。向こうの祭りの様子を話して、食べたものの感想を言った。
また、申し訳なさそうに悲しくなったと言う神様の言葉に、頭を掻いて。……少し間を空けて、改めて「……僕の神様は、今目の前にいる神様です」と伝えたりもした。
コノエは気恥ずかしくて、宙に目を彷徨わせる。隣ではえへへと笑う声がした。
落ち着かない数分の沈黙があって、ふと視線を向けると、真っ赤な瞳と重なって。また目を逸らして、落ち着かない感じになった。
……そんなことを数分ほど続けた後。
【……そ、そろそろお土産を食べようか!】
「……そ、そうですね」
お菓子を広げて、かつて百年前と同じように、二人で時間を過ごす。
ようやく落ち着いた雰囲気で、何気ない話を重ねた。
【…………】
「…………」
言葉が途切れたら、ただ隣でお茶を飲んで。
日が頂点にあるくらいから、日が半分傾くくらいまで、一緒にいて──。
◆
そんな神様とのお茶会から、太陽が沈んで、昇って。また太陽が沈んで、昇って。
途中テルネリカが帰ってきて、一緒に打ち上げをしたりしつつ、三日が過ぎた頃。
「……それにしても、この前は神様に聞けなかったな」
コノエは、屋敷の最上階にある自室で、ふと呟いた。
手元でナイフ生成の魔道具を──夢の中で使うという謎の事態が起きたので、点検も兼ねて──磨きながら。
何を聞けなかったのかといえば……。
「……聖国の神様が言ってたこと、確認するつもりだったんだけど」
──よいですか? これは神託なのです
──アデプト、コノエ。汝、もう少し女性との距離感を考えた方がいいと思うのですよ……?
それは、聖国から帰って来る直前の話。最後の挨拶をしに行ったら、聖国の神様からそう言われた。神託。心して聞けとも。あと、マイコにも即座に頷かれた。
コノエは、その件について聖国から帰ってきてずっと悩んでいて、神国の神様にも確認できたらと思っていた。
……けれど、中庭のお茶会では、聞けなかった。というか、あの時は聖国の神様に言われて時間が経っていなかったから、コノエ自身、感情の整理が出来ていなかった。
しかし、あれから三日。流石に整理も終わっている。
「…………はぁ」
コノエは、声に出して大きくため息をつく。
実を言うと、かなりショックを受けていた。
──女性との距離感。もっと考えろ。近すぎる。
そんなことを言われるなんて、今までの人生で一度も考えたことがなかった。コミュ障の自分がまさかと思った。正直信じたくない。
……けれど、聖国の神様が言った以上、真実なのだろう。それが、目の前にある現実だった。
「……僕は、これからどうすればいいのかな」
困りすぎて独り言が多くなりつつ、コノエは悩む。
注意された以上は、直さなければならない。
しかし、どうすればいいのかよく分からなくて……。
「……誰かに相談したいな」
そう思った。現状確認と、改善案を考えるために。
……誰に相談するべきだろうか?
真剣に話を聞いてくれると信じられる人で、普段の自分の行動を良く知っている人でなければならない。その上で、言葉を濁さず、駄目なことは駄目と忌憚のない意見をくれる人。
「………………」
コノエの脳裏に、幾つかの人影が浮かぶ。その中で、相談しても迷惑をかけない――忙しすぎたり、疲れすぎたりしていない――のは、と……。
「……うん?」
そこで、コノエは気付く。門を潜り、屋敷に近づいてくる気配があった。
近くの窓を覗き込むと、赤い姿が見えて――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──一方その頃。メルミナは。
少し落ち着かない気分になりながら、屋敷の入口の扉を開いていた。広い玄関ホールに入って、魔道具の認証を通り抜けて。使用人に挨拶しつつ、中に入る。
「…………」
遠征訓練から帰ってきて二日目。その日のメルミナは、コノエの屋敷に来ていた。
コノエに会って、確認するために。
──それは、遠征訓練前の、ちょっとした話だ。
『遠征訓練が過酷なのは知ってるでしょ?』
『毎回毎回、とても残酷なことになるの』
『戦ってる途中、とんでもない姿になることも珍しくないの』
『そう、ありていに言うと──』
『『──百年の恋も冷めそうな姿になる可能性がある』』
コレットとエレニカが姉のノエルに言っていたこと。
訓練生時代の惨状と、その姿をコノエに見られていた過去。
もちろんコノエに見られたのと同じくらい、メルミナはコノエの惨状を見ているのでお互いさまではあるし、無事恋人になった今となっては、気にするだけ無駄だろう。そうだ。無駄なのだ。それは分かっている。
……しかし、こう、乙女心が。なんというか。
……冷めてないよね?
(まあ、絶対大丈夫だけどね。一応ね)
メルミナは胸の奥で渦巻く感情を自覚しつつ、歩を進める。
……絶対大丈夫なのだ。絶対だ。冷めてるわけない。
「…………」
…………
…………
…………
……そういえば、思い出してみれば。最初の頃、酷い怪我の後、露骨にコノエが目を逸らしていたことがあった気はするけれど。
でもそれは、お互い怪我に慣れてなかった時代だし。自分も逸らしてたかもしれないし。
「………………」
絶対大丈夫だけどね、と。何度目かに考えながら、階段の途中で立ち止まり、上を見る。
その先の最上階には、コノエの部屋があった。
メルミナはそこで、何度か大きく深呼吸をして……。
「……」
……少し、思う。深呼吸して、冷静になったからか。
自分がこんなにモヤモヤとしている理由について考える。
「…………ん」
……いや、正直に言うと。
ついさっきまでグダグダと考えておいてなんだが。
実は、本当に竜人姉妹の言葉を不安に思う必要は無いのだ。
だって、メルミナはコノエのことを知っている。長い時間を共に過ごして、互いのことを知って、告白して、恋人になった。
知っている。コノエは十年以上前のことを思い出して冷めたりするような人間じゃない。
そうだ。メルミナはコノエのことを信じている。
……その、大好きな、恋人のことを、信じているから。
「……………………」
……でも、だからこそ分からない。
どうして自分は今、こんなにモヤモヤしているのか。自分で自分のことが分からない。
一つだけ分かるのは、竜人の双子の言葉はきっかけでしかなかった、ということだけだ。このモヤモヤはきっと、以前から積もり積もったものであって……。
「…………ふぅ」
ともあれ。メルミナは小さく息を吐く。ここでうだうだと考えていても分からない。モヤモヤに向き合うためにも、コノエに会おう、と。そう思った。
……あと、まあ一応、信じてはいるけれど冷めてないか確認しておきたくはあるし。
……絶対絶対大丈夫だと知ってはいるけれど。あくまでも一応。
だから、メルミナは立ち止まっていた足をまた動かし始める。階段を上って、最上階に着く。そして、廊下の最奥の部屋に近づいていくと。
――メルミナが扉にたどり着く、その数歩前。ふと、その扉が開いた。
「……メルミナ」
「……コノエ」
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