転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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後日談:メルミナ③

 ――そして、数十分後。パイが完成して、コノエは食卓へと運んだ。

 ナイフで切って、微妙に赤面しているメルミナと二人で口に運ぶ。

 

 ゆっくりと食べて、食べ終わった後にはまたお茶を淹れて、飲んで。

 満たされているのを感じながら、二人で会話をした。

 

 話の内容は、主にメルミナの遠征訓練での話について。

 どうやら今回も、例年通り苛烈な訓練だったようだ。全員が地獄を見て泣いていたのだとか。……やっぱり一日で終わらせたマイコが異常なんだよなと思いつつ。

 

「……それでね、訓練前に竜人の双子たちが言ってたの。訓練が厳しすぎて、百年の恋も冷めるような姿になるって」

「……ああ。まあ、確かに」

 

 コノエは苦笑しながら頷く。それは、その通りだ。

 コノエ自身毎年毎年酷いことになっていた。具体的に言えば、日本ならグロテスクすぎて年齢制限がかかりそうな感じで……

 

「……それでね、一応確認だけど」

「……?」

 

 と、そこでメルミナが少し声のトーンを落とす。

 なんだろうと思っていると。

 

「あなたも私も、互いに互いの酷い姿を見てるじゃない?」

「……ああ」

「だからほら、あなたも、私に、その………………冷めたり、とか――」

「――それは、ないよ」

 

 え、と。そう呟くメルミナに、コノエはありえない、と断言する。

 そんなこと、あるはずがない。だって――。

 

「――そんなことも含めて、僕は君のことを好きになったんだから」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 それは、天蓋竜との戦いの後の話。

 神都に帰って来て、少し落ち着いたころ、コノエはメルミナに呼び出された。

 

『コノエ、好きよ。私の恋人になって』

『――――』

 

 あっさりとした口調とは裏腹に真っ赤な顔をしたメルミナは、そう言った。

 そして、ずっと一緒にいたから好きになったの、と。

 

 十五年間。訓練生として、ずっと一緒にいたから。

 メルミナは言った。傍に居て、共に戦って、歩いて、一緒に食事をしたから好きだ、と。恋人になって、これからもずっと一緒に居たい、と。

 

『………………』

 

 それにコノエも考えて。思い出して。

 そして、あの日伝えたのは――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「――メルミナ、僕も、君とずっと一緒に居たから、好きだよ」

 

 ――そうだ。半年前、コノエはそう言った。

 当時メルミナに伝えたことを、今、もう一度コノエはメルミナに伝える。

 

 ずっと一緒にいたんだ。あの頃はその事実をきちんと受け止めることが出来なかったけれど、色々あって少しだけ成長できた今の自分は、違う。

 二人で歩いて、食事をして、共に戦った。二人で足を引きずって歩いて、悩んで、地獄を見た。

 

 当然、良いことばかりじゃなかった。苦しいことの方が多かった。迷惑をかけて、逆にかけられて。言葉にするのが難しいくらい、色んな事があった。

 コノエは、メルミナの良い所をたくさん知っている。悪い所も、たくさん知っている。逆もまた然りだろう。

 

 知って、知られて。そんな十五年があったから、コノエはメルミナのことが好きになった。

 つまり、メルミナの告白の言葉と一緒だった。

 

「……そっか」

「……ああ」

 

 なので、そんな色々を説明して。するとメルミナの顔がまた真っ赤に染まっている。

 

 少し照れくさいことを言ったかな、と思った。

 けれど、それが紛れもないコノエの本心だったから。

 

 ……そして、そのまま数十秒ほどの沈黙があって。

 

「……ん、わかったわ。じゃあ、私はこれで終わりね」

「……え?」

「私の用事――確認したかったことは、もう大丈夫よ。次はあなたの番ね。……確か、私に相談したいことがあるんだったかしら?」

 

 どんな相談なの、とメルミナが問いかける。

 コノエは、ええと、と突然変わった話題に困惑しつつ。

 

 しかし、頭の中を整理して、考える。

 相談したいこと。メルミナに。それはつまり、聖国に神様に告げられた神託のことであって。

 

「……ええと、だな」

「ええ、なに?」

 

 コノエは、やっぱり少し言い辛いよな、と思う。

 というか、旅行先で神様に【女性との距離を考えろ】って注意されるの、なんだか現地でとんでもない女性関係のトラブルをやらかしたみたいだし。

 

 しかし、注意された以上逃げるわけにはいかないし、メルミナならきちんと説明すれば誤解しないと信じられるので、覚悟を決めて口を開き――。

 

 ◆

 

 ――そして、数分後。一通り説明が終わった頃。

 

「……なるほどね。聖国の神様が女性との距離感を気をつけろと」

「……ああ」

 

 コノエが問いかけると、メルミナは少し困った顔になる。

 そして、顎に手を当てて少し考えて……。

 

「まあ、そうね。確かに問題がある……というより、そろそろ気を付けて欲しくはあるわね」

「……! そ、そう、か」

 

 メルミナの答えは、それだった。コノエは、目を泳がせる。覚悟していたがメルミナにも気をつけろと言われてしまった。やっぱり駄目なのか。分かっていたことではあるが、辛い。

 

「……でも、あのね、あなたが別に間違ってるわけじゃないの」

「……え?」

「あなたが女性との距離を縮めるのは、いつも困っている人を助けた結果だもの」

 

 メルミナは、苦笑しながらそう言った。そして、私も助けられた一人だしね、と続ける。

 あなたはいつも当たり前のように人を助けて、その結果が返って来ているだけだから、と

 

 コノエはそんなメルミナに、何度か瞬きして。

 

「だから、間違っている、とは私からは言えないわ。ただ、あなたの恋人として、これ以上周囲に女が増えるのは嫌だから、そこは気を付けては欲しいけれど」

「……そう、なのか」

 

 コノエは、メルミナの言葉を頭の中で咀嚼する。

 つまり、気を付ければいいのかと思った。

 

 ……気を付ける……気を付ける。

 

「…………」

 

 ……具体的にどうやって?

 

「まあ、突然言われても分からないわよね?」

「…………む」

「仕方ないわ。あなた、それでなくても人間関係は苦手分野だし」

 

 困っていると、メルミナがまた苦笑しながら助け舟を出してくれる。

 そうして彼女は、少し悩むような顔をして。

 

「……そうね。一つ、いい考えがあるの。前々から考えていたことではあるんだけど、さっきの話で決心がついたわ。……あと、ちょっと反省したし」

「……反省?」

「こっちの話よ。……私も、もう少し素直にならないとね」

「……?」

 

 分からないコノエを他所に、メルミナは「実は」と話し始める。

 一から順番に話すけれど、と。

 

「近いうちに、私の商会の体制を大規模に再編しようと思っているの」

「……再編?」

「ええ、うちもかなり大きくなってきて、今の体制のままだと無理が出てきたから。……正直、現状だと私に権限が集まりすぎなのよね。ほら、私の机、書類がすごいことになってるでしょ?」

 

 言われてコノエは思い出す。

 確かにいつも山積みだった。

 

「管理職をもっと増やして、権限を下ろそうと思っているのよ。もちろん、急な改革が原因で不正の温床が生まれないように注意する必要はあるけれどね」

「……ふむ」

「だって、現状のままだと無駄が多すぎるもの。そもそも、商会の最高戦力であり、現場で特に役立つ権能を持つ私が書類仕事ばかりしてるの、明らかに無駄でしょう?」

 

 ……それはまあ、そうだ。コノエも少し思ってはいた。メルミナ程の力の持ち主がずっと神都に籠っているのはもったいないなと。

 

「だから、大規模再編する。少なくとも、私が数十日いなくなってもなんとかなるくらいにはね。そして――今より自由に動けるようになったら、あなたにもっと付き合えるようになるわ」

「……え?」

「私が一緒に居て、あなたの手伝いをしてあげる。女性との距離感についても、私が傍に居て教えてあげるわ」

 

 ね、いい考えでしょ、と。メルミナは言う。

 そして……。

 

「――それにほら、いつか言ったでしょう? あなたは、私をどこにだって連れて行ってもいいって」

「…………」

 

 コノエはそんなメルミナに何度か瞬きして……少し微笑む。

 そうだ。教官が子供になったときか。確かにメルミナがそう言ってくれたことがあった。

 

「……それは、嬉しくて、頼もしいな」

「でしょう?」

 

 安堵し、息を吐く。メルミナが一緒に居てくれるのなら、心配はいらないだろう。

 今の自分には、隣にいて、助けてくれる人がいる。それを改めて理解する。

 

「……僕は、幸せ者だな」

 

 コノエは、かつては持っていなかった、その幸福を嚙みしめて――。

 

 ◆

 

 ――そして、話の後、その場はお開きになる。

 食器を片付けて、コノエは仕事に戻ると言うメルミナを商会まで送ることにした。

 

 屋敷を出て、なんてことのない話をしながら一緒に歩き……。

 

「……ああ、あと、コノエ」

「……うん?」

「私、少しだけ素直になるわ」

 

 その途中、ふとメルミナが呟く。

 何気ないことを言うような口調だった。

 

「さっき、あなたは私をどこにでも連れて行っていいって言ったけど」

「……ああ」

「それ、別に仕事だけじゃないから」

「……?」

 

 ……仕事だけじゃない?

 コノエが首を傾げると……。

 

「……別に、もっとデートとかに連れて行ってくれても、いいのよ?」

「――――」

 

 驚き、見る。するとメルミナはそっぽを向いていた。

 ……けれど、耳と首筋が真っ赤になっているのが見えて。

 

「……ええと」

「…………」

 

 コノエは、頭の中で先ほどの言葉を反芻する。

 ぐるぐると頭の中で回して、そして……。

 

「……あ、ああ、わかった」

「……ん」

 

 頷いて返すと、メルミナからは小さな声。

 そっぽを向いたままの耳は、ずっと真っ赤なままで。

 

「…………」

「…………」

 

 そのまま二人は、無言のまま歩いていく。賑やかな繁華街の中を、静かな二人が歩いていく。

 メルミナの商会に着くまで、どちらも言葉を話さなくて――。

 

 ――けれど、言葉は無くても。

 いつのまにか、自然と。歩く二人の間を、掌が繋いでいた。

 




これでメルミナ編は終わりです。
来週は……短編が完成したらサポーター先行短編を投稿します。出来なかったら二週間後ですね……。

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フォニアのてこ入れしてますので、応援してもらえると嬉しい!

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