転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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カクヨムのサポーターでしばらく前に投稿したものです。
時間軸は後日談マイコの直後です。
短編:遠征訓練の朝 の後の話ですね。

(※現在カクヨムサポーターにギフトのお礼として短編を先行公開しています。先行公開です。今回の短編のように、一定期間後に全て本編か活動報告で全体公開します。なのでサポーターにならなければ読めない短編はありません)


短編:魔法休暇

 その日、コノエが三人組と遭遇したのは、学舎の訓練場を借りての鍛錬を終えた帰り道のことだった。

 夕暮れ時の学舎玄関に、緑の人影が二つと、銀の人影が一つあった。

 

「おやコノエ、今から帰り?」

「あ、コノエ様!」

「お久しぶりです」

「……あ、はい。帰りです。訓練場、ありがとうございました。二人も、久しぶり」

 

 教官と、緑の竜人姉妹コレットとエレニカ。声をかけられたので、コノエは言葉を返しつつ三人に近づく。

 少し珍しい三人組だと思った。訓練生と教官という間柄とはいえ、あまり一緒にいるところを見ない組み合わせだ。

 

「……?」

 

 と、そこでコノエは気付く。コレットとエレニカの足元に、大きな鞄が二つ置かれている。学舎の備品だ。空間魔法で内部が拡張されている魔道具の鞄。

 コノエも使ったことがあるが、相当の荷物が入る魔道具で、小さい部屋くらいの容積があるヤツだった。

 

 コレットとエレニカはそんな鞄を持って学舎の玄関に立っている。これは、相当の長期訓練にでも向かうのかとコノエは思い。

 

「コノエ様、実はこの度、私たちは」

「魔法休暇を貰うことになったんです」

「……ああ、なるほど」

 

 そこで、二人から言葉が飛んで来て、コノエは納得する。

 なるほど、魔法休暇かと。ちらりと教官の方を見ると「先日の遠征訓練で、二人共最低ラインを超えたからね」と笑っていた。

 

 ――魔法休暇。

 

 それが何かといえば、固有魔法覚醒のために貰える休暇のことだ。

 アデプトの訓練生の中で、固有魔法に目覚めていない者が、己自身と向き合うために与えられるもの。

 

 そもそもの話をすれば、固有魔法とは強力だが難しい力だ。

 ただ素質があるだけでは習得できない。魂が強いだけでは駄目だ。渇望が要る。愛、執着、欲。世界を捻じ曲げるに足る、何よりも強い願いが。

 

 ――己の存在そのものと言えるようなナニカ。

 一人の人間が、何を想い、何を見て、何を大切にするか。己自身と向き合った先にこそ、力は魂に刻まれる。

 

 もちろん、戦いの中、窮地で目覚めることもあるし、向き合うまでもなく大切なものを知っている者もいるが――というより、実際はそちらの方が圧倒的に多数派だが――そうでない者が固有魔法に覚醒するためには、ゆっくりと己を知る時間が必要だ。

 

 その時間を貰うためにある制度が、魔法休暇だった。一定以上の力量を持ちつつ、しかし固有魔法に目覚めていない候補生のための制度。

 実を言うと、コノエも十年前に経験があった。数十日ほど休みをもらって己と向き合った記憶がある。

 

 ――まあつまり、今回そういう理由で、固有魔法を持たないコレットとエレニカがしばしの休みを貰うことになった、ということだった。

 

「私たちは熾天結界継承のため、固有魔法に目覚めないようにしていましたから」

「あまり、己の欲望と向き合わないよう心掛けていたんです」

「……君たち二人は、そうだろうな」

 

 コレットとエレニカの言葉に、コノエは事情を思い出しつつ頷く。不死の魔王と、その封印。アーキノルカが続けてきた、千年の継承。

 ……彼女たちは人類のために、多くのものを犠牲にしてきた。 

 

「なので、一度アーキノルカに帰省して、ゆっくりと考えてみようかと思っていまして」

「偶然ではありますが、アーキノルカは今ちょうど雪解けの時期でして。世界が色づいていく、一番綺麗な季節なんです」

 

 楽しみです、と笑う二人に、コノエは少し目を細める。

 楽しんで欲しい、と思った。失ってきたものを少しでも取り戻すことが出来ればと……。

 

「ところで、コノエ様、参考までに、ではあるのですが」

「一つ伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「……え? あ、ああ」

 

 と、そこで二人から問いかけられる。

 なんだろうと思いつつ頷くと。

 

「コノエ様も以前、魔法休暇の経験があると教官から教えて頂いたのですが」

「コノエ様はそのとき何を?」

 

 ――自分が、魔法休暇のとき?

 

「あれ、そういえば私も知らないな。学舎から出ずに部屋に籠ってるって報告を受けた気がするけど。……君、何してたの?」

「……え、教官」

 

 そこで、横から教官の声も飛んで来る。

 それにコノエは、当時を振り返った。

 

「…………」

 

 コノエは、考える。当時のことを。

 

 十年前の記憶。

 自分は部屋の中で一人何をしていたか

 

「………………………………」

 

 振り返って、脳裏に浮かべて。

 かつての記憶を思い出して。

 

 ……そして、その記憶を元に、色々と考えて。

 

「……ええと」

「うん」

「…………ひ」

「うん」

「………………秘密に、させてください」

「……え?」

 

 コノエは、教官から目を逸らす。顔を背けて、周囲をきょろきょろと見た後に、「あ、そういえば」と棒読みで呟いて、三人に背を向けた。

 そのまま、教官の視線から逃れるようにその場を去って行き……。

 

 ◆

 

「…………言えるわけないだろう」

 

 その、数十秒後。コノエは、学舎の前庭を小走りで進みながら、ぽつりとつぶやく。

 言えるはずが無かった。特に教官の前では。

 

 なにせ、当時のコノエがしていたことと言えば……。

 

(……休みをもらった数十日、ずっと『銀灯英雄伝説』を読んでたなんて、言えるはずがない)

 

 ――銀灯英雄伝説。教官の千年の伝説を綴った英雄譚。全二百冊以上。現在も数年に一冊新刊が出ている。

 それは、他の何よりも輝いている、コノエにとっての星の物語だ。憧れて、だから読み込んでいた。それが己の固有魔法に繋がるのだと思っていたから。

 

 そうだ。当時――十年前のコノエは、憧れを己の魔法にしたいと本気で願っていた。己が固有魔法に覚醒できないのは、憧れが渇望に届いていないからだと信じていた。

 ……まあ、固有魔法に目覚めた今となっては、魂が欠けていたから覚醒できなかったのだと知っているが。でも、当時のコノエにはそれが分からなかったから。

 

 だから部屋に籠って、本を読みながらただただ想像していて……。

 

「…………っ」

 

 コノエは、自室で行っていたイメージ修行――といえば聞こえはいいが、要するに妄想を思い出して、少し赤面する。

 時間停止や、それが無理なら時空制御による加速をと夢見ていた。

 

 そんなのを、他ならぬ教官に言えるはずがない。というか、思い出しただけで死ぬほど恥ずかしくなってくる。思い出したくなかった。

 ……こちとら、薄暗い部屋の中で延々と時間停止する自分を妄想してたんだぞ。

 

「……ああ、もう」

 

 そういう訳で、コノエは髪をガシガシとかき混ぜながら、逃げるように学舎から家へと走り去っていき――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――そうして。一方、残された学舎では。

 去って行くコノエの背中を、三対の瞳が見ていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ――その、ほんの数分程度のやり取りが、後の幾つかの事態に繋がっていくことは、このときのコノエには知る由もなかった。




この後フォニア編に続いていきます。多分。
次の更新は未定です。まだ構想が出来てないので、ちょっと時間を貰うことになりますが、作者に不幸がない限り必ず書きますのでお待ちいただければと……。
多分来月中には再開できる……はず。

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