転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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本日よりコミカライズの連載が開始したので記念短編を更新します。
担当の尾玉先生が最終試験の相手を描いてくださったのでそこから広げました。

多分全三、四話になるかと。月水金で更新予定です。
フォニア編はもう少し待ってくださいね……書籍とwebで違うのが悩みどころでして……。


コミカライズ記念短編:アデプト最終試験①

 ふと手の中の槍を見て、これを使うのも久しぶりだな、とコノエは思った。

 白を基調としたデザインの槍だ。刃と柄が金属で作られている、アデプトの学舎で使われている槍。造りは良く、頑丈ではあるが、しかし普通の槍であると言えるだろう。

 

 普段使っている神威武装の十字槍とは違い、コノエはもう数年は使っていなかった。

 しかし、それを今、コノエがなぜ握っているのかと言えば──。

 

(──最終試験、か)

 

 ──本日、間もなく行われるアデプト最終試験の為だった。

 コノエがアデプトになれるかどうかを決める最終試験。

 

 ……つまり、この二十五年の結果が出る時が、もう目前まで迫ってきていた。

 

「…………」

 

 コノエは俯いていた顔を上げる。今いる部屋、控室の窓を見た。

 透明なガラスの向こうには円形の広場があって、広場を取り囲むように空っぽの観客席がある。コノエの知識の中から言葉を絞り出すのなら、古代ヨーロッパの闘技場が少し似ているだろうか。

 

 日の光が届かない、松明の灯りに照らされた地下闘技場。

 それはもちろん、アデプトの最終試験に使われる会場である以上、当然普通の闘技場ではない。

 

 ──そこは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここでは過去に発生した魔物を一時的に再現することが出来る。人類を脅かした災厄と同じ記憶、同じ固有魔法を持った存在を。

 そして、そんな施設で最終試験を行うということは、災厄級の魔物の討伐こそが、最終試験の内容だということだった。

 

「……」

 

 ……いやまあ、とは言っても、災厄の完全再現は不可能なので弱体化した災厄にはなるけれど。

 

 コノエが今、神威武装ではなく普通の槍を持っているのもそのためだった。

 普通の槍は、ハンデだ。弱体化した災厄と対等に戦うために、アデプト候補生はそれぞれ異なるハンデが課せられることになっている。

 

 それで、コノエは教官から神威武装の使用禁止を言い渡されていて……。

 

「…………」

 

 と、そこまでつらつらと今の状況を思い出しつつ。コノエは小さく息を吐く。

 少し、平常心から外れている自覚があった。だから、こんなことを延々と思い出している。緊張しているわけではないが、落ち着かないような感じがあった。

 

 でも当然だろう。だってコノエは、この日のために二十五年間努力してきた。今日を乗り越えて、アデプトになるために。

 そうだ。アデプトになって、そして……。

 

「………………」

 

 コノエは、足元を見る。足元を見て、思い出す。

 己の目的──惚れ薬奴隷ハーレムを。

 

 奴隷を買って、無理矢理惚れ薬を飲ませて、自分のことを好きにさせる。そうすれば、もう自分は一人じゃない。誰かの一番になれる。

 

 きっと、かつての願いが叶う。今度こそ、誰かと一緒に生きる。

 もう二度と、あの病室のようなことには……。

 

「………………………………」

 

 目を瞑ると浮かび上がってくる光景。真っ白な病室。一人ぼっちの最期。二十五年経った今でも、薄れない記憶。

 もうアレは嫌だ。コノエはアレだけは嫌だった。せめて誰かに手を握っていて欲しかった。

 

 ……そのためなら。

 

「………………………………………………」

 

 ……でも、本当にそれで。

 ……いや、今更だ。今更だった。自分みたいな人間に、これ以外の方法なんてない。

 

 だから、コノエは、ただただ足元を見る。

 控室の中には、時計の針の音だけが響いていて……。

 

 ……

 ……

 ……

 

 ……そうして、どれくらい時間が経っただろうか。

 

「コノエ、時間だよ」

「……はい」

 

 教官が呼びに来て、部屋を出る。

 少し重い足取りで、コノエは会場への廊下を歩いていく

 

 ……向かう途中、神様が会いにきてくれて、翼をバサバサさせながら周囲をぐるぐる回り、頑張れ頑張れしてくれた。

 嬉しかったけれど、嬉しかったからこそ、少し自己嫌悪が湧き上がってきて──。

 

 ◆

 

「────」

 

 ──しかし、たとえどんな悩みを抱えていようと。戦闘になれば冷静になるのがアデプト候補生、引いては教官の教え子だった。

 

 コノエは既に撃鉄が落ち、冷めた頭で見る。

 闘技場に入ると、既に敵は再現されていた。

 

(……デーモン型か)

 

 目の前にいるのは、身長数メートルほどの体と、捻じれた角、そして背中に羽がある魔物だ。日本人が想像する悪魔に少し近い姿と言えるかもしれない。

 

 おそらくはデーモンが成長した結果、災厄に至った個体だろう。デーモンは最上級の魔物ではあるが、個体差が特に大きい魔物でもある。そのため、時に災厄に至る個体もいた。

 ……少し、厄介だった。デーモンは頭がいいので、固有魔法が複雑になりやすいからだ。

 

 コノエは目を細めつつ、デーモンに相対し、槍を構えた。

 そうして、何か戦いのヒントになるものはないか観察する。

 

「………………」

『………………』

 

 数十秒ほどの、試験開始の合図が鳴る前の静かな時間がった。

 ……相手が災厄である以上、軽率に飛び込むのは危険だろう、とコノエは思う。カウンター系の可能性もある。初手は譲るべきだ。

 

 ちなみに、余談ではあるが、デーモンの災厄は過去の再現体ではあるが、コノエはその固有魔法を知らない。

 最終試験で戦う災厄は記録の中からランダムに選ばれる上、仮に知っていたとしても、その災厄の固有魔法については、事前に記憶を封印されるからだ。これは試験中のアデプト候補生の対応力を見るためだった。

 

「………………」

『………………』

 

 ……一秒、また一秒と過ぎていく。強化された頭脳は、認知上の時の流れを加速度的に緩やかにしていく。一秒は二秒になり、二秒は十秒になる。そして十秒が百秒になった──。

 

「────!」

 

 ──その瞬間。闘技場にゴン、という鐘の音が響く。

 開始の合図。コノエは全身に雷を纏い、デーモンもまた動き始めた。

 

『──固有魔法』

 

 デーモンの初手は、固有魔法の起動。全身から力が放たれ、世界を汚染していく。

 

 人とは違う瞳とコノエの瞳が重なる。

 デーモンの力が世界を侵し、意志の力が世界と重なり、混ざり、破壊していく。

 

 ──ぐにゃり、と景色が歪む。

 光の歪みか。いいや、空間の歪みだ。光だけでなく空間の基盤ごと歪んでいる。つまり、敵の力は空間系かとコノエは思い。

 

(────違う!)

 

 そこでコノエは気付く。ざわりと背筋を悪寒が撫でる。

 空間じゃない。これはもっと違うものだ。コノエの全身を、浮遊感が包み込む。地の上に立っているのに、落ちていくような感覚。

 

 現実と世界の境界を捻じ曲げるようなこの感覚には覚えがあった。これは──。

 

(────異界型か!)

 

 マズい。マズかった。だからコノエは全力で踏み込む。

 地面を踏み砕き、瞬時に加速したコノエは、その焦燥のままにデーモンへと駆け、槍を振りかぶる。あと十メートル、五メートル、三、二、一。

 

(────!!)

 

 しかし、間に合わない。世界の浸食は臨界を迎え、壊れていく。

 コノエは歪みの中に飲み込まれていく。同時に、目の前にいたデーモンの気配が彼方へと消えていき──。

 

 ◆

 

「──っ!」

 

 そうして、コノエは気付けば空に立っていた。周囲に見えるのは、青と緑の色。空と森だ。

 己は今、空から森を見下ろしている。薄暗い闘技場とは違う。広大な空と眼下に広がる一面の森を。

 

 ──それこそが、デーモンの災厄の固有魔法。異界だった。

 

 ◆

 

「…………」

 

 異界に取り込まれたコノエは、まず周囲の様子を観察する。現状の確認をする。

 森型の異界。その面積は極めて広大だった。コノエが全力で感知を飛ばしても端を感じ取れない。また、近くに本体──デーモンの姿は見えなかった。

 

 気配や異界の力の流れから、本体がいる方角だけは理解できるが……。

 

(……かなり遠いな。これは長期戦になりそうだ)

 

 コノエは周囲を見渡し、冷静に思考を巡らせる。

 状況は良くない。しかし焦るのはもっとダメだ。

 

 だから観察し、考察する。異界型。異なる世界を展開する能力。己の領域に敵を引きずり込み、己のルールを押し付ける権能。

 異界型には、固有のルールがある。その世界には、力の主が望んだルールが追加されているはずだった。

 

 ──この異界のルールは、なんだ?

 

 探るため、コノエはぐるりと周囲を見渡して……と、そのときだった。

 少し強く風が吹いた。ざあ、と音がして、眼下の森が揺れる。風に乗って木の葉が舞い上がり、こちらへと飛んできて。

 

「──」

 

 コノエは、直感的に懐の魔道具を起動する。手元にナイフが生み出される。

 即座に投擲した。狙う先は、空を舞う木の葉。

 

 ナイフは瞬きの間に木の葉に到達し、貫こうとして──()()()

 

「…………」

 

 そして、さらに次の瞬間、コノエから数十キロ後方に出現する。かなり遠いが、自分の力が籠められているために場所が理解できた。

 ──ナイフは、遥か遠くのデーモンの気配から遠ざかるように移動していた。

 

(……木の葉に触れたものを強制的に移動させるルールか? それも、本体を守る方向に)

 

 コノエは推測しつつ、さらにナイフを投げる。宙を舞う木の葉に打ち込んで、それらが全て彼方に飛ばされるのを見る。

 次に、さらなる検証のため、足元の森に向けて投げる。木の葉の隙間を縫うように幹、地面、岩、流れる川を狙う。

 

 ──幹に当たったものも、地面に当たったものも、岩も川も全て数十キロ後方に移動した。

 

(……つまり、木の葉だけでなく領域内のものに触れると移動させられるわけか。ということは、────っ!)

 

 コノエは断片的に状況を把握し──しかし、事態は待ってくれない。

 敵が動く。遠くから力が伝播し、一帯に強い風が吹いた。

 

 ごう、と音がして風が森を揺らす。

 風は木の葉を巻き上げ、コノエの周囲を無数の木の葉が包み込み──。




次回は月曜日です。よろしくお願いします。
あと、せっかくなのでコミカライズも読んでくれたら嬉しい……本当にうれしい……。
尾玉先生、アクションも上手い人なので読み応えあります。ぜひ見に行ってもらえたらと! デーモンもいます!
カドコミのリンク張っておきますね……
カドコミ:転生程度で胸の穴は埋まらない【第1話】
ニコニコ静画にも載ってるので、コメントありがいい人はそちらをどうぞ!
ニコニコ静画:転生程度で胸の穴は埋まらない【第1話】

あと、今公式Xでフォロー&RTキャンペーンを日曜までやってるので是非参加してもらえると! 一色先生の記念イラストA4フォトアクリルを抽選でプレゼントしてくれるようです!
公式サイトのリンクも貼っておきますね……
転生程度で胸の穴は埋まらない公式X
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