転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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コミカライズ記念短編:アデプト最終試験②

(────っ)

 

 駆ける。駆ける。駆ける。コノエは空を駆ける。

 遥か彼方、数百キロは先の敵の気配に向けて。無尽蔵に湧き出し、周囲一帯を満たす木の葉──緑の嵐を回避しながら。

 

 僅かに触れるだけで彼方に飛ばされる木の葉の隙間を、縫うように走る。

 

(──なんて、厄介な)

 

 内心歯噛みする。木の葉の速度は速くない。むしろ遅いだろう。しかし、数が圧倒的に多い。コノエは少し、地球で見た弾幕系シューティングゲームを少し思い出す。

 

 三次元空間を埋め尽くす敵の攻撃を避けるのは難易度が高かった。回避するため高高度に上がってみたりもしたが、現実とは違うこの世界では、木の葉はコノエを追いかけてどこまでも高度を上げてきた。

 もし一度でも触れれば、敵の本体から数十キロは引き戻される。それを繰り返せば、いつまでたっても敵の本体に近づけない。

 

 ……いや、それだけではない。飛ばされた先に、木の葉がないという保証はないだろう。飛んだ先でまた更に飛ばされて、というのを繰り返せば、どこまで飛ばされるか分かったものではない。一度のミスが致命傷になる可能性もあった。

 

(……せめて、木の葉を焼ければいいんだが)

 

 思う。けれど、敵の権能が籠った木の葉は、弱い雷なら触れた瞬間に移動させるだけの力を持っているため、普通の葉のように燃やせはしない。それを全て焼きながら走ったとすれば、いざ災厄の前に立った時どれほど消耗しているか分からない。

 なのでコノエは、どうしても避けられないものだけを燃やすようにして走っていた。

 

(……本当に、厄介だ。移動させる力は、分類としては追放型の能力だと思うが……)

 

 追放型とは、敵を術者から遠ざける力のことだ。距離を取ることに特化した力。消極的な力だと言えるだろう。殺傷能力が低く、時間稼ぎに向いている。

 戦った場合、こちらが相手を殺すのは難しいが、しかし相手もこちらを殺せない。そう言う力だ。近づくのは難しくても、逃げるのはこれ以上ないほどに容易な力。

 

 基本的に敗北はない相手だ。()()()()()、それほど強くないと言ってもいいだろう。

 

 ──そう、()()()()()

 ……今回は違う。なにせ。

 

(……異界だ。本体を倒すまで脱出できない。それなのに近づけなければ──最終的には消耗し、力尽きるだろう。加えて、限界まで飛ばされた先に何も仕掛けがないとも思えない)

 

 異界と追放型の相性がこれほど良いとは思わなかった。コノエは何度目かに歯噛みする。

 

 ──異界。対象を閉じ込め、特定のルールを押し付ける力。

 現代では極めて珍しいが、強大な力だった。

 

 習ったところによると、千年以上昔の混沌の時代、魔物の国の上層部には異界の持ち主が多かったらしい。だが、混沌の時代の後は急激に数を減らしたようだ。

 その理由としては、元々異界系を作り出すのには邪神の力が必要であって、邪神が強力な魔王開発に掛かり切りになった結果、減ったと推測されていた。

 

(……つまり、あのデーモンは混沌の時代の災厄。それも魔物の国の上層部にいた個体である可能性が高いのか)

 

 コノエは少しだけ、頭の片隅でハズレを引いたかな、と思う。だって、アデプトの最終試験の災厄はランダムだ。その中で、今回引いたのが異界持ち。

 もっと弱い災厄なんていくらでもいただろうに。戦闘中の思考でも少しげんなりしてしまいそうな現実だった。

 

 ……そして、同時に理解する。敵の格を理解したからこそだ。

 敵がかつての魔物の国の中で上に立つような強者であるということは──。

 

 ──ああ、やっぱり来た。

 コノエは、微かな気配を察知する。

 

 即座に雷を展開し、周囲を焼く。『ソレ』は木の葉より小さい物体である為、より小さい力で破壊することが出来た。

 そうだ。木の葉に紛れて近付いてくる気配。目では捉えるのが難しいほどに小さな──()()を。

 

「────」

 

 領域全体に移動の力が込められているのに向かってくるのが木の葉だけなんて、おかしいと思っていた。

 だからコノエは驚かず、敵の企みを弾く。

 

 そうして周囲の気配に注意しつつ、また走り出そうとして──。

 

『──ほう、ソレを弾くか。卿、やるなぁ』

「──!」

 

 ──どこかから声がしたのは、ちょうどそのときだった。

 

 ◆

 

『いや、すまんすまん。敵であるのは分かっているのだがな。卿が良き戦士だった故、つい話しかけてしまった。許せ』

「────」

 

 コノエの耳に、声が聞こえて来る。コノエはそれを、驚きと共に聞く。

 ──現在、この領域には、コノエ以外の人間はいないはずだ。つまり、今話しかけてきているのは。

 

(──あの、デーモンの災厄?)

 

 ……魔物が、話しかけてきた?

 コノエは、表面に出さずとも内心で愕然とする。そんなことが?

 

 いや、もちろん、人語を話す魔物は居る。高位の魔物は、並の人間よりも頭がいい。なので当然人語を理解する魔物もいる。デーモンはそんな魔物の一種であって、ごく普通のデーモンでさえ片言で人語を話すくらいだ。災厄に至ったデーモンならば当然話せてもおかしくないだろう。

 

 だから、コノエが驚いているのはそこではない。

 コノエが驚いたのは──デーモンが、ごく普通に、雑談を持ちかけるように話しかけてきたことだ。憎悪を叫ぶのでもなく、悪意に染まっているのでもない、ごく普通の言葉を。

 

 故にコノエは、これはいったい、と驚き──。

 

「──」

 

 ──いや、そうか。すぐに気づく。これはこちらの気を引くための策だ。

 珍しいのでつい驚いたが、そう考えれば何一つ不思議ではない。

 

 なので、コノエはその隙に何を仕掛けて来るのかと周囲を警戒して……。

 

「………………」

 

 ……? しかし、特に何も起こらない。

 木の葉と砂粒は変わらず飛んでくるが、それだけだった。

 

『そう警戒するな。話しかけた隙に、などという小狡い真似はせぬよ』

「……」

『そもそも、そんなものが効くほど卿が弱いはずがなかろう。なにせ、この我をここまで追い詰めたのだぞ?』

「……?」

 

 いやはや、してやられたものよ! と声が聞こえて来る。

 ハッハッハッという豪快な笑い声と共に。

 

 ……コノエは、そんなデーモンの言葉に困惑して眉を顰めつつ──しかしまず、追い詰めた、という言葉に疑問を抱く。

 いつ自分がデーモンを追い詰めたのだろうか。異界に取り込まれ、一方的に攻撃されているのはこちらの方では?

 

 それとも自分は何か見落としているのかと思い……いや、それこそ、こちらの気を引くための嘘かもしれない。敵の言葉に惑わされ、罠に嵌まるようなことがあってはならない。

 だから、コノエは言葉を返さず、ただまっすぐに前を見て走り続けて……。

 

『なんだ。話には付き合ってくれぬのか。寂しいのう……』

「……」

 

 ◆

 

 ──それから、コノエは敵の攻撃を回避しつつ走り続けた。

 周囲の全てが敵の状態の中を、前へ、前へと進んでいく。

 

 もちろん敵も見ているだけでなく、様々な手を打ってコノエを阻もうとした。

 世界を根元から裏返すような爆発でコノエの逃げ場を潰そうとしたり、視界と気配探知を遮る高密度の霧で世界を覆い隠そうとした。

 

 それに対しコノエは、爆発を槍で切り裂き、霧の僅かな隙間を雷で誘導し、潜り抜けた。

 

『うーむ。凄まじい対応能力よの……見たことがない戦い方だが師匠筋は誰だ? 少し原初に似ている気がするが……』

「……」

 

 また、敵の攻撃は物量で押すものだけではなかった。たとえば鳥型の攻撃は木の葉より強固な体と高速機動、そして誘導弾としての性質を持っていた。

 コノエはそれに、自らの指を切り落とし、切り刻み、ぶつけることで回避して──。

 

『えぇ……僅かな躊躇いもないのか。最近のアデプトは覚悟が決まっておるなぁ……。なあ、卿、戦うよりもワインを交わさぬか? 我、卿と話がしたい』

「……………………」

 

 デーモンは、いくら無視しても延々と話しかけて来る。

 コノエは眉を(ひそ)めつつ、ただ走り続けた。

 




【雑ステータス】
 基礎能力  5000→4000 神威武装封印
 固有魔法         0

次回は水曜日です。よろしくお願いします。
あと、せっかくなのでコミカライズも読んでくれたら嬉しい……本当にうれしい……。
尾玉先生、アクションも上手い人なので読み応えあります。ぜひ見に行ってもらえたらと! デーモンもいます!
カドコミのリンク張っておきますね……
カドコミ:転生程度で胸の穴は埋まらない【第1話】
ニコニコ静画にも載ってるので、コメントありがいい人はそちらをどうぞ!
ニコニコ静画:転生程度で胸の穴は埋まらない【第1話】

あと、今公式Xでフォロー&RTキャンペーンをやってるので是非参加してもらえると! 条件達成で尾玉先生の漫画が公開されるようです。
公式サイトのリンクも貼っておきますね……
転生程度で胸の穴は埋まらない公式X
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