転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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後日談フォニア編開始です。週一金曜の更新になる予定です。
テルネリカ、メルミナよりちょっと長くなる……かも。


後日談:フォニア①

 ――ある日の夜、コノエはベッドの中で本を読んでいた。

 ベッドの上で横になりながら、顔の上で本を持ち、読む。

 

 寝る前のちょっとした読書だ。以前エルフの本を借りてから出来た習慣であって、新しい日課とも言えるだろう。

 少し行儀が悪い気はするけれど、でも、眠くなったらすぐに眠れるところが気に入っていた。アデプトならずっと本を持ち上げていても疲れないし。

 

「…………」

 

 コノエは、文字を目で追いかける。読んでいる本の題名は、『竜人と翼とアーキノルカ』。つい数日前、大図書館でコレットと一緒に借りた本だ。 

 竜人の誕生と起源。翼の在り方と、歴史的意義が書かれている本だった。

 

 ――曰く。竜人とは、かつて竜の魔物に対抗するため生み出された種族であるらしい。

 

 数千年前、邪神との戦いが始まったばかりの時代、空より襲いかかる竜に手も足も出なかった人類を救うため、神々が作り出した戦闘用種族。魔物の竜に対抗するため、風を支配する翼と共に誕生し、生まれながらにして強大な力を持つ世界最強の種族でもある。

 つまり、翼は種族創造の原点であり、とても重要な意味を持つのだ、と。そんな感じのことが書かれていた。

 

 ……余談に、あまりに強い力を持つが故に命の在り方に歪みを持ち、それ故に繁殖力が下がり、生まれたばかりの子供は特定環境以外で生存できなくなった、とも。

 

(……だから、翼には重い意味があるのか)

 

 コノエは、読みながらそう思う。

 先日図書館でコレットが話していたこと――。

 

『竜人の翼には基本的に他人は触ってはいけません』

『触れていいのは、家族や恋人、後は緊急時に治癒魔法使いくらいです。それ以外の人が触ったら……()()()()()()()()()()

 

 ――なんて聞いたときは驚いたものの、こうして歴史から学び、知識が増えるとなんとなく理解できる気がした。

 

 ……まあ、一方で。同時に、逆に疑問も増えているけれど。

 

(……しかし、そうなると、あのときのフォニアは……?)

 

 それは、今から約一年前のことだ。不死の魔王の調査のために、アーキノルカを訪れたとき。

 公園や繁華街のベンチで隣り合って座って、翼でつつかれたり、ぺったりされた記憶がある。

 

 不思議だった。まだこの本では、翼に触れる意味について書かれたページにはたどり着いていないが、読めば読むほどアレが大変な行為だったのでは、という気がしてくる。

 家族や恋人以外が触ってはならない翼で背中をつついたり、ぺったりする意味とは?

 

 ……もしかして、結構すごいことをしていたんだろうか。

 

 このまま本を読み進めて行けばとんでもない事実が飛び出してきそうで、困惑する。分厚い本なので、読み終わるにはもうしばらくかかりそうではあるが。

 コノエの脳裏に、当時無表情でぺたぺたしていたフォニアの顔が浮かんできて……。

 

「………………」

 

 ……しかし、フォニア、か。コノエはふとそう思う。

 

 なんとなく本を閉じ、ベッドサイドに置いた。

 天井を見上げると、壁に設置された灯りの魔道具が白い天井板を照らしている。

 

 ……そういえば、フォニアにしばらく会ってないなと思った。

 

 アーキノルカの復興に従事すると神都を離れて、もう数十日になる。その間は一度も顔を見ていない。

 たしか、百年近く放置された街を、ほとんど一から復興しているのだったか。街や街道周辺の魔物を掃討すると聞いているので余程忙しいのだろう。

 

 だからここ最近、屋敷のフォニアの部屋の辺りは人の通りが無くて、どこかもの悲しい雰囲気になっていた。

 

 ……いや、フォニアだけじゃないか。テルネリカもこの二、三日は学舎に泊まり込みで訓練をしていて家に居ないし、メルミナも以前言っていた商会の再編が忙しくて走り回っているようだった。教官はいつも忙しそうだし、神様もそうだ。

 

 周囲の皆は全員忙しそうにしている。

 結果、このところコノエは一人で生活していた。

 

「…………………………」

 

 コノエは、なんとなくじっと天井を見上げ続ける。

 天上の模様を眺めて、大きくため息をついて――。

 

 ――()()()()、と。ちょっと思った。

 

「…………はは」

 

 そして、そう思うと同時に。

 知らず、苦笑いをする。

 

 贅沢になったな、と思った。一人が寂しいなんて。少し前までは一人(それ)が当たり前だったのに。ずっと、何十年も一人だったのに。

 

 なのに、今は少し一人になるだけで寂しいと思っている。

 いつの間にか誰かが傍に居ることが当たり前になっている。

 

 テルネリカの温もりが、メルミナの笑顔が、フォニアの声が、当然のように傍に居てくれるようになったからだ。大切な恋人が出来たから。それがどうしようもなく嬉しくて幸せで――。

 

 ――だからこそ、今寂しい。

 

 コノエが知らない感情だった。幸せだから辛くて、辛いから幸せ、なんて。

 背反する感情なのに確かにそこにあって、コノエは混乱することしか出来ない。……けれど自然と頬が緩んでもいた。

 

「……うん」

 

 天井を見る。ただただ天井を見て、己の中の感情を噛みしめる。

 そうして……ああそうだ、と思いついた。

 

 明日は誰かの元を訪れてみるのもいいかもしれない。

 もちろん、邪魔にならないように注意する必要はあるが。

 

 ――たとえば、それこそフォニアの所とかどうだろう。

 アーキノルカの現状について、もっと調べて――大丈夫そうならアーキノルカを訪れてもいいかもしれない。

 

 復興が忙しいのなら、手伝えばいい。力仕事なら役に立てるし、魔物の掃討が必要ならもっと力になれるだろう。それでフォニアの手が空いたのなら、一緒に街を歩くくらいの時間は作れるかもしれない。

 

「……」

 

 そんな考えに、コノエ自身、『僕とは思えないな』と思ったりする。ほんの一年前まで、惚れ薬で奴隷ハーレムとか言ってたのに。そうすることでしか、誰かと関われないと思っていたのに。人より薬の方が信じられるなんて思っていたのに。

 

 なにもかもが違いすぎて、でも当然、嫌なわけじゃなくて。

 むしろもっと、と思えることが嬉しくて……。

 

「……うん、じゃあ、もう寝よう。明日に備えて、早く寝ないと」

 

 小さく呟き、布団の中に潜り込む。

 明日のために早く眠ろうと思った。

 

 魔力を操作して、明かりを消す。部屋が暗闇に包まれる。

 明日は色々動かないとな、なんて思いながら目を瞑り……。

 

 ……

 ……

 ……

 

「コノエ様、手紙が届きました」

「……うん?」

 

 そして、コノエの元に綺麗に装飾された青い封筒――フォニアからの手紙が届いたのは、その翌日の朝のことだった。




次は来週です。よろしくお願いします。
五巻の表紙が公開されました!ぜひ見てもらえればと!
凄いヤツを描いて頂いております!

【挿絵表示】

また、ここで一つ五巻について重要なお知らせがあります。
『転生程度で胸の穴は埋まらない』五巻ですが……実は第五部を全部一冊にまとめることが出来なかったので、六巻との前後編になります。
なんというか、加筆なしの状態でも400ページを軽く越えておりまして……なので、加筆するためには分冊にするしかありませんでした。

ただ、代わりに今回はかなりガッツリ加筆しております。具体的に言えば、一章分くらい。
加筆の内容的には、第五部の一章を加筆して二章分にした感じですね。日常シーン増量です。web第五部は急ぎすぎた感があったので何とかしたくて…

でもこうして六巻まで出版していいよって言ってもらえたのも皆さんの応援のおかげですね。本当にありがたいです。
感謝の言葉しかありません……今後ともよろしくお願いいたします。
Amazonさんのリンク貼っておきますね……。
amazon5巻

あと、本日コミカライズの最新話が更新されております!よかったら是非見に言って下さい!
カドコミのリンク張っておきますね……
カドコミ:転生程度で胸の穴は埋まらない
ニコニコ静画にも載ってます!
ニコニコ静画:転生程度で胸の穴は埋まらない

また、長くなって申し訳ないんですが、もう一つ告知を。
転生程度公式Xで、開設記念短編を公開しております。
テルネリカと神様の短編ですね。二話あります。
テルネリカの時はちゃんと告知したんですけど、神様の時はすっかり忘れてたのでまだ見てない人はぜひ見に行ってもらえたらと!
神様短編リンク

色々よろしくお願いします!
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