転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
そうして、山の上でフォニアと過ごした日から、数日が立った。そのとき、コノエはアーキノルカ城の出入国管理所――転移門が設置されている施設の一室に居た。
手元には大きな拡張カバンがあって、その中には大量のお土産が詰まっている。
それは店で買ったモノだけでなく、良かったらと持たせてもらったモノも多くあって……歓迎してもらったな、とコノエは思う。楽しかった。穏やかに過ごせた。
突然災厄が襲ってくることもなく、邪神の遺産が爆発することもなかった。そうそう、これが普通の旅行なんだよなと、少し感慨深くなるような感じだった。
順調に、問題なく、予定通りに進んで、残っているのは、
そうだ。あとは――。
「――コノエ、お待たせ」
「……ああ、フォニア」
――彼女と合流するだけだった。扉がガチャリと開き、振り向くと、そこには青い竜人の少女の姿がある。
彼女はいつもの服に隠密用の外套を被り、手に大きなカバンを持っていた。
拡張カバンだ。コノエが手に持っているのと同じもの。空間魔法で拡張され、引っ越しや長期任務などで用いられている。つまり、それがどういうことかと言えば。
「神都に帰るの、久しぶり」
フォニアも一緒に、神都に帰るということだった。
街の復興が一段落したので、次の街の復興に取り掛かるまでは仕事が無いらしい。おそらく来年以降になるのだとか。
なので、それまでは神国で過ごす予定らしい。……嬉しく、思う。
「あっちは変わりない? みんな元気にしてる?」
「……ああ、忙しそうだけど、みんな元気だよ」
話をしながら、立ち上がる。そして、二人で部屋の入口へと向かい――途中、するりとフォニアの手が伸びてきて、コノエの手を握った。自然な動き。
……当たり前のように手を握ってくれることが照れくさくて、でも何より嬉しい。
「……」
「……」
二人で寄り添い、歩き出す。
そのまま部屋を出た。
少しだけ目が合って、照れくさく笑いながら転移門へと向かおうとして――。
「――――あ」
「……この気配」
――そのときだった。
コノエは気付く。隣でフォニアも呟いた。
建物のすぐ傍、それほど離れていない場所に、突然新たな気配が
そう、生まれた。近づいて来たんじゃない。その場に発生した。
それは
また、その気配の周りに数十人の小さな気配があることも分かった。それが誰の気配なのかといえば。
「――ハーレム王」
ぽつりとフォニアが呟く。そうだ。この気配は指導官のモノだ。
ハーレム王。世界最大のハーレムを築いた男。
あの人アーキノルカに居たのかと少し驚き……いや、そういえば、しばらく前に竜人の奥さんが妊娠したのでアーキノルカに向かうと言っていたか、と思い出した。
そして、コノエがそんなことを考えているうちに指導官の気配が動き出す。
数十人の気配――恐らく指導官の子供だろう。あの人子供が数百人はいるらしいからこれでも多分一部だ――を引き連れて、こちらに向かってくる。
ほどなくして、ざわざわと大勢の子供たちの声が近づいてきて――廊下の角から二十代後半ほどの外見の男が顔を出した。
「……指導官」
「はい。コノエ、フォニア。奇遇ですね。あなたたちもこれから神国に帰るんですか?
……ああ、おまえたち、お父さんはこれから彼にお礼を言うから、そこの待合室で甘いものでも食べてなさい」
指導官はそう言いながら子供たちに振り向き、ポーチから銀貨を取り出してジャラジャラと渡す。
コノエはそんな指導官に挨拶を返しつつ、なんとなく銀貨を目で追いかけて……日本円なら五、六万円分はありそうだな、なんて思ったりした。子供が多いと少し甘いものを食べるだけでそうなるらしい。すごいなぁ、と。
……しかし、それはともかく、お礼?
何かお礼をされるようなことをしただろうか。コノエは不思議に思う。「彼にお礼」と言うからにはフォニアではなく自分なのだろうし。
コノエは首を傾げて……すると、指導官は。
「実は、私があなたとフォニアの師匠筋だからとアーキノルカからの配慮がありまして。事務手続きを手伝ってくれる人員を派遣してもらえたんです。そのおかげで、今回子供たちも連れてくることが出来ました」
曰く、本当ならこれ程の人数は無理だったらしい。手続きにかかる時間を考えれば、指導官一人か、連れてくることが出来ても数人程度での渡航になっていたのだとか。
コノエがちらりと隣を見ると、フォニアは軽く頷いた。どうやら本当らしい。
「なので、お礼を言いに来ました。おかげさまで子供たちも随分と楽しんでいましたよ」
「……ええと」
ありがとうと頭を下げる指導官に、でも僕が何かしたわけじゃないしな、とコノエは思う。
というか、自分ではなくアーキノルカに伝えた方が良いのではないかと……。
「それは既に伝えました。フォニアにも。なので後はあなただけです」
「……あ、なるほど」
そういうことかとコノエは納得する。まあ、それはそうか。
「そういうわけで、今回はありがとうございました。礼をしたいので、なにか相談事があれば言って下さい。出来る範囲で協力させてもらいますよ」
「……えっと、ありがとうございます?」
コノエはそんな指導官に、ぎこちなく返事をする。律儀な人だなと思いながら。
すると指導官は、もう一度にっこりと笑う。その後、ではこれくらいで、と最後に言って去って行った。踵を返して、子供たちがいる待合室に向かう。
その背中をコノエは見送る。
ほどなくして楽しそうな子供たちの声が聞こえてきて、賑やかだなぁ、と思ったりして。
「……」
……しかし、相談事があれば、か。
なんとなくコノエはその言葉を頭の中で転がす。
そして、まあ今は別に相談したいことは無いよなと思い――。
「――うん?」
……あれ? ここでコノエは、天啓のように気付く。
アーキノルカに来てからの出来事が、頭の中で繋がる。
もしかして……。
(……ペタリの意味、指導官なら普通に教えてくれたのでは……?)
ペタリ。アーキノルカで色々歩き回って探したもの。
指導官なら、間違いなく意味を知っていただろう。そして、聞けば教えてくれた可能性は高い。エルフの樹とか、今までいろいろ教えてくれたし。
いやもちろん、コノエは指導官がアーキノルカに居たのを知らなかったので、可能性の話でしかない。ないが……。
(……でも、そうだ。神様には聞けなかったけど、指導官になら聞けたんだよな)
ペタリの意味がちょっとアレなんじゃないかと思って、神様には聞けなかった。
けれど、指導官相手ならその遠慮はいらないだろう。
……まあ、フォニアの情報が流出するかもしれないと考えれば、別の意味で相談できなかったかもしれないが。ともあれ、異性に相談し辛いことでも、同性なら相談できるのは間違いない。
でも、コノエの頭の中に、そんな発想は今の今まで全く浮かんでこなかった。それが何故かと言えば……。
(……僕は)
コノエには男友達がいないからだ。というか、人生で一度も出来たことがない。
本当に全く、一度も出来たことがない。
友達と遊びに行ったことも、飲みに行ったこともない。
「………………」
コノエは、無言のまま、天井を見上げる。
……男友達が欲しいな、と少し思った。
魂が治って、欲が出てきたのかもしれない。
裏話なんですが、実は最初、「ぼく」にコノエ君の友達になってもらおうと思ってたんですよね……。途中からストーリーがプロットと全然別の方に行って無くなりましたが。
ともあれ、これで後日談フォニア編は完全に終わりです。
次は……どうしようかな……あんまり思いついてません。
間に合えば来週あたり、最近別の女性とばかり遊び回ってるコノエ君をじっと見つめるテルネリカの話とか更新するかもしれません(予定は未定です
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