転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
多分全三話になります。
あと、申し訳ないんですが、今回からしばらく二週に一回の更新になります。すみません……。
そのとき、コノエは困惑していた。どうしたものかと思っていた。
何故って、状況がよく理解できなかったからだ。
「……えっと」
「……」
場所は、屋敷のコノエの部屋。時間は、夜だった。
何が起こっているのかと言えば、見られている。
……そして、誰に見られているのかと言えば、それは。
「……テルネリカ、どうしたんだ?」
「……その」
テルネリカだった。テルネリカが、じっとコノエを見つめている。
口を小さく動かしていて、何か言いたげだった。
普段とは違う雰囲気。コノエは、どうしたのか不思議で……けれど、テルネリカは何も言わない。いや言わないというより、彼女も言葉を探しているような、そんな感じだった。
結果、先ほどからずっと、二人で無言で向き合うだけの時間が続いていた。
「…………」
「…………」
どういうことなんだろう。コノエは悩む。
自分がテルネリカに何かしてしまったのだろうか。しかし、心当たりはない。というか、実を言うと、ここ最近のコノエは、ほとんど家にいなかった。
仕事があったからだ。フォニアと一緒にアーキノルカから帰ってきて以来、幾つかの仕事が立て続けに入ってきて、そちらにかかりきりになっていたから。
……そうだ。まず最初はメルミナの依頼だった。
◆
『コノエ、夜分遅くにごめんなさい、急ぎでお願いしたいことがあるの』
あれはアーキノルカから帰って来た日の晩だったか。
帰ってきて、使用人にお土産を渡して。でもテルネリカは訓練で居なかったので、また明日学舎に会いに行こう、なんて思っていたときだ。
突然メルミナのレンズが窓から入ってきてた。
『仕事を頼みたいの。実は、うちと取引してる開拓村の近くに災害が湧いたみたいで……旅行から帰って来たばかりで悪いけど、どうにかお願いできないかしら』
もう犠牲者がかなり出ているの、とメルミナは焦った顔で言っていて、状況が酷く悪いのが分かった。だから、コノエは頷き、すぐに準備をして、屋敷を飛び出した。
メルミナから事情を聞きながら、走って行って――。
◆
それから、コノエが神都に帰って来たのは、メルミナに頼まれてから三日後のことだった。目標の災害が迷宮に逃げ込んでしまい、追い詰めるのに少し時間がかかったからだ。
神都に帰って来た時にはもう夜になっていた。神都の街を迷惑をかけない程度の速度で走っていき――。
【――ごめんなさい、コノエ、ちょっといい? あなたの力を借りたいの】
そこで、加護を通して神様から意思が伝わってきた。
続けて、【実は今、大変なことが起きているの】とも。
そんな形で神様から依頼が来るのはとても珍しいし、しかも似たようなことが二度も続いたのでコノエは驚いて――しかし、神様が言うのなら、と頷いた。
もう屋敷の前まで帰ってきていたし、遠目に見える窓の明かりに少し後ろ髪を引かれるような気はしたけれど、踵を返した。
コノエは、神様の元へ向かって、話を聞いた後、転移門を潜って――。
◆
その後、出向いた先で色々あって、八日。コノエは何とか解決することが出来た。本当に色々あったけれど……いやもう本当にとんでもなく色々あったけれど、何とか解決した。
転移門で神都に帰って来て、神様に感謝されて。今度こそ久しぶりに屋敷の門を潜った。
それが、つい数時間前のことだ。
もう夜も遅かったので軽く食事をとって、風呂に入って、部屋に戻った。
そうしたら、テルネリカが部屋を訪れてきて――今に至っている。
「…………」
「…………」
テルネリカはコノエをじっと見ていて、やはり言葉に迷うように口を開いたり閉じたりしている。コノエはやっぱりよく分からなかった。
どうしたんだろう、と何度目かに思う。何か言いたいことがあるなら言ってくれればいいのに、と……。
「……その、ですね」
「……! あ、ああ」
そこで、テルネリカがゆっくりと口を開く。
そして、一言一言絞り出すように言った。
「わがままであることは、分かっているんです。それこそ今、仕事帰りのコノエ様の部屋にこうして押しかけていることも含めて」
「……え」
「わがまま、なんです。最初から最後まで、わがままです。……だって、アーキノルカはともかく、他はお仕事でした。メルミナは焦っていましたし、神様も困っていました。コノエ様は、アデプトとしての責務を果たされていたんです。だから家に帰って来れないのは仕方のないことですし、この国の元貴族として、アデプト候補生の一人として、責めることなんて出来るはずがありません」
「……えっと」
「でも、コノエ様。ここ十八日、私はずっと一人だったんです」
「……」
「また、実は私は今、とても疲れています。その自覚があります。毎日毎日学舎の訓練で苦しんでいますし、今日は連続訓練九日目です。明日はお休みですが、だからこそ、一番疲労がたまっています」
――私は今、冷静ではないのです、とテルネリカは言う。
コノエは、そんなテルネリカを何度も瞬きしながら見ていた。
「つまり、コノエ様。まとめますと、私はアーキノルカ行きから、もうずっとコノエ様とまともにお話できていません。前回のお休みも一人でした。せっかくのお休みなのに、屋敷で一人ぼっちでした。その上、今とても疲れていて冷静ではありません。ここまでは理解していただけましたか?」
「……え、あ、ああ」
「ありがとうございます。では、その上でお伝えしたいことがあるのですが――」
そこまで言って、テルネリカは大きく息を吸った。
そうして、目を伏せながら――言った。
「すごくすごく、すごく寂しかったんです。明日のお休みは、十八日分私にかまって下さい……」
「――――」
コノエは、一瞬、時間が止まった気がした。
……それは。ええと。
停止した頭では、何を言われたのかよく理解できなくて、コノエは頭の中でテルネリカの言葉を転がす。何度も何度も、頭の中で言葉が反響した。
加速した脳の中でテルネリカの言葉がぶつかって、目の前には顔を真っ赤にしたテルネリカが居て、そんな色んなテルネリカに混乱して、ぐるぐるぐるぐるして、でも数秒もすれば流石に頭の中に入ってきて、理解して――。
「…………」
「…………」
……コノエは、自然と。
自分の顔に血が集まっていくのが理解できた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………じゃ、じゃあ、明日は、一緒に」
「――! は、はい!」
しばしの沈黙の後、かくかくとコノエが答える。
すると、テルネリカは嬉しそうに笑う。本当に、本当に嬉しそうに笑う。
そんなテルネリカにコノエはますますどうしていいか分からなくなって、また沈黙があって。でも、ふとテルネリカが動き出して、「で、ではまた明日」、と。
部屋を去っていくテルネリカをコノエは見送って、扉が閉じるのを見届けて。そのまま、またコノエはしばらく固まって……。
「…………」
それからどれくらい時間が経っただろうか。コノエはなんとなく、顔を覆う。
……自分が今どんな顔をしているのかは、あまり考えたくなかった。
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