転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第31話 エピローグ

 ――その後の話。

 

 錬金工房と話をつけ、二人で並んで建物から出る。

 転移門を起動できる時間ではなかったので、その日は二人で街の宿に泊まることにした。

 

 街の大通りを二人で寄り添うように歩いて、大勢の人の合間を縫うように進んでいく。

 道の両脇は出店で賑わっていて、そこかしこから笑い声が響いてきていた。そんな雰囲気にコノエも空腹を感じる。そんなときに、テルネリカから食事の提案があったので、いくつか買って、備え付けられたベンチに二人で座って――。

 

「――せっかくなので、二人で分けませんか?」

「……!?」

 

 ――テルネリカの提案で、二つに分けて食べる。

 コノエにとって、人生初の半分こだった。

 

 コノエは妙に緊張して、恥ずかしくなってきて、周囲を気にしながら照れつつも口に運ぶ。でも二人で食べ始めると、段々と意識は逸れていった。異世界の郷土料理はコノエにとっては初めて見る物ばかりだった。

 だから、あれが美味しい、これが変わっている、これは独特の風味がキツイ、などと話しながら食べる。

 

 頬を引きつらせながら、(つたな)くも話しながら。

 そして、最後に温かい飲み物を飲んで、息を吐いて――。

 

「――シルメニアの街も、これくらい賑わってたんですよ」

 

 ――ぽつり、とテルネリカが呟く。

 その表情は寂し気で、かつてを思い出すように遠い目をしていた。

 

 たくさんの店があって、人が歩いていたのだと。

 食べ物も色々あったし、特産の聖花は食用にも栽培していたのだと。

 

 聖花のジャムは一度食べてほしかったな、とテルネリカは小さく呟いて。

 

「……では、いつか。また作れるようになったら、食べさせてほしい」

「え?」

 

 でも、コノエは知っている。あの街の住民の顔を。

 皆が顔を上げ、懸命に前へ進んでいた姿を。目の輝きを。だから、十分に可能性はある。今のコノエにはそう思えた。

 

「……はい。ではそのときは、私がとっておきの食べ方を教えますね」

 

 少し泣きそうな顔で微笑むテルネリカと、約束をする。

 必ずそうしようと、二人は頷きあう。

 

 そのあとは、また二人で店を巡っていって。

 そのうちに宿を見つけて、そこで一晩ゆっくりと休んで――。

 

 ◆

 

 ――翌日二人は転移門でシルメニアの街を訪れる。

 

 コノエとテルネリカは一日ぶりにシルメニアの土を踏む。

 密度が濃すぎて長く離れていたような気もしたけれど、実際はそれ位しか経っていなかった。

 

 二人は最初にメイドや騎士団長に軽く挨拶して、歓迎の後にコノエは一頻り感謝される。

 四人で少し話をする。まあコノエは相槌を打つだけだったけれど。

 

 そして、途中からテルネリカとメイドは少し席を外して――

 

「――アデプト様、色々と世話になりましたし、ぜひお礼を」

 

 騎士団長と二人になると、そんなことを言われる。

 必要ないと断って、復興のためには金が必要だろうと……しかし、そういう訳には、いやいや、と――

 

『――姫様……無事で……に良……た……っ!』

 

 ――そんなとき、遠くからそんな声が聞こえてきて、騎士団長と顔を見合わせる。

 メイドの声だ。続いて、テルネリカが何か言っている声も。

 

 しゃくり上げるような声も聞こえてきて――つい昨日、コノエが問いかけた時は落ち着いた様子だったが、やはり耐えていただけなのだろうか。

 テルネリカと二人になったからかもしれない。そのうち泣き声が二人になり――。

 

「……んん、では、アデプト様、せめてこれを」

 

 騎士団長が、気を取り直すように咳払いをして、棚から木の箱を取り出す。

 一本だけ無事だったのだと言うそれは、高そうな箱に入れられた酒で――ラベルに聖花の文字が書かれている。コノエは、まあそれ位ならいいかと受け取って――。

 

 ◆

 

 ――そして。

 

「お父様、お母様、お兄様、おかえりなさい」

「……」

 

 街の片隅にある墓所。そこに訪れる。

 並ぶ墓石の中でも一際高いところに置かれた三つの墓石には、それぞれの名前と白翼十字が刻まれている。

 

 テルネリカは墓石の前に膝を突く。そして両手を組む。

 コノエも横で同じように膝を突いた。

 

 小高い丘の上。風の通りがいい場所で、しばし二人で祈りを捧げる。

 コノエは何と祈ればいいか悩んだ後、テルネリカに感謝していると、それだけを報告して。

 

「――ありがとうございます。もう大丈夫です」

「……そうか」

 

 テルネリカの言葉に目を開ける。

 そして二人で、歩き出した。並んで丘の坂道を下る。

 

 小高い丘からは復興途中の街が見えて、少し気配を見ると、街の人々は変わらず活気あふれる様子で働いているようだった。

 

 ……よくよく見ると、少ない人数ではあるけれど畑でも作業をしている人もいて。

 

「……でも、コノエ様、本当によかったのですか?」

「……何がだ?」

「お金です。コノエ様は要らないと言って下さいましたけれど……」

 

 街を見て思うところでもあったのか、テルネリカがそう言う。

 申し訳なさそうに目を伏せて、やっぱり、私はコノエ様になんの報酬も渡せていませんと。

 

 コノエは騎士団長といい、テルネリカといい、律儀だなと思って……。

 

「……そうだな。じゃあ、金の代わりに、茶でも淹れてほしい」

「え?」

「……僕は(・・)、そっちの方がいいよ」

 

 コノエがそう言うと、テルネリカは目をぱちぱちと瞬いて。

 力が抜けたように、微笑む。

 

「……はい、じゃあ特別心を込めて、淹れますね」

「……ああ」

 

 そうやって、二人は丘を下っていく。

 テルネリカは、城でお茶と軽食の用意をしたいと言って、何か食べたいものはありますかとコノエに問いかける。

 

 コノエは前と同じでいいと言って、テルネリカは私もあれが好きなんですよと笑う。

 そして城に着いて、三十分くらいの時間をかけて用意して、また歩き出して――。

 

「――」

 

 ――物見塔に、上がる。

 そこは狭くて、殺風景で、風はやっぱり強くて。

 

 ……でも、寒くはなかった。

 何故ってそれは、二人で寄り添っていたからだ。

 

 




これで第一部は終了です。登場人物紹介も次に載せます。
第二部は構想中なので、そのうち出ると思います。でも次は一部丸ごとじゃなくて、一章毎の投稿になるかな……

コノエのヒロインについてのアンケートを作者Xでやります。(カクヨム読者もいるためそっちでやります)
良かったら投票してみて下さい。
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