転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第10話 デーモンの砦

 ――デーモンの砦。

 魔物の中でも最上級に位置する邪悪。その本拠地。

 

 それは直径数キロはあるような円の形をしている。

 その円周上には堅固な城壁が高く築かれ、内部には石造りの建造物が軒を連ねている。中心には背の高い塔が建ち、周囲には家のような建物が並んでいた。

 

 メルミナの事前の調べでは、おそらく内部のデーモンの数は数千。

 規模的には先日のシルメニアの街と同程度と言えるかもしれない。それほどに巨大な砦だ。

 

 魔法で強化された漆黒の城壁は敵対者を威圧し、その上には迎撃用の魔道具がいくつも設置されている。半球状に張り巡らせた結界は許されたもの以外の全てを拒絶し、最大出力で臨界を迎えた魔力が黒い火花を散らしていた。

 そして砦の中央の塔からは巨大な砲身が突き出していて――。

 

「――」

 

 ――つまり、コノエがこれから攻め込む砦はそんな軍事拠点だった。

 高位の魔物は高い知性を持つ。軍を作り、砦を築き、策をもって人類に敵対する。故に、時に高位の亜人、悪魔系の魔物は災害級以上の脅威になり得る。そういうものだ。

 

 そして、そんな要塞に対し、コノエは。

 

「……これより、攻撃を開始する」

『ええ、こちらも準備を進めるわ』

 

 ――しかし、正面から踏み込む。

 魔力を回し、宙を踏む。人の限界を超える力で踏み出されたその一歩は弾丸のように体を加速する。遠く離れた砦にコノエは瞬く間に接近し――。

 

「……」

 

 ――その瞬間だった。ぞろり、とコノエの周囲に、行く先に、闇が溢れた。

 数多の闇。邪悪なる気配。そしてその闇から数多の影が姿を現す。

 

 転移魔法だ。暗がりより悪魔(デーモン)が現れる。

 瞬きのような一瞬のうちに、コノエは空間魔法で移動してきたデーモンの軍勢に包囲される。

 

 その数は数百。同時に現れた邪悪は掌をコノエに向ける。

 魔の気配。既に力は臨界している。そして。

 

[――死ヲ]

 

 数多の刃がコノエに襲い掛かる。拘束魔法が鎖をもってコノエを繋ぎとめようとする。

 炎が、氷が、雷が、風が、闇が、結界が、全方位からコノエを打ち砕かんとする。

 

 それは全てが只人を数十人を容易く消し飛ばせるだけの力を持った魔の奔流。

 邪悪な神より与えられた、人を殺すための力。それはコノエを瞬く間に飲み込み――、

 

「――」

 

 ――しかし、金の雷は全てを打ち砕く。

 コノエは神威をもって邪悪を破壊する。踏み砕く。その全てを否定する。

 

 コノエが一歩踏み出すごとに金色が放たれる。

 放たれた雷は刃となって魔法ごと周囲のデーモンを蹂躙する。

 

 鎖は一瞬も繋ぎとめることが出来ず引きちぎられ、闇は輝きの前に消失する。

 デーモンは貫かれ、内側から魂ごと浄化され、消滅する。

 

 強大な斧を振りかざし斬りかかるデーモン共を雷で上下に分断する。

 盾を構えて飛び込んでくるデーモンの隊列を盾ごと消滅させる。

 

 コノエは足を止めない。緩めない。全てを蹴散らしながら黒紫の砦へ進む。

 ありとあらゆる障害をその金色で飲み込みながら駆け抜けていく。

 

 ――それはまるで雷の渦の様に。

 立ちふさがる全てを焼き尽くし喰い千切る。滅ぼさんとする。

 

「……」

 

 そして、コノエは瞬く間にデーモンの包囲を突破する。

 すると砦はもう目の前にある。そのままコノエは――

 

「――む」

 

 そのとき。コノエの前方に再度闇が生まれる。

 転移の兆候。デーモンの気配。新手が現れたのだろうとコノエは拳を握り――。

 

[――ヲヲヲ!!!!]

「……なに?」

 

 ――いや、違う。違った。コノエは見る。

 そこから現れたのは、傷ついたデーモン達だった。胸に大きな風穴を開けたデーモンを先頭にした、数十匹のデーモン。全身を焼かれ、半身を失い、死を待つばかり。それでも叫ぶ魔がコノエの前にいた。

 

 コノエは知る。このデーモン達は先の一合でコノエに襲い掛かって来た者達だ。

 鎖で、魔法で、その命でコノエを抑えんとした者達。止めはメルミナに任せていたので追撃はしなかったが――()(すべ)もなく弾き飛ばされ、その全員が重傷を負っている。それでも、再度コノエの前に立ち塞がっていた。

 

 それは何故かなど、考えるまでもない。

 きっと、彼らがその背後に守る砦には――。

 

「――」

 

 当然だ。デーモンは知能が高い。

 言葉を知り、会話をする。集まり、協力する。共に生き、寄り添う。情があり、愛があり――。

 

 ――きっと、彼らにも家族がいる。

 彼らの無事を祈る両親がいる。彼らのために食事を作る伴侶がいる。無垢に帰りを待つ子供がいる。

 

[――ヲ、ヲヲ]

 

 そうだ。加速した時の中。刹那の叫びがあった。

 今この瞬間にも、雷に焼かれながら、消滅しながらもコノエに手を伸ばすデーモンがいる。転移魔法を行使し、コノエの前に立ち塞がったデーモン。今はもう見る影もないが、一際豪奢な服を着ていた。

 

 彼が何のためにコノエに手を伸ばすのか、それはコノエには分からない。

 コノエに分かるのは、ただ一つだけだ。

 

「――でも」

 

 コノエは知っている。愛を知る彼ら。家族とともに生きる彼ら。

 家族のために、死してなお立ち塞がらんとする彼ら。

 

 そんな彼らの、食卓(・・)には――。

 

「――でも、君たちは、人を喰うだろう?」

 

 ――人の肉が、乗っている。

 きっと罪のない人が攫われた。攫われて、殺された。それを喰って彼らは成長する。知能を高める。人を喰うことによって得た知性で、彼らは愛を囁く。

 

 ……だから。

 

「――顕現」

 

 コノエは、伸ばされた手を踏み砕く。

 手の中に十字槍を造り出す。神の武装。人を救うために神より与えられた、邪悪を滅ぼすための力。

 

 コノエはその槍を、人の敵へと向ける。

 殺人と食人の衝動を持って生まれた邪神の尖兵。人を殺すために産み出された邪悪。決して相容れぬ、相容れてはならぬ大敵。

 

 メルミナの調べで既に分かっている。

 デーモンの砦が出来たのは、今から四十日ほど前。それ以来、近隣の街や開拓村では百人近くの行方不明者が発生している。そして、砦の近くの穴の中には……。

 

『――準備が出来たわ』

「……ああ」 

 

 槍が鼓動する。雷が天を灼く。

 コノエはまた一つ砦へと踏み込む。塔に、砦壁に設置された全ての砲身からコノエへと魔法が降り注ぐ。しかし、コノエは次の一歩で踏み砕き。

 

「――」

 

 ――そこで、コノエは見た。

 砦の中、コノエに叫ぶデーモンがいる。手には刃が握られていて、その刃が向く先には……人間の、少女がいた。虚ろな目をした少女。ぐったりとしている。人質だ。

 

「……」

 

 コノエはそれに――しかし止まらない。

 また一歩、足を踏み出す。

 

 なぜかって、そんなもの、最初から()()()()()()からに決まっている。

 

(――メルミナ)

 

 視線の先、砦の影で赤い輝きが生まれる。

 その(レンズ)は人質を抱えるデーモンを弾き飛ばす。弾き飛ばして、人質の胸元に飛び込んで。

 

『――神よ』

 

 メルミナの祈り。それと同時に、人質の少女の周りに純白の光が生まれる。

 神様の守りだ。人を守るための加護。それは、少女をシェルターのように包みこんだ。

 

「……」

 

 ――最初から、この瞬間のために行動していた。

 今日の作戦が始まってからしばらくデーモンの砦を無視し、派手に周囲の掃除をしていたのは、デーモン達の目を外に向けさせるためだ。槍を使ってスライムを消し飛ばし、その威力を見せて籠城という選択肢を奪うため。そして敵の偵察部隊に紛れてメルミナのレンズを侵入させた。

 

 砦への突入時コノエが真正面から突っ込んだのも、わざわざ手加減をして彼らが反応できるくらいの速さで接近したのもそうだ。より多くの戦闘部隊を結界の外に引きずり出し、内部でレンズが活動しやすくするためだった。

 

「――」

 

 コノエは槍を振るう。己に課していた制限を解除する。

 金色が世界を蹂躙する。それまでとは桁が違う規模の雷が空を奔る。周囲にいた生き残りがその余波で消し飛ぶ。

 

 ――そして、十字槍が放たれる。

 神の雷がデーモンの砦に落ちる。結界は紙のように打ち破られ、漆黒の砦も、汚染地も、全てが飲みこまれる。

 

(……せめて、苦しまないように)

 

 ……光が去った後、残るのは幾つかの白き神の加護だけだった。

 

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