転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第11話 賑やかな村

 ――そして、その日の仕事が終わる。

 コノエは捕らえられていた人々を運ぶメルミナのレンズの護衛をしながら、開拓村へと帰還した。

 

「お帰りなさい、コノエ。今日は全部順調に行ったわね!」

「……え、あ、ああ」

 

 到着早々、やったわね! とハイタッチをしようとするメルミナに少し驚き、困りながらも応えつつ、コノエは辿り着いた村の食堂でコートを脱ぐ。

 ……ああ、そういえばメルミナは昔から仕事の終わりにこういうことをするタイプだったなと十年前を思い出しつつ。

 

「ね、とりあえず座りなさいよ」

「……ああ」

 

 向かいの椅子を指さすメルミナに、少し躊躇いつつ席に着きながら、コノエはなんとなく食堂を見渡す。そこには金色の少女は居ない。

 今回、この開拓村の仕事にテルネリカは来ていなかった。それは何故かと言えばやはりこの開拓村は汚染地との境界であり、戦地だからだ。

 

 村の周囲の結界を一跨ぎすればそこは人類の敵が闊歩する場所だ。そして、そんな場所に集まる人々は冒険者を始めとする少し荒っぽい人間が多い。

 そういう場所にテルネリカを連れてくるのは抵抗があって、だからコノエは都の宿に残るように頼んでからここに来ていた。

 

 コノエがそれを説明するとテルネリカも『分かりました。では、私はここでお帰りをお待ちしております』と送り出してくれて――。

 

「――でも、今日は助かったわ。あのデーモンの砦、私だけだとこんなに簡単には終わらなかったもの」

「……うん?」

 

 ふふふ、と笑う声に顔を向ける。そこには電卓のような計算用の魔道具を打つ少女がいて、さっそく今日の仕事の儲けを計算しているのだろうか、とコノエは思いつつ。

 

「……まあ、デーモンだからな。厄介だ」

「滅ぼすだけなら、簡単なんだけどね。でも、人質の救出までやろうとすると……」

 

 今回あっさり内部にレンズが侵入できたのは、あなたが気を引いていたことと、デーモンが結界を察知から防御に切り替えたからだしね、とメルミナは溜息を吐く。

 

 コノエもそれに、深く頷いて返した。

 その気持ちはよく分かる。コノエもメルミナの助けが無ければ人質の救出は苦戦していただろうし――というか、その辺りの厭らしさこそがデーモンの最も厄介な所だった。

 

 コノエは下手な災害級よりデーモンの方が嫌だ。……その行動の各所に情が見えることも含めて。

 

「ま、上手くいったんだからもういいわ。それよりお酒でも飲みましょ! この辺りは麦酒(ビール)が有名なのよ。あなたは何飲む?」

「……仕事中に酒は飲まない」

 

 じゃあ、と食堂の店員を呼ぶメルミナの誘いを断り、コノエは適当なお茶を注文する。

 するとメルミナは呆れたような顔でコノエを見て。

 

「仕事って、今日の仕事はもう終わったけど?」

「……しかし、ここは戦地だ」

「……相変わらず、かったいわねぇ」

 

 もう、打ち上げでお酒も飲まないなんて。……あーあ、せっかく可愛い私がお酌してあげようと思ったのになーなんて言いながら不満そうな目で見てくるメルミナから目を逸らし、コノエは窓から開拓村を見る。

 

 宿屋の前の大通り。そこは多くの人々が行き交っている。通りを歩く冒険者らしき年配の男に、それに声をかける店屋の売り子。荷台を引いて走る冒険者の少年に、その少年に頑張れと声をかける少女の姿。

 

 ……やはり、汚染地の最前線だけあって冒険者が多いんだなとコノエは思う。

 今こうしている間も街の入り口からは冒険者が勢い良く駆け出して行っている。皆笑顔で競うように走っていて、随分活気があるんだなと思ったりもした。

 

「……仕方ないわね。じゃあ次に今日の成果についてだけど」

「……ん、ああ」

「国からの金は一旦横に置くとして。今日倒した魔物の素材を売って、諸経費を抜けばこんなものね」

 

 視線を戻すと、メルミナが運ばれてきたビール片手に魔道具を打ち、それをコノエに向ける。

 そこに書いてある額は、アデプトの報酬と比べれば少ない。しかし日本での記憶を思えば、一日の報酬としては破格。それくらいの数字だった。

 

「……ちなみに、諸経費っていうのは、森の中に放置してきた魔物の運搬費とか、保存費とか、加工費とかでこの村の人達に払うお金。……その、問題ないわよね?」

「……ああ、なるほど。問題ない」

 

 そういうのもあるのか、とコノエは思う。

 コノエはその辺りの金銭的な流れだとか作業だとかはよくわからないけれど、住民の手を借りるのなら、当然金が必要になるだろう。

 

 というか、倒した魔物の運搬、完全に忘れていたなと今になって思い出す。

 その後のデーモンですっかり頭から抜け落ちていた。結構数も多かったし、それはまあ費用もかかるだろうなと――。

 

「――? メルミナ?」

「ん? なに?」

 

 ……とそこで気付く。メルミナが笑いながらコノエを見ていた。

 いったい何なのかと、もしかして顔に何かついているのかと思う。

 

 不思議に思って、顔に手を当てて。しかしおかしな感触は何もない。

 

「……僕、何か変か?」

「いいえ? 全然変じゃないわ?」

 

 ……その割には、なんだか嬉しそうだ。

 よくわからないけれど、それにコノエは少し居心地が悪い気がして、またメルミナから目を逸らす。

 

「あ、それで回収とか加工とかがあるから、明日と明後日は仕事は休みね。都に帰ってもいいし、一日中寝ててもいいから」

「……そうなのか?」

 

 今日この地に来て早速の休みだった。コノエとしては仕事は早く終わらせたい気もするが……まあ、急いだ結果素材を利用しきれない、というのも問題だと思うので、そういうものなのだろう。

 それならテルネリカが気になるし都に一度帰らせてもらおうかなとコノエは思いつつ。

 

「……」

 

 なんとなく、コノエは街の入り口の方を見る。

 そこには、メルミナの言う素材の回収と加工を行っている者たちがいる。

 

 門からはちょうど荷台いっぱいに魔物を載せた冒険者が村に入ってきていて、回収してきたのであろうそれを錬金工房の中に入っていく。

 そして、数分後にまた空っぽの荷台を引いて工房から出てきた。

 

 この世界では、魔物素材は錬金工房に持ち込むのが一般的だ。

 それは魔物の体には毒があるので処理しなければ使えないからで、錬金術などで加工して、武器や防具、錬金術の触媒などに使われていた。

 

「……」

 

 コノエはそんな冒険者たちの様子をぼう、と眺める。

 開拓村。都やシルメニアとはまた違う雰囲気。

 

 大通りの先端、入り口の近くには先の錬金工房をはじめ、素材の処理をする施設が軒を連ね、冒険者たちが大勢出入りしている。

 そしてそこから一歩村の中へ入ればそこは武器屋や防具屋、魔法薬に魔道具の店が軒を連ねている。

 

 道端に目をやれば、店の間に挟まるように商品を並べた出店がポツポツとあって、なんだか少し怪しそうな薬や道具を売っていたりもする。そういえば、さっき軽く街を歩いたとき匂いがきつい場所や得体のしれないものが店先に吊るされていた場所もあったなと思って。

 

 そんな通りを、多くの冒険者たちが行き交っている。

 人間だけでなく、獣人やエルフ。ドワーフなども当然のように歩いている。

 

 それはまるで、かつて日本にいた頃に想像していた異世界。ファンタジーのゲームに出てくるような、そんな光景だった。

 

「……この村は」

「え? なにかしら」

「……この村は、いつもこんな感じなのか?」

 

 活気溢れる通り。賑やかな声。

 異国情緒ならぬ、異世界情緒溢れる様子。

 

 それにコノエは少し心を動かされて、ついメルミナに問いかける。すると。

 

「え? 違うわよ?」

「……うん?」

「いつもこんなに賑やかなわけないじゃない。今日がお祭りになってるだけよ?」

「……?」

 

 コノエは首を傾げる。そして少し考えて。

 

「……今日は祭りの日だったのか?」

「いや違うわよ。そういうことじゃなくて」

「……?」

「……ばか、本気で言ってるの?」

 

 メルミナがビール片手に呆れたような顔をしている。

 でもコノエはよく分からない。

 

「もう、私たちの仕事の結果でしょ?」

「……?」

「あなたと私が、デーモンの砦を潰せたから、だからみんなこんなに喜んでるのよ?」

 

 ……僕と、メルミナ。デーモン?

 そう、コノエは何度か瞬きする。

 

「私、この村に来るの二度目だけど、一度目は酷かったわよ。町はすっごい静か。誰もしゃべらなくて、お葬式みたいだったわ」

「……葬式」

「ええ、まあ当然よね。デーモンなんて普通の冒険者じゃどうすることもできないもの。何十人も連れ去られて、取り戻そうにも何もできないし、これ以上被害を出さないために村から出ることすらできないし」

 

 だから、とメルミナは言う。みんな、下を向いていたんだと。

 つい昨日までそんな様子で、でもそんな村が今こうして笑っているのは。

 

「誇りなさいよ。この街の活気は、私たちが戦った結果なんだから」

「……」

「――ね?」

 

 メルミナは胸を張っている。己はそれだけのことをしたのだと誇っている。

 それにコノエは、改めて街を見る。笑っている人々。

 

「……」

 

 己の行動の価値。それはコノエも理解していたつもりだった。

 この村もそうだし、シルメニアだってそうだ。沢山の人を助けた。数千人。コノエが居なければ死んでいた人々。礼だって何度も何度も言われた。それは分かっていた。

 

 ……でも。

 

「……そうか」

「ええ。そうよ!」

 

 ……でも、目の前でニコニコと笑うメルミナを見ていると、少しだけ、胸のあたりに不思議な感覚があった。

 

 

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