転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第15話 開拓村

 ――翌日、朝。

 その日は早くから汚染地での討伐が行われた。

 

 渇望については仕事なので頭から一度外し、真面目に任せられた役割を全うする。

 夜行性の魔物も効率よく討伐するために、日の出前からコノエは森を駆けまわっていた。

 

 走って、倒して、また走って。

 森の一区画を光線の雨と一緒に掃除する。金色の雷と赤い閃光で、闇に紛れる魔物を炙りだしていく。立ち向かってくる魔物も逃げ出す魔物も、全て焼き払い、討伐し――。

 

 ――しかし、その途中。コノエは思う。

 

「……敵が、少ないな」

『初日の段階で多少頭が回るのはもうとっくに逃げ出してるもの』

 

 コノエが呟くと、胸元のレンズからメルミナの返事が返ってきた。

 ……まあ、それはそうか。魔物は愚かではない。近くの区域で敵が暴れていたら逃げ出すくらいはするだろう。

 

『本当は逃がしたくないし、一匹残らず殲滅したいけれど、それは流石に不可能だから』

「……ああ」

 

 汚染地は広い。今コノエがいる汚染地も、数百キロ四方くらいはある。その中にいる魔物を全て討伐するのは、いくら広範囲の殲滅が得意なメルミナでも現実的ではなかった。

 なので、汚染地の掃除では厄介な魔物を確実に殲滅することが大事だと言われていた。あとは神威を撒き散らして、しばらく近づかないようにするのが重要なのだと。

 

『それに、あまり無茶すると森から魔物が逃げ出して周辺の街を襲ったりするし』

「……だから、ほどほどに、か」

 

 そういう訳で、仕方ないなと二人で呟きながら仕事を続ける。

 素材の量と数が少ないので今回は二日続けて掃除を行うか、など。そんなことを話し合いながら、日が高く上る頃まで走り回り――。

 

 ◆

 

 ――昼過ぎ。その日の仕事を終えてコノエは開拓村へ足を向ける。

 残党がいないか警戒しつつ、紫色の森の上を走って。

 

「……?」

 

 村の近くまで来たところで、村の外に人の気配が集まっていることに気付く。

 

 目を向けると、村と森との境界線。そこで多くの人々が作業をしていた。

 汚染地の木――汚染樹の周りに集まっているようで、男たちが木に斧を振り下ろしている。その周りには既に倒れた木もあって、女性たちが鉈で枝を払っていた。

 そしてさらに少し離れた場所には新しい木の苗も置かれていて……。

 

(……ああ、植樹か)

 

 そこまで確認して、コノエは彼らが何をしているのかを理解する。

 汚染された木を切って、根を抜いて、代わりに普通の木の苗を植える。そんな作業だ。

 

 彼らは冒険者ではなく、開拓村の住人だ。

 男だけじゃなく、女性や子供たちも混ざっていて、皆で協力しているのが見て取れる。村で一丸となって、()()()()()()()()()

 

「……」

 

 コノエは立ち止まり、無言でそんな彼らの姿を見る。

 これが、今滞在している村が開拓村と呼ばれる所以だった。

 

 汚染地の隣に住み、少しずつ、少しずつ、しかし確実に削る役目。迷宮氾濫で削られる土地を邪神から人の手に取り戻すための、どこまでも地道な作業だ。

 迷宮氾濫以外では汚染地は広がらないからこそ、成り立つ役目でもあった。

 

(……これを開拓と言うのは、少し抵抗があるが)

 

 人の住める土地を広げる作業なので間違いではないのだろうが。

 しかし、少し見方を変えれば邪神との領土の奪い合いの最前線とも言える仕事だ。 

 

(……過酷、だよな)

 

 開拓村の住人。彼らは汚染地から伐採した木を売り払うことで生計を立てている。

 魔物が跋扈する領域の傍では広い土地を必要とする農業は難しく、他所から買ってくるしかない。そのための金を手に入れる手段こそが、汚染樹だった。

 

 戦えない女子供まで動員した、都市結界の外での仕事。

 魔力と身体強化があるので、地球と比べれば伐採の難易度はかなり下がるものの、当然安全なものではなく、危険に満ちている。魔物に襲われて怪我をすることなど日常茶飯事で、死人だって多く出ている。

 

 誰もがやりたくない。そんな危ない役目だ。

 しかし彼らがなぜそれをしているかと言うと。

 

(……スラムの出身)

 

 元々、彼らには居場所が無かったからだ。

 迷宮の氾濫で家を、土地を失った人々。全てを失い、命からがら逃げだしてきて……しかし、その先に待っているのはスラムの過密過ぎる人口の中での厳しい生活だ。

 

 もちろんそんな環境の中でも、力が、能力があるのなら、もう一度這い上がれるだろう。

 でも、能力がない者がそれでも抜け出したいと思うのなら、基本的に方法は二つしかない。

 

 ……つまりは、奴隷になるか、開拓村に移住するか、だ。

 命の危険はないが尊厳を失う奴隷と、危険だが尊厳を保てる開拓村。その二つ。

 

(……どちらがいいかは、その人次第なんだろうな)

 

 コノエは小さく息を吐きながら、彼らから目を逸らす。

 空から地面へと着地し、村の入り口を潜る。そしてメルミナの元へと――。

 

「……?」

 

 と、コノエは己に強い視線が向けられたことに気付く。

 もの珍しげなものではなく、明確な意思をもって向けられる視線。

 

 だからコノエはそちらを見る。

 

「……」

「……あ」

 

 そこには一人の少年がいて、村の入り口の柱の影からじっとコノエを見ていた。

 コノエと少年の目が合って、少年は小さく声を上げる。そして、ほんの数秒互いの動きが止まって。

 

「……!」

 

 少年はコノエに頭を一度下げて、背を向けて走り出す。

 ……それをコノエは不思議に思いつつ、見送った。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 それは、コノエのいる汚染地から遠く離れた土地。

 また別の汚染地の、その奥深く。

 

『……NU』 

 

 そこに、一匹の魔がいた。

 強大な魔だ。永きを生きてきた魔。数多の人を殺し、喰って成長してきた邪悪。力と知性を兼ね揃えた邪神の尖兵。

 

『……NUU』

 

 その魔物には、大切なものがある。

 とてもとても大切にしているものがある。

 

 己の根源、欲望の行き先。

 許されざる権能の、その理由。

 

 魔物は、愛している。魔物は、ただただ見続けている。

 日が昇って、日が沈んで、また日が昇っても。季節が変わって、一周して、それを何度も繰り返しても。

 

 何十年も見続けてきて、しかし決して飽きることのなかった宝物。

 魔物はその宝物を大切に大切に内に抱えている。

 

『…………NUNU?』

 

 でも、実は最近、魔物は少し不満を抱えていた。

 なんだか輝きが鈍ってきた宝物があるのだ。しかもそれは沢山ある宝物の中でも一等のお気に入りだった。

 

『……NUNUNUNUNU』

 

 魔物は悲しくなる。とても悲しくなる。

 元の輝きを取り戻してほしいと思った。色々とやってもみた。それでも宝物はくすんでいく一方だった。

 

 魔物は考える。どうすればいいだろうか。

 諦められない。だってこれは、魔物の渇望(ねがい)なのだ。

 

 一つ確実な方法があるものの、それには重要なものが欠けていて、長年探し続けても見つからなかった。

 そうしている間にも宝物は濁り続けていて、だから魔物は他に方法は無いかと考えていて――。

 

『――NU!』

 

 そこで気付く。そうだ。この宝物を見つけた場所に帰ってみたらどうだろうか。宝物が、特別輝いていた場所。きっともう何もないけれど、何かが変わるかもしれない。そう思った。

 

 ――故に、魔物は久しぶりに地上に姿を現す。

 地下深くから顔を出して、己の眷属を空へと放つ。

 

 莫大な数の魔が産み出され、撒き散らされる。

 それは空高くに舞い上がって――風に乗って、目的地へと向かっていった。

 

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