転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第21話 居場所

 ――魔は、調べていた。

 村を調べていた。そこに何があるのか、誰がいるのか。なぜ、宝物は反応したのか。それを知るために魔は未だ村の近くで活動していた。

 

 村には使徒がいて、本来なら形振り構わず逃げ出さなければならない状況だった。魔物を滅ぼす白き神の使徒。もしかしたら、眷属から本体の位置を探る能力があるかもしれない。

 それでも、命を賭けて調べた。生存への本能を意志でねじ伏せた。だって、宝物が鼓動したから。反応したのを見たから。

 

 ――宝物は、魔の渇望(ねがい)だ。

 命よりも大切な願い。世界を塗り替えるほどの欲望。

 

『――NU』

 

 魔は調べる。眷属を利用して探っていく。隠れながら、少しでも使徒から姿を隠しながら。

 直接見れば、おそらくバレる。接続を深めてもバレる。それ以外の方法で調べる方法が、魔には必要で――それが、一つだけあった。眷属の記憶を調べればいい。

 

『NU』

 

 森に広がっていた数多の眷属。その記憶を確認していく。

 弱い魔物の低い知性。断片的な記憶。それを一つ一つ調べていく。調べて、繋げる。途方もない作業。終わりが見えず、大半の記憶は全く役に立たない。

 

 ……しかし、魔は永きを生きるが故に知っている。

 大変でも、必要ならやるしかないのだ。そうしなければ辿り着けないのなら、地道に一歩一歩その道を歩くしかない。

 

『――NU』

 

 魔は、調べ続けながら宝物を見る。

 それは一番大切な宝物だ。三十年程前に見つけた一番きれいな宝物。

 

 ――魔は、他の何よりもこの宝物を。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 翌日。朝からコノエは外壁の上に立っていた。

 ……いや、それは少し違うか。朝からではない。前の日からだ。コノエは例の茸の発見からずっと外壁の上に立ち、休むことなく警戒を続けていた。

 

「……」

 

 ……あれから、魔物は姿も気配も見せていない。

 ただ時間だけが過ぎている状況で、もう敵はとっくに逃げだした後じゃないかと思いたくなる程に変化が無かった。

 

(――でも、いる(・・)、な)

 

 ――それでも、コノエが立ち続けるのは、直感故だった。

 何かが近くにいる。何かをしている。何が狙いなのかもわからないが、確かに。

 

 だから、コノエは街の外壁。積み上げられた石塁の上を歩いている。

 メルミナと役割を分け、コノエは即応状態を維持していた。

 

 なお、メルミナは周囲にレンズを飛ばして周辺の茸の魔物の調査と討伐をしている。おそらく敵の力は茸を利用するのだろうと推測できることから、敵の力を削ぐ目的だった。

 

(……それにしても、敵は何故このタイミングで仕掛けてきた?)

 

 歩きながらコノエは思う。不思議だと。

 なにせ今この村にはコノエとメルミナがいる。わざわざアデプトが二人いるタイミングで仕掛けてくる理由はなんだ、と。

 

 村が目的なら二人がいないタイミングを狙った方が良い。

 高位の魔物は愚かではない。少し待つくらいのことが出来ないはずがない、とは思う。

 

(……村が目的ではないとすれば)

 

 となると、敵の目当てはむしろコノエかメルミナか?

 先日の竜のようにコノエ(アデプト)を狙って来ている可能性は十分ある。それなら今すぐにでも村を離れるべきだが……。

 

(……でも、勝手に想像して村を離れた結果、村が無防備になるというのも間違っている)

 

 むしろ今の停滞こそが、コノエとメルミナを村から追い出すための策である可能性もあるからだ。

 それに加え、いくら頭が良かったとしても相手は魔物。人の考えが及ばない思考を持っている可能性は十分にあった。

 

(……情報が足りない)

 

 ……完全に後手に回っている。現状では判断できない。

 

 まあ何かを守るというのは基本的にそういうものではあるけれど。傍に居て、何かあった時に対処する。そういうものだ。

 コノエの役目が村を守ることである以上、今できるのは警戒することだけだった。

 

 コノエは小さくため息を吐きながら、石塁の上を歩き続ける。

 視界の半分を森、もう半分を村、と両方を確認できるようにしながら。

 

(……しかし、村は静かになったな)

 

 コノエは村を見ながら思う。

 そこは昨日までと打って変わって暗い雰囲気に包まれていた。

 

 デーモン討伐後、素材収集する冒険者やそんな彼らを送り出す人々で賑わっていた通りは静まりかえり、ほとんど人通りは見られない。

 ごく僅か歩いている人々も硬い顔をした自警団か、息を潜める様に急ぎ足で歩く人々ばかり。そんな彼らに、コノエはいつかメルミナがデーモンの一件で呟いていた――葬式のようだった、という言葉を思い出す。

 

「……運が、悪いよな」

 

 つい、コノエの口から言葉が漏れる。そうだ、この村は本当に運が悪い。

 デーモンの砦が近くに造られ、襲われ、それがやっと片付いたと思ったら今度は推定災厄級だ。平和な時間は五日程度しかなかった。

 

 開拓村――邪神の領域との隣接地、戦いの最前線。

 魔物が多く、生きていくためには危険を冒さなければならない土地。

 

 ……やはり過酷な場所だ。

 少し過保護だったかもしれないが、テルネリカを都に残してきて良かった、とコノエは心から思って。

 

(……ん?)

 

 と、そこでコノエは気付く。村から近づいてくる気配がある。

 それも、コノエが知っている人物だ。彼は村の端に建った家から出てきて、コノエのいる外壁へ走ってくる。

 

 そして、コノエのすぐ足元まで来た。

 

「アデプト様!」

「……ああ」

 

 それはアリカ少年だった。彼はコノエを見上げている。

 走ってきたからか少し息が切れていて、頬も赤く染まっていた。

 

 コノエはそんな少年に何をしに来たのだろうと思い。

 

「アデプト様、あの、俺に何か出来ることはありませんか!?」

「……うん?」

「なんでもします! なんでもいい、何かがしたいんです!」

 

 少年が言う。何か役割を下さいと。家でじっとしているのは嫌だと。

 それにコノエは。

 

「……これから何が起きるか分からない。家で体力を温存しておいた方が良い」

 

 断る。首を振って返す。

 コノエなりに少年を気遣っての言葉だった。これから戦いになったとき、もしかしたら村から避難することになるかもしれない。その時に体力があるかどうかは生きるか死ぬかの境目になるだろうと。

 

 ……残酷な世界、厳しい環境の村。

 いざという時、己の身を守れるのは己だけなのだから。

 

「……ぅ」

 

 少年はそんなコノエの言葉に呻き、目を見開く。

 そして、下を向く。そのまま少しの沈黙があって……。

 

「……で、も」

「……?」

 

 少年が小さく呟き、そして、ばっと顔を上げた。

 意思の籠った瞳、固く結んだ口、強い決意を秘めた顔でコノエを見ていた。

 

「でも、それでも、俺は座っていたくない!」

「……」

「俺は、この村が好きなんです! だから、守りたくて」

 

 少年は叫ぶ。涙目で、そんなの嫌だと。

 歯を喰いしばり、手を握り締めて。

 

「……俺、ここに来る前はスラムに居ました。迷宮のせいで家族みんな死んじゃって、一人で残されて。誰も頼れる人なんていなくて、毎日必死に生きてました」

 

 孤児院の小さな部屋に同じような子供たち数人纏めて詰め込まれていたと。少年は言う。

 配られる食事は足りなくて、頑張って働いても大した金は貰えなくて。しかも疲れて帰ってきたら体をゆっくり伸ばすことも出来なかった、と。

 

 そんな日々を何とか生きていて、しかも――。

 

「――あそこにいると、盗まれるんです。同室のやつらに、金とか食い物とか。俺は体が丈夫で健康だったから仕事を貰えたけど、そうじゃない奴らもいて、皆腹が減ってたから」

「……」

「周りはみんな敵なんだって、そう思っていました。奪って、奪われて、殴って、殴られて。そんな奴らばかりだった。信じられる奴なんていなかった」

 

 ――だから、と。

 

「俺、ずっと周りを警戒してました。休んでても休まらなくて、寝ていても寝ていないみたいで。疲れて、苦しくて。でも逃げられる場所なんてある訳なかった」

「………………それは」

「……開拓村の募集があったのは、そんなときです。俺、開拓村のことなんて知らなかったけど、あそこから逃げたくて……それでここに来ることになった」

 

 そこまで言って、少年は小さく息を吸う。

 そして……笑った。

 

「ここは、違いました。全然違ったんです。魔物がいて危ないけど、自分の部屋がもらえて、腹いっぱい飯が食えた。そしてなにより――仲間が、出来た。信頼できる仲間が」

 

 一緒に笑い合えて、一緒に教官式の訓練を出来るような。

 ここにはそんな仲間がいるんだと。

 

「だから、この村は俺の居場所なんです! 新しい故郷なんです! だから、守りたい! なにかがしたい! 出来ることをしたいんです!」

 

 少年は叫ぶ。コノエに叫ぶ。

 それにコノエは……。

 

『コノエ、良いじゃない。そこまで言うのなら働かせてあげれば』

「……メルミナ」

 

 と、コノエの懐から声がする。胸元に入れていた連絡用のレンズだった。

 ポケットから飛び出して、分裂して、その片方が少年の方へ向かっていった。

 

『君……アリカ君だっけ? 仕事をあげるから宿の方へ来て』

「――っ、はい!」

 

 少年は顔を輝かせ、ありがとうございますと叫ぶ。

 そして、コノエに一礼してすぐに宿に向かって走り出した。

 

 宿のある中央通りへと向かって――その途中、あの、俺の仲間も働きたいって言ってました! と少年が楽しそうに言って、メルミナはそれなら全員連れてきなさいと言ったりしていて。

 

 コノエは何も言わず、走っていく少年をただ見送る。

 

「……」

 

 ……少し、驚いていた。

 

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