転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
――その、少し前。
魔は、情報を集め終えていた。
数多の眷属の記憶を読み、繋げ、確証を得た。
現在開拓村に居るもの。在るもの。その全てを可能な限り調べ上げた
そして、理解した。なぜ宝物は反応したのか。
見つけたからだ。『それ』を見つけたから。
『――NU』
見つけた。見つけた。見つけた。
見つけた。見つけた。見つけた。
見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。見つけた。
――やっと、見つけた。
魔の渇望が叫ぶ。手に入れろと。逃がすなと。何があっても手に入れろと。
『――NUNUNUNUNU』
だから、カラン、カランと。鐘は鳴る。
門は開かれ、眷属は世界に溢れ出す。
そうだ、魔が見つけた、『それ』とは――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
異変は、コノエの前にすぐに現れた。
鐘の音と共に、
「……顕現」
槍を造り出すと同時に見渡す限りの森の土が浮き上がる。
メルミナが森へと飛ばしたレンズの下で、浮き上がった土から数えきれないほどの真っ青な傘が顔を出す。
――森に無数の茸が生えてくる。
瞬く間に視界から地面は消え、黒紫の森が溢れ出した青に乗っ取られる。
巨大な樹木が茸に根元から掘り起こされる。なぎ倒され、転倒する。巻き込まれた魔物達は驚愕し、逃げまどい、しかし地の底から突如現れた膨大な質量に呑みこまれていく。潰れる悲鳴。巻き上げられる血しぶき。それすらも青の暴力で埋められていく。
そして――。
「――」
遥か遠く。開拓村から数百キロは離れた場所。
そこに、一つの強大な気配が現れる。遠く離れていても分かるほどの気配。悍ましき力。
――災厄が現れる。
コノエはその力の波動に、十字槍を構え。
(……む、これは……僕では手を出し辛い、か)
――随分遠いな、と思う。
これほど遠距離から広範囲に力を展開できる相手。茸を使った監視。おそらくは遠距離戦特化の力だ。生やした無数の茸を使って戦うタイプの可能性が高い。
そして、そんな力を持つ相手にコノエは相性が悪かった。
基本的に近、中距離が得意で、超遠距離に攻撃する手段がないからだ。
自分はサポートに回るべきかとメルミナを見る。
メルミナはそんなコノエに不敵な笑みを返す。それはそうだ。なにせ超遠距離戦こそがメルミナの本領。これは彼女にとっての必勝の距離だった。
「……」
互いに頷き合う。レンズを生み出し続けるメルミナが一歩二歩と下がり、コノエはその前に進み出る。つまり、これから始まる戦いでコノエの役割はメルミナの護衛だということ。
コノエは槍に加えナイフを生み出す。
目の前の無数の茸。敵が何をしてこようとも迎撃してみせると、そう、茸に向き直って――。
――うん?
「――なんだ?」
「――え、これ……」
コノエとメルミナは驚き、同時に呟く。
それはなぜって。
「……こちらに、近づいてきた?」
「それも一瞬で百キロは距離を縮めたわよ……? 転移かしら」
強大な力の気配。それが大きく動いた。
一瞬で移動。それはまるで、転移――空間系の力のような。
これはまさか……敵は空間系の使い手だった? いや、それなら目の前に広がる茸の群れは? これは明らかに空間系の力ではない。流石に固有魔法とはいえ、系統の違う力を使うのは難しいはずだ。
――では、なんだ?
思考がコノエの中を駆け巡って。
「……」
「……」
しかし、答えは出ない。正体不明。
過去に聞いた覚えのない特殊な権能。
そして、二人が思考を巡らすうちに、再び気配が動く。数十秒の間隔。
さらに百キロ程接近して、あともう一度移動すれば村の直近まで来てもおかしくない距離。このまま村まで接近してくるつもりだろうか。
(……どうする?)
思考する。敵への対処法について。すでに遠距離戦という想定は崩れた。
このままではすぐにでも敵はこの場に現れる。
先制して一当ては……やはり無理か。ここまで特殊な力だと攻撃もし辛い。
なにより、村の近くだ。己だけの戦いだった竜とは違う。背後には守るべき人々がいる。仮に空間系だとしたら、最悪打ち込んだ槍を村の上空に転移される可能性もある。
そもそも敵は隠れず真正面から近づいて来ている。何か策があるはずだ。その場合やはり軽率な判断は危険で。
「――私が、次で必ず力を見抜いて見せる。少し時間を頂戴」
そこで、メルミナの提案が来る。
彼女も、様子見の選択。村を考えるとそれしかない。護衛としての立場でも、そうだ。
「……わかった」
頷く。現状、それが最善だと思った。
初手さえ凌ぐことが出来れば、後は有利に事を運べる。
……ならば僕の役目は守ることだ、と改めてメルミナの前に立つ。たとえ何が襲って来ようとも、己を盾としてメルミナだけは守り抜く決意。
そんなコノエの背後でメルミナが力を高めていく。全力で固有魔法を展開し、移動を待ち構えるつもりだろう。
……そして、次の瞬間、敵の気配が――。
「…………っ!」
「――見つけた! これは……」
――ほんの数キロ先には強大な魔の気配が現れる。
直後、メルミナのレンズが空を走る。
「――――転移じゃない! ……まさか、乗っ取っている!?」
数秒の後、彼女は叫び――乗っ取る?
コノエの頭に疑問符が浮かび。
「攻撃を!」
「――」
しかし理解できなくても、メルミナの指示にコノエの体が動く。
槍を振りかぶり、雷を生み出す。メルミナのレンズも廻転し、赤光を放つ。
「これは、たま――」
メルミナが叫ぶ中、放たれた槍が感知した魔の気配に迫る。赤い光線が迫る。
それらは確かに気配のあった場所を打ち抜いて――。
(――!?)
その僅かな瞬間。コノエは、霧の中に赤い何かを見た。
いや、何かじゃない。それは少女だった。泣きそうな顔をした、
「――し、ぇ?」
同時に、背後から呆然とするような声が聞こえて――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――その、少し前。
魔が汚染地に現れる直前。
魔は、寝床で蠕動していた。そして、権能を行使した。
渇望を掲げ、宝物を想い、願いを顕現する。
敵は強大だった。しかも二人もいる。戦って勝てるはずがない。
魔は戦いが苦手だった。それを自覚していた。
常に逃げてきたから経験が足りず、痛みも嫌いで、覚悟も足りていない。
――でも、引けなかった。
これは魔の渇望なのだ。何十年経っても全く薄れない欲望なのだ。決して諦められない、生存本能をも凌駕する願い。
今まで、数十年探した。ようやく見つけた。
次に見つけられるのが何時か分からない。もう見つけられないかもしれない。それは駄目だった。余計な敵が増えるとしても、それだけは許せなかった。
だから遥か彼方より、魔は汚染された森の真ん中に現れる。開拓村から数百キロ離れた地。
そして門を開く。遠く離れた使徒たちに向けて眷属を開放する。
たとえ勝てずとも、手に入れるために。
今度こそ、あの輝きを――。
――そうだ、それに……
「……NU」
魔は、己が体を撫でる。
そこには、その中には、魔の固有魔法がある。門によって閉ざされた世界。
その世界には、魔の眷属と宝物が
魔は、宝物が好きだった。綺麗だから、好きだった。ずっと見ていたくなるくらい、好きだった。
だって――魔の宝物は、笑うから。
喜んで、泣くから。愛して、憎むから。
楽しんで、怒って、苦しんで、悲しんで――魔を楽しませてくれるから。
キラキラとした感情を、見せてくれるから。何十年経っても、全然飽きない輝きを。
「……NU、NU、NU」
魔は――感情が、好きだ。そういう生き物になった。
喜怒哀楽が好きで、情が好きで、それを何よりも美しく思った。宝石みたいだと思う。籠に入れてずっと見ていられたらどれほどいいだろうと、そう思った。
――だから、抱きかかえた。
己の中に、世界を作った。そういう固有魔法になった。
「……NUNUNUNUNU、NUNUNUNUNUN」
魔の中には、無数の光がある。
キラキラと輝いて、すごく楽しそうに笑っている。ぐちゃぐちゃと足掻いていて、絶望して泣いている。それは――。
――それは魂だ。人の魂。
――魂を支配する権能。それが魔の固有魔法だ。
「……NU」
そして、そうしているうちに魔は森に眷属を放ち終える。
ちょうど、二人の使徒の目の前まで届いたころ。
確認した魔は動き出す。権能のさらなる解放。
百キロ先、遥か遠くに生える眷属の魂を掌握し――己を上書きする。
「――pygya!!」
ぷちりと、眷属の魂がつぶれる。
でもその代わりに、その眷属の体が魔の物になる。
つまりそれは、遠く離れた場所へ移動するということだった。
そうやって、次から次へと移動する。数百キロの距離をほんの数分で踏破する。
「……NU」
そうだ、そうすれば目的はもう目の前に居る。
そこは使徒がいる場所。戦っても勝てない相手が居る場所で。
「NU、NU、NU、NU、NU、NU」
でも、魔は、人を理解しているから。
魂を捕まえ、ずっと見てきたから。
それ故に、分かった。
伝わってきた。その思いが、願いが。
――『それ』の
「……NU、NU、NU、NU、NU、NU、NU、NU、NU 、NU!!!」
――かくして、その権能は発現する。
『
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――その瞬間、同時にいくつものことが起きた。
まず、現れた魔。それを確かにコノエの槍は打ち抜き――しかし、どういう仕組みか無傷の姿ですぐ近くに移動していた。
外見は茸を女性のマネキン型に変形させたような姿で、歪な形の口元は笑っているようだった。コノエはその姿に本能的に拒否感を覚える。
次に霧の前に一瞬現れた赤髪の少女。それは――消えた。
確かに見えたはずの少女は霧に移っていた映像のように搔き消され、まるで最初から存在しなかったようだった。
そしてコノエは――すぐに次の攻撃へと移った。
槍が躱された様子を見て、その仕組みを考察しつつ、今度は手数を増やすために投げナイフを大量に生み出した。
最期に、メルミナは――。
(……え?)
――何故か。展開されていたレンズがコノエの前で消えていく。
そして言いかけていた言葉は続かない。赤い光が消え、力が消えていき――すぐ後ろにあったはずの気配もまた、消えていく。
(……なにが?)
いや、違う。気配が消えたわけじゃない。
ただ、もっと大切なものが消えていったから。それで誤解しただけだ。彼女はまだそこに居て、居るはずで、それなのに……。
――ぐらりと、少女の体が揺れる気配。
コノエには、分かる。分かった。
分かりたくないのに、分かってしまった。
(……メルミナ?)
――メルミナの生命反応が、消えていた。