転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
そして、数日が経った。
コノエはその日、神様の部屋に招待されていた。
【――コノエ、ありがとう。あなたのおかげだよ】
「……いえ」
神様がお茶の準備をしてくれている。ポットの中にお湯を入れて、蒸らしたりしている。
机の上にはお菓子も盛られていて、お茶会の準備が出来ていた。
――今回の一件の報告も兼ねたお茶会。
その席で神様はコノエに、メルミナを助けてくれてありがとう、君のおかげだよと言う。
……でも、コノエとしては。
「僕は結局失敗してしまいましたし……神様があのとき、助言をくれたからです」
最終的にメルミナを助けたのは彼女の姉で……それに、そもそもの話をするならメルミナが倒れたとき、まだ間に合うと教えてくれた神様のおかげだ。
あの言葉があったから、だから、失わずに済んだ。コノエとしては、むしろ神様にお礼を言わなければならない。
「……ありがとうございます、神様」
【……相変わらずなんだから。もっとあなたは自分の成果を誇ってもいいんだよ?】
そんなコノエに神様が苦笑する。もっと胸を張りなさいと。
でも、そう言われても、コノエにとっての真実はそれだった。
【じゃあ、謙虚なあなたの代わりに私が沢山ほめてあげる。頑張ったね、コノエ。すごいよ】
「……いや、その」
すごいすごい、と神様からの賞賛が心に直接伝わってくる。
それに……コノエはなんと返せばいいか分からなくて、困って。でもそんな風に目を逸らすコノエを神様はニコニコと見る。
照れたりして、もっと褒められたりして。
なら自分もともう一度お礼を言ったら、もっともっと褒められたりして。
そんな時間が、少し続く。
そして――。
【――はい、どうぞ】
「……ありがとう、ございます」
そうこうしているうちに、神様がコトリと目の前にお茶を置いてくれて、コノエは色々誤魔化すために、すぐに口に運ぶ。
神様も向かいに座って、一口お茶を飲んで。
【でも、なにかあなたにお礼をしないと。お願いも聞いてもらったし。何がいいかな?】
「……?」
【二つのお願い。
それは……開拓村に行く前の話か。教官の見合いとかの一件。
そういえば、そんなこともあったなと。
完全に忘れていたコノエは、大丈夫ですと言おうとして――あ、要らないっていうのはダメ、と神様が禁止する。
【ご褒美も満足に出せないと、私の威厳にも関わってくるから。……さ、何でも言ってみて?】
神様が胸を張って、さあこい、という風な顔をする。
いやしかし、何でもと言われても、要らないは禁止と言われても、コノエには何も浮かばない。どうしようかと目を泳がせて……。
【ほら、例えばあれが欲しいとか、これがしたいとか。あとは……なにか、相談事とか? 困ってることとかない?】
「……相談?」
【そう、これでも多くの
神様がますます胸を張る。翼も大きく広がっている。
「……」
悩み事、相談、といえば……そういえばコノエには色々考えていたことがある。
メルミナのこととか、気を抜くことだとか。いつも気を張っていると傍にいる人が疲れるとか。
……メルミナのことは、今回の一件でどうやら解決したらしい。
全部取り戻せたのだとか。それはコノエとしても喜ばしいことで。
……と、なれば。
「……その」
【うん!】
「……気を抜くって、どうやれば――」
◆
――と、そうしてお茶会の時間は過ぎていく。
コノエと神様は色々話をして、相談して、頷いて。
もっともっと相談して! と言われたり、話を逸らしつつ今回あったことを報告をしたり。
……その日、コノエは神様と少し長めのお茶会を楽しんだ。
◆
――翌日。
コノエは転移門を潜って開拓村を訪れる。
「――資材、錬金工房に運んで――」「隊長、調査隊の人員は――」「――そこ退けて! 運搬車通ります!」「触媒が足りません! 至急追加を――」「――食料の手配は――」
転移門の先は、大勢の人の声が行き交っていて、少し前の静けさが嘘のようだった。
村の人々も、外から来た人々も一緒になって走り回っている。
これは一件の後、メルミナが都から調査団や錬金工房を村に引き込んだ結果だった。
茸によって跡形もなく掘り返された森。汚染樹は根こそぎ倒されて、魔物は茸に押しつぶされた。その結果、ここは極めて容易に汚染地の素材が手に入る場所になっていた。
それで、これは商機だと腕と足の修復をしながらもメルミナが各所に声をかけて――裏では迷惑料だとメルミナもかなりのお金を出して――こんな感じになっている。
人が多く集まって、素材の回収と運搬はどんどん進んで。メルミナは出したお金を取り戻す勢いで稼いでいるのだとか。色々あったのに相変わらず逞しくて頼もしいなと思いつつ……。
「………………ん」
……ふと、コノエは走る人々の中に、少年、アリカを見る。忙しそうに、でも楽しそうに走り回る少年。あの騒動のときは、色々と走り回ってくれたらしい。
轟音と振動への対応。加えて、コノエが森を焼いたことで瘴気が発生しており、瘴気の届きにくい地下の避難所への老人の誘導などをしてくれたと。
コノエとメルミナが帰ってきたとき、少年は疲れた顔で、でも満足そうに笑っていた。
住民に被害がなくて良かったと笑う少年は、この村が好きだと笑っていた時と同じ顔だった。
「……」
……この村は、周囲の汚染地が根こそぎ無くなったことで、近い将来開拓村ではなくなるようだ。普通の村になって、安全になって、外に出られるようになる。村を広げて、もしかしたら、農業も出来るかもしれない。産業も作れるかもしれない。
コノエも陰ながら、そうなればいいなと思いつつ、瘴気の迷惑料がてら、いくらか今回の報酬を村の資金に入れて――。
◆
「――今回は、お疲れ様!」
「……ああ、お疲れ様」
夜、コノエはメルミナと宿の食堂で食卓を囲む。明るく笑うその姿には両手と両足が付いていて、ちゃんと治せたんだなと安心する。
そして、腰の所には神様の加護もあって、中にはメルミナのお姉さんの魂が入っている。今は中で眠っているけれど、どうにか肉体を造ってあげるのだと言っていた。
「コノエには色々世話になったわね。……本当に、ありがとう」
「……いや、こちらこそ」
そんなメルミナに、やっぱりコノエは、それはこちらのセリフだと思う。
あのとき、メルミナが泣いてくれたから。お姉さんがメルミナを助けてくれたから。そのおかげで、コノエは。
……まあ、メルミナは泣いてはいないと言ってたけれど。
「今日は私のおごりだから。好きなように食べて、飲んで! ……ああ、そうだ、調査団が都から入った時に良いお酒も入れたのよ」
「……酒、か」
「……まあ、あなたは飲まないんでしょうけど。あーあ、私がお酌してあげようと思ったんだけどなー」
こーんな美少女にお酌してもらえるってのに、あなたはいっつも真面目なんだから。と、そうメルミナは言う。
私にお酌してもらえる人なんて他にいないのよ? と。
それにコノエは――。
◆
――少し、神様とのお茶会を思い出す。
【気の抜き方? うーん、一般的な意味なら、お風呂に入るとか色々あると思うけど。あなたが言ってるのはそうじゃないんだよね?】
『……はい』
【そう、だね……でもやっぱり、なんでも新しく始めるときにやることは同じじゃないかな?】
『……?』
【つまりね、まずはマネから、だよ。武術も、魔法も、勉強もそう。出来ている人の、マネをするの】
◆
つまり、今回の場合は。
「コノエ、何食べる? 適当に盛ってもらうのでいい?」
「……任せるよ」
コノエは、目の前に座る少女を見る。メルミナ。
店員に調理や酒を頼んで、楽しそうにしている。
……気も、多分抜けている。
……だから。
「……メルミナ」
「なに?」
「……一杯だけ。貰おうかな」
「え?」
正直、戦後処理中だし、あまり良くないとは思う。思うけれど。
でもまずはマネだというのなら。
「……一杯だけ、酌をしてほしい」
「へ?」
「……僕も、君の酌をするから」
だから、まあ、少しだけ。
抵抗はあるけれど、それ位なら大丈夫かなと。
メルミナはぽかんと口を開けて。
でもすぐに、任せて! と笑う。
そして、話しているうちに、料理と酒がやってくる。
メルミナはコノエのグラスに酒を注いでくれて、逆にコノエはメルミナのグラスに酒を注ぐ。
そして――
「――乾杯!」
「……乾杯」
グラスを合わせて、口に含んで。
なんてことのない話をしながら、食事をする。
そうして、開拓村の夜は更けていき――。
――
――
――
「――ああ、あと……茸と戦う前にした約束は、守るから。
…………よく、考えておいて」
………………うん?
これで第二部は完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
いろいろ悩むことも多かったのですが、皆様の応援のおかげで無事完結までたどり着けました。この場で感謝の言葉を述べさせていただきます。
前回やった人物紹介は推敲が忙しくて何も書いてないので、今から書きます。
でもちょっとゆっくりしたいので……多分一週間以内には……がんばりたい。
第三部はまだあんまり考えてないので、少し時間を頂くことになりそうです。
また、今回もX上でアンケートやります。四章五章で印象深かったキャラについてです。
時間のある方は投票していただけると作者が喜びます。誰も投票してくれなかったら作者がさめざめと泣きます。
そして、最後にご報告なのですが……今作の書籍化が決まりました!
現在進行中です。今は言えることも少ないですが、そのうち色々とお話しできたらと思います。