転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
――結論から言うと、どうやら二人は仲良くなったらしい。
「私たち、お知り合いになったの」
「はい、お知り合いになりました」
並んでにっこりと笑う二人に、コノエは何度も瞬きをする。
いつの間に? と聞けば、ついさっき。
どこで? と聞けば、すぐそこで。
「…………?」
コノエはまた、何度か瞬きする。
この混乱が何なのかはコノエ本人にも分からない。それはもしかしたら、二人は仲良く並んでいるのに微妙に笑顔がいつもと違う気がしたからか。もしくはコノエの人生では、すぐそこでついさっき会った相手と仲良く笑い合うという構図が想像できないからか。
……それとも、また別の理由か。
「………………? そう、なのか」
「そうよ」
「はい」
「……そうか」
……とにかく、コノエは軽く混乱しつつ、しかし頷く。
二人がお知り合いになるかどうかは己が口出しすることではないだろう、と。
「あ、ところでコノエ、アーキノルカに行くのよね?」
「……え、あ、ああ」
「私も行くから。ついでにお知り合いになったテルネリカのことも私が守ってあげるわ。これで彼女も一緒に行けるでしょ?」
「………………」
突然沢山入ってきた情報に無言になりつつ、頭の中で整理する。
…………問題ない、と思った。むしろありがたい。
メルミナがアーキノルカに行くのは自由だし、彼女がテルネリカを守ってくれるというのなら安心だった。メルミナはとても頼りになるのだ。コノエは知っている。
「……?」
……しかし、そこで、コノエの頭に一つ気になることが浮かんでくる。
それはあの日、書架の中で……。
「……メルミナ、いいのか? その、薬のための資料集めは」
メルミナの姉のことだ。体を作るためにと資料を集めていた。そちらはいいのだろうかと。書庫の中は広くて、データの量も多い。コノエとしても機会があったらまた手伝おうと思っていたので、ふと気になった。
「ふふ、大丈夫に決まってるでしょ? というか今回の件はそれも関係があるもの」
「……え?」
「データなんてもうとっくに調べ終わってるわよ。徹夜したわ。でもそのおかげでアーキノルカの瘴石の採掘が滞ってることを突き止められた」
メルミナが胸を張りながら言う。
曰く、どうやらアーキノルカでは数か月前、ダンジョン内の瘴石採掘用のルートの一つが崩落と魔物のせいで使えなくなったのだとか。しかし以前の災厄のせいでアデプトだけでなく、それ以外の騎士も冒険者も殺されたらしく、結果としてまだ新しいルートを確保できていない、と。
「あそこの人手不足も相当よね。同情するわ。……で、そこに私が手を挙げたの。新しいルートの確立を手伝ってあげる代わりに、瘴石を譲り受ける約束。私の力なら、新しい安全な道の発見は難しくないから」
「……なるほど」
「あと、販路にも少し噛ませてもらう予定よ。……ふふふ、瘴石の販路なんて、普通なら新規参入は不可能なのよ?」
なんだかすごく楽しそうなメルミナが、昨日の晩にもう契約も終わらせてきたわ! と鞄を開け、契約書の束をコノエに見せてくれる。
数十枚はありそうな紙束があって、一番上の紙には難解な言葉がみっちりと詰まっていた。異世界版の甲とか乙とかそういうヤツだ。コノエとしてはもう理解の外だった。すごいなぁ、としか言えない。
「…………まあ、とは言っても問題が無い訳じゃないけどね。どうやら厄介な書類仕事が増えそうなのよ。流石に
メルミナはげんなりとした顔をして……。
「……ああ、そうでしょうね。アーキノルカは書類が多いですから」
と、そこで横にいたテルネリカが呟くように言う。鞄の中にちらりと視線を向けて、あぁやっぱりと、小さく息を吐いた。
それにメルミナはあら、と意外そうな顔をして……。
「……テルネリカ、もしかして詳しいの?」
「詳しいと言うほどではありませんが、うちの聖花は他国とも取引がありましたから。……なんでしたら手伝いましょうか?」
「え? いいの? 給料出すわよ?」
「ええ、まあ。……コノエ様がいない間、守られるだけというのも居心地が悪そうですし」
「それなら――」
――と、そんな感じで二人があれやこれやと専門用語を使いながら話しだす。
その様子をコノエは、なんだかすごいなと思いながら見ていた。
◆
そして、翌日からアーキノルカに向かうための準備が始まる。
予定では長くても十日程度の仕事だ。ただ、他国に向かうので今までの様に手軽に移動、という訳にはいかない。
現地の状況も分からないので、いつもより多めに準備をする必要があった。
それに、何よりも。
「――コノエ様、私の物までありがとうございます」
「……いや、必要なことだから」
一緒にアーキノルカに向かうことになったテルネリカの旅の準備が必要だった。
なのでその日、コノエは朝からテルネリカと買い物に向かう。
デパートなどの便利な大規模商業施設がない異世界の都市。二人は大通りを歩きながら一つ一つ店に入り、必要な物を買いそろえていく。
緊急時の食料、水などの手配に、靴や雨具なども。
……テルネリカは故郷から何も持ってくることが出来なかったので、実は服も今の季節の物しかない。なので今回向かうアーキノルカは山の上の国のため、厚手の服や防寒着も必要で……。
「――この服はどうでしょうか?」
「……その……似合っていると、思う」
「……えへへ、嬉しいです。じゃあこれにしますね」
入った店で、ふたりはそんなありきたりとも言える会話をしながら服を見る。
ちなみにどんな服かと言えば、可愛くて動きやすそうな服だ。
ファッションに何の知識も持たないコノエではそうとしか表現できない。なので褒め方も分からず、ただコノエはテルネリカに似合っているとだけ伝える。
でもそんなコノエにテルネリカは嬉しそうに頬を染め、くるりと回って。
コノエはなんだか少し恥ずかしくて、目を逸らし――
――
――
――
「……じゃあ、最後に鞄を」
「その、ありがとうございます」
そして、最後に魔道具屋で鞄を買う。空間魔法で中が拡張された鞄だ。
この世界では旅の必需品ともいえるそれを色々と見て回る。
「こんなに入るのなら、折角ですしシルメニアの皆にもお土産を買って帰りたいですね」
「……お土産……」
中を確認しながら呟くテルネリカに、コノエはふと、その言葉を繰り返した。
◆
――準備は進んでいく。買い物が終われば、次は他国への出国手続きだった。
アデプトはその戦闘能力故に、歓迎されながらも国境の移動は厳重だ。手続きは多く、手間がかかるようになっている。
「……?」
なのでコノエは疑問符を常時浮かべながらも、互いの国の書類を学舎の事務所で職員の助けを借りながら作成していく。
難解な書類は、まるで違う言語のようで。
「………………??」
……ちなみに。この世界では国ごとの言語の違いはない。神様の言葉で統一されているからだ。言語の神様がいて、その加護をすべての人類が持っているから。これは人がそれぞれ持つ加護とは別の扱いで、たとえ神への誓いを破っても剥奪されない。専門用語では基本加護と呼ばれていた。
異世界人も同様にこの世界に来た直後から全員に付与されていて、コノエもこの世界の言語を日本語のように話せたし、読めていた。
この世界において、人と人の間に言語の差は存在しない。まるで地球の神話におけるバベルの塔が崩壊する前の世界のようだった。
◆
「……………………???」
「お疲れさまでした、コノエ様。こちらは私どもの方で処理しておきますね」
「……ありがとう」
そして、すべての手続きを終えて、コノエは事務所を出る。
解放されて、少し爽快な気分で廊下を歩き……。
「……?」
……そこで、コノエは視線を感じる。
強めの気配が混じった視線。なんだろうとコノエはそちらを――。
「……」
【……】
――目を向けた先には、真っ白な影。
神様が柱に体を半分隠すようにしながらコノエをじっと見ていた。