転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第11話 ぐんにゃり

 柱から半分覗く神様の顔と、全く隠せていない真っ白な翼。向けられた視線。

 神様はじっとコノエを見つめていて、それを不思議に思い足を止める。

 

「……」

【……】

 

 ほんの数秒間、コノエと神様は見つめ合う。

 そして気付く。神様の翼がいつもと違ってぐにゃりと垂れている。

 

 いったいなぜだろうとコノエは思って。

 

【……!】

 

 そうしていると、神様がコノエに向かって手招きする。こちらにきてという仕草。

 コノエは首を傾げながら神様の傍へと近づいて……。

 

【……あのね】

「……はい」

 

 目の前まで来ると、神様はとても真剣な顔をしていた。

 いつも笑顔の神様の、珍しい表情。それにコノエは困惑しつつ、頷く。

 

【あなたに伝えたいことがあるの】

「……はい」

 

 いつになく畏まった様子。ゆっくりとした口調――雰囲気。

 伝わってくる一つ一つに含まれる感情はいつになく重かった。

 

 そんな神様にコノエは……もしかして何か大変なことがあったのだろうかと思う。

 

【これは真面目な話だから、よく聞いて】

「……」

 

 真面目な話。……誰かが死んだ、何かが終わった、そんな話かもしれない。

 じわりと、コノエの脳内に暗い想像が浮かび始める。うっすらと汗が滲み始める。

 

 ごくりと息を飲むコノエに、神様は大きく息を吸うような仕草をして――

 

【――いいかな? 移籍は簡単に決めるものではありません】

「………………うん?」

【拠点を移す、というのは簡単なことではないの。国が違えば生活環境も、気候も、食べ物も、全部違うんだから。よく考えて決めないとダメ】

「………………」

 

 ……コノエは、何度か瞬きをする。

 ……最近、どこかで聞いた気がする話だった。

 

【行ってから違ったって思っても契約してからじゃ遅いの。衝動的なのはダメなんだから……む、ちゃんとこっちを見て】

「……あ、はい」

 

 思わず教官の部屋へ目を向けるコノエに、神様のふくれたような雰囲気。

 それにコノエは慌てて背筋を伸ばし、耳を傾ける。

 

【いい条件があったからって飛びつくのではなくて、ちゃんと他の点も調べて、現状と比較して、それからにしないと】

「……はい」

【……例えばね、この国は気候がとても安定していて――】

 

 ◆

 

【――みんな頑張ってくれてるから技術も進んでいるの。異世界の物も取り入れてるし、最近食べた綿あめっていうお菓子にはすごく驚いて――】

 

 ◆

 

【――この国はお茶が美味しくてね。種類も多いの。聖花のお茶とか飲んだことある? あれは絶品で――】

 

 ◆

 

【――だからね、そういう慣れた生活の中にも、普段飲んでいるお茶みたいに、何気なく輝いているものがあったりするの。そういうものにも目を向けるようにするべきなんだよ?】

「……はい」

【この国には良いところが沢山あるんだから】

 

 ――なんて、そんな感じで神様の話しは続く。

 コノエは話を真面目に聞きつつ、似たような話でも話す人が違えば結構違うんだなと少し思いつつ。

 

「……」

 

 ……途中、ふと、思う。

 そういえばあのとき教官は国に残ってもらうために説明すると言っていたけれど、今回の神様も同じなんだろうか、と。

 だって、この国の良いところをたくさん説明してくれている。

 

「………………」

 

 ……けれど、その考え自体が酷く恥ずかしくて、コノエは落ち着かない気持ちになって――。

 

【それでね。もしも……】

「……?」

 

 ――と、そこで、神様の雰囲気が変わる。

 それまでとは違う、少し悲しそうな雰囲気。

 

【……でも、もし、沢山考えた後で、この国を離れると決めたのならね】

「……はい」

【……そのときは、ちゃんと送り出すから。一度は帰って来てね……】

「……え?」

 

 一度は、帰って来て、とは。何のことかと首を傾げるコノエに、神様は垂れていた翼をさらにぐんにゃりと垂れさせる。

 曰く、今回のコノエの様に他国に向かったきり帰ってこなかったアデプトがいるのだとか。

 

【合わせる顔がない、とか考えないで……一度は顔を見せて……】

「……か、神様」

 

 帰ってきてくれてない子が沢山いるの、と。

 かなりショックだったのか、神様からすごく悲しげな雰囲気が伝わってくる。

 

「……その、僕は、帰ってきますから」

【……本当?】

「……は、はい、本当です。今回はあくまで依頼ですし、それに」

 

 それに、とコノエは言う。

 そうだ、今回のアーキノルカ行きでコノエは一つ考えていたことがあって。

 

「……その、お土産、を」

【……え?】

「……お土産を、買って来ようと、思っていまして」

 

 ――ほんの数時間前、テルネリカが言っていたこと。

 

 コノエも、神様にお土産を買って帰ろうと思った。

 今までそういうものを買ったことはなかったけれど、でもテルネリカがお土産と口に出した時、コノエの頭の中には神様の顔が浮かんだから。あと教官も。

 

【……………………】

「……だから、その」

【………………うん】

 

 神様は目を見開いて――力が抜けたようにふわりと笑う。

 ぐんにゃりとしていた翼も力を取り戻して。

 

【……じゃあ、待ってるね!】

「……はい」

【帰ってきたらお茶会を開くから、そのときに見せて!】

 

 ――なんて、神様といくつか話してその場はお開きになる。

 

 神様は行ってらっしゃい、頑張ってねとコノエに手を振って……コノエは見送られながら、言ったからには良い物を買って来なくては、なんて思ったりもした。

 

 ◆

 

 ――そして、三日間の準備期間が終わる。

 コノエとテルネリカの手続きを終え――メルミナは先に現地入りしている――学舎の隣にある転移門の中でも一際大きなものの前に立つ。

 

 国外へと続く、少し特別な門。

 そこを二人は、警護をしている門番たちの見送りを受けながら潜り――。

 

 ◆

 

 ――門を抜けた先には、切り立った山々が広がっていた。

 

「………………」

「わぁ、すごいですねコノエ様」

 

 転移門の正面には壁が大きく切り取られた窓があって、周囲一帯が見渡せた。

 少し薄い空気。低い気温。その結果と言わんばかりに山々には雪化粧が施されている。

 

 一万メートル越えの山々が連なる、高山地帯。

 地球では決して見ることのできない、白く輝く雄大な自然があって。

 

「――本当に山の中(・・・)に街があるんですね」

「……ああ」

 

 ――しかし、この場でコノエとテルネリカの目を引いたのはまた違うものだった。

 二人が見ていたのは、街だ。山の中にある街。ただ、山の中、と言っても日本人が一般に想像するものとは大きく違う。

 

 文字通り(・・・・)、山の中にある。山の中腹を大きく抉り、その中に街が建てられていた。そんな街が、高山地帯一帯にいくつも見て取れる。

 

 ――天空国家アーキノルカ。それが、この国――現自治領のもう一つの名前だった。

 

 

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