転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第12話 十五年前の約束

 ――景色を一頻り見た後、コノエとテルネリカは転移室を出る。

 するとそこには見覚えのある二人が待っていた。

 

「ようこそ、お越しくださいました」

「御来訪を歓迎いたします」

 

 コレットとエレニカ。二人の緑の竜人に迎えられ、どうぞこちらへと案内される。

 転移室横の事務所でテルネリカと二人、移動の手続きをして、持ってきた書類を渡す。

 

 それが終わると、この後は早速ですがフォニア様より今回の依頼のご説明があります、と促され、コノエたちは転移室に隣接したアーキノルカ城の中へと足を踏み入れ――。

 

「……」

 

 ……コノエは、少し目を見張る。

 

 ――城の中は、これまた変わった様子になっていた。

 何が変わっているって、床と壁と天井が同じような質感で出来ている。同じ色合い、同じ光沢。それでいて細かく装飾なども施されていて、火を灯す燭台も同じ岩でできている。

 

 ……まるで大きな岩を城の形に繰り抜いたような。

 

(……いや、まるでではなく、実際にそうなのか)

 

 全体が芸術品のような城を見ながら、コノエは十年以上昔に習ったことを思い出す。

 竜人という種族。その強靭な生命の在り方とは裏腹な、特殊な生態について。彼らがこのような高山地帯に暮らしているのは、決して伊達や酔狂ではなく……。

 

「………………」

「ああ、二人とも、到着したのね。おはよう」

「……メルミナ」

「メルミナ、おはようございます」

 

 そんなことを考えていると、横から声が飛んでくる。

 見ると、そこにはメルミナがいた。大広間横の廊下から顔を出して、手を振っている。

 

 そして転移酔いしなかった?、とか、山の上は気温が変わりやすいからもう一枚服の準備を、なんて軽く雑談をして。

 

「コノエはこれからフォニアの所で依頼についての説明? じゃあテルネリカはこちらで預かるわ」

「……ありがとう」

「よろしくお願いします。メルミナ」

 

 テルネリカはコノエの傍からメルミナへと一歩近づいて、メルミナはそれを迎え入れる。

 

 ――色々と、予定通りの流れだった。予め話していたように、順調に進んでいる。

 

「ではコノエ様、また後で」

「……ああ」

 

 メルミナがいれば安心だと、コノエは二人に背を向けまた歩き出す。

 竜人二人の案内に従いながら、城の奥へと進んでいき――。

 

『……え? 何ですかこの書類の量』

『――ふふ、ようこそテルネリカ。心から歓迎するわ』

『……え? これもしかして全部メルミナの……? あ、ちょっと。手を掴まないで下さい!』

『ふふ、逃がさないわ』

 

 ――その途中、後ろからそんな会話が聞こえてきた。

 

「…………」

 

 ………………大丈夫だろうか?

 コノエは少し心配になりつつ……しかし、案内人から遅れる訳にもいかず、何度か振り返りながら前を行く二人についていった。

 

 ◆

 

 ――コノエは、城を上っていく。

 長い、長い階段。どこまでも続いている気がするそれを上っていく。

 

 山を半球状にくりぬいているが故に、神都とはまた違う理由で地表面積が狭く、横より縦に長い城。普通の人間にはさぞ暮らし辛いだろう構造は、城の主が身体能力に優れた竜人だからこそ、そして、その気になれば空を飛べるからこそ許される形をしていた。

 

 窓から外を見ると、城の周辺と街の上空に空を飛んでいる影がいくつも見える。

 種族が違えば、城の構造も違う。地球とは違う異種族が住む異世界ならではの光景だった。

 

「――ところで、コノエ様。一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

「私たち、どうしても気になることがありまして……」

「……うん?」

 

 そうやって、階段を上る途中、ふと、コレットとエレニカが少し躊躇いがちに口を開く。

 コノエはいったいなんだろうかと……。

 

「……その、やっぱりコノエ様とお姉さま――フォニア様は訓練生時代、共に行動することが多かったのでしょうか?」

「はい、訓練生の一人として、『次』として、お二人がどのようなご様子だったのか気になってしまって……!」

「…………え?」

 

 共に、行動? フォニアと? コノエは首を傾げる。

 なぜ突然そんなことを、と首を傾げつつ、しかし当然そんな記憶は全く無い。

 

 なので、コノエは正直にほとんど交流は無かったと説明して……。

 

「……え? そう、なのですか? しかし、フォニア様は」

「……本当なのですか? でも、交渉のとき」

 

 二人は立ち止まり、そして、驚いたように顔を見合わせる。

 ……交渉?

 

「えっと、本来ならフォニア様が移籍交渉をすることはありえないのです」

「え、ええ……その、少し不敬な物言いになるかもしれませんが――物事には適性というものがありますので……」

 

 移籍交渉には専門の交渉人がいるのだと少女たちは言う。

 でも今回はフォニアがどうしてもと言ったため、そして同期の候補生であったため、彼女が交渉人を担当することになったのだとか。

 

 本当に? 何もなかったのですか? と困惑する二人にコノエも困惑する。

 そう言われてもコノエの記憶にはあの夜以外は心当たりはなくて――。

 

 ◆

 

「ようこそ、コノエ。今回はよろしく」

「……あ、ああ、よろしく」

 

 ――そして、コノエたちはフォニアの元へと到着する。

 通された応接室は、機密を保持するためか結界が張り巡らされていた。コノエは椅子に案内され、お決まりの軽い挨拶をして。

 

「……では、今回の調査の説明を」

 

 早速フォニアの説明を聞く。無表情で淡々とした様子の彼女。

 

「調査領域はここから――」

「……」

 

 コノエの中には先程の会話への疑問があって、しかしそれを押し殺し、彼女の話に真面目に耳を傾ける。どれほど謎であろうとも、仕事の話を適当に聞くという選択肢はコノエの中には無い。

 

 話を聞きつつ、渡された資料に目をやりつつ、コノエは一つ一つ今回の調査への理解を深めていき……。

 

 ◆

 

「――以上で、説明を終わる。調査は私とあなたの二人で行う。明日の早朝から。何か質問は?」

「…………ああ、わかった。大丈夫だ」

 

 ……数分後、コノエは特に問題なく仕事の詳細を確認し終える。

 そして、これで今回の話は終わりだった。なので、ではまた明日とコノエは立ち上がって。

 

 ――そんなときだった。

 

「……コノエ」

「……?」

 

 扉へ足を踏み出したところで、フォニアに後ろから呼び止められる。

 まるで先日の話し合いの最後のように。唐突に。

 

「ねえ、あなたは……十五年前のあの日を覚えている?」

「……え」

 

 フォニアの声。感情を感じさせず、淡々とした問い。

 コノエは、一瞬言葉に迷って。

 

「……覚えている」

「本当?」

「……ああ、君が僕を、正反対だと」

 

 あの日の、ただ一度の会話。

 十五年も昔のひととき、しかしあの涙だけはコノエも覚えていた。

 

「……そう。それ以外には?」

「……え?」

 

 ……それ以外? コノエは首を傾げる。

 それ以外は……。

 

「約束した」

「……ええと」

 

 ――約束。

 

 その言葉は……確かに、記憶に残っている。

 あれは確か正反対だと言われたその直後だ。時の流れは記憶をあいまいにして、しかしコノエはうっすらと覚えていた。

 

「――もし、あなたが、いつか本当に()()()()()ことが出来たなら――」

 

 そうだ。そんな言葉だ。

 でもあれはコノエにはよく意味が分からなくて――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『――コノエ。一つ、約束をしない?』

『……約束?』

 

 あのとき、訓練場の入り口で。

 青の女性は呟いた。コノエに背を向けて、少し掠れた声で。

 

『ええ、約束。もし、あなたが、いつか本当に()()()()()ことが出来たなら』

『……』

『そのときは、それを私に教えて欲しい――私も、それが欲しい』

 

 ――そうだ彼女は確かにそう言っていた。

 教えてほしいと。どこか頼りない、消えてしまいそうな背中で。

 

『……?』

 

 ……でも、コノエにはその意味が分からなかった。

 手に入れたらという目的も、教えて欲しいという願いも、その前の正反対だという言葉も。

 

 首を傾げることしか出来なくて……でもその悲しげな雰囲気に、口を挟むことが出来なかった。

 

『……お願い。その代わりに……私が、あなたが、()()()()()のを手伝う』

『……手伝う?』

『ええ……きっと。頑張って準備する。楽しみにしてて――』

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 当時のコノエには――いや、今のコノエも首を傾げることしかできない言葉。

 伝う涙と、その瞬間の言葉が印象的で、だからそれ以外の印象は薄くなって――。

 

「あなたは、手に入れた。金色の輝きを」

「――うん?」

「そして、私は、約束を守ろうとした」

「……え?」

「釣書。あなたが手に入れる手伝いをした」

 

 ………………?

 コノエの頭に疑問符が浮かぶ。しかし、じっとコノエの瞳を見つめる彼女に、言葉を頭の中で反芻しつつ整理して――。

 

「――――」

 

 ――え? あのときの言葉ってそういう意味だったの?

 

「……………………」

「ねぇ、コノエ」

 

 ――フォニアはいつもの無表情でコノエを見る。

 抑揚のない言葉でコノエに話しかける。

 

 青い竜人の少女が、美しい顔で、宝石のような――感情の見えない瞳をコノエに向けていた。

 

「私に、金色を教えてくれる?」

 

 固まるコノエに、フォニアは静かにそう問いかけた。

 





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