転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第16話 好きなもの

 ――教えてと言われ、コノエはフォニアに問いかけた。僕は何をすればいい? と。

 するとフォニアは……。

 

『あなたは、どうやって金色になったの? それを私にも教えて欲しい』

 

 ……淡々とした口調で、そう言った。ただ、当時を再現してくれればいいと。

 だからコノエは、己が金色になった瞬間を思い出す。竜との戦いの最中の記憶。そしてシルメニアの街での時間を思い出して――。

 

 ◆

 

「………………」

「………………」

 

 ――それで、今ベンチで並んで座っている。そこは街の中でもちょっとした高台になった場所で、気持ちのいい風が時折吹く場所で……少しだけ、シルメニアの物見塔を思い出すような、そんな場所だった。

 

 少し狭く、羽が生えた竜人のためか背もたれはないベンチの上。

 二人はただ隣に座っていて。

 

「…………」

「…………」

 

 二人の間に会話は無かった。何をしたのかとフォニアに問われて、コノエはただ傍に居たと答えた。そうしたら、じゃあその通りにして欲しいと言われたから。

 

 ……時間が過ぎていく。無言の二人の間を、風が通り抜ける。

 二人がいるのは、アーキノルカの公園だ。岩盤を削ったままの石畳に、所々大きな植木鉢が置かれて草や木が生えている。

 

 そんな場所に置かれていたベンチの上で、二人は隣に居て、それだけだった。

 公園には他に誰もいなくて、二人だけがいる。街の中心から少し離れたところにあるそこは喧騒からは遠く、風の音と、木の葉が擦れる音があった。標高が高いからか虫の声も聞こえない。

 

「………………」

「………………」

 

 ……コノエは、教えるってこれで良いんだろうか、流石にこれはアレなのではと思いつつ、でも、これがコノエにとっての金色だった。どうやって金色になったのかと言われたら、これ以外にはない。

 

 コノエの中に残る温もり。願いの在処。

 コノエが二十五年の果てに、ようやく見つけたモノだった。

 

 コノエは竜との戦いの中で、白雷の奥にテルネリカの姿を見た。

 コノエは、物見塔の上でテルネリカと過ごす時間が好きだった。ただ隣に座っているだけでよかった。それを、その温もりを、コノエは好きになった。

 

 ……教えるという観点から見れば、どう考えても間違っているけれど、でもコノエはこの点に関しては、嘘をつきたくなかった。

 

「…………」

 

 だから、言葉もなく、ただコノエはフォニアの傍にいる。

 それだけの時間だった。フォニアは文句も言わず、隣に居て――。

 

「………………………………」

「………………………………?」

 

 ――そして、時計の長い針が四分の一くらい動いた頃。

 ふと、コノエは気付く。背中からゆっくりと近づいてくる気配があった。それは……。

 

 ……つん、と。硬いものがコノエの背中に触れる。触れて、すぐに離れていく。

 それが何なのかは、振り返るまでもなく理解していた。

 

 ――フォニアの翼だ。翼の先端が、コノエの背中に一瞬触れた。

 つつくように少しだけ触れて、すぐに離れていった。

 

「…………?」

 

 コノエは何だろうとフォニアを見る。でも彼女は前を向いている。

 ……なので、たまたま触れてしまっただけだろうかと思う。コノエもまた前を向いて。

 

「………………」

「………………」

 

 ……しかし。また少しして、段々とフォニアの翼が近づいてくる。

 ゆっくりと近づいてきて……つん、と。また背中に触れた。そして今度は続けざまにもう一回。合計二回触れた。

 

「…………?」

 

 流石にこれは偶然ではないだろうと、コノエは思う。

 ちらりとフォニアを見ると、今回は彼女もコノエを見ていた。そのまま少し目と目が合う。数秒見つめ合って……彼女は小さく首を傾げた。

 

「……だめ?」

「……いや、ダメでは、ないけれど」

「そう、よかった」

 

 ダメかと言われると、ダメではなかった。別に拒絶するほどでもない。

 なので、それで会話は終わる。

 

 ……すると、すぐにまたフォニアの翼がコノエの背中に近づいてくる。

 しかも今度はつんつんと、何度もつついてきた。

 

 これは何だろうと首を傾げるコノエに、フォニアの翼はつついたり数秒触れていたりする。そして触れたかと思うと、今度は文字を書くように撫でたり、またつついたりして。

 

 少し擽ったいような、そんな時間。

 フォニアの翼がコノエの背中に触れていく。肩、背骨、腰。確かめるように触っていく。上から下に、円を描くように。段々とその範囲を広げて行って……。

 

「…………??」

 

 ――最後に、翼の皮膜の所がぺったりとコノエの背中に当たった。

 

 コノエに、冷たい感触が伝わる。

 竜人の少し低い体温がコノエに伝わってくる。石のように硬くて滑らかな鱗と柔らかい皮膜が触れていて、少し不思議な感覚があった。

 

「……そう、これが」

「……?」

 

 そして、フォニアはポツリと呟き。

 

「……温かい」

 

 ――ほう、と。

 まるで、息を吐くように、彼女はそう言った。

 

 コノエは、竜人の翼は体温が低いんだなと思いつつ、そのまま、静かな時間が過ぎて――。

 

 ◆

 

 ――しばらく後、公園の入り口から子供の声が聞こえてきて、その時間は終わる。

 示し合わせたわけではないけれど、なんとなく、二人とも立ち上がった。

 

 そのまま入って来た親子とすれ違って――子供に姫様とアデプト様だとすごい勢いで手を振られて、軽く手を振り返しつつ、少し照れつつ、コノエはフォニアと通りに出る。

 そして、コノエは、ではそろそろ戻ろうと……。

 

「コノエ、次は、なに?」

「……え? 次?」

「次」

「……えっ」

 

 ◆

 

 まさか、続きを求められるとは思わなかった。

 どう考えても色々駄目だったはずなのに、何故とコノエは問いかけて。

 

「あなたは、あれが好きなんでしょう?」

「……え、ああ」

「なら、私も好き。好きになった。温かかった」

 

 そんな返事が返ってくる。……コノエは予想外の返事に何度か瞬きして。

 

「……………………」

「……次は?」

「…………じゃあ、その……街に、行こう」

「うん」

 

 少し悩み、街に出ることにする。

 他に何かあっただろうかと思って、街を歩いた記憶を思い出したからだ。

 

 ただ街を歩いて、偶々目についた商店街に入る。

 店がずらりと並んでいて、その合間に出店も並んでいた。

 

 神都の市場に比べれば規模は小さいが、それでも多くのものが並び、多くの人が歩いている。活気ある様子。楽しそうに会話をし、買い物する人々。

 食べ物の屋台も多く、通りには甘い匂いと香ばしい匂いがしていた。そんな匂いにコノエは、そういえば昼食を摂っていなかったなと思い。

 

「……ああ、そう、そうだった」

「……?」

「コノエ、あれ」

 

 ……ふと、フォニアが呟き、甘味屋を指差す。

 そこにあったのは生地にクリームが詰まったクレープのようなお菓子だった。

 

 二人でその店に入って、注文する。受け取って、口に含んだ。

 生地が小麦ではないらしく、普段食べている物とは違う風味がする。

 

「私は、これが好き。そうだった。あなたにも食べて欲しくなった」

「……? ああ」

「あなたは、これは好き?」

「……あまり食べたことのない味だけれど、好きだよ」

 

 神都の物と何が違うんだろうかと呟くコノエに、フォニアはこれは何々という植物で、この辺りで栽培している穀物であって、何月くらいにどれくらい採れて、外に輸出すると一キロどれくらいの金額になる、と説明してくれる。

 ついでにクリームに使われている乳は牛ではなく高山で生息するヤギのもので、臭みを取るために飼料を工夫したり色々頑張ってきた、とも。

 

 それをコノエは素直に勉強になるなぁと思いながら聞いて、食べながら移動し、近くにあったベンチに座る。

 また二人並んで、今度は一緒にお菓子を口に運ぶだけの時間があった。

 

「…………?」

「…………」

 

 そのうちに、またフォニアの翼がコノエの背中をつつき始める。

 コノエはまたかと不思議に思いつつ、しかし拒否するほどでもないので、されるがままになっていて――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――そんな二人を、通りがかった竜人の少女が頬を赤く染めて見ていたりもした。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ……一方その頃。

 アーキノルカの城の一室では。

 

「……メルミナ、なんでこんなに書類を増やしちゃったんですか……?」

「……ふふ、私も今少し後悔してるところよ」

 

 二人の少女が書類に埋もれて必死にペンを動かしていた。

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