転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
主な変更点としては、
※汚くて潰れた文字→潰れた文字
※調査場所が封印領域→城の応接室になっています
封印領域での実地調査が応接室での資料調査に変わりました。
18話で封印領域に向かうところで、その前に応接室に向かって……という感じです。
大きな流れはあまり変わっていませんが、それに伴って表現が変わっていますのでよろしくお願いします。
……すみません、想定外の文脈が出来てしまっていて、後々の展開に影響しそうなので……申し訳ないです
書かれた日本語の日記と、出てきた姫巫女の名前。
そしてその夫が異世界人だという情報。
「……ではフォニア、この日記は、その姫巫女の夫の?」
「かもしれない」
不可解な日記に少し具体性が出てきた。
謎の人物だった『ぼく』に輪郭が出来てくる。
「……」
城の応接室の机の上。コノエは、広げられた資料の文字を改めて見る。
日記は先程の一文で終わっていた。封印領域内に十ほどあるという記述の一つが終わったことになる。あと九つ。
「コノエ、次を」
「……ああ」
そこで、フォニアに催促される。
……残りの全てを読み終えれば、なにかが分かるのだろうか?
◆
そして、コノエは次の資料を広げる。二つ目だ。
「……こちらも、『ぼく』の日記か」
一つ目と同じ人間が書いたのであろう日記。
ざっと見た感じでは内容は相変わらずで、なぜ魔王の領域にあるのかと首を傾げたくなる感じだった。
≪ぼくは、彼女の要請で駆け付けた騎士団の手で街の治療所に担ぎ込まれ、治療を受けた。九死に一生を得た形だ≫
≪ただ、折れた足の状態はひどく悪く、一度斬り落として治した方が早いと言われた≫
≪さぱっと斬って再生しよう、と剣を向けられた。慌てて逃げようとして、でもそこで気付いた≫
≪治療所の入り口で彼女が見ていた。ぼくは好きな人に情けない姿を見せたくなくて、強がって、さぱっとやって下さいと言った≫
≪激痛だった。彼女が見ていなかったら泣き叫んでいたと思う≫
コノエは一つ一つ解読していく。『ぼく』の受けた所業に同情しつつ。
……というか、これはコノエも何度か経験があった。とても痛いヤツ。戦闘中に斬り落とされるのとは違う苦しみがある。
隣を見ると、フォニアもペンを動かす手を止め遠い目をしていた。きっと考えていることは同じだ。教官、問答無用でやるから……。
≪足が治ったぼくは無事に治療所から出た。そして、まず最初に彼女を探した。彼女にお礼を言って、あと連絡先も聞けたらと思った≫
≪でも、気付いたら彼女は居なくなっていた。だから、近くの騎士に聞いてみた≫
≪お礼を言いたいから彼女のことを教えてくれと≫
≪帰ってきた答えは予想外のものだった。彼女は、アーキノルカの姫巫女だった≫
そこから先は、『ぼく』が調べた彼女のことが書いてある。
十年前から姫巫女として活動していること、その美しさは他国にも知れ渡っていること。また、美しさだけでなく、騎士としても超一流であること。そして、切断の固有魔法を持ち、災害級の単独討伐を成し遂げたこともあった、と。
≪彼女は、ぼくにとってあまりに遠い相手だった。身分も力も何もかもが違う。それは、どうあっても叶わない恋だった≫
膝を突き、愕然とする『ぼく』。話を聞いた騎士団員にも諦めた方が良いと肩を叩かれたという。
その上、『ぼく』はそこで最初に申告した滞在日数を過ぎ、アーキノルカから去ることになった。失意に暮れながら『ぼく』は神国へ帰り、また元の日常に戻ることになる。
一日、二日、そして十日と時間が過ぎていき――。
――でも。
≪でも、どうしても諦められなかった。三十日後、ぼくはアーキノルカに戻ってきた。叶わなくても、せめて見ていたいと思った≫
「すごい。本気だ」
「……」
ぽつりとフォニアが呟き、それは確かにとコノエも思う。
しかもその後には、神国の財産を全部処分したとかアーキノルカに家を買ったとか書いてある。高い金を出して市民権も手に入れた、とも。かなり本気だった。
≪我ながらストーカーみたいで気持ちが悪いと思ったけれど、迷惑だけは掛けないようにしようと決め、騎士団の駐屯地の近くにマヨネーズと揚げ物の店を出した≫
≪男の竜人騎士に人気が出た。ジョークのつもりで大型の魚を丸々一匹揚げ、マヨネーズと一緒に売ったら昼時に列が出来るようになった≫
……大型の魚の揚げ物。これはもしかして、昨日丸かじりしたアレなのだろうかと、コノエは魚の骨の食感と味を少し思い出しつつ。
その後には、『ぼく』が段々とアーキノルカに馴染んでいく様子があった。
仕事をしつつ、街の一員になっていく。顔を覚え、覚えられる。必死に働き、走り回り、半年、一年と時間が過ぎていく。そのうちに店は話題になって、店舗数を増やすことになって。
大変だけど充実した日々が書かれている。
そして時折。
≪――働いていると、緑色の光が見えることがあった。それを見るだけで、嬉しくなる自分がいた≫
憧れは変わらず、常にあり続けたようだ。
その頃には叶わずとも、彼女がいる国の力になりたいと思うようになっていたと。
そんな日々が過ぎていき……。
「……うん?」
「……コノエ?」
その次に書かれていた文字を見て、コノエは少し驚く。
だって――。
≪――あれは、アーキノルカに移住して二年が過ぎたころだった。信じられないことが起きた。彼女が、ぼくの店に来てくれた≫
≪店に来て、魚を注文してくれた。ぼくはとっさに当時言えなかったお礼を彼女に言った≫
≪彼女は、覚えてくれていた。あのトロールのときの、と≫
≪嬉しかった。思わず泣いてしまって、彼女にひどく驚かれた≫
≪――その日から、時々彼女が店を訪れてくれるようになった≫
「……」
二つ目の文章は、その言葉を最後に終わっていた。
……魔王については分からなかったが、『ぼく』と姫巫女のことは少しだけわかったような日記だった。
「コノエ、次を」
「……ああ」
資料を閉じる。あと八つだった。
◆
――その調子で、コノエとフォニアは日記を読み解き、記録していく。
三つ目も四つ目も内容は『ぼく』の日記だった。
三つ目は、彼女が『ぼく』の店に訪れるうちに、雑談するようになる話。
四つ目は、彼女が毎日のように店に通うようになり、最後にはデートをする話。
二人がどんどん仲良くなっていく様子が書かれていた。身分差を越えた恋愛が始まっている。この『ぼく』、なんだかすごい奴だなとコノエは思い。
……でも、そこで今更ながら一つ疑問が浮かんでくる。
「……フォニア、一つ聞きたいんだが」
「なに?」
「姫巫女と一般人の恋愛って許されるのか?」
なんというか、コノエの感覚では許されない気がした。
地球では身分差がある恋愛は悲恋に終わる印象があるし。
「それは、場合による」
「……?」
「姫巫女の本気度次第。本気だったら許される」
……本気度次第?
「姫巫女は、必ず固有魔法使い。それが姫巫女になる条件の一つだから。つまり、強靭な魂を持っている」
「……」
「そんな姫巫女の本気の恋愛を妨害したら、間違いなく血を見ることになる」
……なるほど、そういうものか。コノエは少し驚きながら頷く。血を見るとか怖いな、と思いつつ。つまりこの姫巫女は『ぼく』に本気だったのだろう。
やっぱりすごいなぁ、とコノエは他人事のように思った。
「コノエ、五つ目」
「……ああ」
まあそれはさておき、コノエは催促され、デートで終わった四つ目の資料を片付ける。
そして五つ目を開き……。
≪――彼女と、街を手を繋いで歩いた。掌は温かくて、柔らかかった。ミントのような匂いがして隣を見ると、彼女が目を細めて笑っていた≫
≪手に少し力を入れると、彼女も握り返してくれた。以前力加減を間違えて僕が痛がったからか、彼女はとてもゆっくりと力を入れて、それがこそばゆかった。思わず笑うと、彼女もいっしょに笑ってくれた≫
……しかし。それにしても。
段々と色恋沙汰が多くなってきて読み辛くなってきたなとコノエは思う。
解読とメモの都合上、まるでフォニアの前で恋愛小説を音読しているようで……。
≪彼女の手はとても小さくて柔らかかった。ずっと握っていたいと言ったら、彼女は私もと言ってくれた≫
……なんというか、少し気恥ずかしいような。
≪彼女が少しふざけるように僕の腕に抱き着いた。彼女の胸が腕で潰れた≫
≪彼女はスタイルがいいし、胸も大きい。最高の気分だった≫
……………………この人、封印領域に何を書いてるんだ?
「……」
ああ、いや違う。書いたのはこの人じゃなくてまず間違いなく魔王だ。
しかし、なんでまたこんなことを日記にとコノエは思う。
……まあ、人の日記の内容に口出しする方が間違っているのかもしれないけれど。
「コノエ? 続きは?」
「……あ、ああ」
考えていると、フォニアの催促の声。
コノエは女性の前で胸が……みたいな文章を読み上げることに少し抵抗があって、しかしこれは仕事だった。真面目なコノエに仕事を放棄するという選択肢はない。
……ないけれど、でも、なんというか。
「…………」
もし、仮に。ここが魔王のいる封印領域ならコノエは躊躇うことなく続きを口にしただろう。封印領域は邪悪がはびこる敵地であって、そんな場所で言い辛いとか言い易いとかを言うべきではないからだ。
……でも、ここは封印領域ではなく、城の応接室だった。
「……その」
「うん」
………………少し、早口になって、噛んだ。