転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

88 / 216
第22話 落胆と

 ――コノエとフォニアが、十番目を訳し終わったとき。

 もう夕暮れが近づいてきた頃、メルミナはテルネリカと一階の部屋で共に短い休憩を取っていた。

 

「………………」

「………………」

 

 机にはおやつが並べられている。メニューは二人とも甘いパンに、たっぷり砂糖が入ったお茶だ。

 過酷な仕事で疲れた脳を休ませるためのセットだった。メルミナが普段から食べているヤツ。

 

 これでもかと砂糖が使われたそれらは、人によっては眉をしかめるものでー――部下に以前出したら明確に嫌だと言われた――だが、テルネリカはむしろ喜んで食べている。甘いのは好きらしい。

 実は結構な甘党であるメルミナにとっては、希少な味覚が合う相手だ。恋敵でさえなければ、一緒にスイーツ店巡りしたかったような気もしつつ。

 

 ……なお、以前同じものを出したらコノエはなにも文句を言わずに食べたが、それはあの男が食に興味がないだけだった。

 

「………………」

「………………」

 

 机に着き、黙々と食べる二人。この後仕事に向けて、英気を養っていて……。

 

「…………」

 

 そこでふと、テルネリカが窓の外を見る。そして、誰かを探すように目を動かした。

 でも見つからなかったのか、少し肩を落とし、また前を向いた。

 

 ……また、無言の時間。

 

 誰を探していたのかは、言うまでもない。コノエを探していたのだろう。

 というか、テルネリカは今日の朝からチラチラと外を見てコノエを探していた。

 

 仕事は真面目にしているけれど、作業に一段落着くと、ふとそわそわし始める感じだ。

 昨日はそんなことは無かったので、昨晩か今朝に何かあったのだろうと……。

 

「……」

 

 ……まあ、その理由もメルミナには予想がついているけれど。

 

 まず間違いなく、昨日のフォニアとコノエの様子だろう。多分色々あった。

 テルネリカが気付いたことだ。当然メルミナも気づいている。

 

 …………あのときの二人の様子に、メルミナは――

 

「――――」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「……いや、本当に最後までイチャついてるだけ……?」

 

 応接室で、コノエは半ば呆然と呟く。

 結局、最後まで日記は同じ様子だった。ただイチャイチャしていたのを読んだだけだ。解読したのに何も分かっていない。

 

 ……いや、それとも。

 

「……フォニア、十一番目は無いのか?」

「現状は、ない。十年前に十番目が刻まれて以来、他は見つかっていない」

 

 では、本当にこれで終わりなのだろうか。

 コノエは脱力感に包まれ……。

 

 ……しかし、そこでフォニアは。

 

「……でも、もしかしたら見つかってないだけかも」

 

 あそこは広いし、最初の殲滅時に色々壊れることも多いから、とフォニアは呟く。

 もう一度調査したほうが良いかもしれない。そう言ってフォニアは立ち上がった。

 

「とりあえず結果をみんなに見せてくる」

「……ああ」

 

 昼の休憩時と同じように、フォニアは資料を封印した後、部屋から出て行く。

 コノエはそれを見送って……。

 

「……ふう」

 

 部屋で一人、大きく息を吐く。何だったんだアレと何度目かに眉を顰めながら。

 本当にただ日記を書き写しただけ? 封印されて暇だったから、暇つぶし?

 

 ……さすがにそれは無いだろう、無いといいな、とコノエはまた息を吐き。

 

「…………ああ、そうか」

 

 そこでふと、結構ガッカリしている自分にコノエは気付く。そして同時に、最初に日本語だと分かったとき興奮していた自分にも。

 ……なんだかすごい発見が出来た気がして、嬉しかったのかもしれない。

 

「……」

 

 ……まあ、とは言っても、フォニアの方がガッカリしてるんだろうけれど。

 ……最初にすごい勢いで喜んでいた姿を思い出しながら、コノエは肩を落とした。

 

 ……

 ……

 ……

 

「ただいま」

「……ああ」

 

 そうして、しばらくコノエが()()っとしているうちにフォニアが帰ってくる。フォニアは、いつもと同じ、感情が見えない顔で部屋に入ってきた。

 

「今日はありがとう。今皆で検証している」

「……ああ」

「それで、明日のことなんだけれど、今日調べたことをもう一度中に入って確認して欲しい」

 

 他の皆からも中身がすり変わってるんじゃって意見が出たから、とフォニアは言う。

 なるほど、それはそうだろう。コノエも正直半信半疑だ。

 

 じゃあ最初から現地で訳せという話でもあるが……しかし潰れた文字を封印領域で魔王を警戒しながら翻訳するのと、応接室で落ち着いて訳すのでは難易度も必要な時間も間違いなく段違いだった。コノエは魔と戦うものであって、翻訳家ではない。なので、一度訳してから確認するのは合理的でもあって……。

 

 ……いや、でも。そこでコノエは思う。

 

「――今から潜ってもいいが。今日はまだ潜ってないし」

 

 わざわざ明日にする必要はないのでは、と思う。

 コノエは今から確認したい気分だった。

 

「ううん、それはいい」

「…………そうか?」

「うん、さっきも言ったけど、十一番目がある可能性もあるから。先にメルミナに調査してもらう」

「……ああ」

 

 そういうことか。コノエは納得する。こと探すという分野に置いて、メルミナの右に出る者はいない。そうなると、メルミナが一緒に来てくれていたのは運が良かったなとも思いつつ。

 

「条件をまとめて、三時間後にメルミナと交渉する予定。潜るのは夜になると思う」

「……なるほど」

「その結果が出るまでは出来ることは少ないから、また明日お願い」

「……ああ」

 

 そう言うと、フォニアはコノエの方に歩いてくる。

 コノエの横にまで来て。

 

「それまでは、私も自由時間」

 

 トン、と隣に腰を下ろす。座っていたソファが沈んで、また元に戻った。

 それにコノエは、隣を見て……青い宝石のような瞳と目が合う。

 

「……」

 

 僅かな間、見つめ合う形になっているとフォニアの翼がコノエの背中にゆっくりと近づいてくる。そして、何度かつつき……。

 

 ……ぺたり、と。

 コノエは何度目かのそれに、気に入ったのかなと不思議に思いつつ。

 

「ああ、それとコノエ」

「……?」

「あのときはうろ覚えだったから改めて調べたけれど、やっぱりファティマという姫巫女はいたみたい。夫は異世界人だった」

「……そうなのか」

 

 やはり実在した人物だった、とフォニアは言う。

 姫巫女も『ぼく』も、魔王の妄想なんかではなかったということで……。

 

「……あ」

 

 ……と、そこでコノエはふと思いつく。そういえば。

 実際に居たというのなら、例の姫巫女とその夫は今どうしているのだろうか。

 

 三百年前と言っていたし、日本人の夫はもう死んでいるだろうが、竜人の姫巫女は生きている可能性が十分ある。以前コノエは竜人の寿命は基本的に五百年ほどと聞いていた。

 ……いや、もしかしたら夫も生きている可能性がある。治癒魔法で老化抑制が出来るこの世界では金を払えば人間の寿命を延ばすことも可能であって――。

 

「……?」

 

 ――あれ? そこでまた、コノエは気付く。

 というか生きてたら今回の日記を翻訳したのって大分プライバシー的に……。昔の人間だと思って気にしてなかった。

 

 ……いや、封印領域にあった時点で翻訳するしかない気もするけれど。

 

「……ええと」

 

 ともかく、コノエはフォニアに、『ぼく』と姫巫女は今はどうなっているのか、と問いかけて……。

 

「……知りたい?」

「……?」

 

 フォニアがコノエをじっと見る。

 宝石みたいな瞳が……何故か、僅かに、揺れた気がした。

 

 それでも、気になるのでコノエは頷く。

 すると、フォニアは……。

 

「……そう、異世界人の夫はまだ分からないけれど、姫巫女ファティマのことは分かっている」

 

 数拍の沈黙の後に、フォニアはいつもの淡々とした口調で言う。

 ……そして。

 

「間違いなく、十番目の日記から遠くないうちに死んでいる。彼女は熾天結界の継承者だから」

「………………え?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。