転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第27話 知りたかったこと

「――コノエ様。お隣、よろしいですか?」

「……あ、ああ」

 

 テルネリカが屋上の入り口から現れ、そしてコノエに近づいてくる。

 コノエが頷くと、ありがとうございます、とコノエが座っていたベンチの横に腰を下ろした。

 

「………………」

「………………」

 

 ……少し、静かな時間があった。ただ隣にいる時間。

 テルネリカはコートを羽織っていて、その前を手で抑えていた。コノエは軽く目を泳がせた後、また地面を見る。

 

 人より背の高い竜人用に作られたベンチだからか、僅かにテルネリカの足が宙に浮いている。コートの下、パジャマに包まれたテルネリカの足が、小さく揺れていた。

 

 ……そして。

 

「コノエ様。話を聞かせて頂く事は出来ますか……?」

「…………その、すまない」

 

 テルネリカの問いかけ。それに、少し考えてコノエは首を振る。

 言えない。言ってはならない。今コノエが悩んでいることは、その全てが機密だ。フォニアの運命。魔王。封印領域。アーキノルカが必死に守ってきた秘密だった。

 

「……そう、ですか」

「……ああ」

 

 だから、また、コノエは視線を地面に落として……。

 ……でも、そんなコノエに、テルネリカは。

 

「では、コノエ様のことを教えて頂いてもよろしいですか?」

「……僕?」

「はい」

 

 テルネリカは、重ねて問いかける。

 

「私は、あなたが今どんなことを想っているのかを、知りたいです」

「……僕が、どんなことを……?」

「はい、他の何でもなく、あなたの気持ちを」

 

 アーキノルカではなく、魔王でもなく、コノエが想っていること。気持ち。

 ……それは確かに機密ではなかった。

 

(……僕、は)

 

 だから、コノエは考える。

 己の感情を、想っていることを言葉にしようとする。コノエにとって一番苦手なことであろうとも。

 

 コノエは己に問いかける。この胸の痛みは……。

 

「……僕は」

「はい」

「……悲しい、のだと思う」

 

 きっと、そうだった。コノエは悲しかった。

 悲しかったから、こうして悩んでいる。

 

 奪われ続けた彼女の笑顔が、悲しかった。

 そして、彼女を助けられない自分が――。

 

「――僕は、悔しいんだ。悔しくて、悲しい」

「はい」

「……力が足りないんだ。何かをしたいのに、何もできない」

「……はい」

 

 独り言のように呟く。嘆くように。弱音を吐くように。

 それは本来のコノエであれば、口にするのを躊躇(ためら)うような言葉ばかりだった。しかし今回言ってしまったのは……それくらい、コノエが悩んでいたからか。

 

「……」

 

 ……それとも、隣に居るのが他の誰でもなく、テルネリカだからか。

 

「……僕は、どうすればいいんだろうな」

 

 少しの沈黙の後、コノエが最後にそう呟くと、また静寂が辺りを包み込む。深夜の街。人の気配は消え、かすかな風の音だけが支配するような世界の中。

 数秒か数十秒か。何もない時間があった。コノエとテルネリカだけがそこに居た。

 

「……そうですか」

 

 と、そこでテルネリカの体が揺れる。

 コノエの方へ傾いて――。

 

「……」

 

 ……とん、と。肩が触れる。それはかつて、物見塔の上でしたように。それから何度も繰り返したように。

 隣に座って、肩を寄せ合う。触れ合った場所から、じんわりと熱が伝わってくる。

 

「……ねえ、コノエ様。知っていますか?」

「……え?」

「それは、かつての私と一緒です。……私は、悔しくて、悲しかった」

 

 コノエ様と出会った日、とテルネリカは言う。

 あの日、意味もなく死にかけていたと。家族が命を捨ててまで守った街が滅びそうで、家族の死が無駄になりそうで、何もできずに階段で死にかけていたと。

 

「私は、何もできずに終わるはずでした。それが悔しくて、悲しくて」

「…………」

「絶望して、後悔しながら死ぬはずでした。……でも、あなたが救ってくれた。抱き上げてくれた。家族の死に意味をくれた。一生忘れられない温もりを、貰いました」

 

 ――テルネリカの手が、コノエの手に重なる。指が少し絡んで、温もりが伝わってくる。

 

「――なので、コノエ様。私、どうやってあなたに御恩を返そうかずっと悩んでいました」

「………………恩? それは、別に」

「はい、コノエ様はそう言って下さいました。……けれど、そんな簡単にありがとうで終わらせられるような御恩ではないんです」

 

 ――これはもう、とんでもない御恩なんです。言葉では、終わりません、私が、絶対に終わらせません。そうテルネリカは言う。

 コノエは何度か瞬きして、そんなコノエをテルネリカは見上げる。目を細める。

 

「なんでも、したかったんです。あなたが望むことを、なんでも。あなたの望みを知りたかった。知って、返したかった」

「……テルネリカ」

「でも……えへへ、やっと、知ることが出来ました」

 

 テルネリカは嬉しそうに笑って――。

 

「――だから、コノエ様」

 

 テルネリカは、立ち上がる。そのまま一歩二歩と歩く。コノエの前に移動した。

 コノエが顔を上げると、テルネリカは月を背負うように立っていて、その金色の髪が青白い光に照らされていた。

 

「あなたが、力が足りないというのなら」

「……テルネリカ?」

「……きっと、私は――」

 

 ――テルネリカが目を閉じる。微笑みながら、胸の前で両手を組む。

 ――そして、ゆっくりと目を開けると。

 

「――」

 

 そこに、金の輝きがあった。テルネリカの両の瞳が、金色に染まっていた。普段は青い瞳が金の光に輝いていた。

 

「……それ、は」

 

 それはいったいと、問いかけようとして、途中で止まる。

 だって、コノエはその力を知っていた。間違いなくこれは――。

 

「――――」

 

 テルネリカは手をコノエの顔に伸ばす。頬に添える。

 テルネリカの顔が、コノエにゆっくりと近づいてくる。

 

 コノエが驚き、瞬きしているうちに、もう目と鼻の先まで――。

 

 ――そして、コツン、と。額と額が触れ合う。

 同時に、その場所から力が流れ込んできた。

 

 ……何かが己の内側に宿るのをコノエは感じる。

 

「……テル、ネリカ」

 

 呟くコノエからテルネリカが離れていく。

 その時には、もうテルネリカの瞳は元の色に戻っていた。

 

「コノエ様。これが、どんな力を持つのかは、私にも分かりません」

「……」

「初めてで、よく分からなくて。曖昧でごめんなさい。……でも――」

 

 ――金の少女は、はにかむように笑い。

 

「――でもきっと、コノエ様のお役に立ちます」

 

 ◆

 

 ――翌日。朝。

 城に向かったコノエを、メルミナとフォニアの二人が迎えた。

 

「コノエ、十一番目は無かったわ」

「……そうか」

 

 メルミナの言葉。昨晩は深夜まで籠って調査していたが、何も見つからなかったようだった。メルミナが見つけられなかったのなら、どこにもないのだろう。

 可能性が一つ潰れてコノエは落胆する。結局、日記の正体は分からずじまい。一体何のために魔王はあれを刻んだのか、その答えは見つからなかった。

 

「……」

 

 ……だから、あとは。

 

「コノエ、じゃあ、今日は昨日の翻訳の確認をお願い」

 

 そうして、フォニアに声を掛けられ、一昨日と同じようにコノエは街を出る。

 隠密用のコートを着て、気配を消しながら移動し、山に、森に入っていく。

 

 荒れ果てた廃墟の中を通り抜け、初日と同じ古びた扉の前に辿り着く。

 

「……では、扉を開く」

 

 フォニアが、偽装のために魔道具を取り出し、扉を開く。

 一呼吸の後、コノエはフォニアと共に封印領域の中へと移動し――。

 

 ◆

 

『uldynavclaiuy、nvtuaytvmau』

 

 ――侵入と同時に魔王が襲い掛かってくる。

 

 それをコノエとフォニアは危なげなく蹴散らす。

 襲い来る魔王の第一波を、雷で焼き尽くし、迫り来る第二波を見ながら、早速掃討に移ろうとして――。

 

「……?」

 

 ――そこでコノエは、己の中にあった力が動くのを感じた。

 その力が向かう先は……コノエの両目で。

 

「…………え?」

 

 そして、コノエは気付く。

 黒紫色の瘴気が満ち、天と地に邪悪が蔓延る地獄のような世界に。

 

「……花?」

 

 ――金色の、一片(ひとひら)の花びらが、ふわりと浮かんでいた。

 

 




特典の紹介をさせていただきます。
専門店は三つ。それぞれに特典があります。

○ゲーマーズさま
 アクリルフィギュア付きの限定版。
 購入特典で4P短編。

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 16p小冊子とアクリルパネル付きの限定版。(16p小冊子のタイトルは「十年目のお茶会」。小冊子だけもあるようです)
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詳しい情報もXにありますので、是非見て頂ければと思います。
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