転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第28話 祝福

 ――コノエとフォニアが封印領域に侵入する、その少し前。

 メルミナはテルネリカと合流し、二人で一階の仕事部屋の扉を潜っていた。

 

「…………」

「…………」

 

 メルミナは調査と仕事のために昨晩は完徹していたが、それを感じさせない動きで自分の席に向かう。そして、腰のポーチから一つの魔道具を取り出し、起動した。

 ……それは、防諜目的の魔道具だ。同時に気配を探り、近くで二人に意識を向けている者がいないことを確認する。

 

「メルミナ?」

「それ、祝福型ね」

 

 不思議そうな顔をするテルネリカに、メルミナは一言、言い放つ。

 

「……え?」

「あなたの固有魔法よ。自分じゃなく、敵でもなく、ただ一人だけを祝福する力。そういうのを祝福型って言うの」

 

 メルミナはその気配に、朝コノエとテルネリカを見た瞬間、気付いていた。

 テルネリカから感じる力の残滓と、コノエの中にあった力。それが全く同じだったから。

 

 祝福型。それは特定の相手にだけ作用する権能だ。他の何でも代えられないような愛によってのみ、許される力。

 ある意味、憎悪によってのみ覚醒し、対象を否定する呪詛型の対極とも言えるような。

 

 ――ただ一人に、(あい)を授ける権能。それこそが祝福型だった。

 

「その能力は極めて強力よ。本来、他者に力を付与する類の固有魔法は、一般的な固有魔法よりも出力が大きく落ちる。固有魔法は己の欲望のための力だから、ある意味当然ね。

 ――でも、祝福型だけは権能の出力を維持したまま、対象に力を付与できる」

 

 要するに、愛する者に権能をそっくりそのまま譲り渡すような力だった。

 つまり――

 

「――受け取ったものは、条件付きとはいえ、()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

 

 一人一つしか使えないはずの、固有魔法の数少ない例外。それこそが、祝福型だった。

 ……しかし。

 

「自分の力だから分かってると思うけれど、良いことばかりじゃないわ」

「……はい」

「その固有魔法は、権能を譲り渡す。つまり……あなた自身は二度と固有魔法を使えなくなったということ」

 

 ――本当に、よかったの?

 そう、メルミナは問いかける。

 

「強くなれば、戦闘用の固有魔法なら、コノエの隣に立てたかもしれないのに」

「…………」

「この残酷な世界で、あなたは自ら力を捨てた。いつか後悔するかもしれないわよ?」

 

 この世界では何があるか分からない。唐突に迷宮が氾濫するかもしれない。明日にでも魔王が現れて、文明が崩壊していくかもしれない。

 ……だから、メルミナは問いかける。本当に、()()()()()()と。

 

 それに、テルネリカは……。

 

「――ええ、かまいません」

「……そう?」

「はい」

「あなたの権能、コノエと縁が切れたら本当に何の価値もなくなるけど?」

「…………嫌なこと言いますね」

 

 テルネリカは、絶対絶対切れませんけど、と言いつつ。

 

「――でも、はい。それでも、私はあの人のお役に立てる力を選びたい」

 

 しかし、それでも、と。テルネリカは頷いた。

 それでもいいのだと、テルネリカは笑う。例えこれから先何があろうともこの決断を後悔はしないと。

 

 そこに嘘はなく、テルネリカは愛を持って胸を張った。

 

「……ふうん」

 

 そんなテルネリカにメルミナは目を逸らす。これだから、と思う。

 だってそれは、メルミナには決して真似が出来ないことだ。

 

 そうだ、これが、これこそが。己の全てをかけて一人を愛するということだった。

 黄金の想い。コノエを救った、どこまでも純粋な愛のカタチ。

 

 コノエが目の前の少女の色に染まった理由を思い知らされる。

 ……メルミナは敗北感に苛まれて。

 

「……ああ、でも、メルミナ。一つ訂正を」

「……なに?」

「私も、一歩間違えば躊躇っていたかもしれません」

 

 テルネリカは言う。もし、己の身を守る手立てが全く無かったら、こうは出来なかったと。

 だって、コノエは周囲が傷ついたら悲しむ人だ。それを知っていて、己自身を適当にする事は出来ないと。

 

 それでも、今回この力を選んだのは……。

 

「この数日で、頼りになるお知り合いが出来たからです」

「……は」

「――お願いします。メルミナ。これからも私を守ってくれませんか」

 

 テルネリカがメルミナに深く頭を下げる。

 それにメルミナは、ぽかんと口を開ける。……まさか、この女恋敵(わたし)を当てにしてるのか。

 

 確かに今回はメルミナがテルネリカを守っている。

 けれど――。

 

「…………」

 

 ――正直に言えば、普通に嫌だった。

 だって恋敵だし。一緒に住んでるし。しかも固有魔法でコノエに点数を稼いだみたいだし。一緒に住むな、代われ。とても断りたい気分だった。

 

「……む」

 

 ……でも、そう思う一方で。コノエが周囲が傷ついたら悲しむというのは事実だった。そういう男だ。

 そして、メルミナだってコノエに悲しんで欲しいわけじゃない。泣く姿なんて見たくない。好きな人に笑っていて欲しいと思うのは普通のことだ。

 

「……むむ」

 

 ――それに、もう一つ。

 何よりも大きい理由があった。

 

 祝福型は本体が死ねば使えなくなる。つまり今後は、テルネリカの死はコノエの弱体化を意味することになる。これからも前線に立ち続けるであろう、コノエのことを考えれば……。

 

「……むむむむむ」

 

 メルミナは、頭の中で色々考える。

 葛藤して、嫌な気持ちとコノエの利益を比較して。

 

 ……ほんの少しだけ。

 恋敵でさえ無ければ……この数日で見たテルネリカの人格自体は嫌いじゃない、と思ったりもして。

 

「…………はあ」

 

 メルミナは最後に、大きく息を吐く。

 目の前で頭を下げ続ける少女を見て。

 

「……頭を上げなさい」

「……メルミナ?」

「本当に、仕方ないわね」

 

 そして、腰のポーチから小さなレンズが付いたピンを取り出して、頭を上げたばかりのテルネリカの方へ投げた。

 

「……メルミナ、これは?」

「うちの社員章よ。それがあれば、私の部屋に直通で入れるから。……コノエと別行動になりそうなときは、うちに来なさい。精々こき使ってあげるわ」

 

 ……まったく、本当に、仕方がない。

 メルミナは内心で悪態をつきながら、テルネリカがピンを服に付けるのを見る。いざという時はメルミナに繋がり、神威武装としても使える特別な一品だった。

 

 そしてもう一度、メルミナは大きく息を吐いて。

 

「……で、それはそれとして」

「はい」

「結局、あなたの力、どんな能力なの?」

 

 頭を切り替えるように、メルミナは問いかける。

 するとテルネリカは少し悩むような顔をして。

 

「……わかりません」

「え? ……ああ、覚醒したてだものね。そうね……じゃあ、なんとなくでいいから思いつくことを言ってみて」

「思いつくこと、ですか?」

「ええ、なんでもいいから」

「……そう、ですね…………」

 

 それから、数秒間の沈黙があって。

 ああ、そういえば、とテルネリカは呟く。

 

「……メルミナは知っているでしょうか。聖花の逸話なのですが」

「うん?」

「かつて、神が道に迷われたとき――」

 

 ――それは、異世界ではそれなりに知られた昔話だ。

 かつて、神が邪神の陰謀で邪悪な森に囚われ、道に迷ったことがあった。どれほど歩いても端の見えない幻惑の森だ、何日経っても抜け出せず、神は困り果ててしまった。

 

 でも、そんなとき。神の足元で輝く花弁があった。

 純白の花、聖花だ。その花弁は一つだけでなく道を指し示すように点々と続いていた。神は光を辿って歩き、ついには森から抜け出した。そういう話で……。

 

「……なるほど。じゃあ、それがあなたの固有魔法ね」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

固有魔法(オリジン)――御()()()()()()()ように』

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――コノエは視る。地獄に浮かぶ金色。

 一片の花びらが、封印領域に浮かんでいる。

 

「……これは」

 

 しかも、一つじゃない。()()()()()()()()

 まるでコノエを導くように、封印領域の奥へと続いていく。

 

「コノエ? どうしたの?」

「……すまない、付いてきてくれるか」

「……? いいけど」

 

 コノエは掃討を中断し、襲い来る魔王だけを焼きながら花びらを辿っていく。

 理由は分からないけれど、そうしなければならない気がした。何よりも先に追いかけなければならない気がした。

 

 だからコノエは、ただただ、金色の軌跡を追いかけて――。

 

「………………これは?」

 

 そして、コノエはその場所に辿り着く。

 そこは数多のスライムが這いずり回っている、少し開けた所だった。

 

 ――その、広場の中に。

 それまでの花びらとは違う、一輪の金色の花が咲いていた。

 

 

 ◆

 

 ――広場に浮かぶ、一輪の花。

 

「……?」

 

 コノエは首を傾げる。その場所を指し示すような花。

 しかしそこは、見たところ広場の石畳と、地を這うスライムしか見えない。何を示しているのかが分からない。

 

「………………」

 

 ……コノエは、これは一体何なのかと、思考を巡らせ――。

 

『――――マ』

 

 ――でも、ふと。コノエはあれ、と思う。

 何故だろう。その花を見ていると、コノエの脳裏に。

 

『――――ィマ』

 

 なにか、よく分からないけれど。

 

『――ファティマ』

 

 封印領域に刻まれた日記。その姫巫女の名が、浮かんでくるような――

 




※次の更新は二話同時になります。二話目から読まないように注意してください。
また、準備が進んでいますので、次の更新から第三部完結まで四日間毎日更新します。お付き合いいただければと。

報告
書籍化に伴い、三雲岳斗先生から推薦文を頂きました。
Xに載っていますので、是非見て頂ければと。
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