転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
「――――」
雷と化したコノエが槍を振る。魔力を回し、空を踏みにじる。
神威武装は雷で臨界し、空間そのものを引き裂いていく。
[制限時間、残り四.九六秒]
それに対し魔王は一斉に
数日前の鈍い動きは影もなく。蠕動する魔王は、泡と共に瞬く間に体積を増やし、形を作っていく。
(――これは)
コノエは見る。魔王が形作ろうとしているもの。それは――。
(――人。しかもただの人ではない)
封印された世界に無数の人型が出現する。黒紫色の人影。
生み出された影がコノエとフォニアに武器を向ける。
――コノエは、その影たちを金の権能で見る。そして理解する。
あれらは、かつての魔王討伐隊だ。魔王との闘いの中で流した血や毛髪など、彼らの一部を取り込み、魔王の権能で疑似的に復活させたもの。
――過去に生み出し、体内にストックしていたそれを、魔王はこのタイミングで投入してきている。
『kyiu』
そして伝わってくるのは強大な気配。
そうだ、人影の中には――。
(――アデプト級の者もいる!)
擬態達が動く。同時に動く。その足元の魔王の粘液が弾ける。
それは二十の影だ。彼らは瞬き以下の間にコノエの傍にまで迫っている。
「――」
上下左右、四方八方、ありとあらゆる方角から武器がコノエを襲う。剣、槍、斧、鞭、メイス、ナイフ。計算された動き、同一のタイミング。
逃げ場など何処にも見えないような完全なる連携。
コノエはその刃に――。
(……)
――しかし、ただ、槍を持って応じる。
冷静に、適切に。撃鉄は既に落とされている。死地にあって、コノエの思考には一点の曇りもなく。
脳を雷が巡る。光の如き速度で思考が回り、鍛え上げた武が周囲の全てより答えを導き出す。
コノエは、十字槍を一点に向ける。
そこは包囲網の一点。ナイフ使いだ。小柄な女性型のスライム。その速度も、技も他の者達と
(――片腕、前腕部分、僅かな隙)
コノエはそこに隠された空白を見つける。技の隙間、僅かに空いた欠落。
目の前の擬態は、持っているべきものを持っていないような――。
(――おそらく、小型の盾)
瞬時に出した答えをコノエの槍が穿つ。
技を以て槍はナイフを弾き。
『――p』
貫く。刃から雷が奔り、内部を焼く。
――コノエは理解する。
(
隙の正体を予測しつつ、コノエは生まれた穴に向けて踏み込む。
包囲網の崩壊。コノエは降り注ぐ攻撃を躱していく。
落ちる雷のように空を駆ける。武器と武器の合間を潜り抜け――。
「――」
――すれ違いざまに、白と金の輝きが走る。
意識の間隙を縫うように刃が二つ目の影を貫く。返す刃で三つ目の首を刈る。
『cu――?』
立て続けにやられたからか、僅かに動揺が広がる。
何故とでも思っているのだろうか。
確かに、彼らはその全員が超一級の腕を持つ影の群れ。
アデプト級の技、身体能力。災害を物ともしない一騎当千の兵達。
(――だが)
だが、
――それぞれに隠された空白を、コノエは決して見逃さない。
雷の速度でコノエは跳ねる。雷鳴と共に槍が、拳が、脚甲が欠落に打ち込まれていく。
剣士の心臓を貫き、逆側の槍使いを石突で粉砕する。槍に対応しようとしたメイス使いに魔道具で生み出したナイフを肘で叩きこむ。
包囲した二十の擬態達はその数を減らしていき――。
[制限時間、残り四.五六秒]
『――g!』
コノエは最後の鞭使いを槍で薙ぎ払う。
一秒の半分にも満たない時間に殲滅を終えて――。
(――フォニア)
同時に、断絶の盾で襲い来る敵を弾き飛ばしたフォニアがコノエの元へ飛んでくる。その青い瞳とコノエの瞳が合った。指の動きから意思を疎通する。
互いのやるべきことを把握し、背を向け合う。
『lna』
魔王の声が響く。次なる擬態達が武器を構え、二人に向けて跳躍する。その他の擬態も遠距離用の武器や魔法を構える。無数の武器が、魔法がコノエとフォニアに襲い掛かる。
「――!」
それを、フォニアの声なき声が迎え撃つ。フォニアの周りに盾が生じる。一枚ではなく、次から次へとその数を増していく。二人を巨大な球状に包んでいく。
[制限時間、残り四.一二秒]
――手に入れたのは短い安全な時間。
コノエはその間に、盾に守られながら、想った。
フォニアを想った。唐突にすべてを失い、それでも笑った少女。
彼女の運命を、あの日の言葉を、山の上でありがとうと笑っていた姿を想った。
男を想った。三百年の愛を想った。
妻を失い、絶望し、スライムに成り果て、それでも愛のために耐え続けた男を想った。
――想い、願う。願い、作り出す。
そうだ、この世界は、意志こそが何よりも力を持つ世界なれば――!
[制限時間、残り三.六〇秒]
――ドクン、と。コノエの魂が跳ねる。
諦められない願いを、受け継いだ願いを抱え、意志を以て魂が躍動する。
魂の力が器から溢れ出す。
刻まれなかった渇望が、世界を侵し始める。
魔道具が加速する。願いが魔道具の回路を加速する。
本来一度だけの創造は、幾重にも繰り返されていく。一は十に、十は百に、百は千に、千は万に。万は十万に。
加速していく。どこまでも、どこまでも。望みのままに。託された願いのままに。
――そして。
(――フォニア)
目が合う。フォニアが固有魔法を解除する。
同時に、数多の攻撃が二人に襲い掛かり。
『li!?』
――雷光と共に、無数のナイフが姿を現す。
帯電した刃の群れが、擬態を、魔法を蹂躙しながら封印領域の中に溢れていく。
[制限時間、残り三.〇〇秒]
(――掃射)
電磁力で加速された刃が撃ち出される。
渇望が道理を捻じ曲げ、現象を具現する。
轟音と共に世界が揺れる。地を這っていたスライムも、天より侵食するスライムも、擬態も、建物も。その全てが莫大な質量と速度に貫かれ、灼かれていき――。
「――」
――雷が収まると、封印領域に残されたのは空間の端に残された僅かな石造りの建物だけだった。ボロボロだが、ただ一つ形を残した建物。何かがある。魔王の策か。
コノエは考える前に槍を作り出す。投擲しようと振りかぶり。
(――? うん?)
――しかし、その瞬間だった。
コノエは、ある違和感を覚えた。
それは微かな予感だ。何かが、違う気がする。ズレている気がする。
コノエの直感がそう言っていた。コノエが今まで潜り抜けて来た戦いがそう叫んでいた。
「――」
咄嗟に、コノエは、両目に金の権能を集中させる。そうしなければならない気がした。だから、テルネリカに託された力の全てを両目に集め――。
――何か。
――何かが。
――何かが、どこかに――。
「――!!」
――全ての力を使って、微かに見える輝き。一片の花弁。
コノエは見た。知った。伝えなければならない。一刻も早く。だから、槍を投げる手を止め、フォニアにサインを送った。
フォニアは目を見開く。眉を顰め、コノエを見る。それにコノエは強く頷いて返す。
議論する時間はない。信じてほしいとフォニアの両目を見つめる。
フォニアは一瞬目を泳がせ……。
「……ん」
……一拍の後に頷く。
コノエは安堵し、改めて槍を振りかぶった。
[制限時間、残り二.〇六秒]
十字槍が放たれる。
雷を纏った槍が空を斬り裂き、残された建物へと――。
「――!」
――でも、その、直前だった。
建物に開いた穴。その中から一本の手が伸びてくる。
手は手甲に包まれていて、ゆっくりと動いているように見える。なのに、正確に槍の軌道上へと伸びて行った。
まるで道に咲く花を摘むかのように。
指が、槍を捉える。ひょいと摘まみ上げて――。
――バキン、と。
槍が、コノエの十字槍が。神に与えられた神威武装が。
災厄をも打ち破ってきたコノエの槍が、砕け散る。まるでおもちゃのように。
「――――」
圧倒的な圧力が、世界を包み込む。
影が建物を砕き、姿を現す。
黒紫の影。スライム状の体。しかして、その頭にはふわふわとした髪の毛が生えている。
手には手甲。足には脚甲。見慣れた姿。たとえ影であろうとも、コノエがその姿を見間違うなどあり得ない。
[制限時間、残り二.〇一秒]
――教官の擬態が、そこに居た。
モノクロの挿絵が公開されました。Xに載っていますので是非見て頂ければと