藤原佐為Inよう実   作:まるまつ

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出会い

真は1-Aと書かれたクラス看板の前まで来ると、坂柳の代わりにもっていた鞄を返した。

このまま鞄をもって入っては面倒な絡まれ方をされそうだと察した結果だった。

坂柳は真に対して軽く感謝を言うと、扉を開く。そしてそれに続く真。

 

教室の中は既に30名ほどの生徒がおり、真達は大分遅れての登校だったらしい。

生徒達は各々談笑や読書などそれぞれ自由に行動しているようだったが、真達が入ってくると視線が一気にこちらへと集中した。

これだけの人数の視線が一気に向けられることに真は少し緊張したが、彼らからしてみればこれからどんなクラスメイトと過ごすか気になってしまうのも分かるし、何より真の前を歩く坂柳に向けられる視線の方が圧倒的に多かったのですぐに緊張は解けた。

それと同時に鞄を返して正解だったなと内心ほっとしていた。

囲碁を本格的に打ち出して勘が良くなったかなと、何が珍しいのか教室をキョロキョロと見渡す佐為を横目に真はそう思う。

 

(教室なんて中学でも飽きるほど見てるでしょ?)

 

視線の雨からフェードアウトするように坂柳の後ろから離れ、真は自分の席を探しながら佐為へ言葉をかける。

 

『な!?中学校とは全然違いますよ真!色々と大きいような気がしますし、何より天井についてる黒いものですよ!ここにくるまでにもそこらじゅうにありましたが、あそこからただならぬ視線を感じます……まさか!?もしや私と同じ類のものでは!?』

 

佐為は手に持っている扇子を指差し棒のように使いながら黒いもの…監視カメラをアピールする。

 

(そこら辺に幽霊がいる世界だったら流石に困るよ。佐為だけでも手一杯なのに……あそこから僕たちのことを見てる人がいるんだよ。勿論幽霊の類じゃなくて生きてる人間がね)

 

佐為へと言葉を返し、席に着くとそれに補足するように真は携帯を取り出す。

携帯のカメラ機能や、家にあるテレビと似たようなものだと説明すると、佐為はなるほどと納得した。

 

佐為が真の元へ来て約3ヶ月。いまだに現代のことで知らないことは多いが、最初の頃と比べればまだ色々なことを学んでいるので理解は早くなっていた。

 

真はそんな佐為に感心しながら改めて天井の監視カメラへと目を向けると、佐為が騒ぐほどだけはあって、少々多い気がした。

 

防犯上の理由、イジメの防止など、監視カメラがある理由は色々と想像できたが、この数のカメラで常日頃から監視されるというのはどうにも居心地が悪いなと真は思った。

想像していた高校生活とのズレを早くも感じはじめて、ため息を吐きたくなる気分だった。

 

そんなことを真が思っていると、ちょうどこちら側へと振り返った前の席の人物と目が合った。

金色の髪を後ろで纏めて横は刈込みが入っている男。

真と目が合うと男は、よく言えば人好きする、悪く言えば軽薄そうと思われそうな笑顔を浮かべた。

 

「俺の名前は橋本正義。せっかく近くの席になったんだしよろしく」

 

「藤原 真。こちらこそよろしく」

 

そう言いながら真へと手を差し出す橋本。

見た目通りのフランクな性格なんだなと真は何処か納得しながら握手を返す。

 

「同じ中学の子が1人もいなくてちょっと不安だったから話しかけてくれて嬉しいよ。橋本君は同じ中学の子とかいた?」

 

「いーや、俺も同じ中学はいないな。……なんだ、てっきりあの杖ついてる美少女と同じ中学かと思ったけど違うのか。仲良く喋ってる感じだったからそうだと思ったんだが」

 

橋本はそう言いながら坂柳へと視線を移す。

どうやら教室に来るまでの間に見られていたらしい。

 

「坂柳さんとはたまたまバスで隣になっただけだよ。偶然話があっただけ」

 

「ほぉ〜バスで隣になった美少女を初日からナンパか?藤原も中々やるやつだな」

 

「初日から後ろの席のやつを弄りにこれる君も中々だと思うけど」

 

わざとらしくニヤニヤしながら弄ってくる橋本に対して、こちらもわざとらしくため息を吐きながらやれやれという態度で返す。

 

「ははっ、まぁ冗談だって。知り合いがいなくて寂しいのは同じだしとりあえず連絡先交換しようぜ」

 

そう言ってポケットから携帯を出す橋本はどこか手慣れている様子で、真の第一印象通り人の懐に入り込むのが上手い人好きする人物らしかった。

 

新しい携帯に初めて連絡先が増えたことに真は安堵しながら、橋本と話を続けた。

橋本は話を合わせるのが上手いようで、特に会話が途切れることなく話は弾む。

その様子に佐為も何処か満足気で、保護者のように優しい笑顔で2人を交互に見ながら頷いていた。

 

そんな2人の会話は教室に1人の男が入ってきたことで中断される。

男は教団の前まで足を進めて、クラスの様子を一瞥する。

 

「えー、皆席に着いてくれ。私はこのクラスの担任の真嶋智也だ。入学式が始まる前に説明事項がある。大事なことだからよく聞いてくれ」

 

真嶋がそう言うと先ほどまで各々自由に動いていた生徒達は皆静かになり耳を傾ける。

入学式前で浮かれているものも多いだろうに、この切り替えの速さは中々だなと真は素直に感心する。

若干一名浮かれた様子を隠せない幽霊もいたが、それはいつものことなので真は放置した。

 

真嶋は話の聞く用意ができたクラスの面々に満足気に笑みを浮かべると、説明を始める。

 

この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないこと。

三年間は外部との接触が制限されることから学校内に様々な施設が建てられていること。

配られる学生証がキャッシュカードのようになっておりこれで買い物ができること。

纏めるとこんな感じのことを話していた。

 

そして学生証の説明に入ると同時に、真は学生証を取り出す。

 

「学生証に毎月1日にポイントが配られる。これは1ポイント1円として使うことが可能だ。君たちには既に10万ポイントが配布されているから、敷地内にあるものならこれを使ってなんでも購入できる」

 

10万ポイント…つまり10万円が既に自らの手元にあることを知り、静かに話を聞いていたAクラスの面々も少しだけざわつく。

 

『10万円!それってあの福沢諭吉とかいうおじさんが書かれてるやつですよね?それが今真の手元にあるということですか!?……それだけあったら碁会所に何回行けるでしょうか、もしや足つきの碁盤だって夢ではないのでは?』

 

(足つきのは10万じゃ足りないね。まぁマグネットのやつじゃなくて木でできた碁盤やちゃんとした碁石は揃えられるだろうけど)

 

『なんと!真の家にあるマグネットの碁盤も持ち運びやすくて良いですが、やはり私は木が馴染みやすくて好きです』

 

(足つきじゃなくてもいいやつはそこそこの値段するからね。うちはそんなに裕福じゃないし買う余裕なかったけど、ここなら買えそうだ)

 

『私は嬉しいですが良いのですか?真も色々欲しいものがあるのでは…』

 

(変なとこで気にしいだね佐為は。ちょっといいやつでも2〜3万くらいで揃えられるだろうし大丈夫だよ。質素倹約は身についてるから残り7万もあれば十分十分。それに来月になればまた振り込まれるらしいし)

 

それを聞いてわーいと子供のように佐為は喜ぶ。

こういう所が見てて飽きない所だと真は思いつつ、何やら頭に引っかかりを覚えた。

毎月10万、大量の監視カメラ、外部との接触禁止それらのワードが合わさり漠然とした不安に駆られるが、それが何かまでは言語化できなかった。

 

こういう不安をそのままにしておくと大体良いことはないと思った真は、真嶋が説明を一通り終え質問はないかと言ったタイミングで勇気を出して手を挙げた。

 

「…藤原か、何か分からない所でもあったか?」

 

「えーと、クラスに来るまでにも何個かあったのですが、クラスの中は特にカメラが多いなと感じまして……別に何か問題があるわけではないのですが理由をお聞きできればと」

 

「…防犯上の理由だ。これ以上のことは現段階では応えることはできない。別に普通に過ごしている分には撮られた所で問題ないはずだ、気になるのも分かるが慣れてくれ」

 

「…そうですか、分かりました」

 

真の質問を聞いて初めてカメラに気づいたものもいたのか、確かに気になるという反応が多かった。

真嶋の言うように別に教室上で撮られて困ることをしようとするものなどいないだろうが、撮られていると言われて気分が良い人間は少ないだろう。

しかしこれ以上の回答がないということも分かったので、他の人間が何個か質問をするうちに、クラスの空気はまぁいいかという所に終着したようだった。

 

真嶋はある程度質問に答えそれ以上何もない所を確認した所で、入学式までは自由な時間だとクラスから出ていった。

教師がいなくなったクラスは朝の段階よりも少し賑やかで、やはり10万という数字に浮かれているものが多いようだった。

 

真はとりあえず感じた不安を保留にして、出来上がりつつあるコミュニティへの参加を優先し、周りの生徒と談笑しながら時間を潰したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は経ち放課後。

軽い自己紹介や入学式をそつなく終えた真は、とりあえず上手く過ごせたかと自己評価した。

橋本の助力もあり席が近い何人かとは連絡先を交換した真。初日にしては十分すぎる成果に上機嫌になりながら1人学校の外を歩いていた。

 

『真、本当にお友達と一緒に遊ばなくて良かったのですか?碁盤を買いに行ってくれるのは嬉しいですが碁は携帯でも打てますし…初日くらいは真の好きにしても良いのに』

 

真はカラオケにでも行こうかと言ってくれた橋本の誘いを揃えたいものがあるからと断り、1人で碁盤を買いに向かっていた。

初日ということもあり揃えるものがあるというのは皆一緒であり、真のように行動するものも少なくないように見えたいうことで特に気にしてはいなかったが、佐為はそれが心配なようだった。

 

(別に良いって、どうせ三年間は一緒のクラスなんだしそんなに急ぐ必要もないよ。……それに碁盤は佐為の為だけじゃなくても俺も欲しいんだ、折角木の碁盤を買えるんだし早く欲しいと思うのは当然でしょ?)

 

『真〜♡!』

 

(はいはい…嬉しいのは分かるけど抱き付かなくて良いから)

 

抱きついてほっぺを擦り寄せてくる佐為に最近甘やかしすぎかなと、自分より何回り離れているのか分からない男に思う真。

しかし、名人級の碁を毎日特等席で見させてもらい、尚且つ指導碁まで打ってくれていることを考えれば、報酬としてはむしろこちらが釣りあっていないとすぐに思い直した。

 

そんなことを思いながら佐為と歩いていると、コンビニが目に入る。

真はコンビニは高いものだと認識していたので中学時代はほとんど入ったことはなかったが、今ならばと少し頭をよぎる。

 

真はどうしようかと少しずつコンビニに近寄ると、何やらゴミ箱の前で屈んでいる男がいた。

何をしているのかと様子を伺うと、どうやら落ちたカップ麺の掃除をしているようだった。中身がかなり溢れていて、中々大変そうだ。

 

「君大丈夫?もしよければ手伝おうか」

 

「ん?……あぁ、手伝ってくれるなら助かるが、でも良いのか?」

 

感情を感じさせない起伏のない声の持ち主だった。

目も何処かジトっとした印象を受けるが顔立ち自体は悪くない、いやむしろ良い方だった。

そんな男は、真の提案にどことなく申し訳なさそうに言った。

 

「良いよ。えーと、ポケットティッシュがあるからそれで拾っちゃおう。君の手にあるビニール袋に纏めちゃう感じで良い?袋の中身は鞄に入れ替えてさ」

 

「あぁ、それで問題ない」

 

「おっけー、じゃあ始めちゃおうか」

 

こんな所を人に見られても恥ずかしいだろうと素早く片付けを始める真。それに男は黙々と続いた。

 

2人がかりで行えば片付けはすぐ終わり、真はビニール袋の口を縛りゴミ箱へと捨てる。

 

「よし、2人でやったらすぐ終わったね」

 

「あぁ、悪いな手伝ってもらって、おかげで助かった」

 

「気にしないで、……あっ!今更ですけど先輩だったらごめんなさい。俺は1-Aの藤原 真です」

 

真は勝手に一年生だと思っていたが、先輩の可能性もあることに気がついて敬語で自己紹介をした。

 

「いや、俺も1年だから敬語に直さなくて良い。俺はDクラスの綾小路 清隆だ」

 

「あっそうなんだ。先輩だったらどうしようかと思ったよ。……綾小路君ね、それにしても初日からカップ麺落とすなんて災難だったね』

 

「……まぁ俺のじゃないんだけどな。クラスの男子が上級生と喧嘩して落っことしたらしい」

 

「え!それは災難だったね。でもえらいじゃん、わざわざ代わりに片付けてあげるなんて」

 

「まぁそのまま見て見ぬふりする訳にもいかないしな。…若干1名放置して帰ったやつもいたが」

 

その若干1名とは知り合いなのか、何処か遠くを見ながら綾小路はため息を吐きつつ言った。

 

「まぁまぁ、放置する人もいる中で綾小路君は行動したんだからそこを誇った方が良いよ」

 

「そうゆうもんか……まぁ確かにそうだな。そう思うことにする」

 

「……ところで綾小路君。コンビニはどうだった?」

 

「……どうとは?」

 

「……あぁごめん。恥ずかしい話中学時代はコンビニにあんまり行ったことがなくて、でも折角ポイントも貰えたしちょっとよってみようか悩んでてさ。なんか珍しいものとかなかったかなって」

 

真がそういうと綾小路は手を顎に当てて思い出すような仕草をする。

 

「俺もコンビニには初めて来たから他とどう違うかは分からないが、強いていうなら0円の商品があったな」

 

「0円?それは凄いね。綾小路君は買ったの?」

 

「いや、別に今はポイントに困ってる訳でもないしな。あれはポイントを使いすぎた生徒への救済用だろう」

 

「なるほど、救済かぁ…やっぱり急に10万円も貰うと使いすぎちゃう人もいるのかな。……俺もそうならないようにコンビニはやめとこうかな。0円商品は気になるけど、コンビニにあるならスーパーにもあるだろうし」

 

「そうだな。自制できるならそれに越したことはないだろう」

 

綾小路との会話が続く。抑揚のない話し方は変わらずだが、話してみると中々に話しやすいなと真は思った。

橋本のように会話が得意なタイプではなさそうだったが、何処か高校生離れした落ち着きがあり、碁会所にいた年上のお兄さんを思わせる。

 

「そうだね綾小路君も使いすぎには気をつけて。……あと、もしよければなんだけど連絡先交換しない?学校のこととか情報交換とかしたいしさ」

 

「……連絡先。良いのか?」

 

「え?いやこっちがお願いしてるんだし勿論良いけど」

 

真がそう言い携帯を取り出すと綾小路は初めて目を輝かせた。

その変わりようにあまり触れない方が良さそうだと真は感じ、すぐに携帯を差し出して連絡先を交換する。

 

「……これは友達ができたということで良いのか?」

 

連絡先を交換した直後、綾小路は恐る恐るといった感じで真に問う。

 

「う、うん。話も合いそうだしその認識でいてくれると嬉しいけど…」

 

もしかして初めての友達だったりするんだろうかと真は思うが、流石にそれを声に出すことは戸惑われたので、心の中だけで佐為に相談する。

 

(佐為、なんだか綾小路君の初めての友達になってしまったようなんけど…俺で大丈夫かな)

 

『真なら大丈夫ですよ。それにむしろ初めての友達なら碁を布教するチャンスかも知れませんよ!折角碁盤を買うんですし私以外の対戦相手もいないと!』

 

(いつも通りで安心するよ…)

 

「そうか…これからよろしく頼む。……ところで藤原はこれから買い物か?」

 

綾小路からそんな質問をされると、佐為が興奮したように耳元で騒ぎ始める。

 

『大チャーンス!!大チャンスですよ真!!このまま一緒に碁盤を買いに行けば友達も対戦相手も一緒にできるではないですか!誘いましょうよ真〜!!』

 

「いやうるさっ」

 

「……?何かあったか?……もしかして俺が変なことでも言ったか…」

 

佐為のあまりの大声に反射的に言葉を出してしまった真に、綾小路は自らが原因かと何処か寂しそうな目をしていた。

 

「え!いや綾小路君のせいじゃなくて、……えーと、そう!耳鳴りがしてさ、急にくるもんだからびっくりしちゃって」

 

「…そうか、もし酷くなりそうなんだったら早く帰って休んだ方が良いんじゃないか?」

 

(佐為〜!)

 

『ご、ごめんなさい。良い案が浮かんだと嬉しくてつい…』

 

今度は声に出さないように佐為を叱ると、両袖で顔を隠してしゅんとする。

 

「いや、もう治ったし今日中に碁盤を買いたくてさ。…閉店時間はまだだと思うけど他にも日用品も買いたいしそろそろ行こうかな」

 

「碁盤…藤原は囲碁をするのか、良い趣味だな」

 

『……はっ!あちらから興味を持ってくれましたよ真!』

 

(…佐為?)

 

『はい…静かにします』

 

「良い趣味か…小学校の頃は友達から爺臭いって笑われたけどね」

 

「いや、俺も少し打てるがルールもわからん奴からの言葉は気にしない方が良い。立派な趣味だと思う」

 

「……面と向かってそう言ってくれる人は初めてだね。…うん、ありがとう。それを小学生の頃の俺にも言ってあげたいよ」

 

綾小路から帰ってきた予想外の言葉に、真は驚いた。

少なくともそれは同世代の友達から初めて言われた言葉で、胸の中が何処か暖かくなるのを感じていた。

まさか友達になって数分の男に心を動かされると思わず、真は嬉しさと動揺が入り混じった不思議な気持ちになる。

だからだろうか、普段なら躊躇していたかもしれない言葉が自然と口に出てきたのは。

 

「もし良かったら一緒に行かない?」

 

その言葉にまた騒がしくなる幽霊が真の隣にいた。

 

 




2話で囲碁打ってるとこ書きたかったんですが、どれだけ削っても長くなりそうだったので一旦ここまでにしました。次回は囲碁しますので何卒ご容赦を
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