レグルスちゃんの許婚。   作:女になったくらいで許されるわけないだろ

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評価・感想感謝の迫真初手レグルス長文。


2話

「私達のいた村すら、私が生きやすいように治められないこの国は、どうしようもない無能集団が治めているに違いないと思わないかい? あの村は確かに国の隅にあったかもしれないけど、そこに目を向けようとしないのはおかしいだろう? 君は村を治めているはずの領主だったり貴族だったりに、会ったことがあるかい? ないだろう? それはつまり、私達の故郷なんてどうでもいいということだよね。私達の故郷を否定して認めないということは、間接的に私達が認められていないということだよね。それは許さないよ。いや、許されるべきじゃない。だってそれは私たちの権利を認めないということに繋がってしまうだろう? 権利の認められていない人の最後は酷いものだと決まっているんだ。君も知っているはずさ。つまり、あのままだったら私たちは謂れのない罪に問われたり、無理やり戦争に連れて行かれたりしてしまう可能性がある。それってあまりにも酷い権利の侵害だと君も思うだろう? 私と君の平穏で平凡な生活を壊そうとするなんて、君はそれを許せるのかい? 少なくとも、私は心底から許せないよ。これは間違いなく私たち夫婦への宣戦布告さ。宣戦布告をしたということは、もちろん彼らも国を滅ぼされる覚悟があると言うことだよ。私達の権利を奪おうとしておいて、自分たちだけ奪われたり壊されたりしないなんて、それは『傲慢』だよ。何より与えられたもの以外に私達から奪おうとするなんて『強欲』としか言いようがない。だから私は、こんな理不尽の押し付けに合わない為に抵抗することにした」

 

 僕と君は夫婦じゃない。許婚だ。それは譲れない一線だ。

 そんなことはおいておいて、いきなり情報量が多い。いや、多くないんだけど多いというか……。

 

「もしかしてだけど…………国と戦おうとしてる?」

 

 言いたいことが伝わって嬉しいのか、顔を柔らかく綻ばせながらうんうんと頷く許婚。

 今から二週間ほど前に村を滅ぼした僕たち──全て許婚の仕業──は、持ち出した金を持って王都へ向かっていた。王都に居を構えて働かずにいても、しばらくは生活できるくらいの金額があるので安心して行ける…………なんでそんなにお金があるんだろうなぁ? 

 とはいえ、王都行きの竜車には一週間ほど空きがなかったので、途中の都市の中心部の宿に泊まっている。

 あとは王都に着いたらゆっくりとした余生を過ごせる、そう思っていたのも束の間でかつ勘違いだったらしい。

 

 頭のおかしい女はベッドの隣で横になって、僕のことをぽんぽんと叩きながら気の狂った事を言い出した。

 

「戦う? そんな物騒な言い方はやめて欲しいな。私は私達の権利を守る為に無能な集団にしっかりしてくれと、お願いするだけだよ。お願い。何度も言ってるでしょ? 私は無駄な戦いなんて望んでいないし、平和に穏やかに過ごしていたい平和主義者だって」

 

 僕が教養のない田舎者だからかもしれないけれど、もし君が平穏に生きたい平和主義者だとしたらならば、間違っても国を相手にしようとは考えないと思うよ? 

 

「まぁ、私たちを苦しめた詫びとして誠意を見せるというのならば、君の病気を治す薬をもらってやってもいいしね。私は私の生活に満足しているし、与えられた物以上の事を望むことはないよ。だけどね? それを壊されるのはどんな理由があろうとも許せないんだ。それは、そう。例え君の病気であってもね?」

「そっか……ありがとう。その気持ちはすごく嬉しいよ」

 

 なんで国をゆすれると思っているのか、僕の一般人的感覚からでは、許婚の考えていることを正しく導き出す事はできないけれど、僕のことを考えてくれているらしいことはわかった。

 それはそれとして、さっきから続くレグルス語はちょっと重たい。

 

「それじゃあ私はこれから王都に行って、王族だとかいう我儘で辺境の村すら管理できない無能一族と話してくるよ。いいかい? 君は身体が弱くてなんの力もないんだから大人しくしているんだよ? 君はきっと私のために何かしてくれようとしているんだろうけど、本当に何もしないでいいんだ。私が君に気をつけて欲しいのは、頭のおかしい人間がここに来るかもしれないということだよ。君は綺麗な顔をしている。ここに来てそれをすごく実感したよ。街を歩けば私の夫だというのに、不躾な視線をぶつける売女に雌豚どもが。強欲にも私のものに手を出そうとするなんて……だから、君は戸締りをしっかりしておくんだ。いいね?」

「あ、うん、わかった。とりあえず大人しくしてるよ」

 

 半分くらい何言ってるかわからなかったけど、多分気をつけてね? ってことを伝えたいんだと思う。

 だけど、僕としてはレグルスの方が心配である。

 戦ってるところとか見たことないし、歩き方とか立ち振る舞いが完全に素人。王城とか絶対行くべきじゃないけど、村人壊滅させた上で返り血に埃一つない姿見せられてるからなぁ。

 能力も僕には徹底して見せないつもりのようだし。

 

 まぁ、彼女が行きたいというなら行ってもらえばいいか。

 

 一人で納得して頷いていると、急に手が取られる。

 瞼を開ければ、すぐ正面には許婚の顔が。少し動いたら触れてしまうような距離。

 左手は僕の頬に、右手は胸に当たるようにして彼女は囁いた。

 

「君と私はいつもどんな時でも繋がっているからね」

 

 

 そんな彼女の言葉を聞いて、なぜだろうか。

 心臓の音が二つ、重ねて聞こえた気がした。

 

 

 

 

 ───

 ──────

 ─────────

 

 

 

 

 コンコンコン

 

 許婚が王様に直談判をしてくると出て行った日の夜。

 僕がベッドで横になろうとしていると、扉が叩かれる。

 …………まぁ、一応警戒しておくべきか。許婚に言われたばかりだというのもあるし、なんとなく嫌な予感。虫の知らせとでもいうべき何かを感じた。

 

「こんばんは、お兄さん」

「どうも、こんばんは…………こんな夜更けにどうかされましたか?」

 

 刀を扉の近くに持ってきてから少し扉を開けて出てみれば、そこにいたのは、僕が少し見上げるくらい長身の女。青い髪の毛を背中から腰あたりまで伸ばしており、目鼻立ちのはっきりとした美人。街で見かければつい振り返って目で追ってしまいそうだ。

 僕が都会にきて一週間くらいで色んな女の人を見たが、ここまで綺麗な人はいなかったように思われる。

 許婚の顔も整っていると思うけれど、目が眩むほどではない。

 

 少し遠慮がちに顔を伏せながら女性は言葉を続ける。

 見てるのは……僕の足元? 

 

「お昼頃、貴方達の会話を聞いてしまって……」

「はぁ、それが何か?」

 

 昼ごろね。許婚の頭のおかしい発言でも聞かれたか? 

 この女性は実はお忍びで来ていた貴族様で、お国に逆らう発言をした僕たちに何かしようとしてる? 

 ……ははは、流石に被害妄想がすぎるか。そんな都合よくお貴族様がいらっしゃった上に、アレを聞かれているなんてねぇ? 

 そんなことがあるわけないだろう。

 

「お兄さんの病気、治して差し上げましょうか?」

「はい? すみません、急にそんなことを言われましても……困ります」

 

 ニコリと人好きのする笑顔でそんなことを言ってくる女性。

 考えるまでもなく、怪しすぎる。いくら僕が田舎者で釣りやすそうだとしても、引っかかることはないぞ。

 というか、許婚の言っていた変な人間が〜っていうのが実現しているのがさ……。

 

「貴方のそれは発魔期と言って、魔法に関する天性の才能がある人間の発症するものなんですよ。どうです、よければ話だけでも聞いてくれませんか?」

「いや、本当にそういうのはいいんで。僕は僕の身体に文句はありませんし、どんな風に死のうと構いません」

 

 そりゃあ治るなら治したいけど、こんな怪しげな女性に任せたくない。まだ伝説上の薬草や竜の血を信じたほうがマシだ。

 

 発魔期ってなんだよ。兎か? 常に発情期だとか聞いたことがある。

 誰が言っていたんだったか……白金の女の子だった気がするんだけど。

 そんなことよりも、魔法の才能が〜とか言う謳い文句は初対面の人間に言うには怪しすぎるように思える。

 どれだけ身体が辛くて、提案してくるのがどれだけ美人だとしても乗る奴がいたら是非とも見てみたい。

 

 そこまで考えてから、これ以上話すことはないのでとだけ言って僕は扉を閉めようとドアノブを引けば───ガコッ

 

「……なんですか?」

 

 扉を閉めようとドアノブを引いてみれば、スッと足を挟み込まれてしまい、閉めるに閉められなくされてしまった。変な人とはいえ女性の足に、そう何度もぶつけるわけにはいかない。

 どかしてくれと視線を上に送ってみれば、笑顔のまま僕の目の前に差し出されたのは細くて綺麗な指。

 

「アル・ゴーア」

「───っ?!」

 

 これまでに感じたことのない悪寒を感じた。向けられた女の腕を咄嗟に弾いて懐に入り込む。

 全く気負いしない自然な動作で放たれたのは、側にあるだけで蒸発してしまいそうなほどの熱を持った炎。

 あのまま何もしなかったら間違いなく消し炭になって死んでいた。

 

「おやぁ〜? 避けられてしまったようだぁ…………ぬぁぐっ?!」

 

 話し方! そっちが素なの?! 

 いや、今はそんなことを気にするべきじゃない。

 

 業火が放たれるよりも早く懐に潜り込んでいた僕は、熱と爆風に煽られながらも女の鳩尾に一撃入れる。怯んだ隙に、股下に滑り込ませた足を振り上げ女を吹き飛ばす。

 女との距離ができたことを確認し、崩れ落ちる床板を蹴って加速することで、瓦礫に紛れて触れたものを切り裂き落ちゆく刀を掴み取る。

 瓦礫に埋もれてしまうよりも先に着地すると、幾度か刀を振るって斬撃を飛ばす。僕を押し潰そうと落下してくる残骸を切り刻んだことで、生き埋めは免れたようだ。

 

 一息吐いて周りを見れば放たれた魔法によって火の海と化している。おそらく深夜ということも相まって、逃げ遅れた人も多いだろう。

 悲鳴がそこかしこから上がり、人や木が焦げた匂いが鼻をつく。思い出されるのは、一週間ほど前に壊滅した僕の故郷。

 

 どうやら僕は、頭のおかしい女に人を殺され住んでいる場所を焼かれることに縁があるらしい。

 

「君は随分とぉ厄介な子だぁね。大人しく焼かれてくれていれば、無駄な人死は出なかったのだけどねぇ」

 

 空を歩いて僕を見下ろしながら、気分の悪い責任転嫁をする女。

 ……許婚も似たようなことをしてる事には目を瞑っておこうか。

 

 口振からして、僕を殺すつもりで狙っていたのに間違いはないはずだ。

 なんで僕が狙われている? 村を壊滅させたことが伝わったことで、領主か国から遣わせられた刺客か? 

 だったら僕じゃなくてレグルス・コルニアス(頭のおかしい女)を狙え。

 いや、落ち着こう。国の刺客だとしたら、比較的大きい都市の中で狙うとは考えづらい。他にも狙うことができる場面はいくらでもあったし、許婚がそばに居る時でも、あいつは素人なのでどんな能力を持っていようと僕を殺せたはずだ。

 

「なぜ僕を狙う。狙われる謂れはないぞ」

 

 周りは火の海に沈んで、どんどんと勢いを強めているが気にしている余裕はない。

 僕がやらなければならないのは、この女から逃げて許婚と合流……はしなくてもいいか。兎に角、僕はこの場を凌いで逃げるか、この女を殺すかしなければいけない。

 

「私は従っただけさぁ。どぉやら君の存在が邪魔になぁるようだからねぇ。理由はそれだけで十分だぁろう?」

 

 言うが早いか、僕を殺そうと次々と火球が放たれる。

 直撃したらまずいことはわかりきっているので、大きく避ける。はじけた後の熱や爆風からは、身に着けている浴衣が守ってくれるから問題ない。

 故に問題は……

 

「それじゃあいつまで経っても私に傷はつけられないよぉ」

 

 女が空を飛んでいることである。

 火を放つと同時に斬撃を飛ばしたり、隙を見て瓦礫を投げつけてみたりしていたが、いかんせん距離があり避けられてしまう。ほぼ一方的になぶられている状態で気分が悪い。

 

 まともに入ったのは、始めの鳩尾と股間を蹴り上げた事だけ。若干腹を押さえながらいるので、ダメージが入っていないということはないだろうが、それだけだ。

 撃退、或いは殺害するにはまだまだ足りない。引きずり下ろしたいところだけど……難しい。さっき見せてしまった身体能力を警戒してるのか、高い建物からは離れている為、建物を蹴って掴みかかる事もできそうにない。

 

 僕がはじめにいた宿からかなり移動したせいで、被害は都市全域と言っても過言ではない。都市を崩してまで狙う程の価値、或いは危険度が僕にあるか? 

 従っただけということは、指示した人間がいることは確実なんだけど…………わからない。

 

「君、いったいいくつだぁい?」

「は?」

「まだまだ若いのによく動けるなぁと思ってねぇ」

「14」

 

 息をつく暇すらなく向けられる砲撃を避けていると、あちらには余裕があるようで、そんな質問を投げられる。

 できることなら、そういうことは火を放つのをやめてから聞いてもらいたい! 

 返事とともに何度目になるかわからない斬撃を飛ばす。これまでは、一つしか飛ばしていなかったが、今回は3つだ。少しは当たって欲しいものだけど……

 

「そぉ〜れはすごいじゃないかぁ」

 

 当たるわけないか。

 一つは避けられ、他の二つは炎を当たることで相殺させられる。

 くそ、宙に浮いてそこから攻撃し続けるなんてズルをするのはやめろ。

 

 戦闘中、途切れることなく聞こえてくる悲鳴と絶叫、助けを呼ぶ声がしていいるせいで気分は最悪。まぁ、僕が都市を走り回ったせいで被害が広がったって言うのはあるけど。

 でも、それって攻撃してくる女が悪いよね? 僕は襲われたから抵抗しているだけでさ。どう考えても僕は悪くない。

 

「……僕の初めての殺し合いが、都市一つ落とせる化け物なんて聞いてないぞ」

「言ってないからねぇ?」

 

 むかつく女だな。

 そんな会話をしながらも攻撃が止むことはない。延々と繰り出される魔法によって、都市はもはや都市としての機能を失い、壊滅状態にある。

 

 さて、ここからどうやって女を殺そうか。

 火の海に沈んだ都市の残骸を転々として攻撃をかわしながら考える。

 チラリと都市中央の上空からしらみつぶしに魔法を放つ女を見て確信を得る。敵はおそらく魔法使いの上澄みだということ。そしてこの国の人間ではなく、民衆の死や都市の崩壊に一切の興味はないこと。

 何より問題なのは、女が空高くに陣取っているせいでこちらの攻撃を避けられてしまうこと。

 

 ───唐突に灼熱の雨がやみ、女の声が風に乗ってこちらに届いてきた。

 

「今からここにはとある魔獣がやってくる」

 

「かつてとある魔女が生み出した災厄さ」

 

 魔獣? 魔女? 何を言ってるんだ? 

 

「なに、君とはもうさようならということさぁ。ここまで一切傷を負わず、私を相手に戦い抜いた姿はとおってもお見事だったよ。けど、これで終わりだぁよ」

「だから、何を言って───?!」

 

 なんだ、この足音は? 

 夥しい数の何かが向かってきている。音からして、大型ではない。小型? 

 

「おい、あれはなんの影だ?」

 

 だんだんと近づいてくるそれに目を凝らしてみると、いたのは数え切れないほど多い兎の群れ。

 

 待て待て待て待て! 

 これを僕一人で相手するのか?! 都市の兵士のほとんどはさっきの女の攻撃で死んでいる。というか、都市にいた人間のほとんどはそうだ。

 

「おい女ぁっ!!! ちっ! あいつ逃げやがった」

 

 どういうつもりだと聞こうとしたが、既に女の姿は遥か遠くにある。

 女と兎を同時に相手しなくて良くなったと考えればましだが……次会うことがあれば、必ず斬り殺してやる。

 

 そう心に決めて、まずは一振り。周囲への被害も何も考えない、加減無しの一撃を兎たちに向けて放った。

 

 

 

 ───

 ──────

 ─────────

 

 

 朝日が上りそれから夜になった現在。

 周りを見れば、広がっているのは血の楽園。

 僕が殺した兎の死骸と、兎が人の死体を食い散らかした結果がそれだ。

 次々と絶え間なく群がってくる兎を飲まず食わずで切り続けていたが、そろそろ僕の体力も尽きそうである。

 一日中兎を殺し続けていたのだ、殺した数は最早わからない。しかし、いくら切っても減ることがないのはなんなのか。むしろ切れば切るほど増えているように感じる。

 

「……ふう」

 

 いや、ほんとうに限界が近い。

 病死は兎も角、兎に群がられ生きたまま食べられるなんて最期は嫌だ。

 ジリジリと後退していく斬撃の境界線を見ながら思う。ここで死ぬわけにはいかない。

 

 時間を稼ぐには兎を交代させるしかないと考え、押し返す一撃を放つ為に刀を構えた瞬間。

 

 真空が吹き荒れ、兎は一瞬にして消し飛ばされる。

 

 何が起こったのか、理解できずに呆然としている僕の前に現れたのはよく見知った白髪の女。

 

 

「君、私がいないとすぐに死んでしまいそうだね」

 

 

 ……ああ、まいったなぁ。

 少し、本当に少しだけ、彼女に惚れてもいいかもしれないと思ってしまった。

 

 

 




謎の青髪長身美女は発魔期って言ってるけど、違います。彼はゲートに疾患のある一般人です。
なんで魔女に魔獣を知らないんでしょうかね?
浴衣:汚れない。1日につき一度だけあらゆる魔法を無効化する。
刀:存在するものからしないもの、虚構から真実まで、あらゆるものを切ることだけ求めて造られた刀。現在は本来の力を発揮することができていない。
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