第1話
死後の世界。
少なくとも周りの人間にそこがどんな場所なのか知っている者はいなかった。
宗教的には天国だとか、地獄だとか……臨死体験ではトンネルの中にいたと話す人もいるらしい。
誰もが一度は興味を持ち、疑問のまま終わるのだろうが。
俺は齢16歳にして、その答えに辿り着いた。
真っ白な部屋。
暗くも明るくも無い、匂いも感じられない無機質な場所。
「生は寄なり、死は帰なり……悲しむ必要は無いらしい」
生は仮の宿、死ねば生まれてきた根源に帰るだけなのだと。
つまり、嘆くことも無いのだと言うが、帰るのがこんな所だと知って納得できる人間がいるのだろうか。
天国とまでは言うまいが、もう少し見応えのある場所が良かった。
16年で見た景色と言えば、京都の観光名所か学校くらい。
「棺を蓋いて事方めて定まる、と言っても残したのは試験の点数位か」
俺しかいないこの空間で自嘲しても、応えてくれるような者はいなかった。
……まぁ、生前でも同じような感じではあったが。
ふと、下に目をやると。
「体が、透けてる?」
正確には、足先。
光の粒子となって溶けてゆき、自分という存在が希薄になる感覚が下から全身へと回ろうとしている。
「死んだときの方が一瞬だった分まだマシだったぞ……」
こんな終わり方を受け入れられる程、俺は成熟していないし、人生に満足もしていない。
何とかここから出る方法が無いかと考え、辺りを見渡す。
「門か……見た目的には天国行きって感じだな」
部屋に溶け込んだ真っ白な門。
「扉を開けるか、このまま消えるか……」
足元を見れば、既に太ももの辺りまで消え始めている。
見た目に騙されてはいけないのだが、この際扉の先がどこであろうと関係ない。
逃げるように、門の向こう側へ飛び込む。
この先が地獄の様に過酷な世界ではない事を、天に祈りながら。
*
入れ違いに、天使が一人現れる。
「アクア様の物は全て片付けました。後は――」
突然仕える女神が下界に降りてしまい、死者の魂を導くという業務を代行することになると、真面目な天使は直ぐに準備に取り掛かっていた。
「……あら、異世界行きの扉が開いてますね。もしや私のいない間に誰かが……!?」
彼らからすると魅力的に映るかもしれないが、あの世界で生き抜くのは簡単なことではない。
異世界での行く末がその過酷さを物語っていた。
だから、彼女は日本人が魔法に興味を惹かれて魔法が使いたいからと迂闊に異世界行きを希望しないように、今までのデータを集め、後悔の無いような選択が出来るよう動いていた。
「しかし、人の気配は全く感じませんね……、私にはあちらの世界を見る権限もありませんし」
そんなことを呟きながら、扉を閉める。
こうして、異世界に行く最後の魂は誰からも祝福を受けることなく、一人旅立った。