第10話
ダンジョン攻略を終えて、翌日。
魔王軍幹部の影響で仕事が無くなり、閑散としたギルド内には、酒に浸るか、血眼でクエストを物色する人間しかいなかった。
そんな飲んだくれ達の内、カウンターで1人ジョッキを片手に野菜スティックをつまむ少女の横に座る
「昼間から飲んでるのか」
「ん? いやあ、ここに来ると飲みたくなっちゃってさ」
クリスはそう言ってジョッキに残ったシュワシュワを一気にあおる。
「キミも飲む?」
「酒は飲まない」
異世界と言えど未だに未成年飲酒には抵抗がある。
「すいませーん! こっちにシュワシュワとネロイドのシャワシャワー!」
クリスが近くのウェイトレスに注文する。
「それで、用事と言うのは」
彼女に聞くと、カウンターに置かれた2本のダガーを俺の前に持ってくる。
一つはダンジョンで発見した宝箱に入っていた物。
体が軽くなる効果があると言っていた。
もう一つは彼女がいつも使っている物。
魔法がかかっていることは知っている。
「初心者殺しと戦った時にキミのは壊れちゃったでしょ? 先輩からのプレゼント、好きな方を選んでいいよ!」
「いいのか?」
「もちろん!」
体が軽くなる方を手に取る。
金属製の鞘に洒落た彫刻が施された直剣で、持つと全身に浮遊感が回る。
「二階建ての建物位なら飛び乗れそうだ」
「足も速くなるから盗賊にはピッタリだね!」
生憎スピードは持て余しているが、高く飛べるのは魅力的だ。
「クリスのは、どんな効果が付いてるんだ?」
「切れ味上昇と、神聖魔法の付与。王都でも中々手に入らないレアものだよ~」
皮の鞘に入ったシンプルな片刃の曲剣。
湾曲した刀身である以上、刺突には向いていないが、斬ることには特化している。付与された効果との相性もいい。
「……こっちにしよう」
クリスのダガーを選ぶ。
高難度のクエストに挑戦するようになると、一筋縄では行かない硬さのモンスターも相手する様になるだろう。
突きでの攻撃が使えないのは痛手だが、速さを上乗せするよりも、切れ味を上げた方が硬い敵には効果的だ。
「じゃああたしはこっちを使おうかな! 実は体が軽くなる効果って便利そうだなーって思ってたんだよね」
彼女は直剣のダガーをベルトのホルダーに固定する。
飲み物が届き、二杯目のシュワシュワを飲み始めた。
「……飲みすぎじゃないか?」
「そんなことないよー。あたしお酒には強いから平気平気――」
「おい」
誰かが、クリスの肩を掴む。
「ダ、ダクネス。実家で筋トレしてるって話じゃ……」
「今日帰ってきた。いいクエストが無いものかとギルドに来てみたらクリスがいたものでな。遊び回るのはいいが、酒は程々にしろと私は言ったはずだが?」
クリスは青ざめた表情でダクネスを見る。
ミシミシと音を立てる肩から手を必死に引き剝がそうとするが……、それでもジョッキから手を離すことは無い。
「こ、これは後輩君の初ダンジョン攻略祝いだよ!? 私利私欲で飲んでるわけじゃないから!」
こちらを向く助けを求めるような視線。
ダクネスは祝いだと聞くと、少し力を弱めたようだ。
「……酒は百薬の長とも言うらしい」
「そ、そうだよダクネス!」
「その言葉を使うのは毎日飲んだくれている酔っ払い共だけだ!」
そう言ってため息を吐いた後、静かに手を離す。
肩にはそれはもうくっきりと跡が残っている。
「ダクネスも座りなよ! こういうのは人が多い方が楽しいからさ!」
そう言われ、クリスの隣に座ると飲み物を注文。勿論お酒ではない。
「それで、ダクネス。いいクエストはあった?」
「あぁ。丁度クリスの姿が見えたから手伝って貰おうとしていたのだ。だが、飲んでいるならやめた方が良さそうだな」
「大丈夫だって! あたしが殆ど酔わないの知ってるでしょ?」
席を立ったクリスがその場でくるくると回転。
確かにふらつくような様子も無い。
「それで、どんな内容なのさ」
「一撃熊の討伐だ。弱いモンスターが隠れた影響か、町の近くで発見されたとの報告が住民から相次いでいるらしい。」
「一撃熊!? それってかなり危険じゃない? あたしじゃなくてカズマ達と行きなよ」
「アクアはアルバイトで忙しいと言っていたし、めぐみんはもう爆裂魔法を撃ってしまったらしい」
「それなら明日に行けばいいじゃない」
「街の皆が困っているんだ。一日でも早く討伐するべきだろう」
金の為に割のいいクエストばかりを物色している他の冒険者達と同じ職業とは思えない程、志の高い人のようだ。
「それならまあいいけど……、一撃熊の攻撃を受けてみたいとかじゃないよね?」
「そ、そんな訳がないだろう。街を守るのが私達冒険者の責務だ!」
「ふーん……。あ、キミも一緒に来る?」
怪しむような表情でダクネスを一瞥した後、こちらに話しかける。
2人が話す間に空になったジョッキを置いて、口を開く。
「一撃熊がどれほどかはわからないが、力になれるのなら同行しよう」
「助かる。戦力が多いにこしたことはないからな。守りは私に任せてほしい。」
高難度のモンスター相手に自分の力がどれ位通用するのか、試したかった所だ。
それに、初めて見るモンスターというのも少し興味があった。
頼もしい事を言ってくれたダクネスは、懐から依頼書――危険度を示す赤い印が何個も押された物騒な紙、を取り出し受付へ向かっていった。