翌日、ギルドの受付。
「ミツルギキョウヤって名前の冒険者が来たら渡しておいてもらえませんか」
運んできた大剣を指して要件を伝える。
受付のお姉さんはカウンターから顔を出して剣を精査。
「それは……魔剣グラムですか?」
「……魔剣グラム。」
そんな大層な名前なのか。
確か、転生者は特典が貰えると前にカズマが言っていた筈。
「魔剣の勇者、ミツルギさんを象徴する武器ですよ。知らずに持ってきたんですか?」
「以前会った時、彼が持っていたのと同じ物だったので」
彼の転生特典であり、生命線なのは確実。
今頃キョウヤが死に物狂いでこの剣を探していると考えれば、やはり一人で彼を探すよりもギルドに頼んだ方が良い。
何とか受け取ってほしいのだが。
「……わかりました。こちらで対応します」
一瞬悩んだようなそぶりを見せたが、受け入れてくれた。
彼女が後ろにいた職員達に声を掛けると暫くして男二人がやってきて剣を運ぶ。
あとはギルドが上手くやってくれるだろう。
酒場へ行く前に掲示板を確認するが相変わらずクエストは増えていない。
見知った顔がアルバイトをしている姿も何回か目撃した程冒険者達は困窮している。
しかし、デュラハン襲撃の危機は去っておらず、騎士団が到着するのもまだ先。
「――あいたっ!」
背中に衝撃。
こうやって後ろからぶつかられるのも慣れたものだ。
「大丈夫か?」
「何やってんだよアクア……って、イチノセ」
「カズマか。魔王軍幹部が襲撃して以来だな。いつも通りいいクエストは無いぞ」
後ろにはめぐみんとダクネスの姿も見える。
「だから言っただろ、アクア。どうせギルドに行っても受けられるクエストなんか無いって。……おい、聞いてんのか」
カズマの言葉には目もくれず、掲示板へ釘付けの様子。
三人は特にお金には困っていないようだ。
「アクアは放っておいて飯でも食おうぜ。イチノセも一緒にどうだ?」
収穫の無かったアクアもテーブルに着き、四人分の料理が先に届く。
「デュラハンとの戦いでは助けられたな、感謝する」
「私も守って貰いましたね、ありがとうございます」
ダクネスとめぐみんが話を振る。
「お礼はあの時言っていただろう。そう何度も言われる事でも無い」
するとめぐみんはカズマに顔を向け、
「やはりイチノセをパーティに入れるべきですよ、カズマ! 上級職で、役割も被っていない。 完璧ではないですか!」
「私も賛成だ。攻撃がめぐみんとカズマだけでは、受けられるクエストにも限界が出てくるだろう」
「ダメだ。こんなポンコツパーティーにイチノセを入れられるわけないだろ」
あっさりと一蹴。
不満そうな顔で野菜を齧るめぐみん。
パーティーは現在も探し続けているので悪くはない。
だが、カズマなりにこちらを案じてくれているのだから勝手な私情で彼女の提案に乗っかるわけにはいかない。
とはいえ、めぐみんの期待に応えないのも不義理だろう。
「人手が欲しかったら、何時でも呼んでくれていい」
めぐみんに向かって話す。
「本当ですか! ではクエストに行くときは毎回呼びましょう。イチノセとカズマで露払いをし、残った大物に我が爆裂魔法を――」
「やめろバカ! 絶対にやるなよ!」
カズマが頭を引っ叩く。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で正門に集まって下さい!』
ギルド内に緊張が走る。
デュラハンが来たと見て間違いないだろう。
ダクネスが席を立つ。
「そろそろだろうとは思っていたが……、早く行くぞカズマ!」
「なあ、行かなきゃ駄目か? 魔王軍幹部相手に、最弱職が行ってもやる事ないだろ」
一足先に向かおうとしたが、カズマは乗り気では無さそうだ。
彼は特別な能力があるわけではないと言っていたので、強敵相手に及び腰になってしまうのも同じ転生者としては理解できる。
「ダクネス、奴は強い。カズマに無理をさせても――」
「何を言ってる、この街を守るのは冒険者の責務だ! ほら行くぞ!」
「大丈夫ですよカズマ。 我が爆裂魔法でデュラハンなど一発です!」
ダクネスはカズマの首根っこを掴む。
抵抗しないあたり、取り敢えず行くことにはしたようだ。
「ねえ私、まだご飯届いてないんですけど」
「後でいいだろう、アクアも早く来い!」
急かすダクネスにアクアは渋々席を立った。
*
――
「出たわねアンデット! 今回は逃がさないわよ。消えて無くなんなさいっ! ”セイクリッド・ターンアンデット”!」
正門に辿りついた途端、アクアがデュラハンに突っ込んで魔法を放つ。
地面に現れた巨大な魔法陣から無数の光が突き上げ、デュラハンを飲み込む。
「駆け出しのアークプリーストにしては大したものだが……本当に駆け出しか?」
光が過ぎ去った後に残されたのは、ダメージを受けたそぶりも見せないデュラハンの姿だった。
「ねえ、どうしようカズマ! 私の魔法がちっとも効いてないんですけど! 私女神なんですけど!」
「噓だろ? 駄女神とは言っても魔法の威力だけはあったはずだぞ」
「女神……?」
今二人が気になる事を言ったのだが。
そんな疑問を他所にデュラハンは意気揚々と語り出す。
「前回、たかが駆け出しと高をくくって痛い目を見たのでな。魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディア、魔王様のより強力な加護を受けて再びこの街に来たのだ」
『ミツルギキョウヤさん!大至急で冒険者ギルドまでお願いします!繰り返します――』
街中からアナウンスが流れる。
その内容に冒険者達が一気に活気づく。
「魔剣の兄ちゃんが来れば、いかに強かろうがてめえも終いだ!」
「そうよ! ミツルギさんの魔剣であんたなんか一撃で斬られちゃうんだから!」
キョウヤはこの街で相当有名のようだ。
となれば後は彼が来るまで耐えればいい、それがここいるほぼ全員の総意だった。
ただ一人を除いて。
「マズい。このままじゃあマズい……!」
「おいカズマ、どうしたんだ?」
頭を抱えてブツブツと呟いている。
「い、いやあ何でも無いんだ。……行くぞ皆、やっちまえ!」
カズマの声を皮切りに冒険者達が飛び出す。
「時間稼ぎが出来れば十分だ! 囲め囲めぇ!」
比較的レベルの高そうな冒険者が数人前に出る。
プリースト達によって支援魔法が掛けられ、魔法使い達も杖を構えて攻撃のタイミングを狙う。
戦況は膠着状態に持ち込まれた……かと思われたが、魔王軍幹部の実力はそれを許さななかった。
「そんなことをした所で……死人が増えるだけだっ!」
ベルディアが首を投げると、宙に上がった目が戦場を見下ろし、標的を捉える。
両手で大剣を持ち、回転斬りの構え。
近くにいる者を纏めて薙ぎ払う算段だろう。
首が落始めるよりも早く既に攻撃は始まっていた。
「……外したか」
「えっ?」
勿論二度も同じ手を食らうつもりはない。
人数は多かったが、刃の当たる順に間合いの外まで移動させればいいだけの話だ。
それに、全員ダクネスより軽いので一人当たりの難易度は格段に低かった。
ベルディアの舌打ちの後に冒険者たちの気の抜けた声。
首が手の平に落ち、ダガーを構え、正面で向き合う。
時間稼ぎに隠れる必要は無い。
「やはりお前か。足は随分と速いようだが、神聖魔法はもう効かんぞ?」
「魔剣使いが来るそうだからな。攻撃は必要ない、”アクセラレーション”、”エンチャントパラライズ”」
速度を上げ、刃に麻痺属性を付与する。
幹部相手に状態異常が効くかは分からないが駄目元だ。
先の様子からして、ベルディアの攻撃に対処できるのは俺かダクネスしかいない。
「後ろを気にしているな? 俺一人を引き付ければいいと思っているようだが……考えが甘いな、出でよ、アンデットナイト! 冒険者共を……皆殺しにせよ!」
誤算だ。
奴が配下のモンスターを召喚する事を予測していなかった。
一人では到底対処しきれない数が地面から湧き出し、俺の横を通り過ぎていく。
「さあ、どうする? ”アサシン”のお前では、広範囲を攻撃できる便利なスキルなど――」
ベルディアの煽りが途切れる。
後ろには無数のアンデットナイトが……
「わああああーっ! カズマさーん!」
「このバカッ! おいやめろ、こっち来んな!」
アクアだけを追いかけていた。
「「……。」」
奴の命令は街の冒険者達を殺す事の筈。
ベルディアの方を見れば、相手も想定外といったこちらを見ていた。
俺が苦しむ姿でも想像していたのだろうか。
「このアンデット達もおかしいの! ターンアンデットでも消し去れないの!」
「分かったから! めぐみんの爆裂魔法を使うか? いやそうするとベルディアが倒せない……!」
策を練るカズマの元にアクアもといアンデットナイトが徐々に迫る。
パーティーの頭脳であり、今一番危険なのはカズマだ。
俺はカズマの元へ一直線にたどり着く。
同時に、アクアの背にも人影が射す。
「”ルーンオブセイバー”!!」
瞬間、一筋の閃光が横に走り、アンデットナイトは全て両断され消滅。
魔剣に残る輝きと空気を切り裂いた残響そのままに彼は振り向く。
「ミツルギキョウヤ、アクア様のお力になるべく駆け付けました!」