この素晴らしい世界で俺だけが祝福されない   作:ZAT  

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第15話

 魔剣の勇者の参戦により、冒険者達は勝利を確信したかのような盛況に。

 

「キョウヤ、来てくれたか」

「君は……少し前に転生して来た」

「イチノセだ」

 アクアに何か続けようとしていたが、生憎それどころではない。

 彼がどの位の戦力になり得るかは不明だが、評判からして魔王軍幹部相手とも渡り合える実力なのだろう。

「相手は魔王軍幹部のベルディア。戦えるか?」

「あぁ。ある事情で魔剣が無くなってからはギルドから離れて捜索していたんだけど、さっき呼び出されて行ってみたら誰かが魔剣を届けてくれたみたいでね。このグラムに斬れない物は無い。任せてくれ」

 

 そう言って魔剣グラムを地面に突き立てる。

 

「ほう。貴様が魔剣使いとやらか」

「そうだ。僕はミツルギキョウヤ、いずれ魔王を倒す者だ」

 

 威勢よく放つキョウヤに、ベルディアは感心した様子で彼の前に兜を突き出した。

「中々骨がありそうではないか……その意気や良し。俺は魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディア!」

「さあベルディア、この僕が相手だ!」

 魔剣を構えるキョウヤに対して、大剣を置くベルディアは戦う意思を見せない。

 そして空いた右手を、空に掲げた。

「俺が直々に相手をしてやってもいいが……貴様にピッタリの相手を用意してあるのでな。そちらの相手をしていて貰おうか!」

 

 ベルディアの隣に爆裂魔法と同等の大きさの魔法陣が展開。

 周囲の空気が一変し、生暖かい風が撫でるように吹き荒れる。

 

 「――出でよ! エンシェントドラゴンゾンビ!」

 

 ベルディアの召喚に呼応して姿を現した、緑色の巨大なドラゴン。

「こいつはある冒険者に最近討伐されたばかりでなあ。俺が死の淵から蘇らせたのだ。生前の様な知性こそないが、脳のリミッターが外れたことにより手にした圧倒的な攻撃力。以前のようには行かんぞ、魔剣使い?」

 目から光が消え、ベルディアの様な強者の風格も無くただ命令を待ち続ける屍。

 にも拘らず、冒険者達が動けないでいるのは限界を超えたその肉体から放たれる恐怖感、そして

 

「な、生臭い!」

 強烈な異臭。

 思わず声を上げるカズマ含め冒険者達が顔をしかめていた。

 アクアに至って鼻を摘まんで近づきたくも無い様子。

 

「そ、そんなことどうでもよいわ! ……さあエンシェントドラゴンゾンビよ、魔剣の勇者を殺し復讐をとげるのだ!」

 裂けんばかりに開かれた口から放たれた咆哮が街を揺らす。

「……そして、俺の相手は貴様だ! 駆け出しの”アサシン”!」

 大剣を持ち直したベルディアがこちらに襲い掛かる!

 

 

 *

 

 

「クハハハハハ! 隠れてどうする? 生半可な攻撃はもう効かんぞ?」

 キョウヤはドラゴン、カズマ達と俺がベルディアの相手をする形。

 冒険者達は数を物ともしないベルディアの強さを目の当たりにして、キョウヤに加勢する事を選択したようだ。

 

「”アサシネイション”ッ!」

 死角からの初撃ダメージが増加する”ファーストストライク”に乗せてスキルを使った一撃を叩き込むが、それでも鎧は軽い傷を残すだけ。

 ”デットリーバックスタブ”が発動すれば威力は上がっただろうがそちらは生憎幸運値依存。

 発動の可能性は無いに等しい。

「そこかっ!」

 ダガーを振り切ったところにベルディアのカウンター。

 経験のなせる業か、驚異的な速度での反応。

「”シャドウステップ”」

 ダクネスを助けた時に気づいたがこのスキルは指定した方向に強制移動する性質を持つ。

 つまり、今の無防備な体勢からも無理矢理回避する事が可能なのだ。

 カズマ達の横に立つ。

「カズマ、最大火力で攻撃したが奴には殆どダメージが無い」

「つまり効果があるのはめぐみんの爆裂魔法だけって事か? 向こうがドラゴンを倒すのを待つ? いや、そんな悠長にしていられる程甘くはないだろ」

 ベルディアはこちらが苦悩する様子を愉しんでいるようだが、いつ態度が変わるか分からない。

 なりふり構わずカズマ達を狙われればそこで終わりだ。

 

 街から続く道を挟んだ反対側ではキョウヤ達が戦っている。

「おい、こいつ傷が再生してやがるぞ!」

「おかしい、僕の”ルーンオブセイバー”がアンデット相手に効いてない!」

「ゾンビだからブレスは吐けねえはずだ!腕と尻尾にさえ注意すりゃあ俺達でも戦えるぞ!」

 ダストの指示を受けて戦い方を変えた冒険者達が攻撃する。

 厄介な再生能力にドラゴンにも掛かっている魔王の加護。

 向こうの長期戦は必至といえる。

 

 必死に策を練るカズマの前にダクネスが向き合う。

「カズマ、私に任せてくれ。前のようには行かん、奴の攻撃は全て受け止めてみせる!」

「ダクネス……。信じていいんだな!? おいアクア! なんか使える魔法とか持ってないのか? 一応、自称何とかなんだろ!」

 当の本人はカズマの後ろで三角座りの状態で、完全に戦闘を放棄していた。

「あいつらアンデットの癖に私の浄化魔法が効かないんだもの。私に出来る事なんかないわよ」

「アークプリーストには支援魔法があるではないですか」

 めぐみんの一言にアクアはしばし茫然とすると、立ち上がり

「”パワード”! ”プロテクション”! みなさいカズマ、浄化魔法だけがアークプリーストの能力じゃないわ!」

「こいつ、自分の使える魔法忘れてやがったな?」

 意気揚々と支援魔法をかけ始めた。

 力が膨れ上がる感覚、これならベルディアの鎧にも多少はダメージを与えられるかも知れない。

「めぐみん、俺があいつの動きを止めたらすぐに魔法が撃てるように待機してろ!」

「いいですとも! 私があのデュラハンに引導を渡してみせましょう!」

 作戦が決まったようだ。

「イチノセ、爆裂魔法が発動するギリギリでダクネスを連れて離れられるか?」

「問題ない。今なら一緒にカズマも運べると思うぞ」

 支援魔法で上がった力なら、そのくらいは出来る感覚がある。

「よし、じゃあ俺も近づくから頼んだぞ!」

 

「作戦会議は終わったか? さあ、お前たちの実力がどこまで俺に通用するか、存分に試すと良い!」

 負ける気は微塵も無いといった様子で挑発し、大剣を構える。

 

 そこに突っ込むのはダクネス。

 ”デコイ”で注意を引くと、上に振りかぶった大剣が狙いを定め、ベルディアは受け止める為に剣の腹を斜めに構える。

「”クルセイダー”か。確かに耐久力は中々の物だったが、攻撃のほうは」

 言葉を続ける前にベルディアの視界から迫る刃が消え、空を切った大剣が横を通り地面に叩きつけられた。

「…………は?」

 ベルディアの素っ頓狂な声だけが残る。

 何事もなかったかのように次の攻撃を始めるダクネス。

 だが、次も、その次も攻撃が鎧に当たることはない。

 

 むしろ外れた大剣が的確に接近したこちらを目掛けて飛んでくる。

 ”インビジビリティ”はベルディアにも看破されていないのだが。

 

 このままではいつまで経っても攻撃できないので、ダクネスの背後に回って小声で話す。

「……攻撃はいい。ベルディアを引き付けてくれ」

 ダクネスは顔を真っ赤にすると、自棄になったか大剣を片手にベルディアへ殴り掛かった。

「何だ急に! 当たらないからと言って無茶苦茶な!」

 ……非常に心苦しいが、相手は魔王軍幹部。

 味方に気を遣っている場合ではないのだ。

 

 死角に回り込んでからの一撃を続ける。

「少しは強くなったようだが、それでは俺を倒すには足りんなあ!」

 カウンターを回避し、潜伏。

 ベルディアは探すのも面倒だと言わんばかりにダクネスを攻撃し始める。

 支援魔法の効果ありきでもやはりダメージとしては小さいが、今までよりも深い傷が入っているのは確か。

 カズマはまだ動かない、チャンスは来ていないようだ。

 

「ふん……、硬いだけのクルセイダーにも飽きてきた所だ。ここで終いにしてやろう!」

 

 ベルディアが首を投げ、片足を後ろへ引き両手で大剣を構える。

 全身から空気が揺らぐ程に強力などす黒いオーラが吹き出し、一段階上の雰囲気を纏った。

 ダクネスの元に全速力で向かい、体を掴もうとする。

 仕切り直しになるが、ここで逃がさないと不味い――

 

「――あまり俺を舐めるなっ!」

 

 突然、目の前に大剣が現れた。

 スキル発動が間に合わない。

 咄嗟にダガーを前に出すが、いとも容易く前進する勢いは殺され反対方向に吹き飛ばされる。

 

 そして、洗練された無数の斬撃は音すら残さずダクネスを襲い。

 剣の腹を盾にした彼女は。

 一撃目で大剣を両断され。

 二撃目から鎧を切り裂かれ始め。

 十を超える頃にはその体で迫る刃を受けていた。

 

「ダクネス――ッ!」

「――大丈夫だ、カズマ。クルセイダーとして、ここで折れるわけにはいかない!」

 

 全身に刀傷を抱えてもなお、ダクネスはその場を一歩たりとも動かなかった。

 頬が紅潮しているのは、きっと彼女が持つ強い熱意の表れだろう。

 

「この連撃を耐えるか……。俺はまだ貴公を見くびっていたようだ」

 上空からダクネスを捉えていた首が落下を始める。

「それにっ! こ、このデュラハン、私を――」

 

「今だ! ”クリエイト・ウォーター”ッ!」

「なっ!? 貴様っ!」

 カズマの声と共にベルディアの頭上から水が出現。

 落ち続ける首をいち早くとる為跳びあがろうとする。

 方向はやや後ろ、そのまま避ける算段だ。

 

 カズマの狙いはおそらく首を投げてできた隙にこれを当てる事。

 このチャンスを不意にするわけにはいかない。

「"ショートテレポート"!」

 ベルディアの元に移動し、地面を離れた体を押さえ込む。

 ステータスがいくら強かろうと、空中で止まることは出来ずそのまま押し戻され、全身で水を受け止める。

「ぐっ!……少々効いたが、万策尽くしてこの程度なら、やはり詰めが甘いなぁ……」

 

「甘いのはそっちだ! "フリーズ"ッ!」

「ふんっ、駆け出しの魔法など」

 腰につけたロープを掴み、カズマの魔法がたどり着くまえにスキルを発動させる。

「"バインド"ッ」

 放たれたロープが両足を縛り、その上から凍結魔法が拘束。

「"スティール"ッ!」

「惜しかったな……レベル差というやつだ」

 スキルは失敗に終わり何も奪えなかったが、カズマは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 ――戦場の生暖かい風を、魔力と熱気が塗り替える。

 

 足元に魔法陣が出現し、驚愕するベルディア。

 縛られ、凍りついた足が逃げる事を阻止する。

「"スティール"が失敗して油断したな! ベルディア!」

 カズマが叫び、気力だけで立っていたダクネスは目を閉じると力が抜けたように倒れた。

 上空へ幾重にも魔法陣が現れ、

「貴様っ! 最初からこれを狙って――」

 

「"エクスプロージョン"ッッ!」

 

 放たれた爆裂魔法を後目に、俺は二人を小脇に抱えて離脱した。

 

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