この素晴らしい世界で俺だけが祝福されない   作:ZAT  

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己の欲せざる所は人に施すことなかれ
第3話


 初めてのクエストは街の近辺での討伐。

 足は速いそうなので勝てなそうなら最悪逃げればいいとの判断。

 

 のどかな平原を指定された場所を目指して一人で歩く。

 穏やかな風が緊張した体をほぐし、足取りを軽くさせる。

 

 巨大な足跡に踏み荒らされた雑草が目立ち始めた頃。

 そんな光景に似つかわしくない生き物が視界に入った。

 

「デカいな……。」

 

 ――今回の目標、ジャイアントトード。

 人間の身長を遥かに超えるカエルが気味の悪い鳴き声を上げながら呑気に平原を飛び回っていた。

 食材として人気なこのモンスターは人やら山羊を捕食するらしい、危険な相手。

 

 腰に下げたダガーを抜き右手に持つ。

 人生初のモンスター相手は流石に恐怖があり、槍とか剣のリーチが長い武器を使いたかったが、それを抑えてダガーを選択した。

 

 素早さを生かしたいというのもあるが……

 

「潜伏」

 

 初めて取得したスキルを使用してトードに近づくが、全く気付く様子はない。

 文字通り気配を隠す効果で、相手の不意を突く戦法を得意とする盗賊には必須のスキルだ。

 全力で走れば勿論気づかれてしまうが、有り余る敏捷性がその効果を保ったまま走る事を可能にしていた。

 

 背後に回って、一度止まる。

 確実に仕留める為、逆手に持ったダガーを両手で握りしめる。

 ――まだ気づかれていない。

 

 緊張で狭まる視界の中、頭を下げたタイミングを狙い、トードに向かって思い切りジャンプする。

 胴体に両足でしがみつくと、トードはやっと気づいたのか体を震わせるが、意に介さずそのまま勢いよく振り下ろす。

 狙うのは、首元。

 

 ザシュ、という音とともに繊維を断つ感触が手に伝わる。

 全身を痙攣させたトードは血を流しながら前方に倒れこむ。

 

「はあ、はあ……。」

 

 血の気が引く感覚と共に視界が元に戻り、自分の動悸が体を通して耳まで響き、口の中に血の味が広がる。

 

 呼吸を整えることに集中しようとするが、冒険者という職業は甘くはなかった。

 

 地面を影が覆い、辺りから不快な鳴き声が聞こえる。

 目を上げると周りには、今まさに俺を捕食せんと口をあけたトードの群れが……

 

「潜伏!!!」

 

 倒れるように地面を転がってその場を離れる。

 俺を見失ったトードは踵を返して平原に散らばっていく。

 

 危なかった。

 戦闘をすれば、その物音で周りのトードはこちらに気づく。

 そんな単純なことでさえ想定できなかったのは、高い敏捷性に甘えていたせいだろう。

 

 準備の甘さを反省し、街に戻る。

 

 初めてのクエストは戦果たったの1匹で終わることになった。

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 

 そんな悪い思い出に終わった初クエストから数日後。

 

 緊張とも上手く付き合えるようになり、簡単な討伐クエストなら危うげなくクリアできるようになり。

 ジャイアントトード相手なら、気づかれずに連続で討伐することも可能になり、段々と余裕も出てきた。

 

「これで10匹目。そろそろ街に戻るか。」

 

 首からダガーを引き抜き、着いた血を拭って鞘に戻す。

 初めはそのまま鞘に戻していたから、気づいた時には買い替える羽目になっていた。

 武器の手入れをしてないから切れ味は直ぐに悪くなるし、冒険者としての常識など微塵も知らない。

 

 この世界で生きていく為には学ばなければいけないことが沢山あるだろう。

 

 例えば。

 

 ――視界の端でトードに捕食されそうな、地面に突っ伏した魔法使い。

 

 助太刀に入るのが義というものだろうが、ゲームで言えばその行為は横取りと取られても文句は言えない。

 仲間のソードマンと思しき青年が何か焦った様子で喋っているが、彼は魔法使いに向かうトードには気づいていないようだ。

 

 「潜伏」

 

 一言唱えて気配を消した状態で彼らに近づく。

 直ぐ傍まで寄っても、勿論気づかれる様子はない。

 

 同時にトードも魔法使いへと近づいていき、そして……

 

 「……食われた。」

 

 獲物を捕食せんとするトード。

 横に目をやれば、近くにはもう一人捕食されている仲間がいた。

 傍観していて気付いたが、どうやらトードは捕食するときに動きが止まるらしい。

 

 いよいよ全滅しそうな状況になり、腰のダガーに手をかける。

 

 すると、青年がショートソードを片手に飛びかかった。

 動かないトードに向かって何度も剣で切りつける。

 暫くして倒れたトードの口から二人を引き釣り出す青年。

 

 ジャージを着た青年が粘液まみれの二人に抱きつかれ凄く嫌そうな顔をしていた。

 

 ――やはり杞憂に終わったようだ。

 駆け出しでソロの冒険者がクエストの横取りをしたなんて話が広まれば、パーティーを組むことはおろか、この生活を続けることさえ難しくなるだろう。

 

 ダガーから手を放し、街に向かって歩く。

 

 ふと、気がかりな事が一つ。

 

 「……ジャージ?」

 

 そう、ジャージだ。異世界にそんな便利な服はない筈。

 立ち止まって、後ろをちらりと見る。

 魔法使いをおぶっている彼は、以前あったキョウヤと違って豪勢な装備に身を包んでいるわけでは無いが、顔は明らかに日本人。

 ジャージで戦っているあたり、俺と同じで来たばかりの転生者なのだろうか。

 

 女神に対する印象がまた一段落ちる。

 

 可哀そうな青年に同情しつつ、再び帰路に就いた。

 

 

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