銀髪の盗賊――クリスに先導されてギルドを出る。
スキルを使用する為、人通りの裏手の広場に移動しているそうだが、特に話題も無かった俺は周りの景色に目を向ける。
時刻は昼過ぎ。殆どの冒険者はクエストに出ているので、街中は主婦や子供が大半を占めていた。
食事は酒場で済ませて来たので鍛冶屋以外を見たことは無かったのだが、流石異世界、右も左も日本では見たことのない物ばかりで見飽きる事がない。
一度散策でもしてみようかと考えていると、肩を叩かれる。
「なあ、アンタも駆け出しなんだろ?俺はカズマ、基本職の冒険者だ。よろしくな。」
「イチノセだ。一応盗賊なんだが、今の所出来るのは攻撃だけでな。」
「盗賊かぁ……。」と呟き考え込む彼。少し遅れて何かに気付いたようで、ハッとした顔でこっちを見る。
「イチノセって……まさか、日本からの転生者か?」
カズマは周りに聞こえないようにして尋ねる。仲間には隠しているのだろうか。
「あぁ。最近来たばかりのな。」
「やっぱりか。同じ日本人に会えて嬉しいぜ。こっちでの生活は大変だよなあ、お金は無いし、冒険者生活は命懸けだし……。」
しみじみと語るカズマ。
「いや、俺は運良く他の日本人に会って少し恵んでもらってな。一人でモンスターと戦うのは命懸けだけど。」
「序盤からソロか!?……って、そう言えば転生特典があるんだったな。」
「貰ってないな。そもそも女神にすら会ってない。」
「マジかよ!アイツの代わりはいた筈だし……、もしかしてあの駄女神、サボってたんじゃ無いだろうな?帰ったら問い詰めてやる……。」
「そういうカズマは何を貰ったんだ?」
「俺も無いんだよそういうの。お陰で今でも馬小屋生活だし、碌に装備も買えねえ。こっちに来てからはずっと土木工事だったよ。」
「――渇しても盗泉の水を飲まず。凄いな、カズマは。」
話を聞いただけでも過酷な日々を過ごしてきたであろうことがわかる。
見たところカズマは唯の高校生。
いきなり始まった異世界での自給自足生活の中で、悪事を働かず地道にここまできたのはひとえに彼の誠実さあっての事だろう。
「困ったことが起きたら言ってくれ、俺に出来る事なら何時でも手を貸すよ。」
「イチノセ……、ありがとな。俺もイチノセが困った時は力になるよ。」
そう言って握手を交わす。
彼とは仲良くやっていけそうだ。
――――――――――――
「――当たりも当たり、大当たりだあああああ!」
「ぱんつかえしてええ!」
目の前には涙目で絶叫するクリスと、ぱんつを晴天に掲げ振り回すカズマ。
横を見れば頬を紅潮させる女騎士のダクネス。
「……。」
――途中までは恙なく進んでいたのだ。
先にカズマがスキルを覚えることになり。
「じゃあ……、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」
クリスがダクネスに石を投げつけ、樽に身を隠すことで”潜伏”を発動。
「ねえダクネス!?これはスキルを教えるために仕方なくだからね!?」
樽の中から”敵感知”を発動させてダクネスの敵意を感知する。
樽ごと蹴とばされ、目を回すクリス。
微妙な表情で冒険者カードを確認するカズマ。
そして、クリスはカズマの財布を奪うと、”窃盗”での勝負を持ち掛けた。
「当たりは魔法が掛けられたこのダガー、残念賞はさっき拾っといたこの石だよ!」
彼女は手に持った石を見せることで、スティールへの対策を示す。
やはりスキルの使い方は誰かに学んで行く必要がありそうだと実感した。
財布を取り返すため、勝負に乗ったカズマは覚えたばかりの”窃盗”を発動した。
その結果が――
「自分のぱんつの値段は自分で決めろ!もし俺が納得する値段じゃなかったら、もれなくクリスのぱんつは我が家の家宝として――」
調子づいてとんでもない事を言い出すカズマ。
彼が持っているぱんつは勝負に勝って(?)手に入れた物なので文句は言えないし、同じ高校生として気分が上がる気持ちは理解できなくもないが。
このまま俺の番が有耶無耶になり、折角の機会を逃すわけにもいかないので”潜伏”を発動させてカズマの背後に回る。
3人共興奮状態にあるからか、目の前を通っても全く気づかれない。
彼の肩を掴み、諭すように話す。
「――人を玩べば徳を喪い、物を玩べば志を喪う。カズマ、冷静になって考えた方がいいぞ。」
「……ハッ!俺は何を。」
一瞬固まった後、正気に戻った様子のカズマは、完全に泣いてしまっているクリスを見る。
そして、
「本っっ当にすいませんでしたあああ!」
勢いよく腰を90度に曲げるとぱんつを差し出して謝罪した。
それはもう、お手本の様に綺麗なお辞儀だった。
暫くして、涙を拭ったクリスがぱんつ受け取って何処かに消え、戻ってきた彼女は頭を下げ続けていたカズマに声を掛ける。
「……勝負を仕掛けたのはこっちだし、下着も返して貰ったからもういいよ。ほら、財布は返してあげるから!」
「よかった……。いやあ、まさかこんな事になるとは思ってなくてな。」
何とか大事にならずに済んだようだ。
下手をしたら下着泥棒の烙印を押され、警察のお世話になっていたかもしれない。
「助かったよ。危うく、取り返しのつかないことをする所だったぜ。」
ほっとしたように一息ついて、こちらを向くと感謝の言葉を口にするカズマ。
悪人というほどでも無いのだが、如何せん欲望に忠実すぎる。
そうしてスキルを一通り覚えた彼は、仲間の元に戻る為ダクネスと広場を後にした。
「――じゃあ気を取り直して、次の授業いってみよっか!」
明るさを取り戻したクリスはこちらを向いて言う。
一波乱あってもうすぐ夕方になろうという頃だが、何とか俺の番が回ってきた。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まって下さい!』
「……。」
俺の幸運は結構低いのかもしれないと、街中に響くアナウンスを聞き流しながら、そう思った。