この素晴らしい世界で俺だけが祝福されない   作:ZAT  

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第6話

 

 冒険者以外の住民達は、各々が家の中に避難して戸締りを始めている。

 その様子を傍目にアナウンスの通り街の正門に向かう俺とクリス。

 

「多分キャベツの収穫だろうね。丁度いいや、実践形式でスキルの使い方をおしえてあげるよ」

「緊急クエストが、キャベツの収穫……?」

 

 言葉の意味を全く理解できない俺に、 彼女は駆け足のまま説明を始める。

 

「キャベツって言うのはね、収穫の時期になると食べられないように飛び回って人の居ない場所を目指すの。そんな彼らを捕まえるのが今回のクエストってわけさ!」

「……他の野菜もそうなのか?」

「そりゃもちろん! それと、キャベツの体当りは鎧も砕いちゃう位だから気をつけてね!」

 

 空飛ぶ野菜、ファンタジーの範疇を明らかに超えた存在に呆然とする。

 

 ややあって、正門に到着。

 街の外には他の冒険者達が既に集まっており、今まさにこちらに向かって飛んで来ているキャベツを待っている。

 群れを成して空を飛ぶ姿は巨大な龍のようにすらみえた。

 

 そんな中、拡声器をもったギルドの職員がクエストの説明を始める。

 

「――今年のキャベツは出来が良く、一玉につき一万エリスです! 皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえて、ここに収めてください!」

 

 その言葉を境に矢や魔法が放たれ、前衛組が武器を構えて駆け出す。

 矢に射貫かれ、魔法に焼かれ、剣で両断され……。

 至る所でキャベツが討伐されるが、その数は減るどころかさらに増えていく。

 

 クリスは一体のキャベツをちょいちょいと指差す。

 身を屈めてダガーを抜き”潜伏”、抜き足ですっと近づくと、勢いそのままに背後から腕を振り下ろして綺麗に両断した。

 

 「こうやって”潜伏”で相手の死角に回り込んでから攻撃するのが盗賊の戦い方の基本! ”バインド”で動きを止めたり、”スティール”で武器を奪っちゃうのもアリだね!」

 

 クリスに気づいたキャベツ達が突撃するが、彼女は目も向けずひらひらと躱しながら説明を続ける。

 

「”敵感知”を鍛えれば攻撃を見なくても避けることだってできちゃうわけさ! すばしっこい相手も捕捉できるようになるから……”フェイタル・ストライク”! こうやって当てるのも簡単になるよ!」

 

 彼女の動きを見ていると、自分が如何に素早さ頼りな立ち回りをしていたのかを痛感させられた。

 

 見様見真似でダガーを逆手に胸元で構え、左足を軽く下げる。

 真っ直ぐ突撃してくるキャベツを捉え体を軽く捻って回避――横を通過する瞬間に狙いを定め、上体を戻す勢いを攻撃に乗せ、貫く!

 ダガーはキャベツの中心を捉え、串刺しにした。

 

「んー、悪くはないね! ”短剣”、”回避”のスキルレベルを上げていけば直ぐにあたしみたいに動けるようになるよ!」

「そういう技術はスキル以外で磨けないのか?」

「できない事もないけど、スキルを取る方が手っ取り早いからね。貴族なんかは上級職の冒険者に依頼して教えを乞う事もあるみたいだけど」

 

 細かい動きを指摘され、何とか修正しながら次々と飛んでくるキャベツを狩り続けること数十分。

 辺りにキャベツが居ないことを確認したギルドの職員がクエスト完了を告げた。

 カタカタと震えるダガーを仕舞い。呼吸を整える。

 慣れない戦い方に体力を奪われ、動きを止めた途端に疲れが一気に体を襲う。

 

「お疲れ様! スピードは中々のものだったね。スキルレベルを上げてみなよ、キャベツは経験値が美味しいからレベルも上がってポイントも増えてるハズだよ!」

「”短剣”と”回避”か。」

 

 ポケットから冒険者カードを取り出し、スキルの欄を確認しようとする。が、疲労で震える手の所為かカードを落としてしまった。

 カードはクリスの足元に落ち、彼女が拾い上げる。

 

「何この敏捷性! あたしよりも速いじゃん! ……って幸運低! 先輩に負けない位だよこれ……」

 

 おっと、見ちゃってごめんね。と謝りながらカードを返される。

 レベル6になって更に上昇したステータスと、全く上がっていない幸運。

 先ずは増加分のポイントを使い切り、ポケットに仕舞う。

 

「幸運はどうやって上げるんだ?」

「マジックアイテムとか、ポーション、支援魔法で一時的に上げるのと、あとは……エリス様に祈りを捧げることだね!」

「エリス様っていうのは?」

「……エリス教の女神様だよ。ほら、お金の単位にもなってるでしょ」

「女神エリス。」

 

 クリスは少しばかり言いづらそうにしながら答える。

 宗派が違うとかそんなのだろうか。

 

「スティールの成功確率は幸運依存だからね。君の幸運だと…………良くて一割、かな」

「……一割。」

「うん、一割。」

 

 更に言いづらそうに答えるクリス。

 ”窃盗”は覚えない方がよさそうだ。

 

「取り敢えず今日はここまで! 次会った時にまた色々教えてあげるよ!」

「本当か……!」

「ダクネスがパーティーに入れそうだからね、時間なら幾らでもつくれるよ」

 

 クリスが指差す方向には、ボロボロになったダクネスと何か話しているカズマ達がいた。

 彼女によると、どうやらダクネスは加入希望者だったようで、今し方正式加入が決まったらしい。

 

 カズマの様にパーティを組むにはレベル以外にも冒険者の常識を身に着ける必要があったが、クリスのお陰でそれも直ぐに達成できそうだ。

 

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