この素晴らしい世界で俺だけが祝福されない   作:ZAT  

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第8話

 1日を移動に費やし、やってきたのは人気のない山の麓。

 

 人里から遠く離れたこのダンジョンが発見されたのは最近の事で、ギルドの職員からその情報を聞き出したダストが掲示板に張り出される前の探索依頼を真っ先に受注したらしい。

 

 そんな経緯もあって、他の冒険者はここに来ていない。

 

 ――ダンジョン探索は前日に移動を始め、次の日に突入するのが常識とのこと。

 日が昇る前の薄暗い山の中。

 俺たちは、野営の焚火を囲みながら朝食を摂っていた。

 

「記憶を無くして気が付いたらアクセルにいた、か。……昔、同じような奴がいたのを聞いたことがあるな。」

 

 そう話すのはパーティーのリーダーで”クルセイダー”のテイラー。

 記憶云々の話は転生をごまかす為の作り話だが、特に疑われる事も無かった。

 

「そこから1人冒険者生活ってのは、中々大変そうだなー。」

 

 軽薄な口調で同情の言葉を投げる、”アーチャー”のキース。

 筋骨隆々なテイラーとは真反対の体格をしたお調子者な印象。

 

「ンな事喋ってねえで早く行こうぜ。お宝が俺たちを待ってんだ!」

「宝は見つけた奴のもんだ、とか言って1人先走るとかしないでよね。ここはトラップ多いって話なんだから。」

「……。」

 

 胃の中へ流し込む様にして一番に食べ終えたダストが意気込む。

 それを制するのは、”ウィザード”のリーン。

 ポニーテールと尻尾が特徴で、魔法は中級まで使えるらしい。

 

「ね、ねえ……、記憶が無いって話。本当なの?」

 リーンの隣にいた筈のクリスが小声で話しかけてきた。

 冷や汗をかいている様に見えるが、所詮は他人事。そんなに心配するような事だろうか。

 とは言えこのまま噓を通せば、思わず卒倒してしまいそうな様子だ。

 

「……作り話だ。あまり素性を知られたくない。」

「よ、よかったぁぁ」

 

 周りに聞こえないように事実を伝えると、クリスが蚊の鳴くような声で反応し、大きく息をつく。

 

「――よし。そろそろ出発しようか。」

 日の出を皮切りにテイラーが号令を掛けると、各々が武器をもって立ち上がった。

 

 *

 

 ダンジョンは遺跡の様な内装で、生温い空気と獣臭が充満している。

 さらに光が一切差し込まない暗闇、手元の灯りだけが頼りだ。

 盗賊の”暗視”やアーチャーの”千里眼”があれば必要ないが、パーティーで探索する為、必須になる。

 

 俺は斥候として先頭で進み、数歩後ろにクリスが、さらに後方にダスト達がついている。

 

「盗賊は”マッピング”を使いながら探索するの。”罠探知”、”敵探知”、”宝探知”が反応したらパーティーに伝えること」

 

 手元の紙には炙り出しの様に通った道が記録されていく。

 

「”罠探知”と”宝探知”は幸運と器用度が影響するから……。まあ器用度だけでも高ければ注意しながら歩けば十分だと思うけど……ってちょっとそこは!」

 

 ――突然、足元に大穴が出現した。

 右足は穴の中に入り掛かって宙を踏む。

 落ちそうな体を敏捷性による動体視力で無理矢理左足へ体重を移し、軸足にして後ろに飛び退く。

 

「いたっ!」

 

 穴には落ちなかったが勢い余って、クリスの鼻先に背中が激突した。

 

「これは……罠判定になってないのか?」

「なってるよ! キミのスキルに引っ掛かってないだけだよ!」

 

 涙目で鼻を抑えながら憤慨する。

 注意力が足りなかったようなので、気持ちを切り替え十二分に集中して先へ進む。

 

 しかし、探知スキルは全くと言って良いほど反応しなかった。

 

「ちょっと! そこ踏んだら!」

 足場の一部が沈み、横から矢が飛んでくるもの。

 

「上だよ上!」

 天井が崩れ落ちてくるもの。

 

「左!モンスターハウスだからっ!」

 通った瞬間、横の壁が消え、大量のコボルトが襲いかかって来るもの。

 

 当たる前に下がる事で全て回避出来るので、スキルが反応せずとも特に問題は無かったが。

 

「はぁ、はぁ……こ、幸運値の低さがこんなに影響するなんて……」

 肩で息をしながら喋るクリス。

「あたしが変わるから、キミは後ろで戦えるようにしてて!」

「精神一到何事か成らざらん。諦めるのはまだ早い。もっと集中すれば……」

 反応しないと決まったわけではない。

 コツを掴めば出来る様になる筈……。

 

「辞めたほうがいいんじゃねえか? お前多分、ダンジョン探索は向いてねえよ。」

「……口は悪いが、ダストの言う通りだ。クリスに任せて、お前は俺たちと一緒に進んだ方がいい。」

 後ろからダストとテイラーが指摘する。

 周囲の反対で、今回のダンジョン探索は戦闘に努めることにした。

 

「さっき言ってた精神が何たらって、聞いたこと無いけどなんて意味?」

 リーンが尋ねる。

「故郷の言葉だ。集中して取り組めば、不可能は無いという意味の」

「へぇ~……って、記憶無いんじゃなかったの?」

「……全ての記憶が無い訳じゃない。覚えている事もある。」

 適当にはぐらかしておく。

 特に興味もない様子で、追及されることも無かった。

 

「罠の場所が分かんないってなりゃあ、盗賊としてパーティー組むのは結構厳しいぜ? 戦闘で光るものでもなきゃあ」

「……戦闘の腕には多少自信がある。」

「盗賊は攻撃は戦士に劣るし、軽装だから守りも弱い。”バインド”もある程度の強さの敵には効かない。戦闘だけというのは簡単じゃないぞ」

 キースとテイラーは盗賊としての現状の厳しさを告げる。

 彼らの言う通りならば、これからも当分は1人で活動する事になるのだろう。

 

「やっぱりお前の目は節穴だったなあ、ダスト」

「うっせえな、キース。あんときは確かに強いと思ったんだよ。ちょっと冒険者カードみせてみろよ」

 カードを取り出す。

「……! おいみろよお前ら、このステータスを! やっぱダスト様の目は間違ってなかったわけだ」

 各々がカードに書かれた数値に驚く。

「ほう! 王都でも見ないような敏捷性だ。筋力があるわけではないが、戦い方次第では戦士に引けを取らないかもな」

「最早、モンスターの攻撃なんて当たらないんじゃないかってくらいね」

「ていうか幸運低すぎねえか? こっちの方が誰も見たことないってレベルだろ」

 

「――右に曲がったところに敵。数は8」

 分かれ道で足を止めたクリスが、”敵探知”が反応したことを伝えた。

 

「俺が前に出る。2人は”潜伏”で隙を見て攻撃してくれ」

 盾を構えたテイラーが指示を出す。

 

 曲がり角の向こうから現れたのは、人型の狼、ワーウルフ。

 テイラーに気づくと、雄叫びを上げて一斉に襲い掛かる。

 

 「”バインド”!」「”ウィンドカーテン”!」

 阻止するのはクリスの拘束とリーンの風魔法。

 

 ワーウルフの力ならば”バインド”は直ぐに解ける、が、腕を拘束された状態は攻撃する絶好のチャンス。

 

 ウィンドカーテンの隙間を縫って、動けないワーウルフの脳天に飛び掛かって一撃。

 ダガーは頭を貫通し、ローブが解ける前に床へ倒れた。

 他のワーウルフが死体に顔を向けるが、その時にはダガーを引き抜き後退していた。

 

「ダスト! 右をやれ!」

「おっしゃあ、任せろ!」

 

 入れ替わるようにして、ダストとテイラーが前に出る。

 交戦を始めたところで魔法が消え、キースが番えていた矢を放つ。

 

「あたしが”バインド”をかけるから、そいつを狙って!」

 ワーウルフの注目から外れた所で再び”潜伏”。

 クリスの言う通りに無力化されたワーウルフを狩っていった。

 

 4匹目のワーウルフに止めを刺した所で戦闘が終わる。

 引き抜いた刃に付いた血を拭って、鞘に戻す。

 

「あたし達だけで4体も討伐しちゃったよ!」

 クリスの言葉に頷く。

 テイラーの”デコイ“があるとはいえ、かなりいい働きが出来た筈。

 

「ほらな! こいつはとんでもない逸材だぞ!」

 ダストが肩をバンバンと叩きながら笑う。

「後ろからでも、攻撃するまで全く姿が見えなかったな」

 使えそうな矢を引き抜きながら応えるキース。

「あたしもサポートに回った方が早いんじゃない?」

「連携というものがあるだろう。それに、あれなら人数が少ない方が戦い易い筈だ」

 

 その後も、戦闘はクリスとのタッグとダスト達の連携で順調に進み、最奥にある大部屋の扉まで到達。

 

「一度休憩を挟んでから入る。全員、万全な状態戦えるよう準備しておけ」

 

 最後まで、探知スキルが罠を発見する事は無かった。

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