この素晴らしい世界で俺だけが祝福されない   作:ZAT  

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第9話

 最後の大部屋へ入る準備が整った所で、テイラーが声を掛ける。

 「俺とダストで前衛、後方からリーンとキースの攻撃を主体で戦う。クリス達は2人のサポートに回ってくれ。」

 

「そんなことしなくてもよお、コイツとリーンの魔法で簡単に倒せるだろ」

 ダストの反論を、テイラーは一蹴する。

「相手の力量が分からん以上、守りの弱い盗賊職を前に出すわけにもいかんだろう」

「あんたは楽したいだけでしょ」

「2人は、それで構わないか?」

 

 クリスが頷く。

 勿論不満は無い。

 

「さっさと倒して、宝でもさがそうぜ! お前ら行くぞ!」

 

 ダストが扉を開ける。

 

 中は外と同程度には明るく、月光の様な青色に照らされた大部屋はまるで吸血鬼の住む廃城。

 中央で待ち構えるのは、深紅の毛並みに人2人分の体躯をした狼男――ワーウルフロード。

 

 ワーウルフの群れでも特に強い個体が誕生するとこの姿になり、目につくもの全てを狩り尽くした返り血が毛を赤く染めたとも言われている。

 

「”ライトニング”!」

 リーンの魔法が鼻を焦がしキースの矢が肩を貫く。

 腹を立てたワーウルフロードがギラつかせた紅い目をリーンに向ける。

 体を屈ませ、飛びかかる体勢。

 

「リーン! 気を付けろ!」

 声を掛けるキース。

「「”バインド”!」」

 もちろん、許すはずもない。

 左右から放たれたロープが両足に絡みつき、勢いよく前に倒れこむ。

「2人共、助かったわ!」

「リーン達には指一本触れさせないから! 遠慮なく攻撃しちゃって!」

 

 絡まるロープを両手の爪で引きちぎる。

 目標は変わらずリーン。

 

「お前の相手は俺だ! ”デコイ”!」

「おらっ! こっち向きやがれ!」

 テイラーのスキルがワーウルフロードの意識を無理矢理塗り替える。

 ダスト達へ釘付けになった所で、攻撃を再開。

 

「そろそろいくよ! ”ライトニング”!」

 

 駆け出し冒険者の街といえど、流石はこの世界でモンスターを相手に生きてきた者達。

 ヘイトがリーン達に向かないよう、パーティー全体で攻撃量を上手く調節している。

 

 常に全力を出し続けるソロとは違う。

 独り善がりの勝手な行動1つがパーティーの壊滅に直結し兼ねないのだ。

 

「これでっ! トドメだ!」

 キースの矢が頭に突き刺さる。

 ワーウルフロードの目から赤い光が消え、矢を受けた勢いのまま後ろに倒れた。

 

 

「――こんだけありゃあ、当分は遊び放題だぜ!」

 大部屋の奥にはさらに扉があり、中には宝石や財宝が積み上げられていた。

「バカな事言ってんじゃないわよ。冬を越すための貯蓄にするの」

「大手柄だな! ダスト! これ全部俺たちのもんだぞ!」

「お前らこのダスト様に感謝しろよ!」

「2人の事も忘れるなよ……どうした、クリス?」

 

 クリスは宝そっちのけで、壁を触りながら部屋を回っていた。

「さっきから”宝探知”に反応が……多分この辺なんだけど…………あった!」

 

 彼女がしゃがみ込んで石壁の一部分を押す。

 ガコン。

 音と共に壁が消え、小さな宝箱が現れた。

 

 頭に微かな電流が走り、”宝探知”が反応したことを知らせる。

 箱を目の前にしてようやくスキルが発動したようだ。

 

「これは……、魔法のかかったダガーだね。身体が軽くなる効果があるみたい」

 

「こいつら持ってとっとと帰ろうぜ! 他の奴らが来ちまう!」

「そんなに慌てなくてもいいだろう、ダスト。まあ、他を探索する余裕も無い。モンスターが湧く前に戻るとしよう。」

 

 こうして初めてのダンジョン攻略は成功に終わった。

 

 途中で野営を挟みながらアクセルへと戻る道中。

 冬を目前にした冷たい風が、木々の間を吹き抜ける。

 モンスターの姿は一切見えない、日本を彷彿とさせるありのままの自然を眺めながら、記憶の中の景色に思いを馳せた。

 

 木漏れ日の斑模様に照らされた黒髪の少女をおぶった茶髪の青年。兄妹の様な2人の姿が――

 

「ねえ、あれってカズマとめぐみんじゃない?」

 横からクリスが話しかける。

 確かにカズマだ。

 前にあったときはジャージ姿だったが、今回はこの世界の服と装備で身を包んでいる。

 彼の生活も安定してきたのだろうか。

 

 ――突如、頭の中で”敵感知”が反応する。

 示す先はカズマ達の後ろ側、木々に囲まれた茂みの先。

 クリスもその気配に気づいたようだが、カズマ達は逃げる様子も無い。

 

「どうしよう、あの2人気づいてない! カズマ! カズマ――!」

 

 彼女の声が届くような距離では無かった。

 間に合うのは、俺しかいない。

 

 走る馬車から飛び出し、着地。

 今のステータスなら馬車の速度は優に超える。

 普通なら地面に引っ張られるところだが、このスピードの前には助走にしかならない。

 

 木々を避けながら駆け抜けた先には、黒い体毛に覆われた虎の様な姿をした猛獣。

 その狡猾さで弱い人間のみを標的にする、アクセルの駆け出し冒険者達の脅威――初心者殺し。

 

 こちらを振り向く鋭い目の片方には修羅場をくぐり抜けてきたであろう傷跡。

 

 長年の勘か、奴の背後まで後数秒のところで”潜伏”が見破られ、初心者殺しが迎撃の体制に入った。

 

 外見から察するに奴の武器は鋭利な爪と2本の巨大な牙。

 死角から攻撃する“フェイタルストライク“は使えないが、この速さが力になる。

 

 襲いかかるのは手に持ったダガーを超える大きさの牙。

 一歩誤ればこちらの串刺しだが、両目はその姿が一切ブレること無く正確に捉える。

 

 右腕を突き出し、繰り出したダガーは牙の間を抜け――口の中を貫いた。

 

 空いた手で初心者殺しの顔面を掴み、そのまま押し込む。

 うめき声をあげる間も無くその体は背後の樹に衝突し、跳ね返ったエネルギーが右腕に伝わり、弾け飛ぶような感覚に襲われる。

 

 人生で初めて経験する脳を焼くような痛みに耐えきれず。

 ”敵感知”の反応が消えたことが分かると同時、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 *

 

 

 

 街を行き交う人々の声、心地良い冷たさを持った風が頬を撫でる。

 目を開ければそこには白に塗られた天井と

 

「あ、起きた?」

 

 茜色の逆光に照らされた銀髪をなびかせたクリスがいた。

 外から差し込む夕日が、部屋を染める。

 

「……ここは?」

「教会の療養室だよ。 キミの右腕、凄いことになってたんだからね!」

 

 下に視線を落とすが、そこにはいつも通りの状態の右腕。

 勿論痛みも無い。

 

 彼女の話によれば、気絶した俺をダスト達がこの教会に運び込んで、プリーストの治癒魔法を頼んでくれたらしい。

 

「報酬はあたしが持ってきた安心して! テイラーからちゃんと2人分貰ってきたから!」

 

 冒険者カードの討伐欄には初心者殺しの名が刻まれている。

 カズマ達の心配をする必要は無さそうだ。

 

「相手は初心者殺しだよ? 一歩間違えたらキミの方が死んでたかもしれないのに、一直線に飛んで行っちゃって」

「カズマ達を助けるなら俺が倒すのが確実だ」

 実際、俺が倒れるまで彼がこちらに気づいていた様子は無かった。

「……命は1つしか無いんだから、大切にしないとね」

 

 彼女はいつもの軽い口調で言うが、その眼だけは真剣にこちらを見ていた。

 カズマとは同じ日本人という共通点はあるものの、まともに話したのは一回。

 たったそれだけの縁で、自分の命を天秤にかける程ではない……のだろうか。

 

 以前、彼の仲間がジャイアントトードに襲われていた時、俺は手を出さず。

 この世界の常識を知らないからと片付けていたが、今回はそんな事を考える間もなく動いていた。

 放置すれば間違いなくカズマは死んでいただろうから。

 

「仁は人の心なり、義は人の路なり。仁義を失くしたら、人としては死んだも同然だ」

「……?」 

 気まずい沈黙が流れる。

「……優しさと、人助けの心だ。これが無ければ人として生きているとは言えないだろう?」

 

 

「……そうだね。でも、この世界でその生き方をするのは簡単じゃないよ?」 

 真面目な表情を崩したクリスは、困ったように頬の傷を搔きながら笑った。

 

 

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