続きません。
高校の帰り道、夕立に見舞われた聡太と瑠璃は、たまたま通りかかったパン屋の軒下で雨宿りをしていた。空は一面の灰色で、急に降り出した雨は止む気配を見せない。店内は今日も盛況のようで、人の出入りのたびにパン屋らしい香ばしい匂いが漂ってきていた。
やや荒い息をしていた瑠璃の呼吸が落ち着いたのを見計らって、聡太は口を開いた。「いい匂いがするなぁ」
「そうだね、ずっと嗅ぐのは勘弁してほしいケド。」そう答える瑠璃は、最近なんとなく避けている体重計のことを考えていた。近頃料理にハマりだした母は、夕食に試作した一品を追加するようになった。美味しいのでありがたいが、少し恨めしい。
「そうか? まぁ、確かにそうかもな」
「うう、人ごとだと思って……!」
瑠璃はぶつくさいいながら携帯電話を起動し、天気予報に軽く目を通した。信じがたいことに、案外早く雨は上がりそうだった。その様子から大体を察した聡太はぼんやりとした視線を通りに向けた。瑠璃もスマホをポケットに突っ込むと一旦聡太を見上げたあと、通りに目を向けた。
「落ち着くんだよね、季節によっても違うし」ややあって口を開いたのは聡太だ。
「ほぉん?」瑠璃は聡太をまじまじと見つめた。
「なんだよ?」
「うーん、意外だなーって」
聡太はかなりのパン嫌いだったはずだ。大人になっちゃってと瑠璃は目を細める。中学生で一度は並んだ身長も、今ではそれなりに違う。なんとなく落ち着かない気持ちがしていた。
「なんだそりゃ。俺にだって和の心ってもんがあるんだよね」
「ええ?」パンに和の心とは一体なんなんだ。(というか季節の話もなんだったわけ?)と瑠璃の困惑は深まるばかりだ。
「んん?」聡太もなにやら様子がおかしいことに気づく。少し考えても答えが出ないまま、肩を竦めて尋ねた。「えっと、なんの話をしてるんだっけ?」
「何って、パンでしょ?」
「ああ、ごめん、ずっと雨の話してたわ」
ざあと車が走り抜けていく。
「うそでしょ……」
どちらともなく吹き出し、一頻り笑った。それからも取り留めのない話を続け、やがて雨は止む。こんな時間は永遠ではない。焦りの根源は、きっとそれなのだろう。
「ね、聡太」
「ん?」
「なんでもない、またふるかもだから、行こ」
「おう」
瑠璃は考える。この時間を永遠にするにはどうするべきか。答えはシンプルだった。
(聡太を、獲る!)
聡太は並ぶ瑠璃の横顔をみやって思う。
(なんか妙なことを考えている時の顔だ)