株式会社デモニックヒーローズ   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第17話『強い握力は愛の証明』

スラム街で少女に出会ってから一日経った。

 

俺は少女の家の外で一日護衛をしていたのだが、あれから少女を狙う人間は出てこなかった。

 

朝になり、恐る恐る家から出てきた少女と顔を合わせた俺は、彼女に誘われ家の中に入るのだった。

 

「もう大丈夫? 昨日は随分と熱が出ていたみたいだけど」

 

「はい。今はすっかり良くなりました。あっ、もしかして、ご飯を用意してくれたのは」

 

「あー。うん。ごめんね。君が寝ている時に、勝手に入っちゃって」

 

「いえいえ! 凄く嬉しかったです。そ、それに……私、凄い汗をかいてたと思うんですけど、それも……ぽっ」

 

「あぁ。それは魔法で服を綺麗にしただけだから気にしないで」

 

「あっ、そうなんですね」

 

少女は微妙な顔をしながら、曖昧に笑った。

 

なんだ、それはどういうんだ?

 

相変わらず女の子はよく分からんな。

 

まぁ良いか。とりあえずそんな事よりも今は、この子に近づく方が優先だ。

 

「それでさ……君に」

 

「私、アンっていいます!」

 

「あ、あぁ、そう。アンちゃんね」

 

「はい! それで、貴方のお名前は」

 

「俺はタツヤって言うんだ」

 

「タツヤさんですか」

 

「そう、それで……」

 

「タツヤさんはどこから来たんですか?」

 

「あ、俺はちと離れた都市から来たんだけど」

 

「ご年齢は?」

 

「13だね」

 

「そうなんですね! 私も同じ年なんですよ!」

 

「あぁ……そうですか」

 

「それで! タツヤさんは!」

 

「あぁ、うん」

 

……。

 

「あぁ、そうだよ」

 

……。

 

「そうだね」

 

……。

 

それから。

 

少女の家に入ってから約半日が経ち、少女は現在病み上がりにはしゃぎ過ぎたのか、疲れて寝ていた。

 

俺の手を握りしめながら。

 

力強いね。君。

 

手がミシミシいってるんだけど。

 

……まぁ良いか。

 

そんな事はどうでも良いのだ。

 

そう。問題はそんな事よりも、俺の話がまるで出来なかった事にある。

 

彼女……アンちゃんは俺が何か話そうとする度に、自分の話を全力で被せてきて、俺の話を全力で遮ってきたのだ。

 

まぁ、女の子の気持ちなんぞ殆ど分からない俺が、どういう事かと考えるのであれば、エリスお嬢様と同じ状態だと推察する。

 

そう。人恋しいのだ。

 

昨日からアンちゃんの家にお邪魔している訳だが、この家にはアンちゃん以外が生活している空気がない。

 

つまり、この家にはアンちゃん以外は住んでいないのだろう。

 

一人暮らしなのだ。

 

13歳の女の子が、こんな治安の悪いスラム街で一人暮らしだ。

 

それは、どれほど辛い事だろうと思う。

 

悲しい事だろう。苦しい事だろう。

 

俺に出来る事があれば、してやりたいと思うのは、人として当たり前な事だと思う。

 

まぁ、一年間だけだけど。

 

「……ん」

 

と、一人で考え事をしていたら、眠り姫のお目覚めである。

 

「おはよう。眠り姫。よく眠れたかい?」

 

「……? あ、おはようございます。私、眠っちゃってたんですね」

 

「あぁ。よく寝てたよ」

 

「そして、タツヤさんは私の事をずっと見守っていてくれたんですね。昨日も一晩中寝ずに護って下さった! これは、愛ですね!?」

 

「いいや。人間としてごく普通の感情だね。弱っている人を見捨てられないという」

 

「お優しいんですね」

 

「いや。人間としてごく普通の感情だね」

 

「そんな訳ありません! 私のお父さんは、お母さんを捨てて逃げましたし、お母さんもそんなお父さんを追って、家を出ました! 私を捨てて!」

 

「いや……それは特殊なケースなのでは? というと、アンちゃんが特別に不幸みたいに聞こえてしまって申し訳ないんだけど」

 

「いいえ。その様な事はございませんよ。こうしてタツヤさんにも出会えましたし」

 

「そっか」

 

俺はニッコリと笑う。

 

そして、アンちゃんも俺の手をより強く握りしめながら、笑う。

 

俺は、そろそろ良いかな? と手を離そうとしたが、アンちゃんはより深く笑って、手を握りつぶしそうな勢いで握りしめた。

 

痛いねん。

 

「アンちゃん? 手なんだけど」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「いや、何でしょうかって、その、手がね。潰されそうなんだけど」

 

「大丈夫ですよ。私、大抵の傷は治せますから」

 

「いや、そういう事じゃなくてね? 一度離してもらえると嬉しいんだけど」

 

「でも離したら、タツヤさん、どこかに行っちゃいますよね? 私、もう一人きりは嫌なんです。誰か、誰でも良い。傍にいてくれたら……」

 

「あー。まぁ、そういう事なら心配しなくても、俺は君の傍にいるつもりだし、そういう相談をしたいと思っていたんだけども」

 

「え!? そうなのですか!?」

 

「うん」

 

だから、離してね。と言おうとしたが、それを言うよりも前に、アンちゃんの力がギュッと強くなった。

 

そろそろ骨がミシミシといっている。

 

砕かれる日もそう遠くは無いだろう。

 

「そうなのですね。安心しました」

 

「そう? 安心できたのなら良かった。ところで、手を離してもらえると嬉しいのだけれど」

 

「何故でしょうか?」

 

「いや、何故でしょうかって、動きにくいだろう?」

 

「いえ。全然」

 

「……」

 

「……」

 

「動き……」

 

「凄く快適です」

 

「……そう」

 

「はい!」

 

あぁ、なんて良い笑顔なのだろうか。

 

春の心地よい空気の中、空を見上げた時の様な笑顔だ。

 

どこまでも広がっていく解放感の中で、ようやく安らぎの場所を見つけたような笑顔だ。

 

俺の手は砕かれそうな程に握られていたが。

 

「あー、アンちゃん?」

 

「私、ずっと考えていたんです。お母さんはどうして私を捨てて行ったのだろう。お父さんはどうして私たちを捨ててしまったんだろうって」

 

「え? うん。あぁ、うん」

 

「そして、その答えはタツヤさんに出会えた時に分かりました! あの伝承に語られた空を駆ける勇者様の様な姿で私の前に舞い降りて、そして私の力を狙う人たちから私を護ってくれて、強く抱きしめて、『お前だけを愛してる』と言われた時に!」

 

「何か知らない記憶が混じってるね?」

 

「そう! お母さんは、お父さんの手を離してしまったから、逃げられてしまった! 私がお母さんの手を離してしまったから、居なくなってしまったんです!」

 

「完全な間違いという訳では無いのが、実に厄介だと思うけれど……物理的に離すとか繋ぐとかそういう意味じゃないと思うんだよね。心をもっと重要視しないかい?」

 

「そう! そうなんです!!」

 

「おぉ。分かってくれたのかな?」

 

「手を繋いで離さなければ良いんです! 片時も! 一瞬たりとも!」

 

「まるで話を聞いて無いね」

 

「そうすれば、私はまた家族と一緒に暮らす事が出来ます!」

 

「あー。兄とか父という形であれば、今すぐにでもそうなる事は可能なのだけれども」

 

「愛し合う夫婦として!」

 

「駄目か。まるで聞こえていない」

 

「そう! これが一番大事な事だったのです! 愛! 愛です!」

 

「はぁ。エリスお嬢様と同じだな。話が通じない。この世界の子供はみんなこうなのか?」

 

「今、私以外の女の名前を言いましたか!?」

 

「そういう所は反応するんだね。よく似てるよ」

 

「浮気ですか!? 浮気ですね!? 許せません!!」

 

「そう。浮気なんだ。だから手を離して、俺を解放して、適度に兄とか父とかの位置に置いてくれ」

 

「私以外の女は全部消さないと!」

 

「うーん。過激派だなぁ」

 

俺は、腕を振り回しながら叫ぶアンちゃんを見て、ため息を吐くのだった。

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