株式会社デモニックヒーローズ   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第46話『彼女たちとの日々』

俺の人生は、常に誰かの為にあった。

 

幼い頃は母が喜ぶ事をして、生きていた。

 

途中からは……も入ってきたが、その本質は変わっていない。

 

やはり、俺の人生は誰かの為にあって、そうある事が俺の人生の全てだったのだ。

 

だから、俺は、俺にしかない何かを求めて、……へと入った。

 

あの場所なら、あそこなら、俺は何者かになる事が出来たからだ。

 

しかし……。

 

 

 

俺は何も見えない暗闇の中で目を閉じて、ただこの……酷く心地よい吐き気がするような空間の中で漂っていた。

 

ヒナヤクさんが母であった。

 

という事は、何かを手にしていた様な感覚も全ては虚構だったのだろう。

 

何もかも、あの人の手の中だったという事だ。

 

俺の人生は……。

 

『……タツヤさん!』

 

何も……。

 

『タツヤさん!』

 

変わってなんか……。

 

『タツヤ!!』

 

誰かの声が耳に、いや頭に直接響いた瞬間。俺は目を覚ました。

 

いきなり暗い場所から明るい場所へと移動した事で、俺は目が眩むが、すぐに周囲の状況が分かる様になり、見渡すと、そこは俺がよく子供の時に遊んでいた公園だった。

 

でも、この公園にはいい思い出が無い。

 

一緒に遊ぶ友達が出来ても、母さんがすぐにそれを邪魔するからだ。

 

「タツヤ!」

 

「……?」

 

「何呆けた顔してんのよ。ほら、立ちなさい」

 

俺が母さんの事を思い出していると、不意に、見知らぬ少女が目の前に現れた。

 

そして、俺に向かって手を向けている。

 

「……君は、誰?」

 

「私はエリス」

 

「エリスちゃんか。何か用?」

 

「フン。用が無ければ話しかけちゃいけないって訳?」

 

「そうじゃないけど……」

 

「なら良いじゃない」

 

俺は見知らぬ少女に手を引っ張られて、木陰から外へと飛び出した。

 

日の下は暑く、じんわりと汗が滲むような状態だったが、不思議と嫌な気持ちはしない。

 

「紹介するわ。私の友達の、ミティアとアンよ」

 

「タツヤさん。こんにちは」

 

「はいはーい! アンです! タツヤさんの最愛の妻にして、永遠を誓いあった仲です!」

 

「え? 永遠!?」

 

「あー。ごめんなさい。この子。ちょっと頭がアレなので」

 

「ミティアちゃん!? 頭おかしい扱いしないで下さい!」

 

「もう! アンさん! この場所にいるタツヤさんは縁の深さで覚えている記憶が変わるから、私たちの事は覚えてないって聞いたでしょ!?」

 

「それでも私の事だけは覚えていると思ったんです!」

 

「なんて図々しい子かしら!」

 

「縁? 記憶? どういう意味だ?」

 

俺が聞いた言葉をそのまま疑問にして返すと、エリスと呼ばれた少女が少し寂し気な顔をして俺を見た。

 

「タツヤ。今の貴方は覚えていないかもしれないけどね。私たちは貴方に救われたのよ」

 

「俺が、救った……? 君たちを?」

 

「そう」

 

エリスちゃんは俺の手を取ると、泣きそうな顔をして俺を見つめる。

 

その泣き顔が、その姿を見ていると、酷く胸の奥がイライラして、苦しくなった。

 

「……エリスちゃん?」

 

俺はエリスちゃんの頬を流れる、涙を頬に当てた手で受け止めて、そっと払う。

 

そうだ。俺は君が泣いている姿を見たくなかった。

 

だから……だから!

 

「俺は……ぐっ」

 

何かを思い出そうとした俺は、激しい頭痛に襲われ、地面に膝をついた。

 

思い出すなと頭が拒否しているのが分かる。

 

しかし、それでも、どれだけ俺自身が駄目だと言っていたとしても!!

 

泣いている女の子をそのままになんか、出来ない!!

 

「っ!」

 

「タツヤ!!」

 

「……あれ? どうしたんですか? エリスお嬢様。あ、いや。この呼び方は嫌なんだったね。エリスちゃん」

 

「……! タツヤ、記憶が」

 

「あー? え? あれ? 何で俺。記憶? どういう事だ」

 

「バカ! バカバカバカ! 心配したんだから!」

 

俺は飛びついてきたエリスちゃんを受け止めて、何が何だか分からない状況に周囲を見渡した。

 

ここは……昔、俺がよく遊んでた公園だったか?

 

いや、でも。何か大事な事を忘れている様な……。

 

「タツヤさん!」

 

「ターツーヤさんっ!!」

 

「うぉ! 危ねぇ! こら! アンちゃん! ミティアちゃん! 俺が誰かを抱っこしてる時は両足に飛びつくなって言ったでしょうが! 危ないんだから!」

 

「あっ」

 

「……! タツヤさん」

 

「お、おぅ。どうした二人とも、そんなに泣いて」

 

俺はいつもと違い、その場に立ち尽くして泣き始めてしまった二人も一緒に抱きしめる。

 

しかし、どうやっても泣き止んではくれなかった。

 

「おいおい。どうしたって言うんだよ。何か嫌な事でもあったのか?」

 

「嬉しかったんですよ」

 

「!?」

 

三人を抱きしめていた俺は、後ろから聞こえて来た声に振り返り、その姿を見て、息を呑んだ。

 

初めて見るその人の姿が何故か心に刺さる。

 

まるで運命の相手に出会えたとでもいう様に。

 

「あ、貴女は」

 

「私はラナ。覚えていませんか?」

 

「ラナさん? ラナ……ラナ」

 

俺は必死に記憶から掘り起こそうとするが、その名前はどこにもない。

 

どういう人だった。どういう人なのだろう?

 

「あなたは俺と……どういう関係だったのでしょうか?」

 

「私は……タツヤさんとそれほど深い関係はありませんでした。エリスちゃん達の事をお願いしただけなんです」

 

「そうですか」

 

「だから……」

 

酷く悲しそうな顔をしたその人に、俺は思わず身を乗り出してその手を掴む。

 

「ラナさん」

 

「っ! は、はい!」

 

「俺は、確かにラナさんとの記憶が無い。ですが、それでも貴女との関係がこれで終わりだなんて、俺には耐えられない。過去は思い出せずとも、どうか共に未来を歩む資格を……って、あだだだ! 痛ぇ! 痛いっての!」

 

「ガウガウ!」

 

「ガウガーウ!」

 

「お前ら! 止めんか!」

 

「何よ! 私たちにはそんな風に迫った事ないくせに!」

 

「胸ですか!? やっぱり胸なんですか!? 男の人はそういうのが好きだって言ってましたよ!」

 

「ったく。どこでそんな事覚えたんだ。教育に良くない番組は制限しないとな。テレビも教育番組以外は見れない様にしてやるか」

 

「オーボーです!」

 

「そーだ! そーだ! オーボーですよ!」

 

「やかましい! 俺のラナ様への想いは純愛だ。体がどうこうは関係ないんだ! まぁ、確かに。そういう気持ちが欠片も無いかと言われればそんな事も無いがな!」

 

「あ! 開き直ったわね! タツヤ!」

 

「開き直って何が悪い! 自分の気持ちに正直に生きるのが人間だ!」

 

「た、タツヤさん」

 

「ラナ様。少し待ってください。甘やかしてばかりが教育ではないとこの子らに教えないと」

 

「あ、そうですね。はい。それも大事だと思うのですが、私の事」

 

「何です?」

 

「いえ。ラナ様と」

 

「え? まぁ、女神であるラナ様に敬称を付けるのは当然ですよ。人類としてね。って、ラナ様。どうしたんですか? 何かお辛い事でも」

 

「だ、だいじょうぶです」

 

「ですが、そんなに涙を流されて……! 何か嫌な事でもあったんですか?」

 

「違うんです。私、嬉しくて……私」

 

「ラナ様」

 

俺はラナ様に手を伸ばそうとして、次の瞬間には再び暗闇に落とされた。

 

先ほどまで見ていた光景がまるで嘘だったかの様に。

 

しかし、違う。

 

俺の中には確かにラナ様たちの記憶が残されている。

 

そして、この僅かに残った記憶を辿っていけば、何か、大切な事を思い出せる。

 

そんな気がしていた。

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