株式会社デモニックヒーローズ 作:とーふ@毎日なんか書いてる
何も見えない暗闇の中で、俺は必死に手を伸ばし、その僅かに見えた糸の様に細い何かを掴んだ。
次の瞬間、俺は学校へと向かう通学路の途中に立っていた。
「……ここは?」
「懐かしいと思わないか。ここは僕と君が通っていた学校の通学路だよ」
「お前は……」
俺は振り返って、そのみすぼらしい恰好をした女を見る。
社会性は薄そうだ。
「僕かい? 僕は君の面倒を見てやった幼馴染さ。覚えていないのかい?」
「記憶にないな。面倒を見てもらった? あり得ないだろ」
どう考えても面倒を見るのは俺の方である。
姿を見ていて分かる。
そもそもボタンを掛け違えているし。
「ちょっとこっちに来い」
「うわっ、いきなり大胆だね。記憶はなくしていても僕の体を求めていた事は覚えているのかな」
何だろう。
ラナ様に対しては記憶を失っていても親愛の情があったのに。
この女には苛立ちしかない。
話しているだけでイライラする。
この感情はなんだ?
「こ、こんな路上でするのかい? 僕はこれでも初めてなのだけれど」
「少し黙ってろ」
俺はボタンを綺麗に止めなおしてから服を整えてゆく。
そして寝起きのまま歩いてきた様な髪を整えて、汚れている眼鏡を眼鏡拭きで綺麗にするのだった。
「これでよし」
「おぉ、流石はタツヤだ」
「流石じゃないよ。ったく。俺は悲しいよ。お前がいつ俺から独り立ちするのかって」
「何を言う。僕はいつまでも君の隣にいるぞ」
「お前の様なデカい娘を持った覚えはない」
「僕の胸は普通だと思うが?」
「誰が胸の話をしたか。誰か。いい加減にしろ。そうやって何でもかんでも性欲に結び付けようとするな」
「いや、しかし。君が僕と一緒に居て嬉しいメリットはそれくらいだろう?」
「お前……お前、本気でそれ言ってるんじゃないだろうな」
口だけじゃなくて、本気で哀しくなってきた。
友達だと思っていたのは俺だけだったのかと。
「莉子。確かにお前は頭が良い。頭は良いが、バカだ」
「なんだと!? 僕は天才だ!」
「なら理解しろ。俺は、お前に性欲なんぞ感じちゃいない。あるのは友情だボケ。覚えておけ」
「なるほど。そういう関係もあるのか」
「なるほどじゃないよ」
「しかし、良い実験にはなったよ。タツヤ。ちゃんと僕の事を思い出してくれて……ありがとう」
「は」
俺は振り返り、何か柔らかいものが頬に当たる感触と共に、再び暗闇へ落とされた。
意識か、何かが断ち切られた様な感覚だ。
だが、このまま終わるのは嫌だ。
そう考えて、俺は莉子が居るであろうその暗闇に向けて手を伸ばし、誰かの細い手を掴んだ。
「莉子!」
「……っ! タツヤさん!」
「え? あれ? ここは」
多分学校だとは思うんだが、妙に華やかというか、女の子っぽいアイテムに溢れているというか。
酷く居づらい空間に出てしまった。
あまりにも場違いな感じであるが、この部屋の中に居た四人の女の子は特に気にした様子も見せず、俺を一つの席に座らせて、お茶の準備をしている。
……。
突然謎の空間に投げ込まれて、しんどい。
空気がなんか良い匂いするんだが、ここは本当に俺が居ても良い場所なのか!?
「実はですね。今日はタツヤさんにご相談がありまして、ここまで来ていただいたんです」
「え? あ、そうなんですね」
俺はとりあえずカラカラに乾いた喉を潤すべくお茶を口にする。
「私たちは……えと、そう。今お話を書いているんですが、私たち四人で、錬金術のお店を開いているんですね。そこで町の人や旅人さんの困った話を解決していくお話なんです」
「なるほど」
空気的にあれね? ゆるふわ系スローライフみたいな奴ね。女の子ばっかり出てくる癒し系作品。
俺はお茶を飲みながら頷いた。
「そこで、男性の方に出演していただいて恋愛ものなどを」
「反対です」
「え?」
「大変失礼ですが、言わせてください。それは愚策としか言いようがありません」
「えと」
「無論それが始まったばかりの物語であるならば、反対7賛成3くらいで方向性により良いとは思いますが、ウィスタリアさんの話を聞く限り、既に始まっている物語だ。それならば、そこに異性を出せば、皆さんに夢を見ている人間たちを裏切る事になる。それは間違いなく批判されるでしょう!」
「……私の事」
「あ、いや、ちょっと言い過ぎましたかね。ま、まぁ挑戦してみる事は良い事だとは思いますよ? ただ、批判が来る可能性があるという話でして」
俺の言葉に涙を浮かべるウィスタリアさんに俺は必死に言葉を並べて泣き止んで貰おうとするが、その涙は止まらない。
「あ、あの! タツヤさん。でも、やっぱり恋愛は見たいと思うのですが」
「無論その意見も間違えてはいませんよ。間違いではありません。ですが、思い出していただきたい。アイドルという職業の方がどうしてそこまで人気を維持できるのかを」
「……」
「ファンです。例え遠い地方で活動をすると言っても付いてゆき、音楽を出したら買い、グッズを出したら揃えてくれる。そういうファンの存在がアイドルを支えているのです。それを忘れてはいけない。そしてそのファンは当然皆さんの作品にも居る訳です。分かりますね? デイジーさん」
「はい。はいっ!」
な、泣いてる……。
何? 言い過ぎ? 本気で?
ど、どうすれば良いんだ。
「でも、でも! 女の子のファンも居ると思うのですが、どうでしょうか」
「そこは否定できません。というよりも、それなりに居ると思います。正直女性の感情はよく分からないのですが。少女漫画的に捉えるのであれば、確かに恋愛要素はあっても良いと思いますよ。ただ、清潔感は必要だと思いますが」
「王子様的な?」
「まぁ、そこは好みかと。知的な感じの人がタイプの人も居ますし。逆にこう強い人がタイプの人も居ます。優しい人が良いって人も居ますし」
「タツヤさんは?」
「いや、好きな人は居ないと思いますけど、まぁ、もしかしたらかすかに需要があるかもしれませんね。というかアゼリアさんは需要があると思っているんですか?」
「はい!」
「そ、そうですか」
その自信が俺は怖いよ。
信頼がさ。
いや、確かに何度かこうやってアドバイザー的な事はやってるけど、それにしてもそこまでの信頼は重い。
流石に。
そして俺は最後にキラキラとした目で俺を見ている人に目線を向けた。
「えと、ローレルさんも何か……?」
「いえ! 私は、何も! 何もありません!」
「そうですか」
俺は何だかよく分からんな。と思いながらお茶を飲んで、そしてカップをソーサーの上に置いた。
それから立ち上がり、部屋から出るべく扉へと向かう。
「……ではそろそろ俺は行かないといけないので」
「えぇ。また」
「また会いましょう。タツヤさん」
まるで今生の別れをするかの様な空気感だが、「また」という言葉がある。
そう。また会えるのだ。
「そうですね。では、また会いましょう」
「はい。アーサー君たちによろしくお願いします」
「……分かりました」
俺は心に引っ掛かる名前を記憶しながら、その場を去るのだった。