静かな部屋の中、獣のような唸り声がとどろき、目を覚ました。薄く目を開き、深呼吸をするように大きく息を吸っては吐く。寝汗が布団にまで染み込み、服がへばりついている不快感と共に、先程の唸り声は自分の寝言だったのだと気づく。まだ起き上がってもいないのに、頭が割れるように痛い。枕がなければ今頃自分の頭はなかったかもしれないと本気で思うほどに。
『あ゛あっ゙……!』
ため息なのか怒号なのか自分でも分からない声を上げ、どうにか体を起こし、近くにあった体温計を手に取る。電源を入れ、腋に挿し込むと腋下に冷たい感覚が広がるものの、数秒もすれば体温と混ざり合い、何も感じなくなってしまう。
ピピピ……ピピピ……
体温を測り終えた事を告げる音がうるさいほどに部屋に鳴り響き、液晶を確認する。そこには"38,5℃"といかにも注目してほしそうに点滅しながら、自分の体温が表示されていた。
そもそも今は何時なのだろうか。ほぼ気絶するように眠りに就いたので、寝た時間すら分からないのだが……
動くのが面倒くさくなってしまう前に、近くにあったスマホを手に取り、電源を入れると、明るすぎる画面が目に直撃してきた。思わず目を逸らし目をつむるが、瞼の裏には先程の液晶の明かりが焼き付いていて、頭の痛みが酷くなる。
明るさを落とそうと薄目でスマホと格闘する。なぜ風邪を引いた時にまでこんな事をしなければならないのか……
時間はかかったものの明るさを落とす事に成功し、画面を見やると15:48の表示と共に、大量のラインの通知が来ている事に気がつく。自分にメッセージを送ってくるような人物の心当たりは今のところ1人しかおらず、名前を確認すると当然のようにその人の名前が表示されていた。
【今日は登校していないみたいだね】
【病欠だと聞いたけれど、看病が必要かい?】
【もし看病が必要ならいつでも頼ってね】
あの人らしい短い文面と気遣いを感じる文章に心を打たれていると、
【起きたのかい?】
【身体は大丈夫?何か食べられる物はある?何か買って行くよ】
訂正。この人は暇だ。授業がつまらないから話し相手として自分にとりあえずメッセージを送ってみているだけだ。まあ、実際今冷蔵庫の中に食べられる物など存在しないため、買ってきてもらえるのはとてもありがたい。その旨を伝えると
【了解】
【学校終わり、すぐ向かうよ】
【少しくらい部屋が散らかっていても気にしないから、無理に片付けなくていいよ】
あの人は……
この文面を話す先輩の姿が容易に想像できて、フフッ……と笑みがこぼれる。あれほど痛かった頭痛も少し和らいだような気がして、またゆっくりと布団に体を預ける。
少し眠たくなってはまた目が覚め……と、寝たのか寝なかったのか分からないまま時間が過ぎ、もう一度静かになった部屋にチャイムが鳴り響いた。
あれ、鍵かけたままだっけ……気にしないとは言っていたけれどさすがに少しくらい部屋を掃除しておけばよかった……とゴチャゴチャ考えているうちに玄関から
ガチャッ……ガチャ……
と扉が開く音が鳴り、視線をそちらに向けると、逆光に照らされ、すらっと伸びた四肢のシルエットだけが強調され、
「お待たせ」
と、コンビニのビニール袋を手にさげる姿も決まっている先輩が立っていた。